ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「逆エイプリルフール」は存在するか、嘘もつき続ければ魚になる

今年のエイプリルフールはみなさん、どんなイタズラをするかもう考えましたか? 今日はそんな四月馬鹿のお話です。

 

 

タニタさんが、WIkipediaのエイプリルフールの項である内容でもって、2019年は「逆エイプリルフールの年」と呟いておりました。Wikipediaの内容は以下のとおりです。長いですが全文引用します。

 

その昔、ヨーロッパでは3月25日を新年とし、4月1日まで春の祭りを開催していたが1564年にフランスのシャルル9世が1月1日を新年とする暦を採用した。これに反発した人々が、4月1日を「嘘の新年」とし、馬鹿騒ぎをはじめた[4](これ以降は嘘の起源と思われる)。

しかし、シャルル9世はこの事態に対して非常に憤慨し、町で「嘘の新年」を祝っていた人々を逮捕し、片っ端から処刑してしまう。処刑された人々の中には、まだ13歳だった少女までもが含まれていた。フランスの人々は、この事件に非常にショックを受け、フランス王への抗議と、この事件を忘れないために、その後も毎年4月1日になると盛大に「嘘の新年」を祝うようになっていった。これがエイプリルフールの始まりである。

そして13歳という若さで処刑された少女への哀悼の意を表して、1564年から13年ごとに「嘘の新年」を祝い、その日を一日中全く嘘をついてはいけない日とするという風習も生まれた。その後、エイプリルフールは世界中に広まり、ポピュラーとなったが、「嘘の新年」は次第に人々の記憶から消えていった。

エイプリルフール - Wikipedia

 

あまりにも嘘くさい話だったので思わず「ウソやん」と呟いてしまったのですが、タニタさんにもフォローしてもらったので、ちょっとちゃんと調べてみました。

 

 

***

 

エイプリールフールの起源はわからない

そういえば、この前のチコちゃんでもやっていたのですが、基本的にエイプリルフールの起源は諸説ありすぎて、正確なところは今のところ誰もわかっていません。

 

ブリタニカにはこう記述されています。

 

Some have proposed that the modern custom originated in France, officially with the Edict of Roussillon (promulgated in August 1564), in which Charles IX decreed that the new year would no longer begin on Easter, as had been common throughout Christendom, but rather on January 1. Because Easter was a lunar and therefore moveable date, those who clung to the old ways were the “April Fools.”

(エイプリールフールの起源は)シャルル9世が命じた、キリスト教徒にとって共通だったイースターではなく1月1日を新年にしようとする現代のフランスの慣習、正式にはルシヨンの勅令(1564年8月公布)によるものだという主張もあります。イースターは太陰暦であり、そのために移動可能な日だったため、その古い慣習にしがみついている人々を「四月馬鹿」と呼んだというものです。

April Fools' Day | social custom | Britannica.com

 

この説が今のところ穏当な見方なようですが、当然反論もあります。

 

ユリウス暦は1月1日を新年と定めていましたが、フランスの多くの地域では少なくとも14世紀以降、イースターを年の始まりとしていたようです。しかし一方で、1月1日も伝統的な年の始まりと広くみなされていて、人々は贈り物を交換していたとか*1

 

けれどもこのイースターを年の始めとする方法は実用上かなり不便だったみたいで、1500年頃には多くのフランスの人々は1月1日を年の初めとしていたという話もあります*2。そのため、16世紀初めには、両方の形のカレンダーを掲載するような形がとられていたんだとか。そして、シャルル9世による勅令があり、その18年後の1582年には、グレゴリオ暦へ改定されたわけです。

 

THE MUSEUM OF HOAXES(いたずら博物館!)は、以上のような歴史的背景から、

 

The switch to January 1 did not occur suddenly in France. It was a gradual process, spanning an entire century. And even before the switch, the French New Year had no obvious connection to April 1st.

フランスでは、1月1日への変更は突然起こったわけではありません。それは1世紀全体にわたる段階的なプロセスでした。そして、その変更の前ですら、フランスの新年というものは、「4月1日」に明白な関係をもっていたわけではないのです。

The Origin of April Fool’s Day

 

と、この改暦説に異を唱えています。

 

他にも、春分点と関係があるんじゃないかとか、ローマやケルト人のお祭りとうんたらかんたらとか*3、百家争鳴という感じで、結局よくわからない感じです。

 

シャルル9世は処刑していない

ただ、前述したように、シャルル9世の勅令の前から、フランスでは1月1日を新年の始まりとする感覚があったことを考えると、果たしてWikipediaの書くように、人々がそれに「反発した」のかは少々疑わしいところです*4。「馬鹿騒ぎ」みたいなことはあったかもしれませんが。

 

すでに指摘がありますが、Wikipediaの「エイプリルフール」の項目に、シャルル9世の「処刑」のことが書いてあるのは日本語版だけです*5

 

これはネット上も同じで、英語やフランス語でいくら探しても、「エイプリルフール」と「シャルル9世の処刑」を結びつけるページは出てきません。1564年当時、シャルル9世はまだ14歳。母后が実権を握っていたようですが、どうかなあ、ちょっと若すぎないかなあという感じです。後にサン・バルテルミの虐殺が起こったときは22歳ですので(これも色々な説があるようですが)、この話とごっちゃになってるんじゃないかなあと個人的には思いました。

 

いずれにせよ、確実なことは、

 

  • シャルル9世がエイプリルフールに処刑した記述は日本語のサイトにしかない
  • そのため、「逆エイプリルフール」の記述も日本語のサイトにしかない

 

ということです。

 

 

つまりこれは「四月馬鹿!」

では、いったいWikipediaに記述した人は、どこからこの話を持ってきたのでしょうか。

 

この「逆エイプリルフール*6」がWikipediaに記載されたのは2006年です。

 

その昔、ヨーロッパでは3/25日を新年とし、4月1日まで春の祭りを開催していたが1564年にフランスのシャルル九世が1月1日を新年とする暦を採用した。 これに反発した人々が4月1日を「嘘の新年」とし、馬鹿騒ぎをはじめた。 しかし、シャルル九世はこの事態に対して非常に憤慨し、町で「嘘の新年」を祝っていた人々を逮捕し、片っ端から処刑してしまう。 処刑された人々の中には、まだ13歳だった少女までもが含まれていた。 フランスの人々はこの事件に非常にショックを受け、フランス王への抗議と、この事件を忘れない為に、その後も毎年4月1日になると盛大に「嘘の新年」を祝うようになっていった。これがエイプリルフールの始まりである。 そして13歳という若さで処刑された少女への哀悼の意を表して、1564年から13年ごとに「嘘の嘘の新年」を祝い、その日を一日中全く嘘をついてはいけない日とするという風習も生まれた。 その後エイプリルフールは世界中に広まり、ポピュラーとなったが、「嘘の嘘の新年」は次第に人々の記憶から消えていった。

エイプリルフール - Wikipedia

 

2006年当時は、13年周期を「嘘の嘘の新年」としていますが、注目すべきはその日付で、いつ書かれたかというと、「2006年3月31日 (金) 19:22 」です。むむ?

 

f:id:ibenzo:20190326015241p:plain

*7

 

もしこれが、UTC採用の時間なら、日本では9時間+になるので、おお、4月1日になるじゃありませんか

 

IPを書くのもなんなので、これを編集した人を仮にAさんとしますが、Aさんは日本時間の2006年4月1日4時22分に、「逆エイプリルフール」の話を投稿します。一度、他の人によってその記述は削除されるのですが、4月1日9時57分にもう一度同じように投稿をします*8

 

そして、Aさんは、エイプリルフールの終わった4月2日2時37分の時点で、この「逆エイプリルフール」の記述を自ら削除しています。

ja.wikipedia.org

 

これは明らかに、エイプリルフールネタを狙ってやったと思って構わないでしょう。まさにこれを読んで「なるほど!」と思った人は、みんなに「エイプリルフール!」と叫ばれるわけです。

 

復活の「逆エイプリルフール」

しかし、Aさんによって一日のエイプリルフールネタとして消化されるはずだった、この「逆エイプリルフール」、別の人物によって*9復活させられます。

 

4月15日22時19分の版では、全く同じ「逆エイプリルフール」の記述が復活しています。

ja.wikipedia.org

 

そして、この記述はそのまま流されてしまい、現在に至ります。

 

もともと、このWikipediaのエイプリルフールの項目は、ネタのような「エイプリルフール」ジョークが何度も書かれては消されてを繰り返されている項目です。少し列挙するなら、

 

日本で、エイプリルフールが広まったのは「パチンコの負けをごまかすためにこの日にスリにあったと嘘をついた者がいた」ためとする説があるが、パチンコのない時代からこの日に嘘をつく風習が記録されており、これ自体がエイプリルフールによるガセネタの可能性がある。

エイプリルフール - Wikipedia

 

とか、

 

なお、2008年の4月1日は、エイプリルフールが創設され100周年となるため、世界的に4月1日に嘘をつくことは禁止されているので、注意が必要である。

エイプリルフール - Wikipedia

 

といったものとか、

 

なお、これらのことも全て嘘である。 というのも嘘の嘘である。

エイプリルフール - Wikipedia

 

というメタ的発言まで、まあ、一時は保護をかけられたり荒らし認定されるような状態が続いておりました。

 

しかし、最近はちょっと下火になってきていたようで、もはやこの「逆エイプリルフール」の真偽など忘れられ、2018年4月5日には、「嘘の嘘の新年」という表現が「誤字修正」として、「嘘の新年」と書き換えられる始末です。

 

今日のまとめ

①エイプリルフールの起源について確かなことは学術的にははっきりしていない。

②「シャルル9世が処刑した」という記述は日本語サイトにしか見られず、従って「逆エイプリルフール」説も日本語のサイトにしかない。

③「逆エイプリルフール」説がWikipediaに記述された日は4月1日であり、4月2日に投稿者によって削除されたことを考えると、エイプリルフールネタだった可能性が高い。

④その後、何者かによって「逆エイプリルフール」説が復活し、現在に至る。

 

一応、慎重な書き方をするなら、「逆エイプリルフール」の根拠は私が見つけられなかっただけで、どこかに存在している可能性はあります。ただ、状況証拠的にそれは低いんじゃないかなあと思うわけです。

 

私がすごいなあと思うのは、2006年からまさに13年間(!)、この記述は変えられずに残ってきたわけです。そして、いまやあらゆるまとめサイトによって、真偽不明のまま転載されまくっています*10

 

13年間つき通されたウソというのは、数あるエイプリルフール史の中でも最長の部類に入るんじゃないんでしょうか。嘘もつき続ければなんとやら。これを愚かと笑っていると、「エイプリルフール!」と、指をさされそうです。

*1:

January 1, following the Roman custom, was widely regarded as the traditional start of the year, and it was the day when people exchanged gifts.

The Origin of April Fool’s Day

 

*2:

The practice of starting the year on Easter Day caused enormous practical inconvenience, so around 1500 many people in France began to use January 1 as the start of the calendar year.

The Origin of April Fool’s Day

*3:

Snopesにも記事があります。

www.snopes.com

*4:

この本を読めばいいのですが、ちょっとすぐには手に入れられないので、読んだら追記します。

話のネタ365日 [五訂版]今日は何の日

話のネタ365日 [五訂版]今日は何の日

 

 これの四訂版です。

*5:

参考までに。

April Fools' Day - Wikipedia

Poisson d'avril — Wikipédia

 

*6:

ただし、Wikipedia上に「逆エイプリルフール」の記載はありません。この用語を考えたのは別の誰かでしょう。今回は直接関係ないので調べませんでした。

*7:すでにこの版では、「2005年の祝日法改正により、2007年からは国民の祝日「万愚の日」となる」というふざけた記述が見られます。

*8:

ja.wikipedia.org

*9:

IPが違うだけなので、本当は同一人物かもしれませんが、ここでは別人とします。

*10:

先ほどご紹介したフランスのエピソードの中で、13歳の少女が殺されていましたよね。その彼女を悼んで、13年に一度「逆エイプリルフール」、つまり嘘をついてはいけない4月1日があるんです。ちなみに次の逆エイプリルフールは、2019年です。

嘘は正午までに!?エイプリルフールの豆知識まとめ

 

シャルル9世が処刑した人々の中に
13歳の少女が含まれていたことから、

彼女への哀悼の意を表して1564年から
13年毎に「嘘の嘘の新年」を祝い、

その日を1日中、全く嘘をついてはいけない日
とする風習がうまれました。

エイプリルフールの語源の意味!逆エイプリルフールって?由来は? | なにそれ倶楽部