ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

キアヌはゲイなのかそうじゃないのか、そんなの関係ねえっ

キアヌ・リーブスという俳優は、日本のネット界隈では、ハリウッドスターに珍しく、「ちょーいい人」のイメージがついているような感じがします。先日も、こんな記事が出ました。

 

alfalfalfa.com

 

まあこの写真自体が2012年のハロウィンのころのものなので*1、いったいいつの話を記事にしてるんだという感じですが、面白いのはそこに載るキアヌの逸話たちです。

・妹が白血病で、医療系の団体に多額の寄付もしている。

・親と恋人に先立たれている。

・亡くなった親友の形見の靴を履き続けている。

おいおい、こんな聖人君子存在するのかって感じです。

そして、キアヌはゲイとかバイとかのうわさがよくたつ人なんですが、彼のコメントというものも、よくコピペで張られています。

インタビュアー「キアヌ、君はゲイであるという噂もあるし、バイセクシャルであるとも言われている。
本当のところは、どうなんだい?」

キアヌ「僕がその噂を否定するのは簡単だ。けれどそんなことをすれば僕はゲイやバイセクシャルの人間であると思われたくないということになるだろう? 

それはひとつの差別意識の表れだよね。

ゲイだと思うなんて酷い、バイセクシャルの人間だと決めつけるなんて失礼だとそんな風に考えること自体が、実はひどく差別的なんだから。

セクシャリティにかかわらず、僕は僕だよ。
僕の俳優としての評価は、セクシャリティとは無関係だ。

だからその質問に対する答えはたった一つ、『ノーコメント』だよ」

うーん、いいこと言ってます。これでイケメンでスターなんだから、もう他の一般男性はどうすればいいんですか。でもね、これは本当にキアヌが言ったんですか

というわけで、今日も今日とて、いろいろなウワサを解消していきましょう。

 

 

みなさん気になると思うので、簡単にキアヌの逸話についても検証します。

・妹が白血病で、医療系の団体に多額の寄付もしている。

白血病なのは本当のようです。たとえば英語のこんな記事。

anonhq.com

「Kim, his sister, fell ill due to her decade long battle with leukemia」とありますね。「leukemia」が白血病です。他にも、妹さん自身と思われるFacebookにも手術のこととか書いてあるので、まあ本当なんでしょう*2

多額かどうかは知りませんが、医療系の団体に寄付もしているようで、

www.standup2cancer.org

という癌撲滅の団体の協賛に、キアヌの名前が載っています。(調べたければ「Keanu」でページ検索をかけてください)

 

・親と恋人に先立たれている。

各種記事によれば、父親はキアヌが3歳の頃に放棄して、母親と暮らしていたようです*3

3歳という数字がオフィシャルなものかはわかりませんが、トロントに落ち着くまではレバノン、オーストラリア、ニューヨークと各地を転々としていたのだとか。個人のブログではない、信頼のおけるソースはRollingStonesのかなり長い記事*4しかありませんでしたが、そこでは、父親のことを、「It's full of pain and woe and fucking loss and all that shit.」と、かなり思い出したくない様子です。94年には麻薬の大量所持で禁固十年の判決が出ているようですし。親には先立たれてないようですが、かなり辛い幼少時代だったんでしょう。(しかし親は子どもより先立つのが順当なので、この表現はちょっとおかしいですね)

恋人については、いちおうABCニュースの記事にもなっているので、まあ本当なんでしょう。交通事故でなくなったようですね。

Film Notes: Keanu Reeves' Girlfriend Killed - ABC News

 

・亡くなった親友の形見の靴を履き続けている。

スタンドバイミーで有名な、River Phoenixの親友だったことは間違いないようです。Redditという質問サイトで、キアヌ本人が「He was a remarkable human person and actor. We got along very well, and I miss him. I think of him often.」と答えています*5。こういうところで質問に答えちゃうところもすごいですが。

しかし、残念ながら「形見の靴」の話は、日本語圏ではかなり出てくるのですが、英語圏のサイトでは見つけることができませんでした。「形見のなんちゃら」は、日本人が好きそうな話だし、どっかで脚色されたんでしょう。

 

 

さて、今日の本題は、「ゲイ・バイ」に対するキアヌのコメントです。

このコピペ、ぐぐるといっぱい出てきます。しかし不思議なことに、英語で検索しても全くひっかかりません。「Keanu gay no comment」とか、「Keanu gay interview」とか、いろいろためしてみたんですが、英語圏のサイトでは見つけることができませんでした。うーん、ちょっと胡散臭くなってきましたね。

では、日本のサイトは何をソースにしてるんでしょう。出てきた検索結果を試しにクリックすると、こんなサイト。

「キアヌ、君はゲイであるという噂もある。 本当のところは、どうなんだい?」:DDN JAPAN

ここがソースとしているサイトが以下。

tumblr:リンクとか備忘録とか日記とか

ここがソースとしているのが以下。

cawaii - インタビュアー「キアヌ、君はゲイであるという噂もあるし、バイセクシャルであるとも言われている。 ...

で、ここがソースにしてるのが以下のまとめサイト。

石原都知事のゲイ差別に発言に、ゲイ達が怒る 【2ch】風速(´・ω・`)ニュース

 

ふーむ。もはやソースとは言えないですなあ。

コピペの投稿日は2010年12月12日。このレスに「キアヌのこれは格好良かった」というコメントがついているので、その前から存在するんでしょう。久しぶりに絨毯爆撃的に検索をかけていくと、おお、ありました。

 

d.hatena.ne.jp

 

おおっと、はてな利用者さんですね。日付は2006年9月3日。これより前の日付ではコピペがひっかからなくなるため、これがキアヌの名言のソース元と見ていいでしょう。読点の位置までまるっとおんなじですもの。

 

この方によると、「遠い昔」に雑誌で読んだ、「うろ覚えの記憶による、適当な引用」です。これだけではまったく探しようがありません。「十九の夏」の出来事のようなのですが、それがいつなんでしょう。

ちょっと失礼ではありますが、他の記事から推察するに(推察の方法は伏せます)、2006年の時は26歳前後であると思われますので、十九歳の夏は恐らく1999年前後。これはマトリックス公開の年でもあるので、恐らくそれにあわせたキアヌのインタビュー記事を読んだんじゃないでしょうか。

うーん、残念ながらここで挫折です。その近辺の映画雑誌を片っ端から読んでいけば、どこかで見つけられるかもしれないのですが、これはもはや悪魔の証明です。だいたい、日本の記者がこんな「失礼な」質問をぶつけるとも思えないので、このブログの方が日本の雑誌を読んだのだとしたら、その記事に載った逸話ですら、何かの引用であったという可能性すらあります。

 

というように、現在「キアヌの名言」として引用されているものの出典はかなりアヤシイです。少なくとも正確性に欠けます。しかし多くの人はこれを「キアヌ」の言葉として信じている。私たちはこの言葉が「キアヌが言ったから」感動するのか、それとも言葉自身のもつ魅力に感動するのか?

 

どちらにせよ、この言葉の価値は「キアヌ」が言ったことにより、価値が増幅されているんだと思います。逆に言えば、この言葉を言う資格を「キアヌ」が持っていると世間(日本のネット)は感じていると言ってもいいでしょう。本居宣長、「姿ハ似セガタク意ハ似セ易シ」。

 

<<おまけ>>

キアヌは今年で51歳になるそうです。まじでって感じません?

海外でもその歳のとらなさっぷりが話題になるようで、こんな画像も作られています。

f:id:ibenzo:20150916223748j:plain

これは、どこぞやの漫画家のセンセイでも見たことがあるような...