【3/30追記】
国会図書館に行く用事があったので、社長のインタビュー記事を調べるだけ調べました。下部に追記しますが、結果だけ書けば、炭火焼きのブラインドテストの話はどこにもありませんでしたので、確報とします。穏和な見方をすれば、ツイート主の方は何か別のお店の方のことと勘違いしているのかもしれません。
【2/28追記】
念のために「鳥貴族」に、今回の「ブラインドテスト」の件を問い合わせたところ、丁寧な回答が返ってまいりました。
メールでは、「炭火焼を止めた理由」として、以下を正式見解としています。
創業当時、弊社取締役社長大倉は「炭火を使っていては技術にばらつきが出て店によって味が変わってしまう恐れがあるため、チェーン展開には難しい。」と懸念していた為、創業前に勤めていた店でガスグリラーでも炭火に負けない味を提供できると感じたため1号店開店当初はガスグリラーを使用することになり、その後、ガスグリラーより煙が出にくい電気グリラーに統一していった。 という経緯でございます。
そもそも「鳥貴族」は、一度も「炭火焼」を使ったことはなく、広報の見解としては、ブラインドテストの話は、「少し話が変わってきているように感じました」とのことでしたので、やはりこの件は「鳥貴族」の話ではない、と考えるのが妥当と思われます。
ただまあ、社長の発言をどこまで逐一把握しているかまでは何とも言いがたいので、慎重な物言いをするのであれば、「きっと「鳥貴族」はブラインドテストをしたことはないだろうけど、可能性としては社長の発言があったかもしれないね」というところでしょう。以上を「ほぼ確定」として、各種拡散なりなんなりしていただければと思います。
【追記終わり】
みなさん、焼き鳥は好きですか? 「鳥貴族」という焼き鳥の居酒屋の経営方法のツイートが話題になっています。あえて本ツイートは載せませんが、内容は、
「ブラインドテストをしたら誰も炭火で焼いた焼き鳥と普通に焼いた焼き鳥の区別がつかなかった。だから炭火をやめてその分のコストを鶏肉の質に当てる事にした」
とのこと。
ブラインドテストをして味の違いがわからんなら、確かに炭火で焼こうが何で焼こうかいいですよね。非常に合理的だと思います。
思いますが、思うんですが、そうなんですよ、ソースがほしいんですよ。焼き鳥の話なのにタレじゃなくて。
というわけで、調べてみました。
「280円均一」の経営哲学には書いてない
ツイート主の方がソースに挙げられているのは、以下の本。
私はあんまり経営本とか啓発本が好きではないので、こういうのにお金を使いたくないのですが、図書館になかったので、仕方がないのでKindleで購入しました。
ところが、読んでみても「ブラインドテストで云々」の話が載ってないではありませんか。
確かに、炭火焼をやめる話は出てきます。「<秘密その7>炭火焼へのこだわりを捨てる」という章です。
鳥貴族は、「国産新鮮鶏肉」にこだわりをもち、決して海外の輸入鶏を使いません。それは鳥貴族の「誇り」として、「お客様に、どこよりもおいしい焼鳥を満足のいく価格で、笑顔で食べていただ」きたいからだとしてます*1。
しかし、コスト面の問題はいかんともしがたい。そのための「効率化」の一環として、「「炭火焼」のこだわりを捨てる」ことにしました。
でも、本当に炭火焼だけがおいしいのか、というと実はそうでもないのです。
ポイントは、遠赤外線効果で中からじっくり焼くこと。それさえできれば、たとえ機械で焼いたとしても、炭火と同程度のおいしさを出すことは十分可能なのです。
鳥貴族では、炭火にできるだけ味わいが近くなる電気グリラー*2、店舗に導入して使用しながら、常に改良を繰り返しています。
このメリットとして、材料のコスト面のほかに、炭火焼の「熟練の技」がいらなくなり、人材育成コストをおさえられることもあげています。
という話で炭火焼の話はおしまいです。おおい、ブラインドテストは?炭焼きと普通の焼鳥の区別がつかなかった話は?私の1200円を返せ!
そもそも、大倉社長は、「炭火焼」そのものを否定しているわけではありません。あくまで、鶏肉の品質を維持しながらの低価格の実現を考えた際に、「炭火焼でなくても同程度のおいしさは出せる」という方法をとったわけであり、焼鳥は「炭火焼」でなくても構わない、という話ではありません*3。大事なことは、
それをお客様にちゃんと説明できればいい。そして何より味で分かっていただければいい。
という「見栄」であり、「引き算の発想」の方が大事だと、この「炭火焼をやめた」話では伝えたいというわけです。決して、「焼き方で味なんて変わらない」という話ではありません。「国産鶏」を提供するための「引き算」が「炭火焼のこだわりを捨てる」という話なので、「味が変わらないからやめた」というのは、大倉社長の考え方とはちょっとずれている気がします。
ソースが足りない
しかし、このソースに関しては、ツイート主の方の思い違いで、本当は別のものを参照した、という可能性があります。また、Kindle版では「適宜編集」している旨が書いてあり、「ブラインドテスト」のくだりが紙の本からカットされた可能性も残ります(だとしたらずいぶん面白い話をカットしたもんです)。しかし同じ本を私は買いたくありません・・・
ちなみに、今は更新されていませんが、大倉社長はブログを書いておられていて、そこで「炭火焼」や「ブラインドテスト」などでサーチをかけてみましたが、見事にひっかかりませんでした。
また、「鳥貴族」のことを取り上げているブログなんかも過去にはあるのですが、「ブラインドテスト」の逸話を掲載している記事はちょっと探した限りでは存在しません。
鳥貴族の「低価格均一」ビジネスモデル - tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」
他にも、やはり成長している会社の社長という事で、各種経済誌へのインタビューが多いですね。
今月の注目トップ経営者 大倉忠司 (株)イターナルサービス 代表取締役 : 2009-05|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
インタビュー 鳥貴族社長 大倉忠司--鳥貴族が見せる「驚き」重視の経営 : 2010-05|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
などなど。しかし、「月刊食堂」とか「飲食店経営」なんて雑誌は近場の図書館においてあるはずもなく、いつか国会図書館に行く機会でもあれば調査しますが、現在のところはこれが限界なので、おそらくこの話は「鳥貴族」の話ではないのではないか、ぐらいで留めておければと思います。こんなソースあったよ!という人は教えてください。
*3/30追記
国会図書館で、「鳥貴族」で出てくる検索結果全ての雑誌に目を通しました。「炭火焼」に言及した記事は一つだけで、日経ビジネスの2009年2月9日号。
回転率を上げるために、おいしいとされる「炭火焼き」も捨てた。炭火は焼き上げるまでに10分近くかかるが、電気式グリラーなら5分で済む。
日経ビジネス2009年2月9日号 P24
というわけで、やはりブラインドテストの話は全くのデマカセのようです。なお、書籍版の『280円均一の哲学』にも目を通しましたが、Kindle版と内容は同じでした。
今日のまとめ
①『鳥貴族「280円均一」の経営哲学』の本の中に、「ブラインドテスト」の話は出てこない。
②大倉社長は、「炭火焼」も「普通の焼き方」も違いがないと言っているわけではなく、良質の国産鶏肉を確保するために、「炭火焼」の選択肢を「引き算」した、という考え方がこの話の肝である。ツイートの発言は順序が逆になってしまう。
③ただし、大倉社長は各種経済誌にインタビューを重ねており、その中で出てきた話の可能性もあり、真偽としては今の段階では不明である。
1200円返せ!と書きましたが、この本はなかなか面白かったです。本というか、大倉社長という人物ですが、彼は基本的にはコストカッターでかなり合理的な人物です。たとえば、
・名刺は業者に頼まず全てパソコン(役員も)
・メニュー量を極力減らす
・戎日や鬼門も気にせず縁起を担がない
・利益を生み出さない本社事務所には極力お金をかけない
などなど、合理的取組みがそこここに描かれています。ですが、そこには、斜陽気味の飲食店業界をなんとかしたいという思いがあり、安く美味しいものを届けられるという自分たちの「誇り」があり、社長の信念が根底にあります。それが、アルバイトにも社会保険をかけたり、勤務時間の改善に取り組んだり、といった行動につながっているのでしょう。理念なき合理主義はみんなが疲弊していくだけです。
今回はせっかくソースも示されたのですから、呟きだけじゃなくて、紙の本(電子の紙の本でも)もみなさん読みましょうよ。
*1:ページ数を書きたいのですが、Kindleだとページが出ないんですね・・・
*2:あるサイトでは、これを「倖生炭グリラー」だとしていますが、
元居酒屋店長による鳥貴族(3193)の分析(2) | 株式投資初心者ガイド
しかしこれはガスが熱源なので、ホントかな?という感じもします。また、実績の中に「鳥貴族」の名前もありません。
*3:別の外食会社社長の店では、炭火焼の焼鳥がおいしいという話をしています。