ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ロバを獣姦した少年が狂犬病を発症したニュースの真偽について、果たして人類の共生など

こんなスキャンダラスなニュースがちょっと前にネットを席巻しました。

 

www.narinari.com

 

このナリナリさんのソースが「The SUN」と「Mirror」、「NYP」と、さもありなんなメディアばかりだったため、「こいつはさすがにウソだろう…」と思って呟きもしたのですが、調べていくうちに「どうやらまるきりウソでもないらしい」という感じになりました。

 

ちょっと仕事が忙しくて(あとアラビア語も難しいので)放置していたのですが、ぺりかんめもさんが詳しく調べてくださったので、リンクを貼っておきます。ありがとうございます。

 

pelicanmemo.hatenablog.com

 

アラビア語ソースをなんとか読ませてもらいましたが、おおむね私もそのとおりだと思います。ただ、「フェイクっぽいなあ」と呟いた手前、モロッコの文化背景や現地のコメントも交えて、尻馬にのる感じで記事を書かせてもらえればと思います。

 

 

 

***

 

実際にあった出来事

実際にはどのような出来事があったのか。ぺりかんめもさんのまとめが簡潔でわかりやすかったので、失礼ながら引用させてもらいます*1

 

・雌ロバを獣姦・輪姦した人数は、2人よりも多くはない。実行犯は成人(20才以上)の若者2人。
・1人目の若者(24才以上)が雌ロバを獣姦し、2人目の若者(20才以上)が続けて行った。3人目の年少者が脇でげらげら笑っていた。
・近くで遊んでいた少年グループの15人(10才〜15才)が、騒ぎを聞いて集まってきた。(ニュースで報道された少年たち15人)
・ロバに石を投げたり殴ったりした。後にそのロバは死んだ。
・そのロバには、狂犬病ワクチンは打たれていなかった。
・獣姦した若者は、性器に痛みを感じ何かの症状がでて、病院に入院する。父親が事情を知る。(症状がちょっと分かりにくかった。)

モロッコで、ロバを獣姦した少年15人が狂犬病に? 元記事を調べてみた (追記あり) - pelicanmemo

 

ちなみに、ChoufTVさんは、ロバの所有者からも情報をとっているようで、ロバは埋葬されたこと、この所有者はかなり貧しいようで、ロバがいなくなった困窮も訴えている、みたいなことが書いてある(ように読めます)。

 

なので、このChoufTVの記事を信じるのであれば*2、15人の少年たちが、「狂犬病」を疑われて、病院にいったということは本当のようです。

 

「狂犬病」にかかってはいなかった

「狂犬病」は、致死率の高い病気ですが、感染が疑われた場合は、暴露後ワクチンが有効だと言われています。

 

咬まれた後の対応(暴露後接種といいます):

先進国へ行く人、あまり咬まれるリスクのない方は、事前にワクチンを打つ必要はありませんが、実際に海外で咬まれてしまった後では、次の日程で4週間に5回接種します。(以下略)

狂犬病ワクチン 正しい知識と予防で安全・安心を! 及川医院 院長 及川馨

 

恐らく、少年たちは実際の症状が出たというよりかは、念のために暴露後の接種を行った、と考えるのが妥当そうです。以下、Hespressの記事には、そんなようなことが書かれています。

 

كشف مسؤول في وزارة الصحة بإقليم سيدي قاسم زيف ما تم ترويجه على نطاق واسع بخصوص إصابة 15 طفلا بداء السعار بعد اتصالهم جنسيا بأنثى حمار، موردا أن الخبر لا أساس له من الصحة؛ لأنه ليس هناك شيء اسمه مرض "السعار" الناتج عن "معاشرة حيوان".

sidi kacem州の健康省は、15人の少年がロバとの性交後に重大な病気にかかっていると広められているニュースについて、獣姦によって起こるような病気が起こっておらず、確認ができなかったと述べている。

مسؤول صحي: لا وجود لإصابات بـ"السعار" في إقليم سيدي قاسم

 

私はこの記事を読んだ時、「そんな出来事自体存在しない」と解釈したのですが、ちょっと早とちりだったようで、少なくともそういう病気にかかった子どもたちはいない、ぐらいの意味だったようです。

 

وأوضح المسؤول بوزارة الصحة أن مستشفيات الإقليم لم تتلق أي مصاب بهذا النوع من المرض الذي تم تداوله في مواقع التواصل الاجتماعي خلال الأسبوع الماضي، بالقول أن "أيا من هؤلاء المعنيين لم يترددوا على أية مؤسسة صحية في الإقليم".

病院や省の関係者は、そのような症状(高い熱や異常行動)の患者は来ておらず、ネット上に急速に広がった、「この地方の医療機関を受けることをためらっている人がいる」というようなこともない、と言っている。

 

وردا على التساؤلات التي أثيرت حول إصابة هؤلاء بما عرف بـ"السعار"، نفى المتحدث ذلك، وأضاف: "لم يصابوا بأي مرض، بل عمدوا بعد فعلتهم إلى قصد مكتب حفظ الصحة للتلقيح التلقائي"، مشيرا إلى أن ذلك جاء كرد فعل على "صاحب أنثى الحمار الذي رجح أن تكون بهيمته مصابة بالسعار، بعد وفاتها".

これは「狂犬病」なのではないかという質問に対しては、省の報道官は否定したが、「何の病気にもかかってはいないが、意図的にワクチン接種は行った」と付け加えた。(以下翻訳不明のため略)

 

なので、ロバと性交して狂犬病にかかった子どもたちは、現時点ではいないようです*3

 

イスラム教と獣姦

どこまで正確かは、少し慎重になりたいとは思うのですが、イスラム教圏の国の中では、いわゆる獣姦について、寛容というか、暗黙の了解のような形で行っている場所もあるようです。

 

ちょっと古いのですが、Nadia KadiriとAbderrazak Moussaïdという研究者の論文に、モロッコの性的文化についてのものがあり、獣姦についても記述があります。

 

Zoophilia

In the rural world, zoophilia is still very widespread and not blameworthy. With masturbation, it constitutes an obligatory passage in the adolescent male’s apprenticeship of sexuality.

獣姦

地方において獣姦はいまだ広く認められており、恥知らずなものではありません。その自慰行為は、性の手本としての青年の通過儀礼として行われています。

The International Encyclopedia of Sexuality: Morocco

 

また、これはWikipediaソースで未確認ですが、『Cradle of Erotica』という本*4の中で Allen Edwardesらは、「ロバに男子のアレを入れると大きくなる」みたいな迷信もモロッコにはあると書いているそうで、モロッコの地方部において、今回の出来事は全く突拍子のないことでもない、とは考えられそうです。

 

現地の反応

しかし、これは現代モロッコにおいては、古い因習という形の否定的なとらえが多いように思われます。

 

www.mc-doualiya.com

 

上記のブログでは、これは「ロバ」だから嘲りをもって伝えられるけれども、モロッコにはびこるこの「性的」な慣習の多くが、小児や高齢者への性的虐待などにも結びついており、真剣に考える必要がある、というようなことを述べています。

 

2M,maというニュースサイトでは、性教育の実施の必要性について述べられています。

 

وطالبت الجمعية المغربية، بإدراج التربية الجنسية في المقررات الدراسية، وإحداث وصلات إذاعية ومرئية ومسموعة للتوعية بالمخاطر الصحية المترتبة عن الممارسات الجنسية، إضافة إلى تكريس التربية الصحيحة لضمان تنشئة سليمة لليافعين والمراهقين.

モロッコ協会は、学校での性教育実施が望まれることや、テレビやラジオなどで性交渉によるリスクについて警鐘を鳴らすことによって、青年期の性教育の質を確保すべきだと訴えた。

جمعية تطالب بتدريس التربية الجنسية بعد واقعة اعتداء قاصرين على أنثى حمار بسيدي قاسم - 2M

 

TELQUELというモロッコのフランス語メディアでは、この村の少年たちのChoufTVのインタビューを載せており、彼らがロバを獣姦した理由が「退屈だったから」だと述べています。

 

Si on avait un endroit où on pouvait s’amuser, on n’aurait pas fait ce qu’on a fait avec l’ânesse

もし僕たちにもっと楽しいことがあるんだったら、ロバにこんなことはしないよ。

Zoophilie: entre problématique psychiatrique et enjeu social | Telquel.ma

 

TELQUEは、この地域での性的な抑圧について言及し、青年期の心理的側面から、獣姦が容認されている環境がある、とも指摘しています。

 

また、同記事内では、動物愛護の団体の言葉として、モロッコ国内での動物の権利が蔑ろにされている、という旨のコメントもあり*5、個人的には、「土着の古い因習v.s.西欧的近代主義」のような構図がうかがえました。

 

今日のまとめ

①ぺりかんめもさんのまとめ通り、ロバの獣姦は、実際には20歳以上の若者2人によって行われ、15人の少年たちはそれを見ていただけのグループであるという可能性が高い。

②15人の少年たちは病院にいったが、ワクチンを接種されただけで、実際に狂犬病に罹患したわけではない可能性が高い。

③モロッコの農村部において獣姦は、通過儀礼的に行われている側面がある。

④しかし、現代モロッコにおいては、その因習には否定的な反応が多い。

 

「可能性が高い」という書き方になるのは、アラビア語の翻訳の難しさと、また、ソースが単一的になっているということからです。探し方にも課題はあるとは思いますが、モロッコのメディアは孫引きソースが多いような印象です。

 

ソースは載せませんが、このような「イスラム教」の風習は、得てして反イスラムのヘイトを呼び起こす材料にもなっており、調べてみると、そのような形の反応も多いです。「多分化共生」という言葉は市民権を得ていますが、しかしどこまでその「文化」を許容するかというのは、非常に難しく悩ましい問題です。「許容」も「否定」も何らかの文化に属さねばならず、果たして真の意味で人類の共生などありうるのか、と今回の記事を調べながら考えさせられました。そして、日本では嘲るような形でしか報道がされないことについても、一抹の空しさを覚えます。

*1:

記事としては、以下の部分が該当するかと。訳はアラビア語→英語からの意訳です。(以下全て同様)

الحقائق خلاف ما يروج، ومن ضمن ما توصلنا إليه أن عدد الذين مارسوا الجنس على "الحمارة" لم يتعد 2 عناصر بالضبط ، وأن أول من خلع ملابسه لممارسة الجنس على الحمارة راشد ويفوق عمره 24 سنة، حسب

事実は報道されているものと異なり、「ロバ」への性行為へ及んだものは2人より多いわけではなく、最初に及んだものは24歳以上の若者であった。

 

وأكدت مصادرنا في ذات الوقت أنه بعدما بادر الاول إلى ممارسة الجنس على "الحمارة " تبعه الثاني والذي يتجاوز عمره 20 سنة أما الثالث فقد كان قاصرا صرخ وبصوت عال ضاحكا وبطريقة هستيرية بعدما تحول جو ممارسة الجنس على الحمارة إلى مشهد يسخر بعضهم من البعض الآخر، فكانت الصرخة بمثابة نداء الى مجموعة من القاصرين كانوا يلعبون بالقرب من مكان الحادث فتوافدوا الى مكان وقوع الحادث فاندهش الجميع بالمنظر بين متزعم للتناوب لممارسة الجنس على الحمارة وبين ضاحك

それと同じく、私たちの情報源では、一人目が「ロバ」との性行為を終えたあと、二人目は二十歳以上の若者によって行われた。三人目の年少者は大声でヒステリックにその性行為の様子を見て喚いて嘲笑した。その叫び声は、その現場の近くで遊んでいた子どもたちの注意を引き、彼らは皆、自分たちより年長者がロバを輪姦し、笑いあっている姿に驚いた。

 

وتحول المنظر الى ضجة ، فتحول القاصرون الى ضرب الحمارة بالحجارة ومنهم من وجه إليها لكمات بيده ورجله مما كان سببا في وفاتها فيما بعد .

この騒ぎが収まると、子どもたちはロバに石を投げたり、手で殴り始めたりして、それが原因でロバは後に死んだ。

 

تضيف مصادرنا أن الضجة التي عمت مكان الحادث جعلت ساكنة الدوار تنزعج وتتوافد للمكان فعلم بعضهم بأنه تمت ممارسة الجنس على الحمارة من طرف بعض الأطفال مما تحول الى شك وظن لأباء وأمهات هؤلاء القاصرين وألزموهم على تلقي العلاج بالمستشفى المحلي لمدينة بلقصيري مخافة انتقال العدوى إلى باقي اقرانهم بعدما شاع الخبر أن الحمارة مسعورة وأن الشاب الراشد الأول الذي مارس الجنس عليها أحس بألم في جهازه التناسلي وأخبر أصدقاءه بذلك.

また我々の情報源によると、この騒ぎはساكنة الدوار(この意味が不明。父親?)を動転させ、彼らを越させる結果となった。彼らの何人かはロバが少年たちによって獣姦されていたことを知っていたため両親は疑いを持ち、子どもたちはBelqsiriの病院へ治療を受けるためにつれてこさせられた。このニュースは、24歳の一人目のロバを獣姦した若者が、友達に生殖器の痛みを話したことからまたたくまに広がった。

 

以上、ChoufTVの記事より。

انفراد: التفاصيل الكاملة والحقيقية لواقعة اغتصاب ''حمارة'' مشرع بلقصيري وها العدد الحقيقي خلافا لما يروج

*2:

より正確に書くならば、この24歳の若者云々のくだりは、ChoufTVの記事でしか見つけられませんでした。よく証言を追って書いているように見えるので、信頼性はあるとは思いますが、一応留意は必要です

*3:

これもまた正確を期すなら、この省の見解が書かれている記事が極端に少ない、ということにも留意が必要です

*4:

 

Cradle of Erotica
 

 

*5:

Dans un pays où la défense des animaux n'en est encore qu'à ses balbutiements, la lutte contre la zoophilie n'est pas au coeur des préoccupations gouvernementales. Pour Amal Elbekri, une étape est pourtant incontournable pour faire changer les mentalités: 

この国において動物の権利は発達途上であり、獣姦との戦いは政府の関心ごとではありません。Amal Elbekriは意識改革が不可欠であるとしています。