ドバイというといまやお金持ちのイメージですが、こんな記事が話題を集めています。
「ガルフニュース」が、「ドバイの自治国と共同で約60人の乞食を相手に月の収入を調査」したところ、「物乞いだけで月に27万ディルハムを得ていた」とのこと。それを信じた中国の少年が密航したという話題も載っています。
という記事なんですが、この記事、情報が古い上に、誤りも多かったので、訂正してみます。
そもそも2016年の記事
この話、少々古くて、1年以上前の2016年4月のレコードチャイナのものが、日本で広まったものでしょう。
取り調べによると、こじきが1日に得ていた金額は1人およそ9000ディルハム(約27万円)。毎日平均6時間こじきとして活動していることから、時給に換算すると1500ディルハム(約4万5000円)で、1カ月27万ディルハム(約810万円)という極めて高額の収入を得ていることが分かった。つまり、3カ月滞在するだけで、81万ディルハム(約2400万円)もの収入が得られることになる。
この話が、まとめサイトなどで賑わっていました*1。
で、中国発(台湾発?)のニュースだったからか、この話をまともに信じて密航を企てる中国の少年もいたんだとか。2016年6月の記事。
ドバイで少年と面会した通訳者の話として中国国営メディアが伝えたところによると、少年は「ドバイの物ごいは1カ月に何万ドルも収入がある」という話を信じていた。
中国のソーシャルサイトには以前、こうしたうわさが流れたことがあり、「ドバイへ行って金もうけしたい」という冗談も飛び交っていた。
ゴゴツーさんは、これを「昨年6月」と表記していますが、実際は5月26日の出来事なので間違いです。細かいところですが。
また、「上海国際空港の塀を越えてドバイ行きの旅客機に乗ろうとしていた」とありますが、実は日本語の記事では「塀を越えて」という部分は見つかりません*2。
中国語の成都商报などでは、「塀を越えて」の部分が掲載されています。
徐某在上海一机场翻越围栏,趁保安不注意,潜入阿联酋航空客机货舱。
「围栏」がフェンスでしょう。空港のフェンスを乗り越えて、旅客機の貨物室に潜入していたことがわかります。英語記事でも触れられています。
the boy said he had jumped over a fence at Shanghai airport and climbed into the cargo hold while a security guard looked away, Xinhua added.
Chinese stowaway found in hold of Emirates flight to Dubai - BBC News
というわけで、ゴゴツーさんは、どうやら情報のソースとして、中国語や英語のメディアなりなんなりを使ったのではないか?という推測が成り立ちます。だからどうということもないんですけど*3。
統計調査は存在しない
ゴゴツーさんは、今回の話を「約60人の乞食を相手に月の収入を調査」と書いてありますが、記事で引用されている「ガルフニュース」にはそんなことは書いていません。
まず記事は、
A beggar was recently caught by Dubai Municipality inspectors who was making as much as Dh270,000 per month.
最近、月に27万ディルハム相当を得ていた乞食が、ドバイ捜査当局によって逮捕された。
とあり、2016年の3ヶ月間で「59人の乞食を逮捕(59 beggars were caught )」とのことです。なるほど、ゴゴツーにあるように「約60人」「27万ディルハム」という細かな数字の部分はあっていますが、別に「統計調査」したわけではなく、検挙されたということで、ここは大きな違いです。
この乞食たちは、内国の人間ではなく、海外から来ているようで、「ビジネス・観光ビザ(passports issued with business or tourist visas)」で入っているんだとか。
また、先に引用した27万ディルハムを得た乞食は「A beggar」であり単数形です。その後の記事の続きでは、「we discovered that one beggar was making more than Dh270,000 a month」とあるので、27万ディルハムは平均ではなく、一人の最高の売上、ということになります。
記事では、街の乞食はどこにでもおり、「評判や治安に影響を及ぼしている(it ruins the reputation of the country and also affects the security)」として、見つけた方はこちらまでお電話を!と結んでいます。
つまり、ドバイ当局は統計調査などしておらず、むしろ乞食撲滅キャンペーンの一環として検挙した際に、高額の物乞いを行っているヤツラがいた、という話であります。
乞食は違法か
色々なサイトでは、アラブ首長国連邦にとって、「乞食が違法である」旨が書いてあります。
先日、ドバイのお隣シャルジャで約64万円も所持していたパキスタン人の乞食が逮捕された。実は、UAEは乞食にとって稼ぎやすい国。もちろん乞食は違法なので見つかれば逮捕される。
ドバイの乞食は、相場の時給が1万円にもなる?|海外ニュース・海外情報・セレブゴシップ・セレブファッション最新情報・スパ&エステ海外情報
Begging is illegal in Dubai, yet is incredibly lucrative.
Police Catch A Beggar In Dubai Earning 1.6 Lakh Rupees A Day! - Indiatimes.com
しかし、本当に「乞食行為」自体は違法なんでしょうか?
2017年にも乞食がドバイで52人が検挙されたという記事です。「the anti-begging campaign」の際に検挙されたもので、このほとんどはアジア人で、違法入国者もいたんだとか。しかし、記事の最後には、こうも書かれています。
Officers usually check if a beggar really needs money or is just pretending to be poor before punishing the person with one month in jail...
警察官は通常、乞食が本当にお金を必要としてるか、もしくは貧しいことを主張しているだけなのか判断をする
つまり、乞食行為全てが違法なのではなく、乞食と偽る行為が違法なのではないか、ということです。ガルフニュースは、別記事ではこうも書いています。
“If the beggar was real then we refer him to charities to help him”
もし乞食が本物であるならば、慈善団体を我々は紹介する。
CID patrols to catch beggars in Dubai during Ramadan | GulfNews.com
UAEの法律を調べればよいのですが、どうもアラビア語であまり確かなことは言えません。
上記は詐欺的な乞食について、何がしかの法律が働いていることを書いているように読めるのですが、少々自信がありません。
上記の記事では、物乞いに対する法律が議論されている旨が書いてあります。もしかすると、法律としてどこまで定まっているかが、未決定の部分があるのかもしれません。
今日のまとめ
①ゴゴツーの記事は2016年の話題の焼き直しである。
②800万円以上の物乞いをした者は存在するが、検挙された際にわかったことであり、統計調査ではない。
③未確定ではあるが、UAE諸国において乞食行為自体が違法というよりも、詐欺的にな乞食行為が罰せられると考えられる。
こういう情報は面白おかしく伝えられるものですが、実際にこういう情報を真に受けてドバイまで行っちゃった人もいます。また、実際にUAEにおいて、このような乞食行為は社会問題化している部分もあるわけです。マナーとして、あまりこういうオオゲサな部分に我々も飛びつきたくはないものです。
*1:
ドバイの乞食の月収凄すぎワロタwwwwwwwwwwwwww:ハムスター速報とか
*2:
中国人少年、貨物室に隠れドバイへ密航 9時間のフライト「快適」 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ドバイで物乞いをしたい!中国人の少年が旅客機貨物室に忍び... - Record China
*3:すると、最近、このドバイの乞食の話が英語圏なり中国語圏で話題になったから記事にしたのではないか・・・とも思い、Googleトレンドで調べてみましたが、うーん、あんまりそうでもないようでした。
なぜ今頃この記事をあげたのか、というところがつかめればよかったんですが、単にネタがなかったから、というとこなんでしょうかね。後述するガルフニュースは、「塀を越えて」の部分が存在しないので、ソース元ではなさそうです