ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

【追記】横浜市の「保留児童」について考える、あいまいな定義のわたし

【2/18追記】

横浜市に、今回の疑問点を質問したところ、ようやくお返事が来ましたので、追記いたします。きっと一年で一番忙しい時期の中、一個人の質問に回答くださったことには大変感謝しております。

 

質問した要点は以下の2点。

 

①保護者に「保留児童」という言葉で通知をしているのはいつからか。

②2011年度から横浜市における「待機児童」の定義が変更されているように見えるが、それが事実かどうかとその理由。

 

回答は以下の通り。

 

①について(要約)

平成24年度4月より、入所できなかった方向けに、「保留児童」と「待機児童」の違いを説明している。

・保護者への通知についても、子ども子育て支援新制度が開始されてからは(平成27年度から*1)、「施設・事業利用調整結果(保留)通知書」、それ以前は「保育所入所不承諾(保留)通知書」と通知している。

 

②について(全文)

 国の待機児童の定義に変更はありませんが、横浜市において、国の定義に基づき、その運用を変更しました。
 理由としては、各区において保護者の状況をきめ細かく把握するように努めたことから、平成23年度から「育休を取得されている方」を、また、平成24年度から「主に自宅で求職活動されている方」を待機児童から除外することとしています

 

ということで、今回当ブログが調べたことは、間違っていなかったということです。よかったよかった。いや、よくはないんだけど。

各項目について考察をするならば、横浜市としては以前より「保留」という言葉で待機児童との区別をつけていたつもりではあるが、それを実際に保護者へ説明するようになったのは2012年4月から、ということになります*2。待機児童ゼロは2013年ですので、一応、それより前に「保留児童」との違いは保護者向けに通知しているということになります。なので、やはり巷で言われるように「保留児童という言葉で誤魔化したから待機児童ゼロになった」という言説は、正確ではありません。

 

ただ、市は、「保留」という語は以前より使用していると説明はしているものの、それは「保留児童」ということではないわけで、保護者の方がそれで待機児童と区別をしていたかというと、そうではないでしょう。ここらへんがとてもお役所的だなと思います。結局、「保留児童」という表現を説明し始めたのが2012年度からなのですから、これは待機児童の誤魔化しじゃないか、と疑われても仕方がないでしょう。

 

それよりも問題なのが、やはり②の、「待機児童」の定義(市の説明としては「運用」)を変更していることでしょう。記事に書いたように、やはり「待機児童」の定義を、2011年度から「育休取得」を除外・2012年度から「自宅求職」を除外と変更しています。2010年から2011年の間にかけて、待機児童の数がぐっと下がっていますが(下記グラフ参照)、その下落率が保留児童と乖離していることから、この定義変更の効果もあったのでしょう(「育休取得」を加えれば971→1248人)。穿った見方をすれば、2011年はなんとか1000人切りたかった、ともとれます。

 

また、2012年度の「自宅求職」の除外ですが、「国の定義に基づき」と回答いただきましたが、国の「待機児童」の定義は、

 

保護者が求職活動中の場合については、待機児童に含めることとするが、調査日時点において、求職活動を休止していることの確認ができる場合には、本調査の待機児童数には含めないこと。

 

なので、果たして定義通りか、というところに疑問符はつきます。「自宅での求職活動」は「求職活動を休止している」と同義なのでしょうか?これは横浜市だけではないのですけども。

 

なるほど、「待機児童ゼロ」の2013年度から、「待機児童」の定義に変更はないわけですが、果たしてそれを「以前より、同様の解釈において「待機児童数」を集計しています」と言ってもいいのかどうか。なんでもかんでもオープンに説明すればいいとは思いませんが、この定義の変更はかなり大きいものだと思いますし、何等かの形で市民に告知をするべきだったのではないでしょうか。

また、定義を変更した理由を「保護者の状況をきめ細かく把握するように努めた」ためとしていますが、それならばその数を統計上で示せばよいわけで、何も「待機児童」から数を引かなくてもいいんじゃないかと思います。ちょっとここら辺は、回答に苦しんだのだろうと推察します。 

 

とまあ、色々書きましたが、やはり市としては努力されていると思うので、何とか報われる形になって欲しいなあというところで追記を終わります。

 

【追記終わり】

 

 

一時期は、「待機児童ゼロ」で話題になった横浜市ですが、これは「保留児童」という言葉でごまかしてるんでねえかという話が、やはり昔から出ています。こんなツイートが目に付きました。

 

 

まあまあ確かに喧嘩を売っているようなお言葉ですよね。しかし、そもそも「保留児童」とは何か。調べると丁寧に解説しているサイトがいくつもあるのですが、その歴史的な背景と問題点について一箇所にまとめているサイトが少なめでしたので、一応、私も時流にのってみようかなと思います。

 

***

実際の横浜市からくる文書

さて、ここで私が入手した、実際に保留児童になるとやってくる横浜市の通知の文言を全部掲載してみます。

 

まず、判のおしてある正式な通知書として、「施設・事業利用調整結果(保留)通知書」というのがやってきます。

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この「保留」は、「保留児童」だろうが「待機児童」だろうが、全て調整にもれた場合はこの「保留」通知としてやってきます。

で、今年度は、こんな文言の書面が入っています。長いのですが、全文引用します。

 

保育所等利用待機児童数の集計方法について

 

 現在、報道等では「待機児童」ということばが多く取り上げられており、保護者の皆様からは「保留児童」との違いがわかりにくいという多くの御意見をいただいております。そのため、「施設・事業利用調整結果(保留)通知書」をお送りする際にも、保護者の皆様に対して改めて御説明させていただいています。

 横浜市では、保育所等の申請をいただいた結果、定員超過により入所できなかった場合は、「保留児童」として入所をお待ちいただいております

 この「保留児童」のうち、国の指針に基づいて設定している項目に該当されていない方が「待機児童」と定義され、集計しています。また、以前より、同様の解釈において「待機児童数」を集計しています

 

※「保留児童」の方も「待機児童」の方も利用調整の対象であることに違いはなく、利用調整において優劣をつけるものではないことを改めて申し添えさせていただきます。

 

恐らくツイート主さんは、これらのお手紙を読んで、「保留児童」という言葉にゴマカシを感じたのでしょうが、一応、横浜市の言い分としては、「国の指針」であり、昔からおんなじやりかたで「集計」しているよ、ゆるしてゆるして、と言っているわけです。まあ、文句がたくさん来てるんでしょうから、こんな手紙も同封せざるを得ないわけです。いや、全く肩を持つつもりはないんですけど*3

 

イメージとしては、「保留児童」の中に、「待機児童」に分類される子どもがいる、ということでしょう。

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「保留児童」という言葉について

 

「保留児童」という言葉自体は、他の自治体でも使用しています。

 

たとえば山形県、

ただ、特定の保育所を希望していて待機しているなどの児童は含まれない。こうした潜在的な待機児童ともいえる「保留児童」は(以下略)

http://mainichi.jp/articles/20160518/ddl/k06/100/169000c#csidx9fcd29e67230490a8dfcb012acad2a6

大阪市、

利用保留児童数については、昨年の同時期より142人増加し、5,332人となりました。

大阪市:報道発表資料 大阪市の保育所等利用待機児童数(平成28年10月1日現在)を公表します

熊本市、

だが、依然として潜在的な待機児童ともいえる保留児童は450人に上る。

http://mainichi.jp/articles/20160527/ddl/k43/010/342000c

などです。なので、横浜市だけが使っている言葉ではありません。ただ、横浜市は入所できなかった児童全てを「保留児童」と呼んでいますが、他の自治体は、待機児童からもれた児童のことを「保留児童」と呼んでいるのかもしれません。

 

この「保留児童」という言葉が、いつから自治体で使われるようになったかはあまり定かではないのですが、新聞上で調べると、1999年に熊本市ではすでに同様の意味で使われていたことがわかります*4

 

横浜市でも、1999年の市長への提言という書類*5の中で、「保育所保留児童の早期解消に向けて」ということで、現在と同じような使われ方で「保留児童」が使用されています。提言の中には、「保育保留児童の顕著な増加に対応するため、平成9年に「緊急保育計画」を策定し」とあるので、1997年ごろから、保育施設に入所できない児童を「保留児童」と呼び習わすようになったのではないか、と推察できます。

 

なので、特に義理もないですが、横浜市のために弁明をするならば、20年ほど前からすでに、「保留児童」という言葉を横浜市は使用し、「待機児童」と区別して使っていたのではないか、ということは言えます。よって、「待機児童」の語を「保留児童」にすりかえたから「待機児童ゼロ」ができたんだ云々という話は、正確な話にはなりません。しかし、微妙に他自治体との「保留児童」の定義が違いそうなので、そこが混乱をさせる原因にもなっていそうです。

 

「待機児童」の定義について

「待機児童」については、2001年から定義が変わり、主な変更点としては、「地方行政の保育室利用者や特定の保育施設の利用希望者」などに関しては待機児童数から除外するということです。細かい定義としては以下*6

 

1.求職活動中の場合は待機児童に含めるが、休止していることが確認できる場合は、含めない。

2.預かり保育、地方公共団体の単独保育施策、一時預かり・預かり保育を行う幼稚園、企業の保育園で預けている場合は含めない。

3.「入所保留」で利用希望がない場合は含めない。

4.保育所などに入っているが第一希望でないから転園を希望している場合は含めない。

5.調査日よりあとの利用希望(利用予約のような形)のものは含めない。

6.利用可能な保育所などが近くにあるにもかかわらず、私的な理由で利用しない場合は数に含めない。

7.育児休業中は含めないが、延長した人や切り上げたい人などのニーズを把握すること。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000140763.pdf

 

一方、今回の通知で横浜市が提示している「待機児童」の定義は以下。

 

待機児童数=保留児童数ー次の(1)~(6)に該当する児童数

(1)横浜保育室、川崎認定保育園、預かり保育幼稚園等の利用者

(2)育児休業中の家庭の児童

(3)第一希望のみ申込の方

(4)園や自宅の近くに利用可能で空きがある保育施設(認可保育所、認定こども園、小規模保育事業などの地域型保育事業や上記(1)の施設)があると判断できるにも関わらず利用を希望されない方

※「利用可能な」とは、

・希望の保育所等と開所時間に差異がない、開所時間が保護者の勤務時間等を踏まえた需要に応えている、など

・通常の交通手段により、自宅から30分未満で登園が可能であったり、御希望されていた保育所と立地条件に差がなく、登園するのに無理がない

(5)主に自宅において求職活動をされている方

(6)複数回にわたり、区役所職員が電話や手紙などで所在を確認した結果、御連絡がつかなかった方

 

長いですね。いらすとやさんでイラストにするとこんな感じ。

 

f:id:ibenzo:20170201002800p:plain*7

 

「待機児童」のほかに、いわゆる「隠れ待機児童」というような(横浜市はそれも含めて「保留児童」と言っている)存在が、社会問題として顕在化してきているというわけです。

 

「待機児童」の定義は自治体による

 

しかし、国の「待機児童」の定義は一応あるわけですが、その定義自体をどのように運用するかについては、自治体によって判断がわかれます。

 

2014年のものですが、朝日新聞のこのサイトが各自治体の傾向が網羅されていてとてもわかりやすいです(要ログイン)。

 

digital.asahi.com

 

これは、主要自治体の待機児童の認定基準についてわかりやすくまとめたものです。

 

たとえば、横浜市は、前項の②「育児休業中」の家庭を全て「待機児童」から除外していますが、世田谷区は、「育児休業中」の申請も「待機児童」に含めており、自治体によって、「待機児童」と一口に言ってもその定義にはかなりばらつきがあることがわかります。世田谷区は待機児童数が全国一位なのですが*8、区長は落ち度を認めながらも、自治体の公表の仕方に疑問をもっています。

 

(承前)ほかの自治体も、仮に世田谷区と同じカウント方法をとったなら、どうなっていたか。いま、「待機児童ゼロ」と発表する政令指定市なども続々と出てきていますが、子どもを保育所にあずけられないから育児休業を延長したり、就職できないままだったりするケースを待機児童に含めないところもあります。これを加えれば、待機児童の数は大きく膨らみます。

「保育の質は譲れない一線」 世田谷区長インタビュー:朝日新聞デジタル

 

 

 

育休を除外するのはなかなか問題で、ようは「保育園に入れそうもないから育休を延長した」という家庭の児童数は「待機児童」に含まれなくなるからです。この問題についてはようやく国も重い腰をあげて、対策にのり始めたところです。

 

 厚生労働省は保育所に入れない待機児童の定義を見直す。「特定の保育所のみを希望している場合は数えない」など自治体ごとに定義にばらつきがある現状を改め、正確に実態を把握する狙い。

待機児童の定義、厚労省が見直し作業 :日本経済新聞

 

 

横浜市の「待機児童」は本当は何人なのか

では、近年の横浜市の「待機児童数」を、全国ワーストと呼ばれる世田谷区と同じ定義で考えた場合、どのようになるのでしょうか。

 

世田谷区の「待機児童」の基準は、

 

(1)保育園、認定こども園、地域型保育事業、保育室、保育ママ、認証保育所、定期利用 保育、幼稚園の預かり保育、無認可保育施設(保育料補助申請者に限る)を利用している。
(2)自宅から通うことができる範囲に利用可能な保育園、認定こども園、地域型保育事業、 保育室、保育ママ、認証保育所、定期利用保育、幼稚園の預かり保育があるが、利用していない。
(3)保護者が求職活動を休止していることが確認できる場合。

http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/103/129/1812/d00036137_d/fil/04.pdf

 

を除外したものです。横浜市と違うのは、「育児休業も待機児童に含める」「保護者の求職活動は自宅が主でも待機児童に含める」というところでしょうか。

 

横浜市はちゃんとデータを細かく出していて、それによると*9、28年度に育休関係での保育所申請で申し出が却下されたのは420人います。求職活動に関しては、366人います。合わせると786人が新たに「待機児童」となり、横浜市が出している実数の「待機児童」は、28年度は7人と考えると、かなりの差があります。下に、横浜市の「待機児童」数と、世田谷区の定義の仕方で計算した「待機児童」数の比較をグラフ化してみました。

 

f:id:ibenzo:20170201233627p:plain

実数値は以下の通り。

  保留児童 育児休業(A) 自宅求職(B) 横浜定義(C) 世田谷定義
(A)+(B)+(C)
2008年 2324 - - 707 -
2009年 3296 - - 1290 -
2010年 3602 - - 1552 -
2011年 3389 277 - 971 1248
2012年 2375 186 213 179 578
2013年 1746 203 100 0 303
2014年 2384 281 210 20 511
2015年 2534 334 332 8 674
2016年 3117 420 366 7 793

*2008-2010年はA・Bともに内訳が示されていないためカウントしなかった。*10

 

2013年度が、いわゆる「待機児童ゼロ」ということで話題になった年であり*11、待機児童の数は確かにゼロになりましたが、世田谷区の定義で考えると待機児童は303人います。その後も、横浜定義では、待機児童の数はほぼゼロに近くなっていますが、世田谷定義で考えると着実に「待機児童」の数は増え続け、2016年度は待機児童ゼロの頃より倍以上まで膨れ上がっています。ワーストの世田谷区の1198人には届きませんが*12、なかなかな数ではありませんでしょうか。

 

課題は一目瞭然で、育児休業利用者や、求職中の保護者がいる家庭のケースに対して、有効な保育施設を提示できなかったことです。「待機児童ゼロ」のお題目にひかれて一気にニーズが増えたということもあるでしょうが*13、2014年度には、待機児童ゼロ前の水準に戻っていることも鑑みると、やはりそこの対策が抜け落ちていた感は否めません。「待機児童ゼロ」という言葉が独り歩きしてしまったこともよくなかったでしょう。

 

「待機児童」の定義は変わってきている

もちろん、ここまで「待機児童」の数を減らせたのは、有効な保育施策を打ち出せたからです。施設自体の拡充はもとより、「保育コンシェルジュ」のような形で、「認可保育所」以外の施設をより知らしめ、サポートを行い、提供できたことは大きな要因となっているでしょう。これは行政の努力の賜物かと思われます。

 

しかし、「保留児童」という名前の呼び方に胡散臭さを感じる人もいるようですが、そうではなく、むしろ横浜市の「待機児童」の定義が微妙に変わってきているのではないか、というところにも問題があるように感じられます。

 

もう一度になりますが、現在の横浜市の「待機児童」の定義は、

 

横浜保育室など利用+育休取得+自宅求職+特定保育所利用

 

の家庭の児童を除外しています。

 

しかし、記録の残る2008年~2011年の間には、どうも、「育休取得」「自宅求職」の項目が抜け落ちているようにも見えます。

 

たとえば、アドレスから察するに、2008年に作成された*14、横浜市こども青少年局による「待機児童(新定義)の定義」は、以下のようになっています。

 

保育所への入所要件があり、保育所入所の申込をしたものの、定員枠の関係などから入所待ちとなっている児童数から、
1.横浜保育室や幼稚園の預かり保育などの地方単独保育事業を利用している児童数を除き(旧定義)
2.さらに、1園のみ申し込みをしている児童数などを除いた数を言います。

横浜市 こども青少年局 白書 地域における子育て支援:保育所の整備:保育所の整備:現況と課題

 

これだけでは、「育休取得」「自宅求職」の家庭を含めているかがよくわかりません。

 

上記は国の定義に関する説明だとしても、横浜市は年度によって「待機児童」の定義を微妙に変えています。

 

例えば2011年の「横浜市の保育所待機児童の状況と対策について」という資料。

待機児童数=保留児童 - 横浜保育室等入所者 - 育休取得者 - 特定園等希望者

「待機児童の定義って何ですか?」

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/file/2305taikijidoujoukyoutotaisaku.pdf(P4)

 「育休取得」はありますが、「自宅求職」の項目がありません。

 

しかし、2012年の同様の資料では、しれっと「自宅求職」を除くことが「待機児童」の定義で付け加えられています。

 

待機児童数 = 保留児童数 - 横浜保育室等入所者数 - 育休取得者数- 特定園等希望者数- 主に自宅で求職活動をしている家庭数

(参考)「待機児童数」とは

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/file/2405taikijidoujoukyoutotaisaku.pdf(P3)

 

しかも、2011年より前の「保留児童」の内訳には、「自宅求職」も「育休取得」の項目もありません。

 

f:id:ibenzo:20170202004822p:plain

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/working_team/k_7/pdf/s1.pdf(P8)

 

ここでの「待機児童」の算出の仕方は、

 

待機児童数=保留児童 - 横浜保育室等入所者 -  特定園等希望者

 

だけです。

 

要するに、何年かかけて、徐々に「待機児童」の定義を狭めていっているというわけです。これは、見かけ上「待機児童」数を減らすためだ、と勘繰られても仕方がないように思います*15。ましてや、保護者への通知の中で堂々と

 

以前より、同様の解釈において「待機児童数」を集計しています。

 

というのは、如何なものかなという感じです。

 

そもそも、横浜市が「保留児童」の内訳をネット上で公開するようになったのはここ数年の出来事です。

 

朝日の記事によれば、確認ができる「保留児童」の内訳の資料の2009年のものは、あくまで「市議の資料請求に従い、今月の市議会常任委員会で初めて公表した」ものであり、「今後はネットで発表する予定はない」と子育て支援課は述べているほどです*16。このような姿勢が、現在の対策の遅れを招いた遠因にもなっているのではないでしょうか。

 

 

今日のまとめ

①横浜市では「保留児童」は、「入所できなかった児童」全てを指していて、その中に「待機児童」が含まれる。

②「保留児童」という言葉を横浜市は20年ほど前から使用しており、「「保留児童」という言葉のすり替えで「待機児童ゼロ」をうたった」という批判は不正確である。

③ただし、横浜市は「待機児童」から「育休取得者」「自宅での求職者」を除外しており、それらを含む世田谷区のような自治体と比べると、国の定義どおりとはいえ、数を調整している印象はある。

④「育休取得」「自宅求職」の数を加えた定義で「待機児童」を数えると、その数は「待機児童ゼロ」になった2013年から倍以上に跳ね上がっている。

⑤また、横浜市は「待機児童」の定義を徐々に狭めていっているように見られ、その点も不誠実な印象を受ける。

今回の話は、ネット上の資料から類推したことをまとめたものなので、横浜市に直接聞いてみたら、それなりの言い分があるのかもしれません。「うちはお上の言うとおりにやってるだけなんです」ということなのかもしれませんけれど。

 

保育園の話が難しいなと思うのは、まさにその「難しさ」という点で、お受験じゃないんだから、もう少しこういうサポートはシンプルに受けられるべきなのに、入所するためにはずいぶんと苦労をしなければならないというところでしょう。「定義」ひとつでもかなり調べるのに混乱しました。ただ、国も自治体も、徐々にいい方向には変わってきている、とは思うので、なるべく色んな人が働きやすい社会になるといいですね*17

 

 

 

 

*1:横浜市 こども青少年局 子ども・子育て支援新制度

*2:細かいところを気にするなら、2012年度に入所できなかった場合の通知は2012年2月ごろに(1次は)来るはずなので、そのときの人は2013年度に申しこまなければ、まだ「保留児童」と「待機児童」の区別がなんじゃこりゃ、だったはずです

*3:

しかし、

現在、報道等では「待機児童」ということばが多く取り上げられており、保護者の皆様からは「保留児童」との違いがわかりにくいという多くの御意見をいただいております。

という文言はあまりいただけませんね。これでは、「「保留児童」の方が横浜ではスタンダードなのにメディアが「待機児童」ばっかり言うからさ」というようにもとれます。

*4:

入所条件を満たさない「保留児童」も加えると(後略)

朝日1999/11/27 熊本版 P27

ちなみに、京都府では、学童保育の有料化の記事の際に、学童の空きが出るまで待たされる子どもを「保留児童」という呼び方をしていました(朝日2002/10/8 P24)

*5:http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/soudan/tei-11.pdf

*6:ただ、以下の区議会議員のブログによると、引用の1・3については2012年には削除された旨が書いてありますが、私が参照した資料は厚労省の2016年度のものなので、うーん、ちょっと正しいことがわからない感じです。

保育園「待機児」の定義って…? : 池尻成二のブログ

正しい定義がすぐに情報として引き出せない、というのもなかなか問題であると感じます

*7:あれ、余計にわかりにくくなりました?

*8:世田谷区:待機児童過去最多1198人 今年も全国最多か - 毎日新聞

*9:http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/file/280426taikijidou.pdf

*10:参照したデータは以下。

2008-2009

「横浜市の保育所待機児童等の状況について」(子ども・子育てビジョン検討WT 第7回会合資料1)

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/working_team/k_7/pdf/s1.pdf

2010

「横浜市の保育所待機児童等の状況について」(待機児童ゼロ特命チーム 第3回会合資料3)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/taikijidou/dai3/siryou3.pdf

2011-2012

「平成24年4月1日現在の保育所待機児童数について」(こども青少年局緊急保育対策課)

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/file/240517-240401taikijidousuu.pdf

2013

「平成25年10月1日現在の保育所待機児童数について」(こども青少年局保育対策課)

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/file/251210-251001taikijidousuu.pdf.pdf

2014-2016

「平成28年4月1日現在の保育所等利用待機児童数について」(こども青少年局保育対策課)

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/file/280426taikijidou.pdf

*11:

横浜市、「待機児童ゼロ」への限りなき挑戦 | この街の論点! | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

*12:待機児童数ワーストの世田谷区が本気になった! その対策とは? | スーモジャーナル - 住まい・暮らしのニュース・コラムサイト

*13:

待機児童ゼロを発表したために、子どもを預けて働きたいと希望する保護者が、さらに増えました。4月から10月の入所申込者数は、昨年度の3088人増に対して、今年度は3771人とおよそ1.2倍に増えました。

横浜市、「待機児童ゼロ」への限りなき挑戦 | この街の論点! | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

*14:一応作成日は2011年になっていますが、横浜市全体のHPの更新があったようなので、作成自体は2008年ではないかと推察しました

*15:もちろん、可能性としては、「特定保育園のみの申込者など」の中に、育休取得者や自宅求職者を入れていた可能性はあります。区別しなかっただけで。また、2012年ごろは、不確かながら国自体も「待機児童」の定義に手を加えていたようなので、それに倣った可能性も排除できません。ただ、世田谷区のような形の定義をしている団体もある中で、少々不誠実な感はぬぐえません

*16:朝日 2009/12/12 横浜版 P35

なので、今回ネット上に転がっているデータは、内閣府のものです

*17:今後出てくる問題としては、少子化が進む中、この拡充した「ハコモノ」が何年か後には無用になるというところでしょう。そこまで考える余裕はもう自治体にはないのかもしれませんが