見出し詐欺というのは世人に嫌われることこの上ないものですが、Yahoo!ニュースにおいて、その見出しが偏向的に変更されているのではないかという話。
不祥事の絶対数が明らかに多いにもかかわらず、見出しから徹底して党名が省かれる自民党。一方で必ずといっていいほど党名が入れられる立憲民主党など野党。
もし見出しにちゃんと党名が入っていれば、自民党議員の不祥事の多さが可視化され、自浄を促す有権者の声も強まるはずですが、Yahoo!ニュースはどうしてこのような見出しの付け方を採用しているのでしょうか。
Yahoo!ニュースの政治家の不祥事のニュースでは、なぜか自民党の党名は抜かれているというのを検証した、という記事です。
しかし、検証したと言う割には、いったいどれほどの数のそのような「偏向的な」見出しがあったのかもわからず、全体的にふわーっとした感じで書かれた記事でしたので、本日は検証の検証という形で記事を書いてみました。
どのぐらいの「不祥事」の見出しがあるのか
Buzzap!さんは、Yahoo!ニュースのトピックの日付指定*1で、「2019年2月20日から2018年10月16日までの過去2000件分の見出しから、与野党議員の不祥事に関するものをピックアップし」たとのこと。
また、直接の記載はありませんが、記事の内容的に、見出しに議員名、もしくは役職名が入っていることも条件かと思われますので、
を条件にして、リスト化してみました。
◯Yahoo!ニュース・トピックの見出しリスト(不祥事のみ)
https://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/16
調べてみますと、全部で81件ありました。2000件(正確には2002件)の中の81件を多いと見るか少ないと見るかですが、Buzzap!さんのように見出しを見比べるだけなら、大した作業でもありません。
見出しを党別にすると、こんな感じになります。
圧倒的に自民党が多いですが、まあ、議員数も多いし、延べ件数なので、桜田五輪相や片山議員など、おんなじ人がおんなじようなことで何回もカウントされています。それもそれでどうかと思いますが。
自民党はそんなに党名が見出しにないのか
さて、内訳を見ていきましょう。
自民党は71件中、見出しに党名が入るのは、なんとたった1件だけです。これは既にBuzzap!さんでも指摘されています。
一方の野党側は、わずか10件ほどの記事の見出しの中に、6件も党名を入れられています。リンクの切れているものについては、掲載元のメディアの記事リンクを載せています。
立民・福山氏、政治利用NGの団体に49万円支出 政治資金から、過去に不適切と返金事例も(京都新聞) - Yahoo!ニュース
一方で、不祥事関連の報道で立憲民主党で見出しに党名が入らなかったのは2件のみ*5。これは確かに、忖度のにおいがプンプンしますね…!
提供元のメディアの見出しと比べる
しかし注意しなければならないことは、Yahoo!ニュースは、某かのメディアから記事提供を受けて成り立っているということです。そうすると、Yahoo!ニュースの見出しは、その提供元のメディアの見出しを元に作ることになります。つまり、
- 提供元のメディアの見出しに党名が入っていない、且つ、Yahoo!ニュースの見出しにも党名が入っていない
- 提供元のメディアの見出しに党名が入っている、且つ、Yahoo!ニュースの見出しにも党名が入っている
状態であれば、そこまで党名が入っているいないに不自然なことはないのではないでしょうか*6。
Buzzapさんは直接指摘してはいないのですが、以下の記事を引用して、検証しているのは「Yahoo!ニュース側が独自に付けている見出し」だとしています。
自民党「田畑代議士」離党騒動の真相 被害女性が “盗撮被害”と“告訴”を独占告白
自民党「田畑代議士」離党騒動の真相 被害女性が “盗撮被害”と“告訴”を独占告白(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース
しかし私には、上記の記事本文には「自民党」が入っているのに、Yahoo!ニュースの見出しになると、
と、「自民党」がすっぽり抜け落ちてしまうことのほうが問題のような気がします。
ただ、私が指摘したいのは、そのどちらにも党名が無記載だった場合、例えば以下のように、記事本文にも党名がなく、
見出しにも党名がない場合、
Buzzap!さんのいうような問題あることにはならんのではないか、ということです。少なくとも、Yahoo!ニュースだけの偏向的な報道ではない、とは言えるでしょう。
ということで、先程のリストのPDFをご覧いただいたかたはおわかりかとは思いますが、提供元のメディアの見出しと、Yahoo!ニュースの見出しをそれぞれ比較した*7ので、そちらの結果を記していきます。
自民党は71件中、65件は、「提供元」「Yahoo!ニュース」ともに、党名が見出しに無記載、もしくは両方に記載してあったものでした。一方の野党側も、見出しに党名の記載有りの割合が高くはなっていますが、10件中、8件が提供元と同等の措置をとっているという結果になっています。
要するに、提供元メディア側には党名が入っているのに、見出しには入っていないバージョン、
のものより、どちらも見出しに党名が入ってないバージョンや、
どちらも見出しに党名が入っているバージョン、
の方が多いというわけです。
また、これはちょっと驚くのが、提供元のメディアが党名を載せていても、野党の場合はその党名をYahoo!ニュースの見出しからとってしまうという傾向が、自民党よりも高いということです。ただ、いかんせん総数が10件しかないので、これだけでは判断に苦しむところです。それよりも、印象としては、多くのYahoo!ニュースの記事の見出しは、提供元のメディアの見出しを逸脱していないのだな、と感じます。
記事全体で掲載元のメディアと見出しを比べる
しかし、81件はスケールとしては非常に少なすぎるので、もう少し範囲を広げて調べてみましょう。今度は、「不祥事」を除いた、記事見出しに「議員名・役職名」が入っている場合の見出しを調べてみます。
◯Yahoo!ニュース・トピックの見出しリスト(不祥事以外)
https://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/17
すると、不祥事を除いた、見出しに「議員名・役職名」が含まれている記事は全部で139件あることがわかります。党名別にすると、こんな感じです*8。
相変わらず自民党が多いですが*9、比率としてはそこまで変わらなさそうです。
これを、先程の「不祥事あり」のものと合わせると220件となり、先程よりはちょっとだけ見栄えがよくなります。そこで、同じように、掲載元のメディアの見出しの党名が入っている入っていないで比べてみると、このようになります。
やはり、掲載元のメディアに沿って、党名を入れたり入れなかったりしている場合が多いです。比率としては、やっぱり野党の方が、Yahoo!ニュースの見出しにだけ党名を入れないということが多くなってしまうんですが、うーん、ここらへんのところ、みなさんはどうお感じになるでしょうか。
野党も見出しに党名が入っていない場合がある
2例だけですが、野党の場合にも、提供元のメディアの見出しには党名が入っているのに、Yahoo!ニュースには入っていない、という場合があります。立憲民主党の青山議員のセクハラ疑惑の話です*10。
わざわざYahoo!ニュースの見出しで「立憲」の文字をとってしまう、ここらへんはどう考えればいいんでしょうね。
また、不祥事の見出しに「党名が入っていない」ということであれば、「日本のこころ」の怪しい話にも、党名が入っていない記事があります。
この記事の時点で中山氏は「日本のこころ」からは離党しているからかもしれませんが、「元代表」とか、「希望の党顧問」みたいな見出しをつけることもできたはずです。ここらへんもどう考えればいいでしょうか。
野党も党名を外されていた
また、現在は野党に甘んじている立憲民主党=民主党が与党だった時代にも、それなりの不祥事があり、それなりの報道がされていました。
例えば、2011年4月25日には、当時官房長官だった枝野氏が、避難区域からいわき市を除外した理由を市からの要望とした点について「誤解を招く発言」として謝罪しています*11。
が、それを伝える見出しに、「民主党」の字は入っていません。
他にも、2010年8月24日の報道では、民主党の後藤英友議員が、選挙違反で辞職を表明しています*12。しかし、それを伝える見出しには、やはり「民主党」の字は入っていません。
これはいわゆるチェリーピッキングなので、そういう事例をわざわざ探して載せているのですが、では自民党の場合もそうではないと、言い切れるのでしょうか。
なぜ党名を外さなければいけないのか
ここからは、私なりの推測です。
今回のYahoo!ニュースのトピックスの見出しの平均字数は約13.7字、半角数字が入って、15字程度が限界と思えます。これは、掲載元のメディアの字数の平均が25字程度であることを考えると、かなり少ない数字でしょう。
実は、前項の民主党の後藤議員の辞職表明は、表明時には見出しに「民主党」は入りませんでしたが、実際に辞職した記事には「民主党」の字が入っています。
「表明」を入れると、残念ながら党名が入らなくなるので、「表明」の際には党名を外したのではないかな、と思われます。すごく単純でつまんない話なんですが、字数の関係で党名は削らざるを得ない、ということもあるんではないでしょうか。
また、自民党の記事が多くなるからくりとして、そもそも政権与党だからということがあります。当たり前ですが、野党よりも与党の政府中枢にいる議員のほうがニュースを賑わせます。記事に出てくる中でダントツで多いのは安倍首相でしょう。安倍首相のことは、いちいち自民党議員であることを断りません。それは、菅官房長官だったり、桜田五輪相だったりも同じで、どうも、閣僚級の役職がついている場合、党名をつけない傾向がある*13な、というのを感じました*14。それがメディア的な不文律なのかたまたまなのかはわかりませんが、閣僚に不祥事ネタが多いので、結果として、自民党の記事には党名がついてないように感じる、ということがあるんではないでしょうか。
あとは、知名度の問題もあるんではないでしょうか。「大西議員」「後藤氏」といわれても、政治の世界に疎い私にはあんまりピンときません。議員一覧を見てみると、「大西議員」は自民党に2人もいますし*15、後藤さんも別の自民党の方がいらっしゃいます。知名度に応じて、やっぱりそれなりに所属先、というのは大事になってくるんじゃないんでしょうか。
とまあ、こうやって推測を書いてみるとなんともつまらないことしか書けないのですが、得てして陰謀論というのは、そんなもんじゃないのかなあと、個人的には思います。
今日のまとめ
①Yahoo!ニュースで議員名などがつく「不祥事」の見出しは、2002件のうち81件、「不祥事以外」の見出しを合わせても、220件程度である。
②Yahoo!ニュースの見出しは、提供元のメディアの見出しを使用するので、そのメディアが党名を入れているか入れてないか検証することが重要である。
③②について検証すると、基本的に党名については、与野党とも8割程度が見出しを提供元のメディアに合わせていた。むしろ割合として考えると、野党側のほうが、Yahoo!ニュースの見出しのみ党名を抜いている傾向が高かった。ただ、スケールが小さく、判断は留保すべきである。
④このことから、Yahoo!ニュース独自で党名を見出しに入れるかどうかの判断をしているとは、この資料からだけでは考えにくい。
⑤見出しに党名を入れるかどうかの判断は、
・文字数を少なくするため
・閣僚には党名が不要であるため
・知名度によって必要性が変わるため
と個人的には推測する。
今回わかることはここまでです。残念なことに、何万とある記事の見出しのたった200件ほどから傾向をつかめるとはあまり思わない方がいいでしょう*16。これ以上は手作業は無理なので、パソコンに強い方がトライしてみるとよいかもしれません。今回の記事は、小さなスケールの中で感じ取れる傾向、ぐらいに留めておいていただけるとよいでしょう。
甚だ僭越ですが、Buzzap!さんの着眼点は私も面白いなと思っただけに、検証の仕方が結果ありきで進んでいることが残念でした。私はこの記事でもって左だ右だと言われることは望まないのですが、立場でものを考え出すと、手元が疎かな予言めいた話になってしまうので、私も気をつけたいなあと思います。
*1:
トピックス - Yahoo!ニュースから指定できます。Buzzap!さんはその中の「国内」に絞って調べたようなので、それに倣いました。
*2:何をもって「不祥事」と考えるかは意外と難しく、例えば安倍首相の「サンゴ移植」「森羅万象」なんて発言を不祥事と捉える人もいるかも知れませんが、今回はそういったものは省き、失言ですとか、ルール違反のようなものに絞っています。後述するように、「議員名・役職名が入った見出し」全てのリストには入れています。
*3:そのため、例えば「安倍外交」のようなものは人そのものとはいい難いと思い外しています。
*4:森さんの記事なんかもありましたが、あの方は議員は引退されているので、外しています。
*5:
Buzzap!さんは、「Buzzap!編集部で確認した限り2000件中この1件のみ」とありますが、この記事をカウントしなかったのでしょう。
辻元氏の献金は「不祥事」に入るでしょうから、この記事の主語は違うとはいえ、ルールに則るなら、「立憲」を入れたほうがいいということになるでしょう。(事実、記事元の時事通信には入っています。)
*6:
逆に、提供元のメディアの見出しに党名が入っていないのに、Yahoo!ニュースの見出しにわざわざ党名を入れるとすると、Buzzap!さんの主張にのっとるなら、それはそれで別のベクトルの忖度を感じてしまいます。
*7:
この作業が大変タイヘンで、何がタイヘンかというと、「このYahoo!ニュースの見出しは、どこのメディアの提供を受けた記事なのか」がわからなくなるんですね。1週間をすぎると、Yahoo!ニュースのリンクは切れていくので、Googleのキャッシュを駆使したり、個人のブログが引用しているものを探したりして、なんとか探し出しました。
探すコツとしては、記事見出しのリンクは、
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6314508
のような番号で管理されているのですが、記事本文のリンクは、
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190220-00000061-kyodonews-soci
となっており、末尾を見ると、どこのメディアが提供元なのかわかる、というリンクになっています(この場合は共同通信)。
が、PDFの付記にも書いたとおり、このリンクを探し出すことがかなり難しくて、ちょっと中には自信のないものもあることは、ご容赦いただければと思います。一つに絞れないときは、複数のメディアの記事を載せています。
*8:
ただし、一記事の見出しの中に複数議員が出てきた場合はそれぞれカウントしているので、記事総数よりもこの党の合計数は多くなり、全体では227件でカウントしています。
*9:
あとで書くように、首相などの役職もいれているためです。
*10:
Buzzap!さんも取り上げてはいますが、「立憲民主党議員の不祥事で見出しに党名が入らなかったケース」として掲載しています。しかし、ここで問題になるのは、見出しが入っていないことではなく、提供元のメディアに入っているのに党名が抜けているという点です。
*11:
asahi.com(朝日新聞社):いわき市除外発言で枝野官房長官陳謝 「誤解招いた」 - 東日本大震災
*12:
*13:
最初、議員名のみの見出しで検証しようと思ったのですが、そうするとほとんど検証する記事がなくなってしまうので、役職名は残しました。
*14:
でも、片山議員は、地方創生担当相の役職がついていることが多かったのに、最近は「片山氏」だけで語られることが多いのはなんでなんでしょ。
*15:
議員一覧参照
*16:
Buzzap!さんは、「2000件中」という表現を使っていますが、2000件の中には全く関係ない記事の方が多いので、これはミスリーディングを誘います。