ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

中東の自爆テロのエピソードの真偽について、カソウテキの行方

自爆テロ

 

先日もイギリスでテロがあったばかりですが、こんなツイートが話題を集めていました*1

中東のどこだったか、学校前で自爆テロがあり、大混乱の現場で、
「みんな、そっちは危ないから近づかないように! こっちへ!!」
と落ち着いて呼び掛ける人がいて、そこに子どもたちが集まったところでソイツが自爆テロしたというのが、これまで聞いたテロの中でも胸くそ悪いナンバーワン。

 

確かにひどい話なんですが、しかしこの話、いまいち場所も年代もはっきりしないんですね。さくっと調べてみてみたんですが、さくっとは出てこなかったので、果たしてこの「胸くそ悪い」テロは存在するのかどうか、というところを調べてみました。

 

 

***

 

 

テロが多すぎる

 

皆さんは、テロって世界中でどのぐらいの頻度で行われているかご存知ですか?私はあまりご存知でなかったのですが、毎日どころか、1日のうちに複数件は起きているような感じです。

 

www.pepsinogen.blog

 

上記記事は、2014年の世界のテロリズムの発生件数について、アメリカのGTDのデータベース*2からデータをまとめているのですが、2014年の1年間で3925件。1日に10件ペースで起こっているわけです。

 

自爆テロに限ってということであれば、シカゴ大学のSuicide Attack Databaseというものが、1974年から2016年6月までのデータを網羅しているのでわかりやすいです。

 

UChicago CPOST

 

しかし、自爆テロに限ってみても、トータル5430件あり、とてもひとつひとつ追ってみたいという気にもなれません。いわゆる「中東」の国*3で絞ってみても964件となり、ひとつひとつのエピソードを掘り下げるのはえらい時間がかかりそうで、ちょっとやりたくないです。

 

学校での自爆テロで考えてみる

というわけで、絨毯爆撃的に調べていけば、くだんの自爆テロエピソードにたどり着ける可能性もありますが、そんなことはしたくないので、このエピソードの要素から考えていきたいと思います。

 

今回のエピソードの要素は以下の通り。

 

 

①場所は中東のどこか

②学校まえで1回目の爆発

③2回目はわざわざ人を呼んでの爆発

 

 

①の「中東のどこか」というくくりはずいぶん曖昧で、そもそも中東なのかどうかがアヤシイので、まずは②の「学校」というワードで探していきたいと思います*4

 

学校での自爆テロ、で調べると、日本語では2014年のパキスタンでの自爆テロがひっかかります。

www.cnn.co.jp

 

14歳の少年が、校門前で、怪しい男に石などをなげ、学校内での自爆を阻止したという話。彼は男の自爆に巻き込まれ死亡してしまいましたが、その英雄的な行動は政府からも称えられたということ*5。しかし、この話はくだんのエピソードとは全く違いますね。

 

同じく2014年のパキスタンには、ペシャワール学校襲撃事件がありました。

 

www.afpbb.com

 

「パキスタンのタリバン運動」の戦闘員が、生徒を含む148人を殺害したというパキスタン史上においても最悪に類するテロです。この事件の恐ろしいところは、テロリストたちはパキスタン軍の作戦の報復という事で、人質をとることもせず、できるだけ多くの人間を殺害しようとする行動です。

 

しかし、この話も、いくつかのニュースサイトを洗ってみても、「そっちは危ないから近づかないように!」と誘導して自爆した、という話は出てきません*6

 

他にも、学校での自爆テロはいくつか世界的なニュースになっています。2014年11月のナイジェリアの学校での自爆テロ*7、アフガニスタン、カブールでの演劇中の自爆テロ*8、2016年1月のカメルーンでの自爆テロ*9など、たくさんありますが、Google検索で出てきた結果からいくつかのぞいた限りでは、似たようなエピソードは出てきませんでした。

 

2回の爆発から探す

ちょっと困りましたが、今度は「③2回目はわざわざ人を呼んでの爆発」に注目したいと思います。これは言い換えれば、「自爆テロが2回あった」ということです。「twin bomb」ということで調べてみます。

 

すると、シリアの学校で2回の爆弾攻撃があった記事が出てきます。

 

Two car bombs exploded in the central Syrian city of Homs on Wednesday afternoon near a school killing 48 people including 41 children.

水曜日の午後、2台の自動車爆弾が爆発し、シリア首都のホムスの学校近くで爆発し、41人の子どもを含む48人が死亡した。

41 children killed in Syria school bombing | Middle East Eye

 

2014年10月の記事ですが、学校・2つの爆発というところでは一致します。しかし、爆発の仕方はこうです。

 

The first blast was from a car bomb and was detonated in front of the Ekrimah primary school, followed minutes later by a suicide bomber who drove by and detonated his vehicle, state televison reported.
最初の爆発は自動車によるもので、Rkrimah小学校の前で爆発した。その数分後、車両を運転した自爆テロ犯によって爆発が起こったとテレビは伝えている。

 

うーん、車両を運転しての爆発ならば、「こっちへ!」という風には呼べないような気もするので、これも違うのでしょうか*10。英語圏で調べた限りでは、このテロと「こっちへ!」のエピソードをつなぐものは出てきませんでした。

 

twin bombで出てくるニュースはいくつかありますが、規模の大きいものとしてはナイジェリアのJosの市場で起こったものがあります。

www.nydailynews.com

 

これの特徴は、2回目の爆発が少し時間をおいて行われたという事です。

 

The second blast came half an hour after the first, killing some of the rescue workers who had rushed to the scene, which was obscured by billows of black smoke

2回目の爆発は1回目の爆発の30分後に起こり、黒煙渦巻く不明瞭な現場に急行した救急隊員を殺害した。

 

このテロはボコ・ハラムによるものといわれていますが、このようなテロの仕方はボコ・ハラムの特徴である、という記事もあります。

 

ソースがDailymailで申し訳ないですが、2014年5月20日の記事。「2回目の爆発は救助隊員を殺害するように設計された*11」とし、

 

While nobody has claimed responsibility for the attacks, the double blast bears all the hallmarks of tactics used by militant Islamic group Boko Haram.

一方で誰もこの攻撃の首謀について主張していないが、二重の爆発はイスラム過激派のボコハラムの戦術の特徴があるといわれる。

 

と、このような形で、時差的に爆発を複数回起こすことは、ボコハラムの戦術であるという記述があります。より被害を拡大させる狙いがあるのでしょう。

 

どこまでDailymailを信用すればいいかは疑問ですが、確かに、「twin bombing」とか「double bombing」を「Boko haram」と一緒に検索すると、彼らのテロ攻撃のニュースがひっかかります。

www.aljazeera.com

www.naij.com

 

ボコハラムの活動拠点はナイジェリアであり、ナイジェリアは中東とは呼べませんが、二重の自爆攻撃をしかける、という点においては、可能性としてボコハラムのテロ攻撃のエピソードなのではないか、という気もします。

 

古いアメリカの事件にもある

時代はずーっとくだりますが、1959年のアメリカ・テキサス州ヒューストンで起こった、ポー小学校の事件も、ちょっとだけ似ている部分があります。

 

これは、書類の不備のために息子の入学を拒否されたPaul Harold Orgeronという男が、その翌日に爆発物を持って学校に来た、というものです。Orgeronは息子と共にスーツケースを持ってあらわれ、こんなことを言いました。

Minutes later, though, he appeared on the playground, where he commanded teacher Patricia Johnson to “Call all your children up here!”
それから数分後、彼は校庭に現れ、彼はPatricia Johnsonに「子供たちをここへ呼べ!」と命令した。

Survivor recalls 1959 Houston school blast that killed 6 - Houston Chronicle

Patriciaは危険を感じて、子ども達に校舎に戻るように言ったようですが、結局Orgeronは自爆し、子どもを含む6人が死亡しました。

 

この話は今回のものとは全く関わりがなさそうですが、テロに限らなくても、もしかするとこういった事件はあるかもしれない、という事例のひとつと思ってください。

 

 

今日のまとめ

①テロの数はあまりにも多く、自爆テロだけに限ってみても、その詳細を掘り下げることには時間がかかる。

②学校での自爆テロはいくつもひっかかるが、今回のエピソードと合致するものは発見できなかった。

③2回の爆発という点に注目すると、ボコ・ハラムのテロの特徴に似ており、もしかするとこの組織の自爆テロのエピソードかもしれない、という推測はできる。

 

とまあ、色々書いて結局元ネタはわかんねえのかよ!とお怒りの方もいらっしゃるかと思いますが、いや、申し訳ない。ただ、個人的には、このエピソード自体は、やっぱり本当にあったことなのではないか、という気がしています。特に確証はないんですけど。こういう検証のときは、私もバイアスがかかり、有り得ないミスで見落とすこともあるので、どうぞ見つけたよという方はお知らせください。

 

今回は、このエピソードの真偽が主眼なのではなく、しょせん情報は情報であるという点についてです。

 

昨今ではファクトチェックというものが流行りになっていますが、自分が見て聞いたものでなければ、その情報の信頼度が100%になるということは、私は有り得ないと思います*12。文字なり写真なりといった情報については、どれだけソースを示し、一次資料を挙げたところで、それは情報の「確度」が上がるだけで、完全な「真実」になるかというと、そうではないと思います。我々が普段ニュースサイトで接する情報は、思い切った言い方をすれば、全てが「まことらしきうそ」であり、手で触れるような事実をつかんでいるわけではないのです。

 

今回、多くの(そして全体からみれば少ない)テロ事件のエピソードの細々とした部分に目を通し、累々たる死者の数と怨嗟と憎悪の言葉に触れてもなお、私は当事者にはなれないという思いを抱きました。それは「仮想」の世界です。いつ来るかもしれない爆破に怯えることも、銃声に慄くこともせず、ただ文字と写真の情報によって構築される怒りや悲しみは、「ああその情報はウソだったよ」の一言で崩れ去る脆いものです。情報によってのみ作り出される敵は仮想敵です*13。そのような幽霊のような敵を信じこまないようにすること、それが当事者ではない我々にできるささやかなことなのかな、としみじみと思いました*14

 

 

*1:実はこの記事はあまり気乗りがしなくて、1週間ほどかけて書いたのですが、投稿前に調べてみたら、当該ツイートは削除されたように見えます。どうしたのかしらん

*2:Global Terrorism Database

*3:wikipediaでのっている「伝統的中東」「拡大中東」で絞ってみました。

中東 - Wikipedia

*4:

もちろん、上記3要素を含んだ検索ワードで調べてみたんですが、日本語で出てこないことはもちろん、英語にした時には語が曖昧になりすぎて、ろくすっぽいいものが引っかかりませんでした。うーん、バイアスがかかってるのかなあ

*5:Aitzaz Hasan - Wikipedia

*6:

Pakistan Taliban: Peshawar school attack leaves 141 dead - BBC News

https://www.theguardian.com/world/2014/dec/19/peshawar-school-massacre-pakistans-911

https://www.nytimes.com/2014/12/17/world/asia/taliban-attack-pakistani-school.html

Peshawar School Attack: See Young Survivors of Pakistani Taliban Siege | Time.com

*7:Another Bomb Blasts Hit Yobe, Many Students Feared Dead ▷ NAIJ.COM

*8:Videos Emerge of Suicide Bombing at Kabul School During Play About Suicide Bombing | VICE News

*9:Suicide bombers kill four in north Cameroon school | Reuters

*10:他のニュースサイトでは、

"He planted a bomb at one location at the school, and then blew himself up at another spot nearby,"

彼は学校の敷地内に爆弾を設置し、そして近くの別の場所で自爆した

とあり、自動車の話は出てきません。

アルジャジーラは、

The first explosion was from a car bomb parked and detonated in front of the school, followed minutes later by a suicide bomber who drove by and detonated his explosives-laden car, said the anonymous official.
最初の爆発は駐車された自動車爆弾によるもので、学校の前で爆発した。その数分後、爆発物を積んだ車を運転する自爆テロ犯によって爆発が起こった、と当局は伝えている。

と伝えており、こちらは車両による爆発です。

*11:The second blast came half an hour after the first, designed to kill rescue workers who had rushed to the scene.

*12:果たして自分の認知したものについても100%信頼することができるのか、という問いになると、それは大変哲学的になってしまいますので、ここでは一般的には・・・という感じでお読みいただければと思います

*13:

本筋とまったく関係ないですが、今回のタイトルは以下の本から借用。

 

カソウスキの行方 (講談社文庫)

カソウスキの行方 (講談社文庫)

 

私は津村記久子がすきなんですけど、あんまり好きな人と出会ったことがないので、いつか記事にしたいですねえ

*14:

ただ、今のISや過激派といった面々も、あるいはそういう「仮想敵」を信じているだけなのかもしれない、と考えると、世界とはいったいなんなのか、と思います。もちろん、「正義」側の面々もしかり