みんな大好きガリガリ君が値上がりするそうで。
原材料費の高騰などから、現在の60円から70円に値上げをするそうで、特に「木製の棒の価格は2013年比で9割アップしている」んだそうです。値上げは実に25年ぶり。
ネット上では、値上げに悲嘆の声があると思いきや、「むしろ70円でも安い」「今までよく耐えてきた」みたいな感想が多く、その中でもやはり注目されているのは、「棒が高くなった」ということに関してのようです。食べる部分じゃなくて、「そこか!」っていう感じみたいですね。
うーん、しかし、「9割アップ」って、およそ2倍ですよ。それって大丈夫なのか?ということが疑問のひとつ。それに、今回はガリガリ君だけではなく、他の氷菓製品も値上げをするんです*1。
たとえばグランパフェ ア・ラ・モードは300円から330円で、ガリガリ君より値上げ率が大きいですね。
でもこれには木の棒が使われてないよなー、でも値上げ幅は大きいんだよなー、というのが疑問の2つ目。
というわけで、本当にアイスの棒の値段は高くなっているのか?を調べてみました。
まず、アイスの棒っていくらぐらいするのか、簡単にamazonで調べてみましょう。
記事執筆現在(2016年3月26日)、93mmのアイススティック棒は、50本110円とのことです。1本あたり2.2円ですね。うーん、安い。
2013年ごろの価格が知りたいところですが、amazonにそんな機能はないので、google検索で、2013年に日付をしぼり、どっか価格を載せているページを探します。
すると、アイスの棒を使った工作サイトが見つかり、記事内に価格を載せていました*2。
同じ93mmで、価格は200本組みで420円とのこと。1本あたり2.1円ですね。あら、ほとんど変わらんな*3。
うーん、とはいっても、今調べたのはあくまで個人消費者が購入するときの話。一企業が大量生産するときと同じように考えてはいけないと思います。
では、アイスの棒の材料である木材が高騰しているのか。今度はそこを調べてみます。
まず、ガリガリ君のアイスの棒の原料はなにか。参考になるサイトがありました。
2011年12月4日放送の「がっちりマンデー!」という番組で、赤城乳業が取材されたみたいで、アイスの棒は全て「中国産のシラカバで、現地で加工されたもの」なんだそうです。記事内には、「アイスの棒1本のお値段は、1円以下」という記載もあります*4。
ちょっと古い情報ですが、現在も変わらないのであれば、アイスの棒は「中国産のシラカバ」が原料となっているわけです。
では、中国のシラカバの価格推移がどうなっているかを調べたいところです。便利なサイトがあります。
中国木材价格指数网(リンク先中国語)
中国の木材の価格指数を掲載しているサイトで、様々な木材の価格を掲載しています。トップには「中国木材价格指数」ということで、指数の折れ線グラフが載っています。ここの「月指数」を見ると、2014年7月まで遡れるのですが、全体的には価格は下落傾向であるように見えます。
「シラカバ」に限ってみたいので、検索をかけてみます。中国語でシラカバは「桦木」。調べてみると色々出てきます。
これによれば、3月25日の「国产桦木锯材」の規格「2m×3-5cm」、等級「统材」は、1㎥あたり2200元となっています。
では、2013年の指数を調べたいところなのですが、このサイトではそこまで遡れないので、またGoogle検索に頼ります。すると、2013年9月9日の木材指数を載せているサイトがありました。
これによれば、前述した「国产桦木锯材」と同じ規格で、価格は2220元。ほぼ同じです。うーん?
これらの情報が正しければ、アイスの棒の材料自体の価格は、2013年からはさほど変化がないことになります*5。
ただ、この、値上げを据え置いてきた25年というスパンで考えると、明らかにシラカバの価格は高騰しています。それがニュースになったのは2006年。
シラカバ材は、割り箸や爪楊枝にも使われていて(というかそっちが主流ですね)、割り箸は中国からの輸入が99%を占めているそうです。で、2005年にその中国の輸出団体が約30%の値上げをしたそうで、各会社が対応に苦慮しているという内容です。森林保護政策も行っているので、その影響もあるのだと思います*6
私は別に、「2013年比で9割アップ」が間違いだといいたいわけではありません。赤城乳業の担当者が発言しているので*7、そのような情勢であることは事実でしょう。
今回の比較は純粋な木材価格を比べただけです。ガリガリ君の棒は、中国本土で加工・生産まで一括で行っているので、木材自体の価格の上昇に加え、それにかかる輸出コストや人件費など、そういったものも加味されての「9割アップ」なのではないかな、と思います*8。
ただ、朝日新聞は「原材料費の高騰が主な要因」の後に、「アイスバーに使う木製の棒の価格」と続いてオシマイなので、そのような書き方だと、単純に「あー木材価格があがってるのね」とだけ思って終わってしまうんじゃなかろうかと危ぶんでいるわけです。現に、ネットでは既に「ガリガリ君の値上げ=棒の値上げ=木材の値上げ」という単純な図式ができあがっています。「棒が高騰したから値上げ」という書き方は、間違いではないけど、正確ではないかなあと思います*9。だって、他の製品だって値上げしていますし*10。朝日は意図したわけではないんでしょうが、書き方って大事です。
ガリガリ君は、2013年度は4億8000万本を売り上げたとの事なので、たとえば50銭価格があがると、単純に計算しても2億円以上コストがかかるわけです。これは苦しい。2006年のシラカバ高騰の際に値上げをしてもよかったと思うのですが、そこはやはり企業努力があってのことなのでしょう。ちょっと印象操作されている気もしますが、ステキな会社なんじゃないかなあと思ってしまいます。
しかし、商品自体ではなく、その包装や箱と言った原料が値上がり傾向にあるということは、これからアイスだけではなく、いろいろなものに転化されてくるんでしょう。月並みですが、給料は上がらないのに物価ばかりあがるのは、なかなかツライところです。
*2:一応このサイト、Googleのrobotが見回った感じでは2013/7/10に日付はなっているのですが、記事内に日付はありません。lastModifiedを調べると、最終更新日は2014/8/16になっていますので、まあ2年前の価格であることは間違いありません
*3:実は商品のリンク先が生きていて、記事執筆現在では、価格が税込623円になっていました。
およそ1.4倍にはなっているのですが、しかし長さが114mmと大きくなっているので、正確には比較できないので注釈だけにしておきます
*4:ならば先ほどの商品と比べて2倍かなという気もしたのですが、商品の方は原価ではないので、今回は無視しています
*5:一応、木材全体の価格傾向も以下のサイトのレポートから検討してみましたが、全体としては下落か横ばいと言った感じでした。
ただし下記のサイトを信じるならば、アメリカからのソフト木材に限ってですが、2013年からけっこう上昇しています。こういう情報をどこまで適用させればいいのかは、悩ましいところです。
*6: 「中露木産業の共生・共栄―国境木産品貿易の推移から― 」
http://www3.u-toyama.ac.jp/cfes/horie/fareast/About_Us_files/Session1-2TSUJI.pdf(リンク先PDF)
*7:2016年3月15日放送「スッキリ」にて、赤城乳業マーケティング部の方が「スティックの値段が3年前と比較して90%高騰しました」と発言しています
*8:一応、赤城乳業のお客様相談室に電話したんですが、「ホームページ以外の内容は答えかねる」ということだったので、正確なところは聞けませんでした。これが個人の限界です
*9:その点で、J-CASTは、「果汁は40%、物流費は10%上昇した」と、他の部分についても記載があるのでより正確性があるなあと思います。
「ガリガリ君」値上げに25年間60円「よく耐えた」の声 1本70円「まだ安い」と言われるワケ : J-CASTニュース
NHKニュースも、棒の高騰の理由を、木の伐採の制限だけではなく、「工場の人件費が上昇しているため」という理由も付加しています。
*10:他の製品については、やはり乳製品の価格高騰や円安傾向がイタイのではないかという感じがします。他社も軒並み値上げしてますし。