ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ベッカムはサッカーよりラグビーが好きなのか、「真意が伝わらない」

私はサッカーに は詳しくないのですが、ベッカムの名前ぐらいなら知っています。
そんなベッカムが、こんな発言をしたんだとか。

gossip1.net

僕はサッカーよりラグビーを見る方が好きだ、というわけで、記事は「 人が卑劣なことをしない」ラグビーの方が正々堂々としてるから云々と書かれています。確かに、わざと転んでPKもらう姿勢が批判されているのは諸外国も同じのようです。*1これを元マンユー代表が言うんだからカッコいい!

イケメンで能力もありお金持ちで慈善事業にまで手を出してその上発言もカッコいいなんて、それらの要素をひとつも所持していない自分としては忸怩たる思いがするので、この発言が本当かどうか後ろ向きな気持ちで調べてみたいと思います。

 


さて、元記事はYahoo!ニュースで、GOALというサッカー専門紙のようです。

headlines.yahoo.co.jp

この記事では、ソース元として「 『ラオ・タイムズ』に対する同氏のコメントを、イギリスメディアが伝えた」とあります。

『ラオ・タイムズ』?

と調べるとラオスのニュースサイトしか出てこない*2ので、とりあえずイギリスメディアの方を探します。

「beckham rugby」で検索すると以下二つのイギリスメディアが引っかかります。

www.dailymail.co.uk

www.telegraph.co.uk

ここを読むと、ソースもとが「radio times」とあり、ああ、「ラオ・タイムズ」は「ラジオ・タイムズ」の誤記だったのかとわかります。こういうミスは私も多いのでここで攻め立てて自分の首は絞めません。

それよりも気になったのが、二紙とも、ベッカムの「人が卑劣なことをしない」という発言の理由が、日本の記事のものと違うことです。

 

dailymailでは確かに「僕はトゥイッケナムのほうがサッカーを観戦するよりも楽しめたよ*3」と言っています。ただ、その理由について尋ねられると、ファンのことについて挙げ、「お互いに不快なことをせずに座っているからさ*4」と答えています。んん?

 

もう一つのthetelegraphでも同じく、サッカー観戦よりもラグビーのほうが好きな理由を「ラグビーワールドカップで観客が試合中に和気藹々と座っていた*5」ということに触れ、「“People sitting together with no nastiness.”」と、全く同じ答え方をしています。

 

うーん、「選手のほうが不快」なのか「観客のほうが不快」なのかで、だいぶベッカムの言った言葉のニュアンスは変わってくると思うんですけどね。

 

念のために、この二紙がソースにしているRadio Timesのページも参照しましょう。

www.radiotimes.com

RadioTimesも同じように「I love rugby」の理由を「試合中の雰囲気のよさ*6」とし、やっぱり先ほどの二紙が挙げたように「people sitting together with no nastiness.」と答えています。

 

続けて彼は、子どものときにトッテナムとマンユーの試合を「不安になった(uneazy)」と表現しています。これを日本の記事は「子供の頃にマンチェスター・ユナイテッドがトッテナムと対戦した試合を見て「決して素晴らしいものではなかった」と心配になったそうだ 」としているので、これは明らかに試合内容が、という意味でとらえていると思いますが、今までの経緯から考えると、恐らくサポーターの雰囲気が「心配だった」ということを言いたいのでしょう。確かに、観客席で一触即発みたいなときってありますもんね。

 

もちろんベッカムはこれを擁護する発言もしていて、「サッカーにはラグビーにはない力強さがある*7」と付け加えています。「サッカーはとても力強く、それが人々にとってはとても重要なんだ*8」というわけです。この熱狂的なサッカーファンの応援が力強さでもあり、また不安要素にもなりうるといことなんでしょうね。

 

というわけで、ここまでをまとめると、

 

①ベッカムは確かに「サッカー観戦よりラグビーを見るほうが好きだ」と発言している。

②ただし、それは「観客の質」という点であり、選手のプレーの質については今回は言及していない*9

③また、それがサッカーの「力強さ」につながっていることは認めていて、サッカーのサポーターの価値を全て否定しているわけではない。

 

 ということになります。

 

で、日本の記事はどうしてニュアンスが違ってしまったかというと、まず「結論ありき」で書く人は記事を読んでしまうんですね。そうすると、同じ発言内容を取り上げていても、ニュアンスがその「結論」へ向かわせようとして曲解してしまう。今回であれば、「サッカーの選手は卑劣だ」という結論が先にあったために、ベッカムの「nastiness」という発言を、観客ではなく「選手」に向けられたものだと思ってしまったわけです。これが世に言う、発言者の「真意が伝わらなかった」というやつですね。

 

これは私も気をつけなければならないことなので、今日は襟を正して記事を締めくくりたいと思います。しかし結局、ベッカムの株はまったく下がっていないので、世の不条理を感じるところです。

 

*1:What are some of the quintessential FIFA World Cup 2014 memes? - Quoraなんかにもそういうのを揶揄する画像がありますね。

*2:Lao Times

*3:I have enjoyed going to Twickenham more than I have enjoyed watching football.

*4:'People sitting together with no nastiness.'

*5:the Rugby World Cup had shown him how people could sit together pleasantly at a sports game.

*6: he enjoyed the sport was down to the atmosphere at the games

*7:football had a power that rugby union lacks

*8:Football is so powerful/because it matters so much to people.

*9:ただし、ベッカムの全インタビューを読むためにはRadioTimesを読まねばならないので、可能性としてはそこでそういう旨の発言をしたということはあるかもしれません。私はiphoneを持っていないので、確認したい方は以下リンク先へどうぞ。

Radio Times Magazine – the UK’s best-loved guide to TV, film and radio listingsを App Store で