ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

エイリアンが我々を虐殺すると博士が言った、これがメディアだ

さて、ホーキング博士が「宇宙人」について言及した記事が話題になっています。

blog.livedoor.jp

記事としては、「宇宙人が地球にきたらコロンブスのアメリカ大陸上陸時のように、大虐殺が起こるだろう」みたいな発言をしたとして、「科学者」が「騒然」としているそうです。

元ソースはサンケイさんです。

www.sankei.com

サンケイさんか…。そのサンケイさんが参考にしているように思われるのが、Dailymailというあたりが、個人的にはツボでした。the sunほどではないにせよ、Dailymailは東スポぐらいの感覚なんですけどね。

 

というわけで、タブロイド(失礼!)がタブロイドをソースにするこの記事が果たしてどこまで信憑性があるのか、ちゃちゃっと検証しましょう。

 

 

サンケイさんはこう書いています。

 博士の“警告”を最初に紹介したのはスペイン紙「エル・パイス」。この内容を英紙デーリー・メール(電子版)など欧米メディアが次々と報じた。

いつも思うんですが、なんで日本のニュースって、ソース元のリンク先をはらないんでしょうね。おかげで探すのに苦労します。

Dailymailの記事は10月1日掲載の、以下の通りです。

www.dailymail.co.uk

サンケイさんは「欧米メディアが次々と報じた」とあるので、どんだけ次々報じているのか「hawking aliens」で、10月1日以降でググって見ると、まあ、確かに次々とは出ては来るんですが...

www.express.co.uk

www.thenewamerican.com

www.mirror.co.uk

どうも掲載しているんメディアが、Mirror、NewAmerican、SundayExpressといった、東スポかゲンダイかぐらいの違いしかないものばかりで、おいおいサンケイ大丈夫かという気がしてきます。

 

気を取り直して、最初に報じたとされる、スペインの「エル・パイス」というサイトを探しにいきましょう。

 

elpais.com

 

「EL PAÍS」は、英語版ものっけてくれているので助かりました。早速読んでみると、ホーキング博士はスペインのカナリア諸島で開かれる「Starmus Festival」に参加する予定なんだとか。だからスペイン紙が取材してるんですね。

 

で、その中の取材として、ホーキング博士が記者と一問一答をするという形式になっております。まずここでわかることは、別に宇宙人のことについて講演に来たわけではない、ということです。

 

なので、サンケイさんなどメディアが「次々と報じた」「科学者が騒然」とするコメントとして取り上げた博士の言葉は、数ある質問の中でも、以下の部分だけです。全文引用します。

 

Q. You recently launched a very ambitious initiative to search for intelligent life in our galaxy. A few years ago, though, you said it would be better not to contact extraterrestrial civilizations because they could even exterminate us. Have you changed your mind?

 

A. If aliens visit us, the outcome could be much like when Columbus landed in America, which didn’t turn out well for the Native Americans. Such advanced aliens would perhaps become nomads, looking to conquer and colonize whatever planets they can reach. To my mathematical brain, the numbers alone make thinking about aliens perfectly rational. The real challenge is to work out what aliens might actually be like.

 

簡単に訳しましょう。

 

Q. 博士は最近地球外生命体の探索に乗り出していますね。しかし数年前、あなたは地球外の知的生命体とコンタクトをとろうとすると、人類が根絶させられるからやめたほうがいいという発言をしています。考えが変わられたのですか?

 

A. もし宇宙人が我々を訪れたならば、アメリカ先住民がコロンブスの大陸上陸によって根絶やしにされたような結果になるでしょう。そのような高度な宇宙人はおそらく遊牧民的になっており、彼らが到達できる惑星ならばなんでも、征服し植民地化しようとするでしょう。私の数理的な頭脳で純粋に数学的に考えるならば、宇宙人というものは完全に合理的な存在なのだと考えられます。現実的に(我々が)挑戦することは、本当に宇宙人がそういう存在なのか、解明することでしょう。

 

ざっくり訳したという言い訳をさせてもらって、細かい間違いはご容赦願いたいのですが、これを読んでわかるのは、博士の発言が、彼自身がもともと地球外生命体とのコンタクトに否定的であり、それが最近探索を始めたということに対して*1、記者からその変遷を問われた結果であるということです。

 

じつは、ホーキング博士のこの発言は別に昔からぶれてはおらず、以下のサイトにもおんなじ様なことを答えています。7月21日の記事ですが、2010年ごろから博士が高度な地球外知的生命体の人類絶滅説について述べていることが書いてあります。

www.space.com

まあ、まずは相手の科学力からブレイクスルーを狙おうというところなんでしょうか。コンタクトをとろうがとるまいが、結局彼らが来るときは来るから、ということなんでしょうかね。

 

結局、今回の一連の発言は、タブロイド的な「欧米メディア」が、博士の言葉の一部分をあげつらい、扇情的に記事にしたという、いつもの手法だったわけです。

 

f:id:ibenzo:20151004145653j:plain

 

というわけでサンケイさん、2010年ぐらいから散々博士が公的に述べていることなので、いまさら「科学者が騒然」とはしませんよ。この程度の記事でお金をもらえるんだったら、アドセンスを何もはってない当ブログにも恵んで欲しいところです。