ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ネトウヨが変態だという調査がずいぶんテキトーだという話、錬金術師のライターたち

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ネットには様々な風説がありますが、その多くは何らかのメディアが加担しているものです。そのメディアは、いわゆる「大手」とは一線を画した、「メディア風メディア」であることが多い。

今回は、以前にも槍玉にあげた*1「しらべぇ」なるテキトーサイトについて取り上げたいと思います。

sirabee.com

「ネット右翼」=「ネトウヨ」の傾向について、また自社関連サイトのQzooなるインターネットリサーチを使って調べたアンケートのようです。その結果によると、1348名のうち7.4%が「ネトウヨ」を自覚しており、そのうち3割程度が「犯罪経験」があり、6割程度が大人のおもちゃ売り場に入ったことがあり、5割に迫る「ネトウヨ」が言葉責めが好きだという、何の目的かわからない結果が出ております。

 

しかしよく考えてくださいよ。この結果を元に、アンケートの質問事項を考えると、以下のようになるんですよ。

 

問1 あなたは「ネトウヨ」の傾向があると思いますか。YES/NO

問2 あなたは他人には言えない犯罪経験がありますか。YES/NO

問3 あなたは大人のおもちゃ売り場に入ったことがありますか。YES/NO

問4 あなたはHのときに言葉責めをされるのが好きですか。YES/NO

 

どうですか、女子大生の家にいたずら電話をしてテンションあがってきたオジサンみたいな質問の仕方じゃないですか? こんな質問事項ではまともな回答が集まるとは思えません。

というわけで、このアンケート、いったいどこまで信憑性があるのか、調べてみました。

 

 

***

 

 

①1348名の怪

このアンケートは「全国20~60代の男女1348名に調査」とあります。

ところがですねえ、「しらべぇ 1348」でぐぐって見ると、あれよあれよと、「全く同じ年代」「全く同じ人数」の調査がごろごろ出てくるんですね。

 

sirabee.com

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全て「全国20~60代の男女1348名に調査」であるのは、かなり不自然ではないですか。考えられる理由としては、

①同時期に1348名に、同時に上記のアンケートを行った。

②たまたま回答した人が全て「20代~60代」で、たまたま「1348人」だった。

③そんなアンケートはしていない。

①に関しては、確かに調査時期が全て2月下旬ではあるのですが、「卒業式の口パク」は「2月19日~2月22日」、「ネトウヨ」の調査は「2月19日~2月21日」、「笑っていいとも」「体罰」「ハンドクリーム」の調査は「2月20日~2月24日」と、微妙に差があります。これは、別々にアンケートを行ったと考えたほうが自然でしょう。すると、やはり有効回答が全て「1348名」であることはかなり不自然です。

 

②はまあ、そんな偶然はありえませんし、③にいたっては考えたくはないですが、そう疑いたくもなります*2

 

 

 

 

②謎の8万人の「しらべぇデータベース」

 

実は、しらべぇの記事内には気になる文言があります。ネトウヨが1割程度自覚されているという記述の後、こう付け加えています。

 

この調査結果を全国8万名に及ぶ「しらべぇデータベース」と照らし合わせると、興味深い傾向が見える。

 

この謎の「しらべぇデータベース」がどんなものなのかはよくわかりませんが、その後で「言葉責め」とか「大人のおもちゃ」の話とかをしているので、字義通りに考えるならば、今回のアンケートの質問事項は「あなたはネトウヨの傾向がありますか?」という質問だけだったということになります。あとは、「しらべぇデータベース」という、過去の調査結果と照合して、結果を出していったというわけです。

 

実際、「言葉責め」に関しては、別にアンケートをとっていたようで、こんな記事が存在しています。

sirabee.com

この記事には全く同じ設問があり、調査数が「1070人」で違いはあるものの、「好き」と答えた人は20.3%、今回のネトウヨの調査と、ぱぱっと計算した感じでは、おんなじような人数になります*3

 

 

統計学の先生が聞いたら泡をふいて倒れそうな調査方法ですが、この方法には重大な問題が山積しています。たとえば、調査にタイムラグがあることを知りながら、それをクロス集計するのは無意味だということです。だって、今日は「ネトウヨの自覚がある」に○をしたって、明日は「ネトウヨの自覚なんてない」という答えになるかもしれないからです。違う時期に行ったアンケートの結果を二つ組み合わせるというのは、ちょっと聞いたことがない。

 

それに、私が懸念するのは、違う時期に行ったアンケートなのに、「誰が」「何を」答えたか把握しているというのは、個人情報の観点から危ういのではないかということです。だって、その人が「ネトウヨ」かどうか判断したアンケート結果をもとにデータベースを探るならば、「その人」の答えた過去の調査の内容がわかってないといけません。文面から察するに、「しらべぇデータベース」には、個人を特定できないまでも、「誰が」「何を」答えたか紐づいた形でデータが保存されているということです。お小遣い感覚でアンケートを答えていったら、いつのまにか膨大な「自分」に関するデータが蓄積されているなんて、ちょっと怖くありませんか。

 

「いや、全ての設問はおなじアンケート内で行った」という主張をするならば、話は冒頭に戻り、「姉ちゃんパンツ何色?」みたいなテンションあがってきたオジサンの質問となり、正直そんな設問のアンケートに真面目な調査結果が期待できるとは到底思えません。

 

・今日のまとめ

 

①同年代、同人数「1348名」の調査の数が多すぎて、何らかの作為的な働きがあるとしか思えない。

②文面から、この「ネトウヨ」の調査は、同時期に行ったアンケートから導き出されたものではなく、別々のアンケート結果を組み合わせた意図的な調査結果であり、信憑性は限りなく薄い。

③仮に同じタイミングで行ったアンケートだとしても、設問が意図的にすぎ、とてもまともな結果が得られるとは思えない。

 

前回は、こうやって無意味なアンケートをばらまき記事にするライターを「永久機関的ライター」と名づけましたが、何の需要もないものを掘り起こし記事にし、世間に焚きつける様子は、どちらかというと「錬金術師」に近いです。恐らくこのライターたちも、自分たちのしていることの無意味さには気付いていることでしょう。それを冷笑的に行っているのかバカ真面目に行っているのかまではわかりませんが、こういう「メディア風メディア」があり続ける限り、空っぽの情報は、ネットの風の中をごうごう吹き荒れていくんでしょう。

 

 

*1:

ibenzo.hatenablog.com

ibenzo.hatenablog.com

*2:もうひとつ可能性としては、1348名が母数であるという考えです。1348名にアンケートを送り、そのうち何名かが回答したと。しかしそうすると、そんな半端な数を母数にするのもよくわかりませんし、有効回答数が明記されていないので、結局この調査の信憑性はかなり低いといわざるを得ません

*3:1348名が正しいとして、「ネトウヨでない」人はそのうち92.6%なので、約1248人。そのうち「言葉責め」が好きな人は18.1%なので、約225人。元調査の「言葉責め」の1070人のうち、好きな人は20.3%なので、約217人となります。うーん、流用してるっぽいですねえ