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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

『鳩の撃退法』がとても面白かったので上巻しか読み終わっていないのにオススメする

私は佐藤正午という作家は『ジャンプ』から読み始めた新参者なのですが、ようやく図書館で予約していた『鳩の撃退法』の上巻が借りられたので読んでみたら、これが面白いのなんの。ネタバレにはならないようにしますが、とってもまっさらな気持ちで読みたい人はお読みにならないように。

 

鳩の撃退法 上

鳩の撃退法 上

 

 

 

 

 

あらすじはこんな感じ。

 

干された直木賞作家津田伸一は、今はとある町で風俗店の送迎ドライバーをしている。ある日、ドーナツショップで知り合った男が、家族もろとも失踪する事件が起きる。その1年2ヵ月後、親しくしていた古書店店主の房州老人が亡くなり、遺産としてキャリーバッグが届けられた。しかしそのキャリーバッグの中には、3千枚を超える一万円札の束が入っていた。一生遊んで暮らせると思った津田だったが、その一万円札が偽札だとわかり…

 

物語は津田が書く小説という体で進められます。話はまっすぐな時間軸でなく、過去にとび未来にとび、ある意味では断片的に描かれるので、なかなか筋を追うのに苦労します。けれど決して難解ではなく、一気に読み進めることができます。

 

というか、佐藤正午ってこんなに文章うまかったっけ?というぐらいうまい。冒頭から数十ページは、失踪する男、「幸地秀吉」が娘を送り届けたり妻とのやりとりをしたりといった完全な「幸地秀吉」視点で話が進むので、ふんふんと読み進めていってしまうのですが、突如として「津田」の一人称の話に変わるところ、これがうまい。*1

 

『ジャンプ』や『身の上話』を読んでも思ったけど、この作家は読者をびっくりさせることがとてもうまいと思う。どんでん返し的な要素ももちろんあるんだけど、それよりも文章的な技巧で「びっくり」を感じさせるところが、とっても小説家らしくて私は好きです。

 

また、たとえ話もうまい。

 

『ジャンプ』ではリンゴが象徴的に扱われたように、今回の話のキーポイントは『ピーターパン』。

 

おとうさんはおかあさんのすべてを手に入れたけれども、心の奥にある入れ子の箱とあのキスだけはべつだった。

 

という、『ピーターパン』に出てくる言葉がとても印象的に扱われています。こういう小道具の使い方が佐藤正午は上手ですね。ちょっと演劇的でもあるなあと思います。

 

会話のやりとりの軽妙さは、佐藤正午作品の特徴でもあるといえるのですが、今作はますますそれに磨きがかかっているように思います。「ほえ」「な?」「いささか」といった、現実では使われるけど小説には出てこないであろうセリフが、うまいこと組み込まれていて、なんとも軽快に読み進めることができます。ぜひぜひ皆さんにも読んでいただきたい。

 

とはいっても私は上巻しか読んでいないので、下巻に入り急速に面白くなくなるという可能性もなくはないです。しかしいまだ予約待ちは40人ぐらいいるので、amazonで買ってしまいそうな今日この頃です。

*1:とはいっても、この書きぶりは津田が登場した前作『5』と全く一緒なので、様式美ともいえるし、使い回しとも言えます。