ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

東京五輪の中高生ボランティアは保険に入れるか、モグラ塚は山ではない

共同通信による、東京オリンピックのボランティアに「中高生枠」を設けるという話が物議を醸しています。

 

this.kiji.is

 

なんだか以前にも似たような記事を書きましたが*1、私が気になったのは、以下のツイートです。

 

 

果たして、五輪のボランティアに参加する中高生はボランティア保険に入れないのか?というところを、ささっと調べてみました。

 

 

***

 

ボランティア保険に入れる

 

そもそも「ボランティア保険」とは、社会福祉法人の「全国社会福祉協議会」が団体契約をし、全国の市区町村の社会福祉協議会を通してのボランティア活動の折に契約をするものです。

 

日本国内における「自発的な意思により他人や社会に貢献する無償のボランティア活動」で、次のいずれかに該当する活動とします。


・グループの会則に則り、立案された活動であること。
(グループが社会福祉協議会に登録されていることが必要です。)
・社会福祉協議会に届け出た活動であること。
・社会福祉協議会に委嘱された活動であること。

ボランティア活動保険

 

五輪のような広範囲の行政的なイベントのボランティアは微妙ですが、社協を通したボランティアの募集を行う可能性もなくはないです。

 

基本的に「自発的な意思」を尊重するので、責任能力のない未成年はそのままでは入れませんが、保護者(監督義務者)が被保険者となることで加入が可能です。

 

ボランティアがお子さまなどの未成年者で責任能力がない場合には、監督義務者が法律上の損害賠償責任を負われる場合があるため、被保険者としています。

「ボランティア活動保険」P2

https://www.fukushihoken.co.jp/fukushi/files/council/pdf/2018/volunteer_activities_pamphlet.pdf

 

そのため、各市区町村の社会福祉協議会は、以下のように未成年の加入の但し書きをつける場合が多いです。

 

(Q1)ボランティア保険は何歳から加入することができますか。
[A1]ちよだボランティアセンターでは、未成年の加入は下記の通りとしています。
・小学生、中学生は保護者の了解を得たのちに加入。

・高校生以上はその場で受付をするが、保護者に加入したことを伝えるよう話す。
※ボランティア保険は「自分の意志でボランティアをする」方向けの保険です。意志の判断が難しい低年齢の人にはかけられません。

ボランティア保険・行事保険 Q&A « ちよだボランティアセンター

 

Q7 ボランティアグループの中に小学生もいますが、小学生もボランティア保険に加入できるのでしょうか?
A7 自発的にボランティア活動に参加しているのであれば、加入は可能です。
(中略)
未成年者(特に小学生)が賠償事敀を起こした時に、本人の親権者等監督義務者が賠償責任を負う場合があります。

http://www.setagayashakyo.or.jp/files/8614/2279/0148/051-03.pdf

 

【補償対象者】
・ボランティア活動者個人
・ボランティアの監督義務者
※ 活動者が未成年で責任能力がないとき

ボランティア保険について

 

ツイート主の方もリプ欄で追記しておられますが、基本的に、「ボランティア保険」は、年齢に関係なく入れるものと考えてよさそうです。

 

学校でのボランティアはどうか

しかし、あくまで「自発的な意思」のボランティア活動の保険ですので、例外も存在します。

 

○自発的な意思による活動とは考え難いもの

(例)
学校管理下にある先生、生徒のボランティア活動
免許、資格、単位取得を目的とした活動
道路交通法違反者による行政処分としてのボランティア活動 など

ボランティア活動保険

 

前回の長野五輪の際には、学校の授業の一環として強制的に参加させられたみたいな体験談もありましたので、そういう可能性もあるかもしれません。では、その場合はボランティア保険には入れませんが、どうなるのでしょうか。

 

基本的には、授業や行事の一環として学校側が参加する場合は、その活動は学校の管理下における活動となり、学校側のシステムが適用されることになります。

 

詳らかではないですが、教育現場の事故などについては、スポーツ振興センターの災害共済給付の加入を行っている場合が多いはずです。

 

独立行政法人日本スポーツ振興センターでは、義務教育諸学校、高等学校、高等専門学校、幼稚園、幼保連携型認定こども園、高等専修学校及び保育所等の管理下における災害に対し、災害共済給付(医療費、障害見舞金又は死亡見舞金)を行っています。

災害共済給付

 

 「学校の管理下」の適用範囲については以下のようなものになります。

 

f:id:ibenzo:20180327103846p:plain

 

もし仮に、学校の教育活動としてオリンピックのボランティア活動に参加するならば、「学校の教育計画に基づく課外指導中」に該当するでしょう。そのときに起こった事故は、こちらの災害共済給付によって、カバーされるはずです。

 

加入は任意か強制か?

私は、今回のボランティア保険云々の議論は、情報が少ない中での拙速な話であると感じました。

 

例えば、同じように東京都が主催しているイベントでは、そもそもボランティア募集の要項の中で保険の加入を規約に入れています。

 

主催者において、本活動に参加する会員を被保険者とする保険に一括加入いたします(会員の個人負担はありません)。保険の適用範囲は保険契約の内容に基づくものとし、主催者の指示を遵守しなかった場合等保険会社により保険金の支給が不適切と判断された場合には、適用することができません。

規約 | 東京マラソン財団オフィシャルボランティアクラブ VOLUNTAINER(ボランテイナー)

 

上記は東京マラソンのボランティアの規約ですが、主催者側が一括加入をすると書いてあります。東京マラソンのボランティアはイベントが限られますが、未成年者も参加できます*2

 

また、東京都観光ボランティア(これは18歳以上ですが)も、保険について規約があります。

 

6 活動時の保険
事務局でボランティア保険に一括で加入します
(ボランティアの方の費用負担はありません)

東京都観光ボランティア(おもてなし東京)募集要項 P3

http://www.metro.tokyo.jp/INET/BOSHU/2015/09/DATA/22p9p200.pdf

 

個人的には、東京オリンピックンのボランティアは、これに準じるような形になると思うので、一括加入をするんではないのでしょうか。ただ、現段階では情報が少なすぎるので、なんともいえません。

 

今日のまとめ

①ボランティア保険は、監督責任者(保護者)の承諾があれば、中高生も加入ができるため、年齢制限はない。

②教育活動のボランティア活動に保険は適用されないが、その場合は「学校の管理下」になるので、災害共済給付などの保険が適用されると考えられる。

③東京マラソンなどは主催者側が保険に一括加入しているため、東京オリンピックの際も、同じような規約が適用される可能性がある。

 

「ボランティア」という言葉でもって何でもかんでもやらせようという傾向が少々あることは否めないですし、その体制作りがどこまでできているのか、というのも疑問点のあるところです*3。そのような懸念を発信することは大事なことと思います。

 

しかし、今回出ている情報は共同通信の一記事のみです。果たしてどのような形でのボランティア参加になるのか、ひとつの情報のみであれこれと想像力を膨らませて考えるのは、やりすぎると、いざ他の情報が出てきたときに、それを正しく見ることができなくなるので、あんまりおすすめできません。モグラの山ではなく、ちゃんとした山が出てくるのを待つことも大切ですね。

*1:

 

www.netlorechase.net

 

*2:

イベントごとエントリーに年齢制限が設定されています。小学生・中学生がエントリーする場合は、保護者と共にグループエントリーが必要です。
未成年者が当選しボランティア参加する際には、保護者の同意が必須となります。

規約 | 東京マラソン財団オフィシャルボランティアクラブ VOLUNTAINER(ボランテイナー)

*3:

例えば、内閣府の調査では、「平成 27 年度特定非営利活動法人及び市民の社会貢献に関する実態調査」で、「参加の妨げとなる要因」の選択項目に「活動を行う際の保険が不十分」という選択肢があり、課題としては認識されているのでしょう。

https://tokyo2020.org/jp/get-involved/volunteer/data/volunteer-all_JP.pdf