ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

100万ユーロは川に浮いていたのか、真実が知りたい

たまにスマッシュ記事を出せるようになってきて、そうするとたまにご質問も受けます。調べ方とか、記事の選定の仕方とか。

基本的には地道な作業です。 これはアヤシイなーという記事を見つけては元ソースを引っ張り出し、ああ大丈夫そうだと思ったらそいつはハズレです。いや、記事が正確なんだから、世間的にはハズレではないんですけど。

というわけで、ひとつの記事を作るために、何十というハズレの山ができていくわけです。

でまあ、今日とりあげるのはこんな記事です。

 

ドナウ川に約1億3千万円がプカプカと流れているのが発見される : コピペ情報局

 

ドナウ川に百万ユーロ、およそ一億三千万円にあたる紙幣がプカプカ浮いていたんだとか。所有者については全く分からないがヤバイ金なんじゃないかということ、これを見つけた男性には5%の謝礼が入るとか、そういうことが書いてあります。

こういう「ホンマかいな」という記事は海外のジョークサイトだったりするもんで、ソース調べたら、ほんとは十万ユーロだったって誤記はあったけれども、時事通信やCNNが記事にしてたので*1、さすがに違うかなあと思いハズレ物件にしていた記事です。

確かにハズレなんですが、その後どうなったか知りたくなったので、調べてみました。

 

さて、コピペ情報局がソースにしていたのは「反社会通信」といういかにもなサイトなんですが、

www.antisocial.top

恐らく海外のどこからか情報を仕入れたんでしょう。額が間違ってたり、タイトルが「百ユーロ万」と、どこかのヒーローみたいになっちゃったりしてるのはご愛敬です。

さて、元ソースを洗うために検索をします。「100000euro danube」とかで。

いろいろ英語圏の記事は出てくるのですが、bbcの報道を元にしているようなので、12月7日のこの記事が初出でしょう。

www.bbc.com

もちろんこのニュースはオーストリアの話なので、BBCもソース元は「Reports in Austria said」という書き方をしています。

ということで、本当の一次ソースを探すには、オーストリアをあたるしかないわけです。探してみました*2

 

www.krone.at

 

12月5日。これがどうやら本当の初出の記事のようです。ドイツ語は全くわからないので、Google先生を頼りにするしかありません*3

翻訳する限り、BBCやその他のサイトで書いてあることと変わりはありません。もちろん100万ユーロではなく10万ユーロです。

 

そして、このKroneというオーストリアメディアは12月6日も続報を出します。

www.krone.at

情報が詳しくなり、見つけたのは20歳と22歳の男子学生二人組み、そしてまだまだ川にはユーロ紙幣があり、全部で13万ユーロぐらいになっているということ、そして札を乾かしている写真がのっかっています。

 

12月7日も続報が出ます。

www.krone.at

ちょっとここのドイツ語が難解でよくわからないのですが、どうやら紙幣に銀行のスタンプ?のようなものが押されていて(あるいは何か紙幣に手がかりがあるぐらいの意味か)、どうやら所有者が週半ばまでにはわかりそうだ、ということが書いてあるんだと思います。

 

で、12月11日。お金の所有者が見つかったようです。

www.krone.at

記事によれば、お金の所有者はおじいさんのようで、ちょっと錯乱していたみたいです。で、貯めてたお金を川にばら撒いていたんだとか。どうやら犯罪がらみの話ではなかったみたいですね。お金を川から拾った人たちは警察に呼ばれるみたいで、大変ですね。そして、こうやって所有者がわかったところで、記事の最後には、「このお金を自分のだと主張するのは詐欺罪になりますよ!」と警告しています*4

 

さて、こうしてこの話はここで決着がつくわけです。

ところが、日本に限らず、他の海外のメディアはこの続報を流さないので、起承転結の「起」の部分の、「川に10万ユーロがばらまかれた」という部分しか情報としては存在しません。たしかに、錯乱したじいさんのしでかしたこと、というのは、ラストとしてはちょっと弱い。連載当初はあんなにワクワクしたのに、これではどこぞやの打ち切り漫画みたいな尻すぼみの終わり方になってしまいます。

 

「真実が知りたい」と人はよく言うけれども、それは正確には「(自分が正しい/面白いと思う)真実が知りたい」ということになるんじゃないんでしょうか。こうして印象の強い情報が残り続け、ネットロアとして流布していくんだなあと思います。

 

*1:

www.cnn.co.jp

 

時事ドットコム:ドナウ川に大量の紙幣、10万ユーロ以上回収ウィーン

*2:こういうときの調べ方は、まずオーストリアのメインメディアを探します。そうするとこんなサイトが出てくるので、

オーストリアの新聞/ニュース/各種情報

そこにあるKronenというメディアがよいかなあと思って、そこを開き、あとは記事検索でそれっぽい言葉をヒットし続けるまで入れるわけです。なかなか地味な作業です。

*3:でも最近ドイツ語のサイトを見まくっていたので、なんとなくわかるようになってきました。発音はひとつもわからないんだけど

*4:Wer sich jetzt fälschlicherweise anschickt, das Geld vom Fundamt abzuholen, begeht eine Straftat - und zwar Betrug!というのは、Straftatが刑法みたいな感じ、Betrugが詐欺なので、何かの行為をそれは詐欺ですよ!みたいな風に言っているんだというのは確実なんですが、Fundamtが忘れ物とか遺失物とかで、abzuholenが迎えに行くみたいな意味だから、川にまだ残っているお金のことを指すのか、あるいは拾い上げたのを指すのかがちょっとよくわからない。でも、多分書いたようなことだと思うんですけれども…。