ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

FFみたいなニューヨークのビルはできるのか、投機的デザイン

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さて、ツイッターで、ファイナルファンタジーに出てきそうな超高層ビルがニューヨークにできると話題です。

 

 

確かに、ビルにあるまじき彫刻やらそのばかでかさは、とても目を引きますね。ツイッターのコメントも、「さすが自由の国」「日本なら絶対無理」「地震無いし」「同時多発テロのあとによくこんなもん作る気になるな」などと、アメリカ(いろんな意味で)すげーな、みたいなものが並んでいます。

 

しかしいつものごとく、この手の話題には懐疑的なワタクシなので、早速調べてみました。

 

***

 

正確な場所と設計者について

 

調べてみると、この摩天楼の設計者はMARK FOSTER GAGE。エール大学の副学部長のようです*1。「MARK FOSTER GAGE ARCHITECTS」という建築事務所を持っています。

自前のサイトももちろん持っていて、今回の「FFみたいな」超高層ビルのことも掲載されております。

 

WEST 57TH STREET TOWER — MARK FOSTER GAGE ARCHITECTS

 

場所はニューヨークの41西57丁目。プロジェクトの名称としては「West 57th Street Tower」。

 

 

 

Googleドライブに、このプロジェクトに関する書類がいくつかあがっているので、それを見ると、

Mark Foster Gage Architects- 41 West 57th Street

「ミケランジェロがもし摩天楼を建てるなら」という構想のもとにつくったそうで、「“Michaelangelo Tower”」や「“The Khaleesi”」という異名も持ちます。102階建てで4つ星レストランが入る云々は、後述するほかの英語や日本語の記事と変わりありません。

 

この話題が出たのは2015年の12月ごろ。英語圏での取り上げがほとんどです。

gizmodo.com

www.dailymail.co.uk

 

日本ではなかなか話題に上がらなかったのですが、一応記事にしている人はいました*2

cupo.cc

 

とまあ、こういう建築計画の存在は事実のようです。

 

ビリオネアズ・ロウの建築ラッシュ

しかし、こんな壮大な感じのビルヂング、いったいどのぐらいの費用がかかるのか、見当もつきません。

 

ですが、この「57丁目」は、いまや実は、こうした摩天楼の建築ラッシュなのです。

 

ameblo.jp

www.businessinsider.com

 

2014年竣工の「One57」に始まり、「157 West 57th Street 」「432 Park Avenue 」「111 West 57th Street 」と、馬鹿でかい高層ビルが目下建設中となっています*3

で、この57丁目の通りを「Billionaires' Row」と呼んでいる訳です。つまり、今回話題に上がっている「West 57th Street Tower」は、そういった摩天楼建設ラッシュの流れの一つだということになります。購入しようとすると800万ドルとかそういう感じみたいなんで、いやあ、金持ちっているんですね。

 

摩天楼は夢だけではない

なぜマンハッタンでこんなに建築ラッシュが続くかと言うと、どうも富裕層の投資目的ではないか、というのが大きい見方です。

ニューヨークには「421-A」という固定資産税軽減措置があり、条件を満たすと、建物の固定資産税を10年~20年間軽減するものです*4。これは富裕層を優遇する措置になっていて、批判も多いようですね。

この「Billionaires' Row」も、結局投資目的の輩が多く、建設計画自体に反対する意見も多いです。

www.citylab.com

上記記事では、先述した「421-A」の固定資産税軽減措置に触れながら、富裕層になればなるほど税金を払わなくてよいことにふれ、このような不動産過熱は、ニューヨークの古い税制に問題があるとしています*5

また、景観に関しても、近くのセントラルパークに、巨大な影をつくるとして、反対する運動もあります。

www.dezeen.com


摩天楼はアメリカンドリームの最たるものかもしれませんが、なかなか、そう単純にはいかないようです。

 

果たして設計どおりに建てられるのか

そもそも、今回の「West 57th Street Tower」が、この奇抜なデザインどおりに建設できるのか、というのは懐疑的な見方が多いです。

先にあげたGIZIMODEの記事も「99%この建物の許可は下りないし建てられない*6」と記事を結んでいますし、以下のサイトでは、

ny.curbed.com

「デザインの見直しをしない限り計画は進まないだろう」というようなことを述べています*7

 

まあ、上記は初報に対する反応なので、ある程度はそういう反応になるのも仕方ないかなあとは思いますが、半年以上たった今でも、どうも計画は「on going」のままで、あまり進んでいる気配は見せません。

 

この41西57丁目の現在のオーナーは誰かははっきりしませんが*8、現在建物が建っているのですから、それを取り壊し、新たに建設をする場所を確保する必要があります。しかし、少なくとも、表面上は、そういった話は出てきてはいません。

メインとなるであろう彫刻部分に関しても3Dモデルを使って鋳造するみたいなことも言っていますが*9、どこまで実現可能なのか、疑わしい部分もあります。要するに、この話はまだまだ不確定要素が多すぎるということです。

 

今日のまとめ

①「FFみたいな超高層ビル」はMARK FOSTER GAGEという人物の設計によるものであり、場所は41西57丁目。

②57丁目は「ビリオネアズ・ロウ」と呼ばれるほど、投機的に超高層ビルの建設ラッシュが続いていて、今回の建物もその計画の流れのひとつと思われる。

③ニューヨークの税制による投機的建設の過熱や、景観問題もあり、摩天楼はそこまで歓迎されているわけではない。

④今回のビルは各種報道は建設に懐疑的な論調が多く、デザインの変更も可能性としては有り得る。

 

こういうへんな建物は、いまやドバイの専売特許かとも思いましたが、やっぱりアメリカもまだまだすごいんだな、と改めて感じました。しかしながら、それが成せるのは、「自由の国」というよりも、より強い「資本主義の国」だからなのかな、という感じです。今回の話は、不動産としての投機でもあり、建築業界の未来のデザインとしての投機でもあるのかなあと思いました。

 

Gageはザハを尊敬する建築家として挙げており、ニューヨークの四角いビルの摩天楼を「That is not design」とぶったぎっています*10が、まあ確かに、こういう発想が、今の建築デザイン業界の主流になりつつあるのかもしれませんね。そのうち、昔の無骨な四角い建物がやっぱりいいね、みたいな時代になるかもしれませんが。

 

 

*1:正確にはASSISTANT  DEAN。これは日本語にひじょーに訳しづらいので、とりあえずそのまんま翻訳しました。どうして難しいかは以下参照。

プロボストとディーン(人の名前じゃありません) | テンプルこぼれ話

*2:しかしながらこの記事はマチガイもいくつかあります。

ビルの正式名称を「The Khaleesi(カリーシ)」としていますが、これは事務所の中のコードネームのようなもので、正式名称とするならば、記事にもあげましたが「West 57th Street Tower」。

他にも、翼を「ドラゴン」のものとしていますが、「Eagle」という表現が海外サイトでは多いですね。

*3:

英語版のほぼまるパクリですが、日本語のWikipediaが一番まとまってて見やすかったです。

57丁目 (マンハッタン) - Wikipedia

*4:下記ブログを参考にしました。

ROSE New York

*5:他にもこんな記事。

New York's Megatower Boom Reduced To Mere 'Vertical Money' - Curbed NY

*6:I am 99 percent certain this structure will never be approved or built

http://gizmodo.com/this-nyc-skyscraper-design-is-like-the-chrysler-buildin-1747445141

*7:While it turns out that the project will not be moving forward, as confirmed by building architect Mark Foster Gage, the design is still worth checking out を意訳しました。

*8:今のところ2つの候補があります。

Asuman 57Th Street Llc | Company-detail.com

41 West 57 Street, New York, NY 10019 | PropertySharkより。要ログイン)

②HadassahというNational Council of Jewish Women | NCJWの幹部

Could This Otherworldly 102-Story Tower Covered in Ornaments Be Coming to 57th Street? | 6sqftより)

*9:A Trophy for Living In

Could This Otherworldly 102-Story Tower Covered in Ornaments Be Coming to 57th Street? | 6sqft

*10:I think that many of the supertall buildings being built in New York

City are virtually free of architectural design - they are just tall boxes covered in a

selected glass curtain wall products. That is not design.

Mark Foster Gage Architects- 41 West 57th Street