ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

北京の空は青いのか、イエローモンキーたち

北京や上海の大気汚染は海外メディアも注目していますが、こんな記事がありました。

 

www.yukawanet.com

 

中国が大気汚染対策に、青空や夕日の映った巨大ディスプレイを設置した、という内容の記事です。さすが芝生をペンキで塗った国、斬新ですね。

でもまあ、ソースがまた秒刊か・・・というところなので、本当にそうなのかな?というところをお付き合いください。別に恨みがあるわけでもないんですけどね。

 

 

さっそく画像をGoogleで検索すると、2013年の記事がひっかかります。

dailynewsagency.com

中国の都心部の大気汚染の様子を示す写真の中に、先ほどの記事の写真が掲載されています。場所は天安門広場のようです。記事は2013年2月11日のようですが、このころからあるわけです。しかし、写真の説明は、「天安門広場で青空を映すディスプレイ」としかないので、どこにも「大気汚染対策」とはありません。

というわけで、もう少し調べていきます。こんどは、「blue sky display beijing」の単語でも検索をしていきます。すると、2014年1月17日のTHEWORLDPOSTの記事がひっかかります。

www.huffingtonpost.com

この記事によれば、このディスプレイは「The glooming pictures appeared to be part of an advertising campaign for China's Shandong province」とあるので、山東省のキャンペーン広告である、という意味のことが書いてあります。むむむ?

 

続けてこの記事ではこの写真が2013年1月23日のものであるということを書き*1、かつディスプレイは2009年の中国の建国60周年のイベントの際にできたものだとして、当時の写真も載せています*2。うーん、確かに、軍事パレードの様子がうつっていますなあ。

 

つまりこの時点で、あの山を緑に塗ったときのように(それも理由が定かではないですけど)、「見てくれをよくするため」のディスプレイ設置ではないことが分かります。なので、秒刊さんの「これだけ巨大な液晶ディスプレイを設置し、一応費用はかけたものの、何と景色を映すだけというとんでもない焼け石に水作戦」というのは正確ではありません。もともとの設置の理由が違います。

 

では、このディスプレイ、キャンペーンというのは本当かなあともう一度画面をまじまじと見てください。右下に「大美青海」とロゴがあるのがわかりません?

www.tripadvisor.jp

なかなか中国でも風光明媚な土地のようです。ちなみに夕日のほうは、「Shangong」つまり山東省ですね、そいつの宣伝のようです。以下のサイトを見ると分かりますが、ロゴが一緒ですね。

好客山东网-好客山东

 

詳しいことは以下の記事に載っていますが、

www.techinasia.com

この画像は10秒ほどで切り替わるようにできているようで、秒刊さんにのってる「保护环境人人有责」については記述はありませんでしたが、「環境の保護は全員の責任です」とくるわけです。環境保護キャンペーンもかねてるんでしょうかね。そのスローガンで検索すると、なにやら子どもの作文がいっぱいでてくるので、お上が推奨してるんでしょう。

さて、どうして「見せかけの空を政府が設置した」みたいな論調になってしまったかというと、上記記事でも言及していますが、Dailymailの記事が発端のようです。2014年1月17日の記事です。

www.dailymail.co.uk

「the city's natural light-starved masses have begun flocking to huge digital commercial television screens across the city to observe virtual sunrises.」とあり、ディスプレイの日の出を拝むために人々が群がっている、とジョーク交じり?に伝えています。

まあ、そこまで直截的ではないんですが、多少誤解を招くような表現ではあるかもしれません。

 

しかし以上のことは、こんなに地道に調べなくても、秒刊さんがソース元としてあげているRedditのサイトにコメントが載って全部説明してくれています。*3

Welcome to Beijing : pics

秒刊さんもコメントに「これは観光客用のモニター広告ですよ」と載せているので*4、気付いてはいるんでしょうが、まあ意図的無視をした記事、ということになるんでしょう。

 

Dailymailなどが載せた記事も一緒で、「あの中国だから・・・」という意識が記事内に忍び込んでいるのは否めません。特に西洋から見たアジア蔑視は、意識的にしろ無意識的にしろ、やはりどこかに潜んでいる気がします。それが悪い、というか、その傾向が、こういった「中国ってやっぱり・・・」的な記事の拡散に一役買っているんではないでしょうか。まあ、中国もそうは言っても、斜め上を行く国なので、いかんともしがたいのですけど。

*1:China's Toxic Sky - The Atlanticが参照リンクのようです。

*2:Beijing's Tian'anmen area spruced up for 60th National Day gala_English_Xinhua

*3:Seen_Unseenの投稿記事です。

*4:しかしその後に続く「美しい海とかが映ります」は、「大美青海」の誤訳な気がします