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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「孕む」は漢検何級なのか、エロい意味だけじゃないぞ

今日はコンパクトなツイート検証記事。

孕む」という漢字をみんな簡単に読めるけど、これ漢検1級の漢字なんだからな、というツイートがバズったことを受けて(2012年のツイートなんですけどね)の、みんなが「孕む孕む簡単に言いすぎるから」、「2級まで落ちた」というツイート。

 

私は実は、漢検準1級を取ったことがあるのですが(自慢)、確かに1級は手も足も出ないという感じでした。その中でも、「孕む」は、いろいろな二次創作の影響でか、確かに読みやすくなったのかもしれませんが、そんなことってあるんでしょうか。

 

 

***

 

 

漢検1級の基準

漢検1級の出題内容及び審査基準は、日本漢字能力検定協会のサイトによると、以下の通り。

 

レベル:常用漢字を含めて、約6000字の漢字(JIS第一・第二水準を目安とする)

審査基準:常用漢字の音・訓を含めて、約6000字の漢字の読み書きに慣れ、文章の中で適切に使える。*1

 

6000字って、まあすごいですよ。「財産を饕餮する」「美しい丫頭」とか読めますか。「ワイガシラ」って読みたくなる*2

 

それはともかく、「漢検1級」の特筆すべき点は、JIS規格の「第二水準」*3まで含めるところです。実は「漢検準一級」以下は、JIS「第一水準」及び常用漢字までが出題範囲になるので、原則として、「第二水準」の漢字は、読み書きともに出題されないということになります。

 

それを考えて「孕」を調べてみると、「孕」はJIS「第二水準」の規格に含まれることがわかります。

 

「JIS-X0208-1997 コード表」

http://www.pcinfo.jpo.go.jp/site/4_news/pdf/zenkaku.pdf(PDF・5ページ目)

 

ということは、「孕」は、読みだろうが書きだろうが、漢検1級で出題するしかないのです*4。2級になったら、常用漢字になってしまいます。

 

審査基準は変更されている

とまあ、ここで話を終わってもいいのですが、実は漢字検定は過去に出題の基準を改定しています。

 

平成24年度からの審査基準改定について | よくある質問(漢) | 日本漢字能力検定

 

平成24年度から審査基準を改定しているんですね。これはなぜかと言うと、平成22年に、常用漢字表の改訂が行われているからです。

 

文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 内閣告示・内閣訓令 | 常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)

 

この改訂は、主に196字の漢字が新たに常用漢字として付け加えられたというものです。

 

なので、漢字検定も、これにあわせて検定の審査基準を変更したわけです。新たに漢字が増えたのですから、今まで1級対象だったものが準1級でも出題されるようになるなど、下の級での出題範囲が増えたということになります。

 

それでも「孕」は変わってない

しかしながら、上記改訂のページにあるように、準1級は「JIS第一水準」目安であり、それ以下の級は「常用漢字」が目安なので、「JIS第二水準」の「孕」は残念ながら、この改訂前でも1級であったことがうかがえます。

 

いや、漢字検定の長い歴史の中でもしかしたら、「孕」が1級の座から陥落した時期があるのかもしれないとも思いましたが、1997年の日本漢字能力検定協会のホームページのアーカイブには、以下のように書かれています。

 

【1級】
●程度

常用漢字を含めて、約6000字の漢字の音・訓を理解し、文章の中で適切に使えるようにする。
●領域1 読むことと書くこと
常用漢字の音・訓を含めて、約6,000字の漢字を読み、その大体が書ける。*5

 

6000字のカヴァーのためには、JISの第二水準まで含めないとだめでしょうから、ずーっと昔から「孕」は、漢検1級の座を保持しているということになります*6

 

漢字検定は1975年から開始されいるので*7、もしかするとその20年ぐらいの間に「孕」が2級だった時があるのかもしれませんが、まあ、二次創作なんて言葉もなかった時代、そんなことはないでしょう。

 

今日のまとめ

①「孕」は「JIS第二水準」の漢字であり、「第二水準」が出題範囲の漢検1級の漢字として、読み・書きともに出題されている。

②過去の歴史を遡ってみても、漢検1級の出題範囲は「6000字」と変わらないことから、「孕」は常に漢検1級の漢字として認識されていると思われる。

 

今回のツイート、真偽はともかく、個人的にはいいところついてて面白いなーと思いました。しかしながら、「はらむ」と訓読みだけ出来ても仕様がないわけで、たとえば「孕」を含む四字熟語として、「嫗伏孕鬻(うふうよういく)」なんて言葉も出てきます。読めないし書けない。

 

それに、どうも淫靡な響きでもって使われる「孕む」ですが、もちろん本義は懐妊を指すわけです。

漢字起源説 漢字の起源と由来を探る甲骨文字の旅: 「孕」 この字を作った発想はすごい 漢字の由来*8

そこから、様々な新事象が生まれ出ずる比喩となり、もう少し尊い意味であったはずです。漫画家のみなさん、「らめー」とばかり描いてないで、「孕鬻させて!」とでも描いて、漢字の豊かさに触れましょう。

 

 

  

*1:各級の出題内容と審査基準 | 漢検の概要 | 日本漢字能力検定より抜粋要約

*2:ワイガシラは「あとう」と読みます。少女のこと

*3:JIS第2水準(じすだいにすいじゅん)とは - コトバンク

*4:念のため、10級~2級までの出題範囲のPDFも置いておきます。

http://www.kanken.or.jp/kanken/outline/data/outline_degree_national_list.pdf

もちろんこの中に「孕」はありません。

準1級と1級がないのは、要するに第一水準・第二水準を網羅することになるからです

*5:審査基準

*6:ちなみにこのJISの規格は1978年からだそうです。

JIS X 0208 - Wikipedia

漢検の審査基準に「JIS第二水準」という表現が登場するのは2000年から。

漢検ホームページ

*7:日本漢字能力検定 - Wikipedia

もしくは、

http://web.archive.org/web/19970121181847/http://www.kanken.or.jp/kanji001.htm

に「当協会が漢字能力検定をはじめてほぼ20年」とあるので

*8:本当は白石先生の『字訓』あたりを参照したかったのですが、そうそう毎日図書館に行くわけにもいかないので…