ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

北欧では妖精の土地調査を行うのか、更新が滞っております

みなさんは妖精を信じますか? 北欧では広く信じられているようで、こんな話が。

 

 

確かに、日本では妖精というより、もうちょっと八百万の何か、という感じですよね。

 

しかし、この「北欧の公的機関が土地調査をする際に妖精の有無を確認する」という部分がとても気になったので、調べてみました。

 

***

 

アイスランドの話

2014年6月20日のBBCの記事に、アイスランドの道路建設の際に、「妖精がいる」ということで住民から反対されている、というような内容が書いてあります。

 

www.bbc.com

 

アイスランドの「elves」は、かわいらしい妖精というわけでなく、我々と同じようなサイズで、姿が見えない、というだけのようです*1。この北欧の妖精をHuldufólkというのですが*2、Hulduは「隠された」、folkは「人々」を表す意味だそうで、岩やら何やらに隠れていると、結構真面目にかの国では信じられているそうです。

 

BBCでは特に触れられていないのですが、もちょっと調べてみると、この道路建設は何も妖精の話だけでなく、新道路が稀有な溶岩地帯を通るという事で、自然保護団体からの反対もあり、逮捕者も出ているんだとか*3。ただ、その中でもAlfakirkjaという溶岩石があり、それは「妖精の教会」とのことで、この岩をどける作業が行われたんだそうです。将門公みたいですね。公的機関が積極的に調べているようには見えませんが、少なくともそういう存在を(あるいは信じる人の存在を)気にしながら作業をする必要はありそうです。

 

もうひとつ気になる記事が、2016年8月31日のAFPの記事。

www.afpbb.com

こちらは、「エルフの岩」とされている岩を埋めてしまったら、祟りが起こったという、やっぱり将門公の首塚みたいなお話。

 

それよりも気になるのが、

 

一連の出来事を受け、アイスランド道路管理局(Iceland Road Administration)は、岩の掘り出しを決めた。掘り出された岩は先週、高圧洗浄機できれいに泥が洗い流された。この岩は、2012年制定の妖精遺産保護法で「遺物」と定められていた

 

のくだり。「妖精遺産保護法」? なんだそんなファンタジーな法律は。

 

妖精遺産保護法は存在しない

AFPの英文の元記事をさぐると、英語では以下のように書かれています。

 

an artefact according to a 2012 law to protect Iceland's elfin heritage

(岩は)2012年のアイスランドの妖精遺産を守る法律に準じてアーティファクトとされている

Iceland unearths rock to appease angry elves

 

うーん、AFPは元ソースを「Morgunbladid」というアイスランド紙だとしていますので、そっちの元記事を探します。

 

icelandmonitor.mbl.is

 

英語でよかったところですが、ここには「妖精遺産保護法」は出てこず、こんなくだりになっています。

 

The elfin lady stone is classified as an artefact according to laws from 2012 which note that all places reputed for magic or are connected to folklore, folktales, customs or national beliefs should be protected for their cultural heritage.

この「妖精婦人の岩」は2012年の法律によって「遺物」と定められています。この法律は、魔法や民話・民間伝承、風習や国として信じられているものとみなされる全ての場所について、文化遺産として守られるべきものだとされています。

 

どうやら、文化遺産を守るための法律があるようで、これは歴史的価値のあるものだけではなく、民間レベルの信仰のものも含む、というような守備範囲になっていそうですね。

 

というわけで、アイスランドの法律を探して見ると出てきます。

 

Lög um menningarminjar. | Þingtíðindi | Alþingi

 

「文化法(Lög um menningarminjar)」とでも呼びましょうか、日本で言う文化財保護法でしょうね。第2条は国家遺産的なものについて定められ、第3条は「Fornminjar」ということで、Google翻訳の直訳は「アンティーク」になるんですが、考古学的に価値のある遺物、というところでしょうか。

 

3. gr.
Fornminjar

f. þingstaðir, meintir hörgar, hof og vé, brunnar, uppsprettur, álagablettir og aðrir staðir og kennileiti sem tengjast siðum, venjum, þjóðtrú eða þjóðsagnahefð,

 

とあります。アイスランド語はわかるはずもないのですが、「 þjóðtrú eða þjóðsagnahefð」は、「folklore」なので、民間伝承のようなものも含む、ということでしょう*4。恐らくこの部分が、「妖精の岩」が法律によって保護されていた、というくだりにつながるんでしょう。「妖精遺産保護法」なるものは存在せず、より幅広い文化財保護法によって、認定されていたんでしょう*5

 

日本語訳では、これを「妖精遺産保護法」なる珍妙な訳を当てはめてしまったわけですが、そういうのに特化した法律があるわけではない、ということなんですね*6

 

今日のまとめ

①北欧(アイスランド)には、「エルフ」伝承があり、道路工事などの際には祟りのような出来事も起こっているため、慎重になる場合もある。

②「妖精遺産保護法」によって遺物が定められているという記述がネット上にあるが、そのような法律自体はない。

③ただ、民間伝承なども含めたより広範な文化財保護法が設定されており、「エルフの岩」など、認定されているものも多い。

 

どうも「妖精」と書くと、ティンカーベルみたいなひらひらしたヤツを思い浮かべるのですが、北欧のそれは、「隠れた人」という名前のように、存在としてはもう少し霊的な感じがします。翻訳の難しいところです。

 

さて、当ブログは一週間に2回ぐらいの更新を心がけてきたのですが、最近は本業が忙しく、更新はしばらくペースダウンしていきます。一週間に1回ぐらいはペースを守りたいんですが、コメントなどは遅れてしまうこと、ご了承ください。

 

 

 

 

 

 

 

*1:they're the same size as you and I, they're just invisible to most of us

*2:

Huldufólk - Wikipedia

*3:

アイスランドの「隠された人々」 - レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

*4:この法律がいったい、無形も含むのかどうか、というのはよくわかりませんでした

*5:

というわけで、文化省みたいなところが、この法律の管轄のようなんですが、一応文化財マップのようなものはありました。

Minjastofnun Íslands | Kort af Íslandi | Loftmyndir af Íslandi | Íslandskort | Map of Iceland

ただ、くだんの岩がどれに属するのかはさっぱりわかりませんでした。

*6:

ちなみに、わざわざアイスランドの教育科学省に聞いた人もいました。

アイスランド政府に聞いてみた。アイスランドの法律「妖精遺産保護法」って? | TABIZINE~人生に旅心を~