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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ビルゲイツは人生に役立つ11のルールを作ってはいない、格言は鑑定書のない宝石

海外ニュース

ビル・ゲイツ未来を語る

 

久しぶりに英語圏の話題を。

rabitsokuhou.2chblog.jp

ビルゲイツの名言として、以下のようなものが広まっています。

1.人生は公平ではない。それに慣れよ。

2.世界は君の自尊心を気にかけてはくれない。君の気分に関係なく世界は君が仕事を終わらせることを期待している。

3.高校を出てすぐ6万ドルの年収を稼ぎはしない。携帯電話(当時は高かった)を持った副社長にもならない。自分で両方を稼ぎ出すまでは。

4.先生が厳しすぎると思うなら、上司を持ってみろ。

5.ハンバーガーを引っくり返すということは沽券(こけん)にかかわることではない。
君たちの祖父母はハンバーガーを引っくり返すことを別の表現を使った。それはチャンスと呼ばれた。

6.君が失敗したらそれは両親のせいではない。文句を言わずに学べ。

7.君らが生まれる前は、君らの両親は今のように退屈な人たちではなかった。そんな風になったのは、君らのために支払いをし、服を洗い、
君らがどんなにいけてるか、という自慢を聞いているうちにそうなったのだ。親の時代から生存する寄生虫から森を守る前に、自分の洋服ダンスのダニ駆除から始めよう。

8.学校は勝者・敗者を決めなくなったかもしれないが、人生は違う。
学校によっては君が落ちこぼれないようにしてくれたり、正しい答えが導き出せるまで、何度でも機会をくれる。実際の人生とは全く似ても似つかない。

9.人生は学期ごとに分けられていない。夏休みは無いし、ほとんどの雇用主は君が自分を見出すことに興味を持たない。それは自分の時間にやれ。

10.テレビは本当の人生ではない。 現実では、人は喫茶店にいつまでもいられるわけはなく、仕事に行かなくてはいけないのだ。

11.オタクには親切にしよう。彼らの下で働く可能性が高い。

なるほどなーという感じで、さすが世界随一の成功者です。

が、上記の「ビルゲイツの名言」は、調べてみると全くのガセネタであることがわかるので、今日はその検証です。

 

  

***

 

 

ビルゲイツが作者ではない

「Bill Gates 11 rules」で調べると、あっという間にこの話の検証サイトが出てきます。

www.snopes.com

こういうウワサ検証サイトの英語版で、私もよく参考にしている所です。

今日の話は上記を読めばほぼ終わりなのですが、日本語できれいにまとめているところがないので、本稿がその嚆矢になればと思います。

 

さて、上記によれば、この「11のルール」の話を、ビルゲイツは、"Rules Kids Won't Learn in School" 、つまり「学校では勉強しないルール」という演目で、高校でスピーチした、ということになっています。

 

しかしながら、この「Rule」には元ネタがあり、 Charles J. Sykesという人が作者であるということです。

us.macmillan.com

Wisconsin Policy Research Instituteの上席研究員、といったところの方でしょうか。ラジオのパーソナリティもしていて、大手新聞社への寄稿も多いようです。

 

Sykesの作った「Rules」は、About.comのサイトによれば*1、1996年9月の「the San Diego Union-Tribune」に掲載されたものだとか*2。Sykes自身は、2007年に発表した「50 Rules Kids Won't Learn in School」という本の前書きで、「1990年の中ごろにテレビのコメンタリーで言ったこと」という言い方をしています*3。いずれにせよ、この「Rules」を作ったのはビルゲイツではないということです。

 

ウワサが広まり始めたのは2000年ごろ

先ほどのAbout.comによれば、このウワサは主にE-mailでもって広まっていったといいます。

urbanlegends.about.com

2000年の2月に、「11 Rules」がE-mailでもってコピペが回覧されたんだとか*4

 

日本語訳が確認できた一番古いのは、以下のらばQさんのものでしょうか。

labaq.com

らばQさんは「彼が抜粋でチャールズ・J・サイクスの著書「Dumbing Down Our Kids」から引用したものだそうです」としていますが、この言葉はSykesの「Dumbing Down Our Kids」には出てきません*5

 

また、そもそもビルゲイツが、わざわざ引用をして高校でスピーチをしたかどうかも怪しいところです。どこの誰も、どの高校でスピーチをしたか指摘できていないからです。snopesが指摘するように、ラジオコメンテーターのPaul Harveyが広め、the Atlanta Journal and Constitutionが2000年7月に掲載したものがネット上に拡散していった、という方が適切かと思います。

 

そして2016年には、一番上のソースに上げたラビット速報では「一般人に向けた言葉」とまで変化しています。全く、ネットの情報なんてあてにならんものです。

 

そもそもルールは10個だった

Sykesは、前述した『50 Rules Kids Won't Learn in School』の前書きで、「元々ルールは10個だった」と述べています*6。それがちょっとずつ増えていき、Sykesは14個までルールを作ったといいます。

 

このRulesは、ネットのコピペとして色々改変されているようなのですが、大体以下の3つが抜けた形で広まっています。

 

ルール12:喫煙は君をクールに見せない。

ルール13:君は不死ではない。

ルール14:可能な限り楽しみなさい。人生は憂鬱ではあるが、いつかきっと君は子ども時代はなんと楽しかったのかと悟るだろう。さあ今からはじめよう。*7

こうすると、ルール14があって、どうやらこのルールの人生訓にはオチがつくことがわかります。

 

しかしながら、現在出回っているRulesのコピペはルール11「オタクには親切にしよう。彼らの下で働く可能性が高い」で途切れています。これは、要するにビルゲイツが言ったということにするために、このルール11をオチに使うことで、説得力を持たせようとした、というところなんではないでしょうか。多分、世界で一番成功したオタクだからでしょう*8

 

今日のまとめ

①現在コピペとして出回っている「人生に役立つ11のルール」はビルゲイツが作ったものでもなければ言ったものでもない

②本当の作者はCharles J. Sykesという人であり、1990年中ごろに作られたものである。

③ルールははじめに10個あり、Sykesが作ったのは14個まである

④テレビやラジオ、新聞に掲載されたものがネット上に広まり、英語圏では2000年ごろ、日本では2008年ごろから広まり始めた。

⑤ルール11までのコピペが広まっているのは、「オタクには親切にしよう」というオチが、ビルゲイツが作ったというものに説得力を持たせるためであろう。

 

私自身は、この11もしくは14のルールは、アメリカ人らしいウィットに富んだいい言葉だと思います。ひとつルールをいい終わるごとに、シットコムの「HAHAHA」という笑い声が飛んできそうです。

 

しかしながらどうですか、ビルゲイツが言ってないとわかると、ちょっと魅力が減りませんか*9。美しい文章というものは世の中にはいくつも存在していますが、こと「格言」に関しては、そこから教訓を得ようとする者にとっては、「誰が言った」までが引用範囲なんですね。「格言は鑑定書のない宝石のようなものである」。はて、誰が言った言葉だったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:Bill Gates Speech on 11 Rules of Life - Urban Legends

*2:どこまで本当かはわかりませんが、テキストがサンパウロ大学に残っています。

Some rules kinds won't learn in school

*3:"I used in a television commentary back in the mid-1990s" US版のアカウントを取得すれば、Kindleでお試し読みができまっせ。

50 Rules Kids Won't Learn in School: Real-World Antidotes to Feel-Good Education

*4:2000年の英語版は以下の通り。

Bill Gates' Message on Life

For recent high school and college graduates, here is a list of 11 things they did not learn in school.

In his book, Bill Gates talks about how feel-good, politically-correct teachings created a full generation of kids with no concept of reality and how this concept set them up for failure in the real world.

RULE 1......Life is not fair; get used to it.

RULE 2......The world won't care about your self-esteem. The world will expect you to accomplish something BEFORE you feel good about yourself.

RULE 3......You will NOT make 40 thousand dollars a year right out of high school. You won't be a vice president with a car phone, until you earn both.

RULE 4......If you think your teacher is tough, wait till you get a boss. He doesn't have tenure.

RULE 5......Flipping burgers is not beneath your dignity. Your grandparents had a different word for burger flipping; they called it opportunity.

RULE 6......If you mess up, it's not your parents' fault, so don't whine about your mistakes, learn from them.

RULE 7......Before you were born, your parents weren't as boring as they are now. They got that way from paying your bills, cleaning your clothes and listening to you talk about how cool you are. So before you save the rain forest from the parasites of your parents' generation, try "delousing" the closet in your own room.

RULE 8......Your school may have done away with winners and losers, but life has not. In some schools they have abolished failing grades; they'll give you as many times as you want to get the right answer. This doesn't bear the slightest resemblance to ANYTHING in real life.

RULE 9......Life is not divided into semesters. You don't get summer off and very few employers are interested in helping you find yourself. Do that on your own time.

RULE 10.....Television is NOT real life. In real life people actually have to leave the coffee shop and go to jobs.

RULE 11.....Be nice to nerds. Chances are you'll end up working for one.

2003年版には、この話が、カリフォルニアの「 MT. WHITNEY HIGH SCHOOL 」で話されたという風に出回っています。

*5:ウソだと思うならば、以下のAmazonページで中身検索をしてみてください。

Dumbing Down Our Kids: Why American Children Feel Good About Themselves but Can't Read, Write, or Add

全文は読めませんが、目次を見る限り、ルールの話は出てきそうにありません。

*6:I mention this because these fifty rules began as a mere ten rules

50 Rules Kids Won't Learn in School: Real-World Antidotes to Feel-Good Education

*7:原文は以下の通り。長いので端折りましたが、ルール14だけは最後まで書きました。

Rule No. 12: Smoking does not make you look cool. It makes you look moronic. Next time you're out cruising, watch an 11-year-old with a butt in his mouth. That's what you look like to anyone over 20. Ditto for "expressing yourself" with purple hair and/or pierced body parts.

Rule No. 13: You are not immortal. (See Rule No. 12.) If you are under the impression that living fast, dying young and leaving a beautiful corpse is romantic, you obviously haven't seen one of your peers at room temperature lately.

Rule No. 14: Enjoy this while you can. Sure parents are a pain, school's a bother, and life is depressing. But someday you'll realize how wonderful it was to be a kid. Maybe you should start now. You're welcome.

*8:Possibly it's because the item that typically ends the Internet-circulated version of the list ("Be nice to nerds") struck a chord with someone who views Gates as the ultimate successful nerd of all time.

Bill Gates High School Speech : snopes.com

*9:このルールを「ビルゲイツだからすばらしい」みたいに褒め称えていた人は、この事実を知ったらどうするんでしょうか。熱く手のひらを返すんでしょうか。twitterで検索すると、そういう人がちらほらいらっしゃいます。

ビルゲイツ ルール - Twitter Search