ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ジンバブエ再び、Quadrillionの日常、ソースはどこからやってくる

さて、ジンバブエネタ再びです。インフレの話は前記事も参照してください。

 

jp.reuters.com

 

17.5京ドルというのは英語で「175 Quadrillion」となるわけですが、Quadrillionなんて言葉はそうそう日常生活でお目にかかれません。ハイパーインフレのときには、あまりにも聞きなれない数の単位が出てくるので、新聞がわざわざ「数の単位の読み方コーナー」を設けているのを読んだ覚えがあります。とっとけばよかったなあ。

 

さて、ロイターの記事を引っ張ってきましたが、数少ない読者の方は「あれ、もうジンバブエドルってないんじゃないの?」と思うかもしれません。私もそう思ってました。

 

 

調べてみると、ジンバブエドルは言ってみれば2009年から「使用停止」状態になっていたわけであり、「公式」に廃止されるのは今回が初めてだということですね。しかしまあ、こういう見出し記事が出ると、またあの札束の写真が日本の読者には喚起されるんじゃないかなあという気がします。実際、下のような記事の反応になってますね。

 

 

日本の記事は省略しすぎなので、ロイターの本家のサイトに行くと、別記事でもうちょっと詳しく書いてありました。

 

af.reuters.com

 

ざっくりいうと、「政府のレートで変えるより、ネットや路上で売ったほうがはるかに儲かる」ということのようです。記事によれば、1兆ジンバブエドル紙幣は20USドル程度で売れるということであり、はるかに割りのいい商売ですな。つまり、あのときみたいに札束抱えて銀行に行く人はいないわけです。

 

しかし、この話の公式ソースはどこにあるんでしょう。この場合の公式とは、政府からということです。

 

海外含め、各社いっせいにこのニュースを「ジンバブエ準備銀行」からの発表としていますが、少なくともReserve Bank of Zimbabweのページにはそんなことは出ていない。ていうか、このサイト、Public Noticeが2010年でとまってます。え、本当に政府のサイトか?アドレスも「.co」名義だし…

 

ならばと、政府の公式ページを探しますが、出てくるのはこんなサイトばかりで、まともに機能していません。そういえば滞在当時、何かの政府ページにいったらウイルスが検出された思い出が蘇ります。

 

そうすると、メディアはいったい何の情報を元にこのニュースを作ったのか。

 

調べた限りでは、初出はロイターの6月11日の記事。GMT 3:26PMなので、日本時間で12日夜中の0:26。ちなみにBBCの同ニュースに対する記事を見ると、どうやらBloombergの情報を引用しており、Bloombergは12日KST 2:26AMになっています。日本時間も一緒ですので、少しの差はあるものの、もしかすると、この二つの記事は、同じソース元からの話かもしれません。

 

ロイターでは、「the central bank said on Thursday」となっており、続けて月曜日から交換ができることを「 Reserve Bank of Zimbabwe」の「Governor」であるJohn Mangudyaが言っていると書いています。

 

Bloombergは少し違い、ジンバブエドルを交換することを、「Governor John Mangudya」が 「in an e-mailed 」で言ったという風に書いています。

 

どちらも情報源は「John Mangudya」というジンバブエ準備銀行の総裁であることは一緒ですが、ロイターはどのような形でその情報を手に入れたかは曖昧であり、BloombergはEメールで答えたということになっています。可能性としては、

 

①ロイターの記事を元にしてBloombergがEメールで総裁に問い合わせた。

②ロイターもEメールでの情報だったがあえてそれを記事に書かなかった。

 

の二つが考えられます。①については、記事の差が2時間程度であることを考えると、ちょっと考えにくいような気もします。②の場合であると、この世界をかけめぐったニュースの情報はジンバブエ準備銀行総裁が、各メディアに配信したEメールが元であるということになります。

 

なぜソース元にこだわっているかというと、往々にしてジンバブエ政府の発言はひっくり返される場合が多いからです。2007年の年末にも、「20万ジンバブエドル紙幣を廃止する」という情報が出ましたが、結局なかったことにされました。なので、情報元が曖昧では、またしてもそういう結果になるのではないかと考えたのです。

 

とまあ、ここまで書いてなんですが、現地新聞を見るのをすっかり忘れていました。ジンバブエメディアのNewsDayは、12日に記事を出しているのですが、そこには写真が載っていました。

www.newsday.co.zw

写真は、総裁のMangudyaではないものの、恐らく銀行関係者であろう男性が、ジンバブエ紙幣とUS$の交換レートを示したポスターを持って演壇の前に立っています。つまり、そういう会見的なものが開かれたんでしょうな。あれ、ということは少なくともロイターはその会見に出たんでしょうか…。あるいは国内向けに会見が開かれ、国際的にはEメールでの情報ということになったのかもしれません。

 

いずれにせよ、情報は伝播されるごとに変質していきます。大手メディアも、特に海外の記事に関しては引用で済まされる場合が多いです。果たしてその記事がどこまで正確なのか、私たちはよく考えておいたほうがいいのかもしれません。