ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

この中にケイタイ依存症の若者はいらっしゃいますか、スペイン語をおぼえたい

さて、スマホを手放せない若者が多くいるというニュースをよく見ますが、こんな記事がありました。

iphone-mania.jp

いろいろなまとめサイト*1に載ったので、ちょろっと見かけた方も多いと思いますが、上記はそのまとめサイトがネタ元にしている元サイトです。

では、スペインの出来事のこの記事、その元サイトの元サイトはどこかなあと、「Source:MyDrivers」というリンクをクリックすると、なぜか中国語の記事にとびます。あれれー、どうしてスペインの話なのに中国サイトがソースになるのかなあ?

というわけで、今日も元気に記事の信憑性を確かめていきましょう。

 

記事の要点は次のとおりです。

①26歳のエイドリアンは父親の見舞いに行った。

②母親に父親の様子を伝えるよう言付かっていた。

③1%しかバッテリーがなかったので、人工呼吸器のコンセントを抜いて充電した。

④一部始終をInstagramに投稿した。

⑤その後どうなったかはよくわからん。

日本の記事にも中国の記事にも、「El Holizonte」というメディアがソース元だと明示されています。まーったくスペイン語はわからないので、実はこの元ソースを探すのにとても苦労したのですが、見つけました。8月10日の記事です。

elhorizonte.mx

 

しかし、当の「El Holizonte」は「El Debate」なるメディアからの情報源であると書いてあります*2。うーん、また探さなきゃならん。

というわけで苦労してEl Debateなるニュースサイトを探します。

www.debate.com.mx

7月29日の記事ですね。じゃあこれが元ネタってことでいいかな?

では、日本の記事と整合性がとれているか検証します。どれどれ、Google先生に頼りながら翻訳してみると…

 

①Adrián Hinojoという26歳の男が、祖父を見舞いに行った。

しょっぱなから違うやん!日本の記事は「実父」となっていましたが、「abuelo」はどう逆立ちしても「祖父」にしかならなそうです。いきなり雲行きが怪しいですね。*3

もう少し読んでみましょう。

②母親から祖父の様態を伝えるよう言付かっていたので、Whatsappで送ることにした。

ここらへんは「祖父」の違いはあるものの、同じですね。「El Holizonte」の方では、「体調が回復していたのですぐに送らなければならない」みたいなことが書いてありましたが、ちょっとここら辺のスペイン語は自信がないので深くは追及しません。

 

③充電が切れそうだったので、人工呼吸器の電源を拝借した。

 

ここら辺のスペイン語も難しくてよくわからないのですが、人工呼吸器の電源を切ったことは間違いないようです。しかし、「El Holizonte」はバッテリーの残量を「1%」と明記していますが、元ソースのほうの「El Debate」は、その記載はありません。どっからやってきた数字でしょう。

 

⑤看護師がすぐに駆けつけたので祖父は大丈夫だった。

 

よかった、日本の記事じゃ「このInstagramがきっかけで炎上してしまったのか、顔面蒼白となった父親が最後の力を振り絞ってエマージェンシー・コールに成功し、殺人未遂で逮捕となったのか、こうして世界中を駆け巡るニュースとなってしまったエイドリアン氏の現況は分かっていません。」という、怪しい日本語で要するに「よくわからん」となっていましたが、死んじゃうことはなかったようです。

 

あれ、「④一部始終をInstgramに投稿した。」は?

 

そう、この2つの記事、Instagramの話がどこにも出てこないんですね。うおー、じゃあなんだ、やっぱりデマカセ記事なのか・・・と思いましたが、根気よく他の記事を引用した可能性も探ります。

すると、7月27日付で、別ソースがありました。

www.elmundotoday.com

この記事はかなり詳しく書かれていて、充電の「1%」も、Instagramに撮影して投稿したことも記載があります。別に一部始終というわけでもなさそうですけど。

エイドリアンくんのコメントもいくつか出ていて、Google翻訳に頼るなら、「この解決のために新しいバッテリーを買った」とか、「コンセントが一個しかないのが悪い」みたいな風に読めるんですが、さすがに自信がないので、誰か読める人お願いします。

 

いずれにせよ、日本のはともかく、中国の記事は、「El Holizonte」を参照したことになっていますが、恐らく記事を書く上で他にもあたったんでしょう。

 

しかし、翻訳の記事というのはこのように適当になるものです。日本の記事なんて、翻訳の翻訳で、文法もめちゃくちゃな感じです。

 

たとえば下の写真、日本と中国の両方の記事に載っていますが、スペインの記事にはどこにも載っていません。

f:id:ibenzo:20150815001224j:plain

確かに上記の写真は人工呼吸器の写真ですが、その呼吸器部分がタブレットにつながってるってどういうわけですかい。もちろんこれはフェイク画像で、元画像はこっちです。*4

f:id:ibenzo:20150815001831j:plain

まあちょっとした見栄えをよくするための画像なんでしょうが、Instagramに投稿、なんて語句が入っていると、この写真を投稿したのかなとか、思いませんか?日本の記事は特に何も考えずに画像を転用しているだけ、もっとタチが悪いです。

 

よくまとめサイトとかなんかでは「捏造」なんかに対してずいぶん手厳しい論調になりますが、自分たちがこうして新しい「捏造」を生み出す一役をかっているということにも、もうちょっと自覚的になればいいのになあと、今日は上から目線で締めたいと思います。それにしてもスペイン語が読めるようになりたい。