みなさんは親しい友達はどのぐらいいますか? 15人ぐらいいたほうが健康にいい、なんて話があります。
「親しい人間」が15人もいないから俺たちはツイッターをやってんだよ pic.twitter.com/Z2y9SVmT4H
— サークラ姉 (@syuumatudannsi) 2016年11月12日
画像を書き起こしましょう。
私たちの心身の健康は親しい15人の存在によって恩恵を受けていることが、ある研究結果で証明されています。ということは、何百、何千というInstagramのフォロワー数はたいした影響がないということ。アナタが最も信頼できる15人は誰なのか考えてみてください(無条件にアナタを受け入れてくれる15人がいるはず)。そして、その大切な15人との友情を大事に育むよう心掛けましょう。*1
「無条件」に自分を受け入れてくれる人は15人もいねえよなあという話でネット界隈は持ちきりでしたが、果たしてこの「ある研究結果」とは何のことなのでしょうか。今回はそれを調べてみました。
日本ではTABILABOの記事
さて、この話をぱぱっと検索してみると、日本ではTABILABOの記事が引っかかります。2015年10月8日。
TABILABOかぁ…と思いながら、内容を要約しますとこんな感じ。
①MITの心理学者Sherry Turkleの研究によればFacebookの使用頻度が多いほどより孤独を感じるという統計がある。
②大切なことを何人の人に話すかというアンケートは、1985年では3人が多く、2004年は0人。
③ある研究では毎日会える友達を持つことは年収10万ドル増えるのと同じ効果がある。
④霊長類の調査をするRobin Dunbarによれば、社会的に関係を持てる人数は150人まで。最大で5人の親友、仲のいい友達は15人が限界。
⑤心理学者のEd Diener氏とMartin Seligmanの研究によれば、幸福な人たちは親しい人たちと過ごす時間を多くとっていたということ*2。
どうも今回の話は、④及び⑤の話が関係しているようですねえ。
ダンバー数の15人
まずは④のRobin Dunbarの研究を調べましょう。
Dunbarは「Dunbar's Number」という研究*3で有名で、一時日本でも主にビジネス本界隈で話題になりました。
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「ダンバー数」とは、法や規範といったことではない形で、安定した社会関係を結ぶことができる数の限界を調べた説です*4。Dunberはその数を、霊長類の新皮質の割合が関係あるとしています。実際にサルの毛づくろいの社会的行動から割り出したりしたそうで。
で、その調査の中でDunbarは、人間が顔と名前を一致するようにな、「安定した」社会関係の数の限界をおおよそ150と設定しました*5。図を拝借するとこんな感じ。
Dunberによれば、人間関係にも階層があり、
第0階層:3-5人(主に家族、親友と呼ばれるあたり。お金の相談ができたり、危険な時に駆けつけてくれるような存在)
第1階層:12-15人(1月に1回ぐらいは会うような友達。「シンパシーグループ」と呼ばれる存在*6)
第2階層:45-50人(距離のある友達)
第3階層:150人(友達の限界)
となるとのこと*7。
恐らく、TABILABOが言っている④の15人の「仲のいい友達」とは、このシンパシーグループのことでしょう。1月に1回程度の連絡では、「無条件にアナタを受け入れてくれ」なさそうですけど、まあ「仲のいい友達」とは言ってもいいでしょう*8。しかしながら、Dunberは、必ず人間に「15人の仲のいい友達がいる」ということではなく、そういった間柄の人間関係の限界を「15人」という数で表したということに留意する必要があります。
幸福な人たちはなぜ幸福なのか
さて、次に⑤の、「幸福な人たち」は親しい人たちと過ごすことが多いという研究です。「心理学者のEd Diener氏とMartin Seligman」の研究というのは以下のものでしょう。
全部読む気にはあまりなれないのですが、概要を読むと、「幸福だと感じている人」は、外向きの傾向が強く、多くの社会的関係を持っていた、という感じです。逆に言うと、「不幸だと感じている人」は、家族や友人関係に対して不満を抱いている傾向が多かったということです*9。素直に考えればアタリマエの話なんですが、それをきっと統計的に処理して確実性を持たせるのが社会心理学というものなんでしょう*10。
しかしながら、この結果はその人の「幸福度」の話であり、それがTABILABO=QUARTZの言うような「健康」「寿命」につながるという結果ではありません。この話はどっから出てきたんでしょうね。
一応、友達の数と寿命に関する研究はいくつか存在するようです。最近だと、日本の方で石川善樹という方の研究みたいです。
これはTEDの講演のものですが、20世紀の医療進歩や栄養改善などの感染症の時代から、がんや慢性疾患といった21世紀には、「つながり」が重要であるというものです。
ただ、石川の調査は、この「つながり」は多ければ多いほどいい、みたいな結論になっているようで、少々今までの話とかみ合わない部分も出てきます*11。
しかし、石川の言うように、そういう報告は他にもあって*12、友人の人数と寿命や健康には某かの相関があるのではないか、というのが主流になってきているようです。ただ、その数は「15人」ではありませんし、数がより多いほうがいい、という傾向です。
今日のまとめ
①「ダンバー数」を中心とした研究によれば、15人程度が、「仲のいい友人」の数の限度であるとされている。
②「幸福だと感じる人」は、外的傾向が強く、社会的関係を多くもっている研究結果が存在する。
③社会的なつながりの多さと、寿命や健康に相関がある研究も存在する。
以上からわかることは、今回の「私たちの心身の健康は親しい15人の存在によって恩恵を受けている」という内容については、どうも、複数の研究結果を組み合わせたもの、と考えることができそうです。TABILABO=QUARTZの記事は、それぞれの研究結果をとりあえずつなぎあわせて構成されたものであり、その相関関係に信憑性があるかと言うと少々疑わしいといわざるをえません。かつ、必ず「無条件にアナタを受け入れてくれる15人」がいるという書き方は、ダンバー数のことを言っているのであれば誤りです。この本が何の本でいつ出たのかはわかりませんが、最近出たものであるならば、ネットの情報を鵜呑みにしてテキトーに書いたもの、と言えそうです。
そうは言っても、Dunbarが出した論文は1992年。いまから20年以上も前になり、FacebookなどのSNSの台頭により、以前よりも「つながり」は増えてきたようにも思います。Dunbarはそのことをガーディアン紙で話しています。
Dunbarは、SNSのようなWEBの役割を、過去の関係が途絶えてしまった時には役立つだろうが、最終的には、実際に関係を(オフラインで)構築しようとしなければならないだろうと語り、「1つの(現実的な)つながりはいつも千の言葉にも勝るんだ」*13と締めくくっています。
こういう話を聞くと、私はいつも順序が逆だと思うのですが、「健康」「寿命」のために友人は存在するのではなく、友人という現象が先にあり、利害はその後で副産物のように出てくるんじゃないでしょうか。ダンバー数はいまやビジネス本の組織論に格下げになってしまいましたが、そういった現代の「つながり」に、私がある種のキモチワルサを感じるのは、その背後に現実主義的な損得勘定が見え隠れしているからです。
「孤独が何で珍しい」と高村光太郎は言いました。「孤独の鉄しきに堪へ切れない泣虫同志の/がやがや集まる烏合の勢に縁はない」とまで言い切る詩人の気概を、常々私は持ちたいと思っているのですけれども。
*1:ちなみにこの画像の出典がわかるとよかったのですが、調べきれませんでした。まあ、いわゆる自己啓発本でしょうかね
*2:ちなみにこのTABILABOの記事はQUARTZからの転載です
Why we’re better off with fewer friends — Quartz
翻訳的に微妙な感じのところもありますが、まあ今回の話とは関係がないのでよしとします
*3:Neocortex Size as a Constraint on Group Size in Primates (PDF Download Available)
この1992年の研究が初めてかと。発展させるような形で、その後もいくつか論文を出しています
*5:
先ほどの友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学にも載っていますし、最近の研究だと以下。
Your Brain Limits You to Just Five BFFs
*6:http://prx.sagepub.com/content/45/2/547.full.pdfが元の研究。
Dunberが援用したと思われる論文か以下のもの。
http://courses.washington.edu/ccab/Hill%20and%20Dunbar%202003%20-%20Group%20size.pdf
*7:Are social networks ruining our real friendships? | Australasian Muslim Timesを参考にしました
*8:また、勘違いしがちですが、この「15人」には第0階層の「5人」も含んでいるので、数として増えているのは10人です
*9:the very unhappy group was rated as dissatisfied by their friends and family
http://pcl.missouri.edu/jeff/sites/pcl.missouri.edu.jeff/files/Diener.pdf
*10:論文を読むのがお嫌であれば、下記の記事が信頼性があるかと。
*11:ちょっと本書にあたれなかったので、感想記事の参照で申し訳ないんですが。
友達の数で寿命はきまる人との「つながり」が最高の健康法~人間も悪くないYO!By元ヒキ(´▽`)|木村悦子のブログ
*12:Good Friends Are Good for Youなど
*13:Words are slippery, a touch is worth a 1,000 words any dayより。これは「A picture is worth a thousand words(百聞は一見にしかず)」のもじりですね