【3月29日追記】
文科省のコメントをとってきたメディアがあるので、のせときます。
パン屋が和菓子屋に修正された教材は、検定時に書籍全体として『我が国や郷土の文化と生活に親しみ,愛着をもつこと』という項目の、特に『我が国』の部分の記載が充足していませんでした。そのため、教科書全体を通してこの部分を記載するよう指摘したまでです。パン屋の個所が悪いという意図はありません
まるで当該エントリをそのまま読んだかのようなコメントと記事内容です、とジガジサーン。
【追記終わり】
道徳が平成30年から教科化されますが、その検定について話題になっています。
「パン屋」という表記が「国や郷土を愛する態度」に対して不適切であるという事で、「和菓子屋」に変更されたという内容が、「戦時中かよ」というようなツッコミを誘っていました。
とはいっても、文科省もそこまでおばかさんではないと思うので、どんな意図があるのか。この検定というのはその内容がなかなかわからないんですが、3月24日に放映された時論公論でNHKがとりあげてくれたので、それを紹介するような形で今日は記事にします。
「にちようびのさんぽみち」という教材
さて、くだんの「パン屋」が「和菓子屋」になったという話、どんな話なんでしょうか。
タイトルは、「にちようびのさんぽみち」という1年生の教材で、番組でとりあげていた、修正前の文章は以下の通りです。
そして、よいにおいがしてくるパンやさん。
「あっ、けんたさん。」
「あれ、たけおさん。」
パンやさんは、おなじ一ねんせいのおともだちのいえでした。おいしそうなパンをかって、おみやげです。
それからちがうはしをわたって、すこしあるいたら、
「あれえ、いつものこうえんだ。」
「そうだよ。きょうはちがういりぐちについたのさ。」
あたらしいはっけん。けんたは、いつもとちがうさんぽみちもだいすきになりました。
番組ではこの部分しか読めないのですが、番組の言葉を信じるなら、おじいさんと一緒に散歩に出かけた少年が、「ふだんとはちがう道」を歩くことで「地元のよさを発見する」という内容のもののようです。
NHKの解説委員は、改訂された学習指導要領の「我が国の郷土の文化と生活に親しみ愛着を持つこと」を取り上げ、
単に、身の回りのことを取り上げて、郷土に愛着を持つだけでは、伝統的な文化や生活に親しんだことにはならない
として、これを教科書会社が「和菓子屋」に変更をした、というものです。変更後の文章もちらっと出てきたので、書き出してみましょう。
そして、あまいにおいのするおかしやさん。
「うわあ、いろんないろやかたちのおかしがあるね。きれいだな。」
「これは、にほんのおかしで、わがしというんだよ。あきになると、かきや□□□つくっているよ。」
□□□くんがおしえてくれました。
□□□おまんじゅうをかって、だいまんぞく。
それから、ちがうはしをわたって、すこしあるいたら、
「あれえ、いつものこうえんだ。」
「□□□はちがういりぐちについたのさ。」
あたらしいはっけん。けんたは、まちのことや、はじめてみたきれいなわがしのことを、もっとしりたいとおもいました。*1
修正前と後を比べると、ただ「パン屋」から「和菓子屋」に変更されただけでなく、「これはにほんのおかしで」というくだりや、「きれいなわがしのことを、もっとしりたい」と言った付け足しから、より「我が国の郷土の文化」に近づけた内容だということがわかります。
指導要領に近づけた教科書会社
今回、道徳の教科化において、今までの項目が整理され、22項目が学習する内容として取り上げられています*2。
小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2016/01/08/1356257_4.pdf(P24に内容項目の表がのっています)
基本的に、今までもこれからも、「道徳」という学習の時間では、その教材がとりあげる内容項目は一つになります。「国際理解」と「よりよい学校生活」が共存するような教材は、存在しないという事です*3。なので、今回のパン屋のくだりの話は、「C 主として集団や社会との関わり方に関すること」という視点の、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」という内容項目を達成するために考えられた教材、ということになります。細かく言えば、具体的な評価目標は学年ごとにかわり、1・2年生の場合のこの内容項目は、「我が国や郷土の文化と生活に親しみ,愛着をもつこと」になります。
その視点で考えると、実はこの「にちようびのさんぽみち」は、厳密に考えるのであれば、「伝統と文化」という部分がいささか弱いのは確かです。文全体を読めないのでなんともいえない部分もあるのですが、修正前は恐らく、まちの新発見というだけで、「わかりやすい」日本的な存在がなかったのでしょう。
単に、まちへの愛着を深めるということであれば、それは生活科の内容が既にカバーしています。
(1) 自分と身近な人々及び地域の様々な場所,公共物などとのかかわりに関心をもち,地域のよさに気付き,愛着をもつことができるようにするとともに,集団や社会の一員として自分の役割や行動の仕方について考え,安全で適切な行動ができるようにする。
この道徳の内容項目の主眼は「伝統と文化」であり、いわゆる「日本的」な文化がなければ、生活科との差別化もありません。字義通りに指導要領に従うのであれば、「パン屋」のくだりが「不適切」になったのもわからなくもありません。
ここは想像になりますが、「パン屋」そのものが不適切というよりかは、文章全体として「日本らしさ」が足りない、という指摘だったんではないでしょうか。「パン屋」を「和菓子屋」に変えたのは、それは教科書会社の裁量です。「パン屋」だって立派な日本の文化だという主張があるのであれば、「パン屋」のまま、何か説明を変えて文を残すという方法もあったはずです(ただ、一年生という段階ではちょっと難しそうです)。しかし、教科書会社も合格しないと困りますから、「日本らしいものつったら和菓子っしょ」という安直な発想があったようにも思えます。というより、初めての教科書化なので、各社とも安全運転を心がけた、という印象です。
内容項目という指導要領のルールを満たすという視点にたつなら、文科省の意見は、そんなに外れてもいないのではないかな、と個人的には思います。
深く掘り下げたNHK
今回の「道徳」の教科書の話、各社が取り上げていますが、NHKのほかには、朝日ぐらいしか、あんまり深く扱ってないなあという印象です。
たとえば読売は「いじめ」を各社が取り扱った旨だけ書いてあって弱いですね。
時事通信は有名人を扱ったという旨の記事。
産経は教科書の内容より、教員の意識改革という話。
朝日は、先ほど出た記事で、より細かく教科書内容を記載しています。
NHKや朝日は、このように細かく検定されることで、横並びになり、自由度がなくなるのではないか、という指摘をしています。
今日のまとめ
①「パン屋」の話は、「にちようびのさんぽみち」という、少年がまちの新たな発見をして町への愛着を深める、というエピソードである。
②この教材は、指導要領の「我が国や郷土の文化と生活に親しみ,愛着をもつこと」の内容項目の教材であり、修正前は、確かに「日本らしさ」成分が少なめである。
③あくまで「和菓子屋」に変更したのは教科書会社であり、各社とも安牌をねらった横並びの印象を受ける。
一応、勘違いしないでいただきたいのが、指導要領に教科書は必ず準拠する、という今までの方針から考えるなら、今回の文科省の「不適切」の発言は、そんなに外れてもいない、ということであり、この考えが、私は正しいと思っているわけではありません。枠組みというのを大事にするというか、融通がきかないというのが、非常にお役所的だと感じます。今回は、道徳の教科化というより、道徳のマニュアル化でしょう。結局、教科書会社に安直な選択をさせてしまっているのが、この教科書検定の弊害ともいえます。
いまや小学校はマニュアル化しないとやってけないんですね。きっとあまりにも業務量が多いんでしょう。これに英語やらプログラミングやらも入ってきますから、センセイは大変です。昔に比べて研究熱心なセンセイが増えていることも確かだと思いますが、みなさん、過労死しない程度でがんばってほしいものです。