ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

NASAはブラックホールの撮影に成功したのか、宇宙は広いな大きいな

ちょっと前に、NASAがブラックホールを捉えたみたいな話が話題になってました。

news.livedoor.com

元記事は、誤報とテキトーな書き方で話題のTABILABOさんなのですが*1、NASAがブラックホールが星を飲み込む瞬間を「写真」として紹介し、なおかつ「実際の様子を捉えたのはこれが初めて」と書き、「写真…?」「実際…?」と一斉にツッコミを受けていた記事です。

 

しかしながら、意外に日にちが経っても訂正もなく、この発表についてまとめている記事もそんなになかったので、遅ればせながら、実際にはどのような発表だったのか書いてみたいと思います。

 

 

***

 

 

写真ではなくイラストである

わざわざ書く必要がどこまであるかもわからないのですが、念のために言えば、TABILABOさんの記事に載っている画像は、再現したイラストです。NASAの元記事を見てみましょう。

www.nasa.gov

「ブラックホールが星を飲み込む赤外線エコー画像」とでも訳しましょうか。のっけから「This illustration shows a glowing stream of material from a star(このイラストは燃えるような星の物質の流れを表していて…)」と、イラストだと断っています。

 

TABILABOさんは

 

「ブラックホールに接近する恒星の潮汐破壊を赤外線エコーによる撮影でこんなにも鮮明に確認できたのは初めてですよ」

 

という研究員の言葉を載せているのですが、まるで上記のイラストによって「鮮明に確認できた」という風に誤解してしまいます。いや、記事を書いた人は、まさか誤解してないよね?

 

また、TABILABOの記事最後にある「潮汐破壊の動画」は、2015年10月21日に公開されたもので、これはまた別の研究によるものです*2

 

NASAの発表について

NASAによれば、このイラストは、2つの研究結果から再現されたということ。

 

[1605.04304] Discovery of transient infrared emission from dust heated by stellar tidal disruption flares

[1605.04640] The WISE Detection of an Infrared Echo in Tidal Disruption Event ASASSN-14li

 

「WISE」というのは、NASAが運用している「Wide-field Infrared Survey Explorer」の略で、「広域赤外線探査衛星」と訳すんだそうです*3。赤外線望遠鏡でもって、高感度で全天を観測する使命を持っていました。2011年にいったん運用を終了していますが、「NEOWISE」という名称で、2013年に運用を再開しています。

 

で、そのWISEの観測データをもとにして、上記の研究がなされたわけです。実際の論文を読んでもちんぷんかんぷんなのですが、どうやら「潮汐力」というものが重要になってくるようです。

 

「潮汐力」は、簡単に言えば「重力によって物体の手前と反対側が逆方向に引く力」だそうで*4、ロシュ限界というこの潮汐作用がぎりぎりまで星の原型を保っていられる場所を越えると、星の破壊が起こるんだそうです*5。で、その潮汐破壊の際に、超大質量ブラックホールは電磁フレア(an electromagnetic flare)を放出するんだとか。近年、数十のフレアは確認されているようなんですが、ボロメータの制約などで充分な観測ができなかったそうなんです。

 

で、このWISEを使って、ブラックホールの潮汐破壊の現象により、周囲の塵(the dust)が、フレアのUVやX線光子を吸収し、再放出する様子が観測され、それをもとにどんなことがブラックホールの潮汐破壊で起こっているかが発表された、という感じのようです。うーん、書いててもよくわからない。

 

で、そのWISEによる画像が以下のもののようです。

f:id:ibenzo:20161005214329p:plain*6

f:id:ibenzo:20161005214707p:plain*7

 

あまりにも専門用語と数式が多くて論文を読むのを断念したのですが、W1およびW2と名づけられたWISEの画像やデータが中心となり、今回の潮汐破壊の現象の実証めいたことが確認された、というものなんでしょう*8

 

NASAは、その研究をもとにして、実際に「見ようと」すると、こんなイラストになるよ、という紹介をしているのでしょう。

 

 

今日のまとめ

①TABILABOが掲載している画像は「写真」ではなく「イラスト」である。

②NASAは、超大質量ブラックホールによる潮汐破壊の現象が、WISEによって実際に観測されたことをもとにした研究結果から、今回のイラストを描いた。

 

前にノーラン監督の『インターステラー』を見た時に、ブラックホールに飲み込まれる場面がありましたが、あれなんかはもう物理現象というより、ちょっと観念的に近いものがありました。宇宙のもろもろの現象はあまりにも深く広く、物事はすべて細分化されすぎて、前近代のような「宇宙学者」みたいな人はきっといなくなっちゃったんでしょうね。それでも、こんなにワクワクするのはなぜなんでしょ。

 

 

*1:旅ラボが謝罪コメントを出すも燃料投下でさらに炎上 - Hagex-day info

*2:Destroyed Star Rains Onto Black Hole, Winds Blow It Back | NASA

これは、「チャンドラ」というX線観測衛星の観測結果によるもののようですね

*3:広域赤外線探査衛星 - Wikipedia

*4:潮汐力と潮汐作用:サラリーマン、宇宙を語る。

*5:Stars that pass within the Roche radius of a supermassive black hole will be tidally disrupted, らへん。

https://arxiv.org/pdf/1605.04304v2.pdf

*6:https://arxiv.org/pdf/1605.04304v2.pdf P5

*7: https://arxiv.org/pdf/1605.04640v3.pdf P2

*8:もうちょっと科学的にわかりやすい説明ができる人がいたらそちらに譲りたいです