少々夏バテぎみの私としては、苦しい毎日ですが、こんなニュースが話題になってました。
7割以上の人が室温ではなく「空調の設定温度を28度にする」などと、クールビズの前提を勘違いしていることが分かりました*1
とのこと。ところが、私は以前にこの「28度」の基準についての歴史的背景を調べたことがあるのですが、
その時に調べた資料では、「クールビズ」は「冷房の設定温度」を28度にすることだったので、おやおやと思って、今回は上記記事の補完として調べることにしました。
環境省は「設定温度」で考えていた
いわゆる「クールビズ」としての取組みが始まったのは2005年です。今はうんちゃらファーストで話題の小池さんが環境大臣のころでしたね。そのときは、「チーム・マイナス6%」というプロジェクトで、こんなサイトを環境省内に立ち上げていました。
そうなんですね、思いっきり「冷房の設定温度は28℃」のタイトルなんですね。記事内部でも、
すべての事業所等において、夏の冷房の設定温度を26.2℃※から28℃に1.8℃上げるとすると、ひと夏で約160~290万トンの二酸化炭素を削減することができます。
と、全て「冷房の設定温度」で統一されており、どこにも「室温」の文字は読めません。ただ、冬場の暖房については「室温を20℃」にする、とあるので、個人的な解釈では、当時は環境省において、「冷房の設定温度=室温」ぐらいの感覚だったのかもしれません。
これは報道発表資料でも一緒です。2005年当時の「クールビズ」に対する報道発表資料では、こう記載してあります。
環境省では、地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」の活動の一つとして、夏のオフィスの冷房設定温度を28℃程度にすることを広く呼びかけています。
ただ、そのあとで「28℃の室温でも涼しく効率的に働くことができる「夏の軽装」を推進しています」とあり、好意的に解釈すれば、「冷房設定温度を28℃程度にする」ことで、「28℃の室温」を維持していく、と読みとれなくもありません*2。
ところが、この「チーム・マイナス6%」は、こういうポスターも作ってたんですね。ちょっと画像がちっさいですが。
“クールビズ啓発ツール”ダウンロード開始! | 過去のチーム・マイナス6%の新着情報アーカイブ | 気候変動キャンペーン Fun to Share
これは2007年のIDケースにいれるようの画像のようですが、ポスターにも同じように「冷房の設定温度は28℃」という記載があります*3。しかしそうなると、環境省のチームは、「クールビズ」当初は「28℃」を「設定温度」で考えていたことになります。
「室温」に統一され始めたのは2010年ごろ
環境省のこの「設定温度」と「室温」の混在はしばらく続きます。
クールビズ発足の2006年の報道発表資料では、いまだ「冷房の設定温度を28℃」と記載しています*4。
環境省では、昨年に引き続き、冷房の設定温度が28℃のオフィスでも涼しく効率的に働くことができる夏のビジネススタイル「COOL BIZ」を提唱し、地球温暖化防止行動の一つである、冷房の設定温度を28℃にする取組を呼びかけてきました。
先ほども載せた「チーム・マイナス6%」のサイトも、2008年4月ごろの時点で、「冷房は28℃、暖房時の室温は20℃にしよう」という記述*5になっており、「設定温度」の考え方に近いことがわかります。
2009年の理容室のクールビズ推進の話では、
チーム・マイナス6%が推進する冷房時の室温を28℃にしても、快適に過ごすことのできるライフスタイルである「COOL BIZ」の趣旨に賛同し
とありますが、その頃の啓発ポスターを見ると、
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/kodomo/h21/pdf/34-35.pdf
「夏の冷房の設定温度を26℃から28℃に2℃高くすると」とあるので、まだ「設定温度」にこだわりが見えます。
恐らくではありますが、「室温」に統一し始めたのは、2010年ごろからではないか、と推察されます。環境省の「2010年クールビズ実施のお知らせ」では、以下のように記載がされています*6。
環境省では、地球温暖化対策の一つとして、6月1日より9月30日までの間、冷房時の室温を28℃にしても、快適に過ごすことのできるライフスタイル「COOL BIZ」を推進しています。
これ以降、極端に「設定温度」の表現は少なくなっていくので、恐らく2010年ごろが、環境省の中でも「室温」に統一され始めたころなのではないか、と推測できます。
ちなみに、いまクールビズの環境省のページでは、わざわざ「28℃」の但し書きがされています。長いですが、引用します。
「クールビズ」における「室温28℃」とは、どういうことかご存知でしょうか。
まず、「28℃」という数値はあくまで目安です。必ず「28℃」でなければいけないということではなく、冷房時の外気温や湿度、「西日が入る」などの立地や空調施設の種類などの建物の状況、室内にいる方の体調等を考慮しながら、無理のない範囲で冷やし過ぎない室温管理の取組をお願いする上で、目安としているものです。
例えば、冷房の設定温度を28℃にしても、室内が必ずしも28℃になるとは限りません。そういう場合は、設定温度を下げることも考えられます。
「クールビズ」で呼び掛けている「室温28℃」は冷房の設定温度のことではありません。
ちなみに、この「室温」を強調する書き方は2017年7月ごろからのようで*7、それまでは、前の記事にも書きました「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」などを根拠とした「28℃」の理由が掲載されています。恐らくこの記述が変わったのは、今年の5月ぐらいにあった、「なんとなく」28℃に決めた話を受けてではないか*8、と推測します。
当時のメディアの書き方
「設定温度」と「室温」については、当時のメディアにおいても混乱が見られます。
今回は朝日新聞しか過去記事を調べなかったのですが、2005年の「クールビズ」に関する記事を見てみると、どうも「設定温度」の認識であることがうかがえます。
クールビズは、同省が進める「地球温暖化防止国民運動」の一環。京都議定書発効に伴う二酸化炭素CO2の削減目標達成に向け、オフィスの冷房温度を28度に設定して消費電力を抑えるための取り組みだ。
朝日 2005年5月22日 大分 P22
(三重県の)県庁でも庁舎内の冷房を28度に保つと共に、
朝日 2005年6月2日 三重
(クールビズは)冷房温度を28度に保っても職務に支障がない服装をする――。これが基本的な考え方だ。
朝日 2005年6月21日 福岡 P31
これは2006年も一緒で、朝日は「ニュースがわからん!」というニュース用語を解説するコーナーで、「クールビズ」について、以下のように説明しています。
冷房設定、なぜ28度を勧める?
設定温度を28度に。そんなオフィスで快適に過ごすためにクールビズを(以下略)
朝日 2006年7月19日 P37
2008年の経済用語を説明するコーナーでも、以下のように解説しています。
14000以上の企業や団体が賛同し、夏のオフィスのエアコンを28度に設定した。
朝日 2008年11月7日 夕刊 P12
しかし、「室温」という表現も2005年当初から出てきます。
クールビズ スタイル
オフィスの室温を28度に設定することで電力消費量を抑え、二酸化炭素の排出量を削減することを狙ったものである。朝日 2005年6月22日 夕刊 P1
「室温」の話としてクールビズが出てくるのは、2011年ごろからです。
住宅設備機器メーカーのノーリツは「冷房時の室温28度」などのチェックリストをつくり
朝日 2011年5月19日 P6
期間中は、各階に設置した温度計が28度を超えると冷房装置を作動させ
朝日 2011年5月10日 岡山 P27
一応、ネット上で探してみると、「設定温度」で伝えているメディアもいくつか見受けられます。
環境省 のウェブサイトによると、日本のすべてのオフィスでクールビズを導 入し、夏の冷房の設定温度を26.2度から28度に上げることで削減で きるCO2の量は約160万-290万トン。
地球温暖化対策の1つとして小泉純一郎前首相が発案したクールビズは、民間企業と政府機関に対し、軽装と28度以上のエアコン設定温度を呼びかけるもの。
職場のエアコン温度を28度に、と呼びかけるにあたり、提唱されたクールビズ。環境省では職場のみならず各家庭でもエアコンの温度設定を28度にするよう求めている。
今回は系統的には朝日しか調べていないので、他のメディアがどういう形で当時伝えていたかは不明ですが、そうそう大きい違いがあるようにも思えないので、クールビズの当初は、そのメディアの伝え方においても、「設定温度」「室温」の表現は混在していた、と考えるのが妥当でしょう。
企業の目標も混在している
環境省も混乱してればメディアも混乱しているので、当然企業の「クールビズ」に対する目標も混乱しています。
今年は、昨年に引き続き、ポスターの掲示と、冷房の温度設定等の室温管理を行いました。
(中略)
クールビズとは、環境省が提唱する夏のビジネス用軽装の愛称で、夏のオフィスの冷房温度を28度に保った状態でも、涼しく快適に格好良く働けるビジネススタイルのことです。
チーム・マイナス6%が掲げる6つの取組のひとつ「温度調節で減らそう」に焦点をあて、地球球温暖化対策の一環として、オフィスの温度設定について28℃を目安に設定すること
株式会社ダイエー
全店・全事務所において、冷房使用時の設定温度を28℃に徹底するとともに、夏の軽装化として、全従業員が、5月28日〜9月30日まで、「ノー上着・ノーネクタイ」にて、接客・執務に取り組む。
というように、「設定温度」準拠のものもあれば、
夏期オフィス内室温(冷房温度)を28度に設定します。
大塚製薬株式会社佐賀工場
佐賀工場では、省エネルギーと地球温暖化防止のために、夏場の室内温度を「28度」に定めています。今年度も工場全体で室温28度の遵守とクールビズの取り組みを行います。
と、室温準拠にしている企業もあり、様々です。
ということを考えると、今回の調査で「7割が「クールビズ」の意味を間違えている」というよりかは、そもそも成立段階から様々な定義があったために、現在でも混乱が続いている、と見たほうがいいでしょう。なので、今回の報道は「現在の」クールビズの定義については、7割の人が間違えている、としたほうがいいでしょう。
今日のまとめ
①2005年の「クールビズ」発表当時から、28℃については「設定温度」と「室温」両方の表記があり、定義が曖昧であった。
②その後も「設定温度」と「室温」は混在し続け、環境省の中で統一され始めたのが2010年ごろと推測される。
③メディアにおいても、「設定温度」と「室温」の表記は混在しており、2011年ごろまで統一されていない。
④そのため、各企業の目標も「設定温度28℃」もあれば「室温28℃」もあり、そもそも「クールビズ」成立の段階から続いている混乱なので、7割の人間が意味を間違えている、というより「現在の」クールビズの定義については、7割の人が間違えている、としたほうがいい。
当時の小池さんも述べているのですが*9、クールビズは、前回の省エネルックに比べて、メディアの使い方が上手なように思います。ただ、メディアも大本営発表みたいにそのまま垂れ流すのではなく、もうちょっと突っ込んでみると、「7割の人が間違えている」で終わらない話が書けるのになあ、と手前味噌を書いたところで今回の話はオシマイです。
*1:
ちなみに、今回の調査は三菱電機ビルテクノサービスのものです。毎年やってるみたいですね。
ビジネスパーソン1,000名に聞く、夏のオフィス環境に関する意識と実態調査 / ニュースリリース / 三菱電機ビルテクノサービス
*2:
ちなみに添付されている「「チーム・マイナス6%」について」という資料では、
《6つの具体的な温暖化防止の行動の呼びかけ》
◆冷房は28℃に設定しよう(温度調節で減らそう)
とあり、どうも設定温度=室温程度に思っていたと考えるほうが妥当のようです
*3:しかし、別のポスターでは、
と、この段階では、「冷房時の室温」という記載になっています。ただ、アドレス的には2006年のようにも見えますが、そうすると、環境省のプロジェクトチームは、「設定温度」も「室温」もほとんど気にしていなかった、ということになります。
*4:ただし、平成18年の環境白書の概要には、
ノーネクタイ・ノー上着など、オフィスの室温を28℃にした場合でも涼しく格好良く働くことができるビジネススタイル。
とあるので、混在しているようです。
*5:
*6:ちなみに、
2005年の夏より、冷房時の室温を28℃にしても、オフィスで快適に過ごす「COOL BIZ(クールビズ)」を提唱して参りました。
と、さらっと「設定温度」の話はなかったことにされています
*7:
クールビズ|COOLBIZ|COOL CHOICE 未来のために、いま選ぼう。
*8:
*9:
これからもメディアなどに呼びかけまして、じゃ、どんな洋服、どんな服装がいいのか、それはもうそれぞれで進めていただければ、これは広告費が要らないで、それぞれのメディア持ちで勝手に進むわけでございますから、そういった火をつけていくということをやっていきたい
衆 - 環境委員会 - 10号
平成17年05月10日