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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

働かないアリはアリなのか、生物学者と経済学者の守備範囲を一緒にするな

海外ニュース

アリはイソップ童話でも働き者として認知されていますが、「働きアリの中に常にサボっているヤツが2割いる」という説はとても有名です。

で、こんな記事が賑わせています。

blog.livedoor.jp

記事によれば、2割どころか、71.9%の働きアリが半分以上怠けていたんだとか。それもう働きものではないですね。キリギリスに謝れ!*1

とはいっても、こういう「そうかもしんないよね」的な話はきちんと信憑性を確かめましょう。

 

元記事はギズモードさんで、そのソースは以下のサイト。

news.sciencemag.org

ほほー、確かに書いてありますなあ。元の論文にあたりたいところなんですが、39.95$とずいぶんと高額なので、ちょっとばかり当たれません。誰か読んで何かわかったら教えてください。*2

Workers ‘specialized’ on inactivity: Behavioral consistency of inactive workers and their role in task allocation - Springer

 

さて、日本で「働きアリの中に働かないやつがいる」という話がよく知られているのは、この本の著書の長谷川さんの研究が原因でしょう。

働かないアリに意義がある<働かないアリに意義がある> (メディアファクトリー新書)

 

私はアマゾンさんからお金をもらっていないので、クリックしても結構ですよ。面白い本です。

長谷川先生の学説は2003年11月15日の日経新聞で紹介されたという話が一番古いものです*3

これが日本で広まったのは、その生物学的意味ではなく、働き者・ふつう・サボリの「2:6:2」という数字が、サラリーマンの組織論的な話として大いに使われたからなのかなあと思います(英語圏では組織論の話としてはほとんど出てきません)。つまり、働かないものがいることにも意味がある的な。

たとえばこんなサイト。

www.entrepreneur-ac.jp

ワタクシ、個人的には何でもビジネスの話とからめる論調が大嫌いで、これは研究の上っ面だけをさらって事の本質を見ないので、そう、ネットロア的なものになると思うんですよね。

まあそれはおいとくとして、2003年の時点で、長谷川先生は以下のように語っています。

www.bayfm.co.jp

●その結果、働きアリと言われている割には全員が全員働いているとは限らないということが分かったわけですね。

「そうですね。結局形の上で女王アリと違っていて、『働きアリ』と言っているものの中で、大体1割から2割くらいはほとんど働かず、コロニーのためになるような行動をほとんどしていません。コロニーの中にいてじっとしていたり、自分の身体の掃除みたいなことばかりしているわけです。ですから、何か意味のある行動をしているかどうかは本当には分からないわけですね

これは2003年11月23日放送のもののようですので、発表直後のことでしょう。この時点で、働かないアリがなぜ働かないのかはよくわかっていません。

しかし、この話は受けたようで、情報は拡散し、いわゆるビジネス本にも採用され始めます。*4「全員働き者でも困っちゃうんだゾ。サボリがいるのは自然なことなんだ!」という感じの論調が多いですね。

しかし、少したつと、ネットの論調も変わってくるものがあります。たとえばこんなサイト。

blogs.yahoo.co.jp

2006年の、「働かないアリの寓話」はウソであるという検証記事です。これは引用の引用のブログなのですが(元ブログは閉鎖)、「日本動物行動学会」のPDF(これも既にない)を元に、

「働かないアリ」の話は「社会には一定数の非労働ワーカーが必要で、彼らもなにがしかの役に立っている」という「寓話」を生み出しがちですが、実際には、
働くものは常に働き、働かないものは常に働かない

という、夢もチボーもないお話なのです。

と結論付けています。元ソースを当たれないので何なんですが、そのまま信じるなら、「2割の働かないアリ」は、別コロニーに移しても結局働かなかった、という結果を、長谷川先生は当時発表しています。つまり、巷に流布している「サボリも必要なんだ」という情報はデマであるというわけです。

しかししかし、科学は常に進歩しているもので、2012年に長谷川先生はこんな研究を発表しています。

https://www.hokudai.ac.jp/news/121207_pr_agr.pdf(リンク先PDF)

このときの研究成果として、「働く個体だけにしても働かない個体が現れ,働かない個体だけにすると働く個体が現れ,グループ全体の個体の働き度合いの分布は常に元のグループと同じようになりました」とあります。ふーむ、働かないアリも、働かざるを得ない環境になれば働くようになるんだってよ、ニート諸君。

長谷川先生はこの頃の対談でこんなことを言っています。

www.athome-academy.jp

 

必要な仕事が現れると、「反応閾値」の最も低い一部のアリがまずは取り掛かり、別の仕事が現れたらその次に閾値の低いアリが・・・と、低い順に作業を行う。つまり、個体間の「反応閾値」の差異によって、必要に応じた労働力がうまく分配されているのです。

 

「反応閾値」とは「仕事に対する腰の軽さの個体差」ということで、「きれい好きな人は汚れに対する「反応閾値」が低く、散らかっていても平気な人は高いというわけ」になるそうです。引用ばかりですみません。

つまるところ、よく気がつくアリから仕事をどんどんしていくわけですね。で、気のつかないボンヤリアリは最後まで仕事が回ってこないで定時を迎えるという感じです。みんなが一斉に動いたほうが仕事の処理速度は短期的にあがるのではないかと思うのですが、そこは長谷川先生は、同じくらい働くとみんな疲れちゃうから、「働いていたアリが疲れてしまったときに、それまで働いていなかったアリが働き始めることで、労働の停滞を防ぐ」と推論しています。なーるほどなあという感じです。

 

さて、ここでようやく、今回騒がれている研究結果に戻れます。

長谷川先生は2012年の発表では、「2割の働かないアリ」がいるとだけしか言っていないので、2割優秀なヤツがいるとは言っていません。8割は何かしら働いているわけです。

今回のDaniel Charbonneauさんの研究も、「inactive」なアリを、そうは言っても「71.9% were inactive at least half the time」ということで、ちょっとは働いているアリに含めるならば74.5%になり、長谷川先生の研究とそんなに大差がない気がします。ただし、Daniel先生の研究は、その中でも常に働いているアリがたった2.6%であるというところに主眼があり、そこらへんのコロニーの住み分けがどうなっているのかが、今後の研究のめあてになるんでしょうか。日本の我々にとっては、そんなに新発見という感じもしないんですけどね。*5

 

さて、今回何が言いたいかというと、「働かないアリの寓話」は、かように研究結果によって大きく変わってくる可能性があるということです。もしかすると将来、「働かないアリは敵襲に備えた人質だ」的な結論に落ち着く事だってあるかもしれませんよ、ニート諸君。

よくノーベル賞を受賞した人に、「現在の教育はどうすればいいでしょう」みたいな質問をするメディア人がいますが、それは空手の黒帯に「おいしいカレーの作り方」を聞いているようなもんです。それと同じで、目新しい科学の研究結果を、ビジネスやらなんやらに簡単に当てはめようとする行為は、日々変わっていく研究結果を鑑みない、不毛なものだと思うんですが、いかがなもんでしょうか。生物学者と経済学者の守備範囲を一緒にしてはなりませぬ。*6

 

 

 

*1:とはいってもイソップのギリシア語原文では「アリとセミ」だそうで。ついでに、どうしてセミがキリギリスに変わったのかというのを調べた、すげえサイトを見つけたので、お暇なときに読んでください。インターネットで蝉を追う

*2:冒頭のintroductionだけ読めたのですが、先行研究についてのみ書かれているので役にはたちません。ただ、長谷川先生の研究についても言及していることはわかりました。

*3:「2対6対2」の理論: 石川和夫の流通業界ウォッチング

*4:たとえばこんなの。

ビジネスマン 話のネタ帳 うんちく 雑学館: 「いい社員」と「ダメ社員」の比率は常に一定の法則がある パレートの法則を引き合いに出しているものもありますが、それは違うと思います。というか、上に上げたサイトはアリの実験より先に「2:6:2」の法則があると勘違いしています。

*5:各種英語圏報道によれば、inactiveな原因は「若すぎるか年寄りすぎるか」とか、スピードがのろいだけだという話もあるので、今後の研究が待たれるところです。

'Lazy' ants found in colonies that spend half their time inactive as others work | Daily Mail Online

Lazy ants sit around doing nothing while their nest mates work | New Scientist

*6:と思ったら、長谷川先生、組織論的な本も出しちゃってるんですね。「エッセイみたいなもの」と言い訳してるみたいですけど、いいんですか