ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ヒャッハー!テキサスは銃を持って歩き放題だぜ!というわけでもない、我々はイメージの中で暮らしている

アメリカの銃社会における悲劇は2015年も数多くありました。最近ではオバマ大統領の涙ながらの演説も印象に残っています。

そんな中、こんなツイートが話題になっています。

spotlight-media.jp

 

ライフルを持った人たちが、普通のスーパーやらカフェみたいなところで買い物をしている写真が載っていて、「拳銃携帯を許可されたテキサス州の現在 武装した強盗と区別が付かないw 」というコメントがつけられています。

ツイートを引用した記事では、「オープンキャリー」という法律がテキサスで緩和されたというようなことが書いてあります。

 

さあ、いつもながら、この写真は本当にそういうことを伝えたいのかな?ということを調べてみたいと思います。

 

さて、元ツイートはこちら。

 画像を見ていきましょう。

 

一つ目、スーパーをライフルかついで歩く男たち。

f:id:ibenzo:20160109171958j:plain

さっそく画像検索をかけると、以下の記事がひっかかります。2014年6月4日のTHEWALLSTREETJOURNAL。

m.jp.wsj.com

記事によれば、「Moms Demand Action for Gun Sense in America」という団体が、「弾丸の入った銃を持った極端な銃推進派が一部店舗の内外で展開するデモンストレーションで嫌な思いをしている」と語っていると書いてあります。ほえ。デモンストレーション? 確かに写真のキャプションには「「オープン・キャリー・テキサス」のフェイスブックのページに掲載された写真」とあります。

 

残念ながらopen carry texas(OCT)のfacebookに*1その写真は既にないようなんですが、OCTは急進的な銃推進団体のようです。彼らは「オープンキャリー」という、公共の場での他人に見える形での銃携帯の緩和に賛成していて、これはそのためのデモンストレーション、ということのようです。

 

他の画像についても、どうやらデモンストレーションのようです。

 

カフェの前でライフルをもっている写真は2014年7月8日。

http://www.usnews.com/news/articles/2014/07/08/gun-control-battle-has-moved-beyond-politicians

女性がレジの前でライフルをもっている写真は2014年6月20日。

www.motherjones.com

レジ前に立つ男性の写真は、2013年9月26日の記事。

www.forbes.com

つまり、ツイッターや記事で言う「テキサスの現在」というのは、印象操作になります。とはいっても、ツイッター上でその点は指摘されていますけど。

 

デモンストレーションが必要だということは、裏を返せば「店の中でライフルを裸身で持つ」という状況が現実にはほとんどない、ということでしょう。だいたい今から1年以上前の話ですしね。しかも仲間のはずの全米ライフル協会からは「「実に奇妙」であり「隣人らしくない」」と、抗議される始末*2

  

さて、テキサス州は、今までは拳銃のオープンキャリーは認められておらず、「拳銃を持ち歩きたければ、人目に触れない形での携帯許可を得た上で、拳銃を隠しておかなければならな」かったとのこと*3。これが、今年1月1日から解禁されたので、各所で話題になっているわけですわ。

あれ、じゃあこのデモンストレーションだって、2014年のものなんだから、緩和前なので、違法なんじゃないんでしょうか? ということで調べてみると、どうやら「長銃」のオープンキャリーは今まで認められていたようです。というか、それに対して主な法律がなかった、というのが正しいみたいですけれど*4

「長銃」はいわゆるライフルを含みますので、上記写真の方々がこれみよがしに見せびらかしているのは、「法的」には問題はないということになります。だから写真の人たちはライフル系のものしか持っていないんですね。

つまり、今回1月1日からオープンキャリーとして緩和されたのは、hand gunであり、そもそもテキサスではライフルは前から「法的」には、裸で持ち歩いてもよかった、ということになります。なのでなおさら、twitterで拡散されている画像に、「現在のテキサスでは・・・」みたいなコメントがつくのは、ちょっとオカシイということになります。

 

テキサス、というと、私たちはイメージとして、銃所持に対して寛容であるという感じがします。しかし、田舎のほうではともかく、「法的」には問題ないにも関わらず、都市部で裸でライフルを持ち歩く人は、現実にはほとんどいません。なので、アメリカではこんな質問も出ています。

www.defensivecarry.com

アメリカ版知恵袋といったところですが、質問者はテキサス州で「ライフルを手に持って歩いていた二人の男性が警官に囲まれていたところを数年前に見た」と書き込み、「確かにそれは恐怖心を抱かせるのでアレだけど、だったら背中にしょってたら(すぐには撃たないんだから)OKなのか?」と質問しています。

ここで、ある回答者が言っていることが大事になってくるのですが、「"calcuated alarm”の解釈がとても重要なんだ*5」と言っています。

これは何かというと、テキサス州の州法にある以下の条文です*6

Sec. 42.01. DISORDERLY CONDUCT

(a)(8) displays a firearm or other deadly weapon in a public place in a manner calculated to alarm;

「(人々を)不安にさせることを意図して公共の場所で、火器や殺傷武器を見せること」については「no right」だとしているのです。

 

つまり、この条文がある限り、人々が多く集まる公共の場所で、裸で銃をこれみよがしに持ち歩いた場合、警官から職質を受けることはまったなしです。あくまで銃は「自衛」のためであり、それは一般的に銃所持に寛容であるとされるテキサスにおいても同じです。むしろ、オープンキャリー法はかなりの州で採用されているので、テキサスは遅いほうだとも言えます*7

これはいみじくも、銃推進派のOCTがホームページに記載してある言葉が表しています*8

 

Unfortunately Texas is not as gun-friendly as most people think.

不幸なことに、テキサスは多くの人が思うほど銃に寛容ではない。

 

インパクトのある写真は、非常にイメージを人々に植え付けやすいです。そして多くの場合、それは意図的につくられた写真であることがほとんどです。イメージの中で暮らす私たちが、そこから情報を取捨選択していくことの難しさを、改めて感じます。

  

 

*1:https://www.facebook.com/octfst

*2:米銃規制団体、次は小売りターゲットに照準―スタバに続き - WSJ

*3:テキサス州、他人に見える形での拳銃携帯を承認へ - WSJ

*4:Wikipediaをソースにあげるのはなんなのですが、一番わかりやすかったので。

Gun laws in Texas - Wikipedia, the free encyclopedia

上記のリンクは2013年のキャッシュのものです。そこには、long gunのopen carryについて「*Long gun open carry is not explicitly forbidden by law, however in most urban areas it may be cited as disorderly conduct. Open carry of a long gun is generally allowed in rural areas.」つまり、法律で禁じられてはいないが、都市では慣習的に認められていないというようなキャプションがついています。

*5:The interpretation of "calculated to alarm" would be the key thing.

*6:全文はこちら。

PENAL CODE CHAPTER 42. DISORDERLY CONDUCT AND RELATED OFFENSES

*7:しかも、オープンキャリー法はカテゴリが4段階あり、いちばんゆるいのが「免許なしで持ち歩いてよし」、次に「持ち歩くのに免許が必要」、そのほか「公に携帯することを阻止するために罰金などの制限あり」「狩猟など非常に制限された場合のみOK」と続きます。テキサスは免許が必要なので、免許もいらないアリゾナとかバージニアの方が、銃に寛容である、といえるかもしれません。詳しく知りたい方は、以下のサイトが参考になりました。

オープン.キャリーとは何? | アメリカ ウオッチ Yuko's Blog

*8:http://www.opencarrytexas.org/the-law.html