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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「ながらスマホ」は覚せい剤と同じぐらい危険か、情報の伝言ゲーム

国内ニュース ファクトチェック

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スマホはすっかり我々の生活様式を変えてしまっているようですが、こんな記事がいろいろなニュースサイトで話題になりました*1

gakumado.mynavi.jp

デンマークのコペンハーゲン大学の研究によると、2つ以上のデバイスを同時に使うと、脳に覚せい剤使用時と同じような影響を与えることが分かりました。

 とあり、「ドーパミン」が「2つのデバイスを使用中」に分泌され、「覚せい剤」を使った時と同じような状態になるんだとか。

 

うーん、しかしながら、この「コペンハーゲン大学の研究」って、いったいどこに存在するんでしょう?今日は、安易な翻訳記事でお金をもらう人々を恨めしく糾弾いたします。

 

 

***

 

 

「覚せい剤」なんて言葉は出てこない

 

マイナビは記事下部に「参考」として「How to get completely stoned using just an iPhone and a TV」というどこかの記事タイトルを載せています。ここまで書いたら記事媒体まで名前をかけよと思うのですが、まあ検索かけましょう。

 

すると、イギリスの大衆紙、metroの記事が引っかかります。

metro.co.uk

日付は2015年4月8日。うーん、1年以上前の記事ですね。記事では、確かに「コペンハーゲン大学」の研究として、2つのデバイスを同時に操作することは、「マリファナを吸ったときとおなじぐらいのドーパミンが出る」としています*2

 

残念ですが、記事には「覚せい剤」なんて言葉は出てきません。これは、他の英文記事も一緒で*3、「Stoned」や「Mariuana」なので、「マリファナ」の表現が多いんじゃないんでしょうか。清原やのりピーに引っ張られましたか*4

 

この記事は複数の研究が混在している

そもそも、このコペンハーゲン大学の研究って、なんなんでしょうか。

 

実はこの研究を探し出すことがなかなか難しい。WorldcatやNdltdなどの論文検索をかけても、コペンハーゲン大学のものが出てきません。ちょっと探し方を変えるしかないですね。

 

このコペンハーゲン大学の話が初めて出てくるのは、Dailymailの記事です。2015年4月7日。

www.dailymail.co.uk

Metroよりも更に詳しく(というかMetroは部分的にコピペしただけですね)、内容をまとめると以下の通り。

 

①情報は海馬に通常は保存されるが、マルチタスクの際は、線条体という部位に保存され、それは記憶の呼び起こしが難しい。

②コペンハーゲン大学の研究によると、そういった誤った場所への記憶保存がしばしば脳内で起こっている。

③科学者によれば、複数のガジェットを切り替えて使うことはLドーパの放出を高め、それはマリファナを吸っているときよりも悪い認識能力の低下を招く。

④80%以上のケータイ所有者がこのマルチタスキングを行っている。

 

実はこの記事、「コペンハーゲン大学の研究」だけを元にしているようではないんですね。

 

たとえば①の、マルチタスク時に、情報が線条体に保存されるという研究は、恐らくテキサス大学のRussell Poldrack博士たちの研究が元になっていそうです。

projectinfolit.org

論文はこちら

「Modulation of competing memory systems by distraction」

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1544246/

 

③のマリファナと同等の認識能力低下については、ロンドン大学の研究やスタンフォード大学の研究が元になっているのではないかなと思われます。

articles.chicagotribune.com

news.stanford.edu

 

上記によれば、IQの低下や認識力の低下が見られたということで、これは恐らくにはなりますが、コペンハーゲン大学の研究は、それとドーパミンの関係について明らかにしたもの、ということになるのではないでしょうか*5

 

ちなみに、③については、コペンハーゲン大学の研究者だけでなく、HeyHumanというイギリスの広告代理店*6と組んで行った研究のようで、むむ、「広告代理店」がスポンサーについた研究というと、ちょっと胡散臭くなりますね。

 

つまりこの記事は、「マルチタスキング」に関する既存の研究を様々に組み合わせて構成されたもの、ということになります。どうしてそういう構成になっているんでしょう。

 

コペンハーゲン大学の研究は存在するか

DailyMailはいったい、何をもとに「コペンハーゲン大学の研究」として、この記事を書いたのでしょうか。

鍵になるのは、HeyHumanとの協働での研究という点です。

実は、海外掲示板のRedditで、HeyHumanの人が「なんか質問ある?」とおりてきています。

 

「I recently ran a neuroscience study into the impact multi-tasking with technology is having on our brains that was presented at SXSW...」

 

*Redditのリンクを貼るとはてなは「Bad Request」を返してしまうので、調べたい方は上記タイトルを検索してください。

 

投稿されたのは2015年4月2日。ここで彼はSXSWというカンファレンスで同年3月に、「 Neurostrata」「Neurons Inc」とともに、マルチタスキングに関する脳内の働きに関する発表をしたと言っています。この話は、いくつかのメディアが記事にしています。

www.campaignlive.com

www.theguardian.com

 

Campaignにはドーパミンの話があり*7、どうやらこの話が、SXSWで話されたらしいことがうかがえます。

 

しかしこれはHeyHumanのデモンストレーションであり、コペンハーゲン大学はどこでからんでくるのか。

 

先ほどのRedditで、HeyHumanの中の人は、この研究のメイン協力者として、コペンハーゲン大学の「Thomas Ramsoy」を挙げています*8。ようやくコペンハーゲン大学の名前が出てきました。

 

彼は神経医学界の中では有名なようで、マルチタスキングに関する研究も近年しているようです。HeyHumanとコラボしている「Neurons Inc」のCEOです*9。同じ研究を「CANNES LIONS INNOVATION 2015」でも発表したようで、会社のブログのアーカイブに残っています。

web.archive.org

 

もちろんコペンハーゲン大学の教授でもあるわけですが、この研究の主体はこの「Neurons Inc」であり、「コペンハーゲン大学」を主語にして語っていいのかなあという気がします。

上記の発表を見る限り、頭に電極みたいなヘルメットをかぶせてモニタリングをしています。この発表は、既存の研究を基盤に、実際の脳の動きを解明した、というものなんではないでしょうか。

 

日付も近いことから、DailyMailはこのSXSWのカンファレンスを元に、記事を書いたということでいいのではないかと思います。そのため、色々な既存の研究の情報が混在する結果になったのではないかと推測できます。

 

そもそも「広告」のための研究である

しかし、先に報じたGurdianやCampaignの記事内容のニュアンスはちょっと違います。

発表では、要するにマルチタスク状態の多くの情報を処理する際に、脳はニューロンの通り道の配線を変更しながら、その刺激に応じて処理する部分を変えている、というものです(先ほどのDailyMailの記事の②ですね)。この「再配線」の際に、誤った場所に情報が保存され、これが「うーん、舌の先まででかかってるんだけど」状態を引き起こしているというわけです。

こうして認識力や記憶力が低下している状態の中で、何を訴えたいかというと、要は、「記憶に残る広告」をつくるためにどうしたらいいか、という話につなげたいわけです。

 

「注意をひきつけるために刺激的な音や映像を使え」「無意識に訴えろ」みたいなチップスが書いてあります。先ほどのコペンハーゲン大学のThomas Ramsoyも「マルチタスキングがどのように視聴者の広告への関心を破壊しているか」ということを語ったと述べています*10

 

どうしてHeyHumanという広告会社とコラボしているかというと、つまり広告業界が、脳神経学的にこれからどういうアプローチをしていけばいいか、という主旨での発表だからです。この発表において、マルチタスキングの「危険性」については、メインという形では捉えられていません。

 

ましてや、マイナビが書いたような「薬物依存状態」というのは言い過ぎです。あくまでも、マリファナを吸ったとき以上の「認知力やIQの低下」があるだけで、同じ薬物の効果が脳内で起こるわけではありません。

 

今日のまとめ

①「ながらスマホ」=「マルチタスキング」は、「マリファナを吸ったとき」と同等以上のIQの低下を招く。マイナビの「覚せい剤」は誤訳であり、かつ認知力の話であり、「薬物依存状態」は言いすぎである。

②マイナビが参考にしているMetroやDailymailは今までの「マルチタスキング」に関する既存の研究を組み合わせた記事であり、「コペンハーゲン大学」だけの成果ではない。

③また、この研究はコペンハーゲン大学のThomas RamsoyがHeyHumanと協働で行った研究であり、主眼は「効果的な広告への神経学的アプローチ」といったところであり、マルチタスキングの脳への弊害についてはサブと考えられる。

 

 

この「マルチタスキング」が、どうも脳に悪影響を与えるようだ、という研究は、今まで見てきたとおり盛んになっています。日本でも、最近テレビで紹介されていました。

 

テレビを見ながらSNSをやると脳の機能が破壊される!?【初耳学】

 

 

というわけで、実はこの話題、今年の6月に既に話題になっていることなんですね。ちゃっかりマイナビさんも似たような記事を書いています。

 

gakumado.mynavi.jp

 

小さな仕事(メールを送信したり、テキストに返信したり、ツイートをしたりすること)を終わらせると、脳に報酬ホルモンであるドーパミンが発生します。
私達の脳はこのドーパミンが好きなので、即座に満足感を与えてくれる小さな仕事に次々と取り組みたくなるのです。

 

 今回の話は、この話を「薬物依存」という語に置き換えてリライトしたに過ぎません(まあこの記事も海外記事の翻案に過ぎないのですが)。自分でろくに調べもせず、不正確な翻訳で記事を書いてお金をもらう、というメディアが、国内外問わず多いのは、なんともいかんともしがたいことです。結局こういうことが、情報の伝言ゲームとして、少しずつ内容が変わっていってしまうんですね。

 

*1:マイナビの記事を元に、他にもいくつかのニュースサイトで記事になりました。

テレビを見ながらの「ながらスマホ」が覚醒剤と同じくらい危険な理由 [T-SITE]

テレビを見ながらの「ながらスマホ」が覚醒剤と同じくらい危険な理由 | ニコニコニュース

*2:The researchers say that flicking between two screens produces the hormone dopamine – released in large quantities when you smoke a joint.

*3:Multitasking Makes You Dumber Than Being Stoned! | Coaching Life | Dan Tudor

Why Multi-Tasking Is Worse Than Marijuana For Your IQ

*4:「Drug」を「覚せい剤」として捉えることも可能ですが、必ず「マリファナ」に関する語句が出てくるので、この場合は他の媒体を見る限り適しません

*5:別の先生ですが、コペンハーゲン大学で、ドーパミンが高レベルな人は中毒的な行動をしやすい、という研究もあります。

Study links hormone to addiction, risk-taking | Reuters

*6:About Us - HeyHuman

神経科学も取り入れた…みたいな記述がありますので、ただの広告制作会社、という感じではないですが。

*7:the dopamine levels are so addictive that we feel like we have no choice. Let’s add a little context to show how addicted we really are: Just knowing that an unread email is sitting in your inbox has distractive power equivalent to a 10-point reduction in IQ — that’s the same as smoking marijuana.

*8:Our main collaborator, Thomas Ramsoy of the University of Copenhagen, recently spoke at the neuromarketing world forum, but our research wasn't done in time to be included in his session.

*9:About us | Neurons Inc

*10:we presented the latest insights from how media multitasking can have a devastating effect on consumers’ attention to advertising

Neurons at Cannes Lions Innovation – Neurons Inc