ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「Twitterで使えそうな名言」はオバマの言葉ではない、民主主義の総本山

熱狂の王 ドナルド・トランプ

記事にするほどでもないんですが、気になったので。

jin115.com

あるツイートで、クリントンの応援演説をするオバマのキャプチャ画像と共に、「ツイッターであおられて炎上するような人に核兵器はまかせられない」という彼の言葉と思しきものが拡散されています。

 

調べてみると、確かにオバマはその言葉を口にしているんですが、これは彼が作った言葉ではないんですよね、ということを記事にしてみました。

 

***

 

元の動画について

さて、キャプチャの画像の元ネタはANNNewsです。

www.youtube.com

11月3日にトランプの奥様、メラニア夫人が、SNSが子どもたちのいじめの元凶になっているという演説をした後、アメリカのメディアが「トランプ氏のツイッターこそ有害」と批判したということを付け加え*1、その後に、このオバマの言葉が入ります。

英語で何と言っているかというと、こうです。

 

a man you can bait with a tweet is not a man we can trust with nuclear weapons

 

「ツイートにつられちゃうヤツに核兵器は任せられない」ぐらいでしょうか。テレビのキャプションは、意訳とまではいいませんが、日本的にわかりやすく「炎上」という言葉を使っていますね。確かにオバマが言っていますし、確かにトランプのツイートの炎上具合はなかなかです*2

 

本当はヒラリーが言った言葉

しかしながら、こういうときに気をつけなければいけないのが、前後の言葉です。実は、この「a man you can bait...」を調べると、真っ先にひっかかるのがヒラリーの演説です。

  

www.latimes.com

7月25日ー28日に開催された民主党大会での指名演説で、該当部分を抜き出すとこんな感じ。

 

So just ask yourself: Do you really think Donald Trump has the temperament to be commander-in-chief? Donald Trump can't even handle the rough-and-tumble of a presidential campaign. (中略)Imagine, if you dare imagine, imagine him in the Oval Office facing a real crisis. A man you can bait with a tweet is not a man we can trust with nuclear weapons.

あなた自身に問いかけてみてください。本当にドナルド・トランプが総司令官になる資格を持っていると思いますか。トランプは大統領戦の乱戦すら制御できていないじゃありませんか。(中略)想像してください。あえてということにはなりますが、彼が大統領執務室で現実の危機に直面する姿を。ツイート一つに釣られてしまう人に、核兵器を任せることができるでしょうか。

 

この後、ヒラリーはケネディのキューバ危機の行動を引き合いに出します。要するに、ここは、アメリカ大統領が権限を持つとされる、核兵器のスイッチですね*3、それを持つに値する人間か、ということを問うているわけです。

 

ANNがソースにしたこの動画は、11月3日のフロリダのジャクソンビルで行われた、オバマの応援演説です(フロリダでも複数行っているのです)。

www.c-span.org

当該の発言は、15:31あたりですが、話の流れとしてはこんな感じです。

戦死者や捕虜の家族といった、軍関係の人たちに向けたトランプの侮辱発言を批判しながら、オバマは続けます。

 

Even a Republican senator said we can't afford to give the nuclear codes to somebody that erratic. That's a Republican. As Hillary said, a man you can bait with a tweet is not a man we can trust with nuclear weapons. (Applause.) Somebody who gets fired up and riled up about a "Saturday Night Live" skit -- (laughter) -- is not somebody you want to trust with nuclear weapons.

共和党の上院議員さえ、核のコードは、常軌を逸した人間には与えられないと言ったではないか。あの共和党がだ。ヒラリーはこう言った、「ツイート一つに釣られてしまう人に、核兵器を任せることができるのか」と。(拍手喝采)「サタデー・ナイト・ライブ」の寸劇に憤慨し神経質になるような(笑い声)そんな人間に、核兵器を任せることはできないんだ。

 

「サタデー・ナイト・ライブ」とは、アメリカの長寿バラエティ番組で、この時期は大統領選のパロディーの小芝居をやって見せていて、むろん、トランプも槍玉にあがっています*4。それについて、「退屈でつまらん」とコメントした先月のツイートを皮肉っているんですね。

いずれにせよ、オバマはこのヒラリーの言葉を引用してしゃべっているわけです。 

 

オバマの鉄板ネタ

ANNのニュースの流れを見ると、トランプ夫人の「SNSが子どもたちのいじめの~」という発言を受けて、オバマが演説をした、みたいな感じに思えますが、そうではありません。

 

本当にいろんなところでスピーチをするわけですが、11月に入ってからの終盤戦に、オバマはこのくだりを頻繁に使っています。

 

例えば、トランプ夫人のスピーチの前の、11月1日のオハイオでの応援演説。

 

www.c-span.org

 

I think Hillary made a pretty good point -- a man you can bait with a tweet is not somebody you want to trust with nuclear weapons.

ヒラリーは実にうまいことを言っていると思うんだけど…「ツイート一つに釣られてしまう人に、核兵器を任せることができるのか」

 

11月2日のノースカロライナの演説。

www.c-span.org

It's like Hillary said -- "A man you can bait with a tweet is not a man we can trust with nuclear weapons." You can't do it.

ヒラリーが言ったように、「ツイート一つに釣られてしまう人に、核兵器を任せることができるのか」ということだ。任せることはできないんだ。

 

 スピーチの中身はほぼ一緒になるので、当たり前といえば当たり前なんですが、例えば10月21日のマイアミでの演説では取り入れていません*5。共和党の上院議員の「常軌を逸した人間に…」というくだりは入っているのですが、ヒラリーの言葉は入れていません。つまり、11月の演説から加えた、ということなんでしょうね。メラニア夫人のスピーチとの関係は偶然でしょうが、ヒラリー陣営にとってはラッキーですね*6

それにしても、この演説って、50分近くもしゃべるものなので、それをアップデートしてくって言うのは、いやあ、すごいもんですね。

 

 今日のまとめ

①「ツイッターであおられて炎上するような人に核兵器はまかせられない」という発言は、11月3日のフロリダのジャクソンビルで行われた演説の一部である。

②「ヒラリーが言った」とオバマが前置きしているように、この発言は7月の党大会で、ヒラリー自身が演説した言葉であり、オバマはそれを引用したというわけである。

③ANNのニュースの流れでは、トランプ夫人の「SNSが子どものいじめの元凶」発言に対してというように思えるが、彼女の発言以前からオバマは演説に取り入れていているので、直接の因果関係はない。

それにしても、私は初めて真面目に、応援演説というのを見ましたけれども、アメリカって言うのは、なんだかすごい国だなあと思いました。「ヒラリー!ヒラリー!ヒラリー!」みたいなコールとか、ブーイングとか、拍手喝采とか、こんなに政治に熱狂している集団というのは、日本人的な感覚からすると、少々空恐ろしい感じもします。

 

「史上最低の大統領選」なんていわれてますけど、政治への積極的参加を是とするならば、この国民の姿を見る限り、アメリカというのはやっぱり民主主義の総本山なんですね。それが、この国を支えたり路頭に迷わせたりしているんだろうなあと思いました。

 

 

*1:恐らくこのあたりでしょう。

Melania Trump vows to take on cyberbullying as first lady - Sun Sentinel

Melania Trump Is Very Upset By People Who Bully Others On The Internet | Huffington Post

*2:「trump tweet battle」で画像検索すると、いっぱい彼のツイートのキャプチャが出てきます。

trump twitter battle - Google 検索

まあ、キャプチャなので真偽はさておき、彼の言動が色々物議をかもしているのは、もはや書くまでもないでしょう

*3:核のフットボール - Wikipedia

*4:トランプ自身も2015年に出演しています。

ドナルド・トランプ氏 サタデーナイトライブですべりまくりの巻 : GODU - Quest in New York

*5:President Obama Campaigns Hillary Clinton Miami | Video | C-SPAN.org

we can't afford to give "the nuclear codes of the United States to an erratic individual.

の発言は入っています

*6:とはいっても、このオバマの発言とメラニア夫人の発言を、アメリカではあまりつなげてはいないかな、という印象です