ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

【追記】ベネズエラ経済に影響力のあるホームセンターの店員はいるか、Businessnewslineふたたび

【12/23 追記】

@nodakoさまより、本記事に関して有用なご指摘をいくつか頂きました。詳細は、当該記事をご参照いただくのが確実かと思いますので、リンクを載せさせていただきます。

venezuelainjapanese.com

ワタクシの記事の訂正部分としては、

・ドーラトゥデイの管理人は反政府の大金持ちだろうと思われていたのに、「ドーラートゥデイの管理人なのにホームデポで働かなければならない生活をしている」点がスクープのメイン

・「Economic war」は、ベネズエラ政府側の表現であり、反体制側の言葉ではない(これは完全に私の誤読です)。

が、主な点となりますが、上記記事がさすが詳しい方の内容なので、重ねて参照されることをお勧めいたします。

【追記終わり】

 

今日はあんまり出回ってないけど、これから出回りそうな話。

 

ベネズエラ経済でもっとも影響力のある人物はホームセンターの店員

http://business.newsln.jp/news/201612030201240000.html

 

 

要約すると、

・DolarTodayというベネズエラの通貨レートの情報サイトの管理人を務めている Gustavo Díazという人物がいる。

・現在は、アラバマ州にいるHome Depoの店員で、ベネズエラの財務大臣や中央銀行総裁を超えて、ベネズエラ経済でもっとも影響力のある人物になっている。

・DolarTodayはハイパーインフレ状態のベネズエラの、闇での通貨交換レートの情報サイトであり、それが実質的な通貨交換レートとなっている。

・ベネズエラ政府は、彼の情報サイトを閉鎖すべく、自動車に時限爆弾をしかけるなどの暗殺を試みてきた。

・Díazは2005年に米国に亡命したが、生活はギリギリで、HomeDepoの店員として働いている。

 ということですが、残念ながら、このソースはBusinessNewsLineなんですなあ。

ibenzo.hatenablog.com

少々、眉唾な感じがするので調べてみました。

 

 

***

 

Gustavo Díazは存在する

調べてみると、Gustavo Díazという人は存在して、確かにDolarTodayというサイトを開いているようです。

www.wsj.com

theWallstreetJurnalによると、 Gustavo Díazは確かにアラバマのホームデポで働いています*1。そして、DolarTodayというサイトを開いていて、そこではベネズエラの通貨であるボリバル・フエルテの実勢レートやニュースソースを公開しているようです。

dolartoday.com

もともとはtwitterから始めたようで、

twitter.com

現在、twitterのフォロワーは250万人を超えていて、確かにすごい影響力を与えそうではありますし、WSJによれば、実際に彼のレートによって商売も行われているようです。

 

DolarTodayによると本日(12月5日)は1US$=4402BsFということで、これを別の通貨換算サイトで確認すると*21US$=9.99BsFなので、なるほど、相当のインフレーションのようですね。ジンバブエを思い出します。

 

レートの決め方は、本人はベネズエラにいないのにどうやってるのかなと思ったのですが、隣国コロンビアだけがこの無価値のボリバル・フエルテの交換をしているようで、コロンビアのCucutaという国境沿いの町で、彼の協力者がレートの計算をしているようです*3

 

Businessnewslineの写真は別人

では、Businessnewslineの話が全部正しいかと言うと、そんなことはありません。

例えば、当該サイトが載せている髭の男性の写真に「Gustavo Díaz」のキャプションがついていますが、

http://business.newsln.jp/biztech/images2/201612030201240000w.jpg

これは現ベネズエラ大統領のNicolás_Maduroです*4

本人はWSJがのせているように、もうちょっと若々しい感じです。

https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-QW420_1118DO_JV_20161118151534.jpg

 

爆弾はしかけられたが・・・

しかし、WSJでは、本人の写真もばっちり載ってるし、なんならどこに住んでるかや家族構成も事細かに書いているんですが、爆弾で狙われた人をそんなに詳しく書いちゃっていいんでしょうか。

ということで、「自動車に時限爆弾がしかけられた」話を調べてみると、どうもちょっと違うようです。

www.foxnews.com

Foxnewsの記事によれば、彼はそもそもベネズエラ軍の大佐だったそうで、御年60歳。2002年に当時のチャベス大統領の政権転覆を謀ったんだとか*5。つまり、そもそもベネズエラ政権に敵対する人物だったというわけです。

 

で、今から約10年前に、彼の車に爆弾が仕掛けられ、暗殺を企てられたわけです。それをきっかけにして米国は彼の政治的亡命を認め、その後、米国市民になったということ*6

 

Diazは「車にいなかったのは幸運だった」と自身で述べており、そもそもその前から彼や彼の家族に対する嫌がらせは続いていたようです。亡命ができたのも、空港のコンピュータがダウンしていて、搭乗者名簿から彼の名前を見つけられなかったからと、なかなか運に恵まれた人のようです。

 

つまり、ベネズエラ政府に狙われたのは今から10年以上前の話で、かつそれは彼の軍時代のクーデター未遂が原因であり、細かいことを言えば「時限」爆弾とは特に記述がありません。まあ、米国の保護下にもあり、彼をいまさら暗殺することは国策としてもあんまりよろしくないのではないでしょうか。

 

今日のまとめ

①Diazが運営するDolarTodayというベネズエラ通貨の実勢レートサイトは存在して、ベネズエラ経済に大きな影響を与えている。

②Businessnewslineの記事に写真は大統領の写真であり、Diazではない。

③Diazは元々軍の大佐であり、政権に敵対する人間であった。自動車に爆弾がしかけられたのも10年以上前であり、それを機に亡命した。

 

もちろん、Diazのサイト自体は攻撃を受けているようで、なんとかやりくりやっているみたいです。Diazはこれを「Economic War」と呼んでいて、要は、国外にいながらベネズエラ政府を揺さぶりにかける手段として、彼なりの戦いをしているわけですこれは私の誤読でした。実際はベネズエラ政府側の表現です。

 

さあ、この話をまとめサイトはいつ広げるのかなーと見守りながら、このページも参照してあげてください。

  

*1:Public Enemy No. 1 of Venezuela’s revolutionary government is Gustavo Díaz, a Home Depot Inc. employee in central Alabama.

*2:1 US dollar = 9.9897 Venezualan bolivar fuerte (Exchange rate USD/VEF = 9.9897) - Mataf

*3:The partners calculated the rate by polling exchange houses in the border city of Cucuta, Colombia. Colombia is the only country that accepts the nearly worthless bolivar.

*4:Nicolás Maduro - Wikipedia, la enciclopedia libre

*5:Diaz, a 60-year-old retired colonel in the Venezuelan army, took part in the coup attempt against the late President Hugo Chavez in 2002, briefly becoming part of the new administration before Chavez regained power.

*6:He fled to Alabama, where a sister and brother live, about 10 years ago after his car, which he was not inside at that moment, exploded in an assassination attempt that was linked to Chavez. The U.S. government quickly gave Diaz political asylum, and he became a U.S. citizen a few years later.