今日は大手メディアの報道姿勢の話。
昨日、こんな記事が載りました。
産経によるもので、葛西臨海水族園の魚とのふれあいコーナー「タッチンフィーリン」が臨時閉鎖されたことについて、「中国人観光客のマナー違反」が原因ではないかと触れています。
しかし、私はこの報道の仕方はいかがかなと思い、今日は提言的に記事を書いてみたいと思います。
一社だけの報道
9月3日現在、この件に関する報道は産経新聞及びSankeiBiz*1の二つだけです。記事内容は当たり前ですが全く同じです。
中国人がらみということで、中時電子報や東方日報も、産経をソースとして報道しています。
記事内容は産経と変わりませんが、より「中国人観光客」の振る舞いがメインに据えられているように読めます。
「中国人観光客」だけのせいなのか
しかしながら、この記事はタイトルの「中国人観光客のマナー違反?」という文言のせいで、あたかも中国人のおかげで閉鎖されると読めますが、内容をよく読むと、そうでもありません。
短い記事なので、分解しながら検証していきましょう。
この記事のパラグラフは3つに分かれています。
第一段落
葛西臨海水族園(東京都江戸川区)は1日、サメやエイに触れる体験コーナー「タッチンフィーリン」を2日から臨時閉鎖すると発表した。夏休み中の来園者が多く、しばらく魚を休ませ、水質を改善させる必要があると判断した。閉鎖期間は未定だが、1カ月程度とみられる。
いわゆるリード文なので、記事全体の要約になります。ここでは閉鎖の原因を「夏休み中の来園者」が多かったためとし、「魚を休ませ、水質を改善させる」ための閉鎖としています。
第二段落
園によると、中国人観光客らのマナー違反も目立ち、魚を引っ張ったり、つめで引っかいたりしたことも、魚が弱った要因とみられる。
ここで、中国人観光客が魚を引っ張ったり云々の話が出てきます。これは、「魚が弱った要因」です。
第三段落
同コーナーは平成21年に設置。長さ14メートルの水槽に小型のサメやエイ約10匹が泳ぎ、背中をなでるなどの触れ合いを楽しめる。係員3人が事前に手を洗うよう指導していたが、7、8月に家族連れや外国人の利用が相次ぎ、日焼け止めクリームが水質を悪化させるなどして管理が困難に。魚も餌を食べなくなるなどしていた。
コーナーの説明と共に、「7、8月に家族連れや外国人の利用」が増え、「日焼け止めクリームが水質を悪化させ」て、管理が困難になった旨が書いてあります。これについては「外国人」表記で、中国人とは限定されていません。
以上をまとめて要約すると、
①タッチンフィーリンが、夏休み中の来園者が増えたため、魚を休ませ、水質を改善させるために臨時閉鎖することになった。
②中国人観光客らの魚を傷つけるマナー違反も原因ではないか。
③夏休みに家族連れや外国人の利用が増え、日焼け止めクリームが水質を悪化させていた。
となります。
つまり、記事を読む限りでは、「来園者全般の日焼け止めクリームによる水質悪化」と「中国人観光客の魚を弱らせる行為」が閉鎖の原因として併記されていて、かつどちらがメインの原因かまでは書かれていないわけです。
しかし、記事タイトルは「中国人観光客のマナー違反?」とあり*2、あたかも閉鎖の原因が全て中国人観光客にあると読めてしまいます。
園の発表はどうなのか
この件について、園はどう発表しているのか。
公式ページでは以下のように記載されています。
葛西臨海水族園(園長 田畑直樹)では、水槽整備および展示生物の健康管理のため、当面の間、サメ・エイとのふれあいコーナー「タッチンフィーリン」を閉鎖いたします。
午前・午後の「ふれあいタイム」でのふれあいおよび「ふれあいタイム」時間外の観察も休止させていただきます。皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご了承ください。
当然ではありますが、園側の公式発表では「中国人云々」の話があるわけもなく、単純に「水槽整備および展示生物の健康管理」のためとしています。
念のために管理している東京動物園協会にも問い合わせてみましたが、水質悪化や魚が弱っていることについての原因は「調査中」と返答されました。理由としては「様々な原因が重なっているため」とのこと。個人に対してはこれぐらいしか答えてくれないでしょう。
つまり、オフィシャルの回答としては、「原因は調査中」であり、産経の記事内容は取材の賜物と言うことになります。言い換えれば、一社だけの報道かつ、個人に対して情報が開かれていない現状では、どれだけ正確なのかは不明となります。
「物語」としての記事
ここからは私見になりますが、この記事、「中国人」の話がなければ、至極つまらない記事だと思いませんか? だって要するに、「来園者が増えて管理が徹底できないからふれあいコーナーを閉鎖します」ということだけだからです。恐らくなんの話題にもならないでしょう。なので今のところ、一社だけの報道なのでしょう。
しかし、ここに「中国人のマナー違反」という「物語」が加わることで、この話は俄然読ませる記事に変わります。その「物語」は今までの中国人の日本や海外での振る舞いを想起させ、「ああ、またか」と、読者を満足させるに足る内容となります。これは偶然ではなく、明らかに記者が意図していることです。
よく新聞社の意向が色濃く出た記事は、「偏向報道だ」と批判されますが、逆に事実だけを述べたものや、公式発表だけの内容では、報道する意味がないと思います。そこが取材力が問われる部分であり、いかに読者を満足させる「物語」に仕上げられるかが記者の力量なのでしょう。
それが偏向的になるのは、要は公平性の振れ幅の問題です。私は今回の記事は、「中国人のマナー違反」という物語ありきの、公平たらんとしていない記事のように思います。無論、中国人観光客の無作法な振る舞いはあったのでしょうが、それがどのぐらいの頻度であり、どのぐらい魚に影響したかが不確定なまま、タイトルに「中国人観光客のマナー違反」とつけるのは、あまりにも作為的ではないでしょうか。
今日のまとめ
① タッチンフィーリン閉鎖に関する記事は産経のみである。
②記事には「中国人観光客の魚を弱らせた行為」と「来園者増加による日焼け止めクリームなどによる水質悪化」の二つの原因が併記されている。
③タイトル部に「中国人観光客のマナー違反」とつけたのは、結論ありきの作為的な記事ではないか。
これから他社が追随して報道が増えてくれば、ある程度判明することもあるでしょうが、今までの産経さんのいろいろな記事をみる限り、ちょっとどうなのかなあと思います。
もし私が記事を書くとしたら、むしろ園側の管理体制について詳しく調べるかな、と思います。なにせ葛西臨海水族園は、クロマグロが謎の大量死をしたということで、一時有名になりましたから。
このときも「要因は複合的」という結果になりましたが、今回は「人間に触られる」という魚にとっては最悪の環境の中で、園側がどれだけ有効的な措置を講じてきたのか、それが再発防止につながることになるんじゃないんでしょうか。
*1:
中国人観光客のマナー違反? ふれあいコーナーを臨時閉鎖 葛西臨海水族園 - SankeiBiz(サンケイビズ)
*2:スポーツ新聞でよくある「綾瀬はるか、結婚?」みたいな「?」の使い方で嫌らしい感じです。