ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

犬を助けたイルカはいるか、すべての情報は話半分

こんなツイートを見かけました。

 

 

私が見た時には3万のいいねを獲得しており、バズっていたといってよいでしょう。実はこの話は部分的に不正確な情報が含まれており、何年も前に英語圏では指摘されています。わざわざ記事にするまでもないのですが、思うところあって簡単に不正確な部分を指摘します。

 

 

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写真と記事の犬種が違う

ツイートに載っているリンク先のサムネイルには、イルカに載っている犬の写真が貼られています。

 

homeandfurnituredesigns.blogspot.com

 

f:id:ibenzo:20191102182910p:plain

https://homeandfurnituredesigns.blogspot.com/2019/10/dog-falls-into-canal-and-starts-to.html より

しかし、記事にはこう書いてあります。

 

No one noticed when or how the Doberman fell into the canal of Marco Island, Florida.

フロリダ州のマルコ島の運河に、そのドーベルマンがいつどうやって落ちたのかは誰も知らなかった。

Dog Falls Into Canal And Starts To Drown, Until Group Of Dolphins Saves Him In Incredible Manner - Science And Nature

 

写真の犬はどう見てもドーベルマンではないですね。

 

この写真は全く別件のもので、以下の、犬とイルカの交流を描いた動画のキャプチャです。下記の4:02あたりから見ることができます。

 

www.youtube.com

 

ドーベルマンは溺れていない

この物語の発端はいくつかあるかもしれませんが、NBC2のニュースが一次ソースに近いものでしょう。2011年2月23日のもの。記事にはこうあります。

 

Dolphins got a neighbor's attention - alerting them to a stranded pooch in shallow water.

イルカは近隣住民の注意をひきました。浅瀬で身動きのとれなくなった犬がいる、という注意です。

Dolphins help save tired dog stuck in canal - NBC2 News

 

実際の動画もあります。

 

www.youtube.com

 

また、ABC7の記事によると、最初に助けたのは消防隊ではなく、そのイルカに気が付いた隣人の女性だったということです*1。また、「大群」かどうかも記載がないのでなんともいえません。複数はいたようですが*2

 

なので、事実としては、「①浅瀬で身動きのとれなくなったドーベルマン」の周りに「②イルカが集まって音を立て」、「③その音に気が付いた近くの人が助けた」ということのみです。マルコ島はイルカが近くに見られるスポットでもあり、イルカが果たして犬を助けようとして周りに集まっていたかどうかは、ちょっとわかりませんね。まあでも、飼い主にとってみたら、そういう話は野暮ってものです。

 

再話される「犬を助けたイルカ」

しかし、この記事の1週間後ぐらいには、既に改変された「犬を助けたイルカ」が語られています。

 

But Turbo wasn’t on any street; he was running out of steam trying to stay afloat – and with the tide now rising.

しかしターボはどこにもいません。彼は浮かぶための空気を使い果たそうとしています。そして潮位は上昇を続けています。

Zoe – It's Our Nature : Turbo and the Dolphins

 

これはまさに溺れている情景ですが、元の記事にはそのような表現はありません。

 

2013年2月には、例のイルカの上に犬が乗っているキャプチャをつけて、この「犬を助けたイルカ」が語られています。

 

www.youtube.com

 

そして、日本でも拡散されていきます。

news.aol.jp

buzzmag.jp

 

また、この話は、いわゆる捕鯨の反対派のような方たちのひとつの材料としても使われていきます。

 

www.treehugger.com

savethewhales.org

この話が英語圏で広まるのは、その辺とも関係あるかもしれません。

 

 

今日のまとめ

①事実としては、

・ドーベルマンが運河に落ちた

・浅瀬から戻れずにいた

・そこにイルカが集まって音を立てていた

・それを聞いた近所の人が助けた

であり、イルカに犬を助ける気があったかはわからない。

②早い段階で物語は改変されており、2013年ごろには、イルカの上に載っている犬の画像が載せられている。

 

検証としては既にされているものであり*3、はっきり言ってそんなに苦労しないで事実の確かめられるものです。

 

今回とても気になったのが、既にこのツイートがされて1週間ほど経ちますが、誰もこの事実の瑕疵について指摘していないことです*4。私は英語圏のサイトを使いましたが、実は「フロリダ マルコ島 運河 犬」ぐらいの日本語で検索しても、以下の記事なんかが上位に出てきます。

 

karapaia.com

 

以前に別の記事*5で、「人は政治的案件については情報源を気にして、雑学的案件にはそれほど興味を示さない」と書いたのですが、これもまあ、似たような話です*6

 

しかし改めて考え直してみると、我々はそんなにはっきりと、情報の「種類」で態度を区別できるもんなんでしょうか。仮定の話ではありますが、「政治家の嘘は許さん!」と言っている人が、この手の話に気軽に「いいね」を押しているかもしれない、ということです。なので、より正確に考えるなら、結局は自分の好みで信じるか信じないかを決めているということでしかない、なんではないでしょうか。これは、人間の性質みたいなもんじゃないかなあと思います。そうやって物語って語り継がれてきたりしたわけですし。

 

無論私も例外ではありません。なので、私の基本的なスタンスは、「すべての情報は話半分」です。デマの拡大は発信側ではなく、受け手側の問題ですから。

 

 

*1:

The neighbor jumped in the water after calling 9-1-1 and got Turbo out.

その隣人は911を呼んだ後で水に飛び込み、ターボを救い出した。

Dolphins help save tired dog stuck in canal - NBC2 News

とありますが、正確にはその近所の夫婦の夫が見つけ、妻が梯子でその犬の近くまで行ってそばにいてあげて、そのあとに来た消防士によって犬は助け出された、ということです。この奥さんは獣医の助手もしていたそうで。

www.abc-7.com

*2:

Burnett and the unnamed woman who saw him in the canal and called 911 credit dolphins in the canal with Turbo's rescue.

Dolphins help save tired dog stuck in canal on Marco Island - VIDEO/PHOTOS - Naples Daily News

とあるので、複数いたのでしょう。大群ではなさそうですが。

*3:

例えば

Dolphins Help Save Dog from Drowning - Facts Analysis - Hoax Or Fact

*4:

一応、リプ欄には、「なんで犬種が違うのか」みたいな指摘はありますが、それ以上発展していません。

*5:

www.netlorechase.net

*6:追加で推察するなら、今回の件は、「ソースが他言語であったこと」「一部の事実が不正確であったこと(物語すべてが嘘ではない)」が、より事実をわかりにくくしたのでしょう。もしくは、政治的案件をリツイートする人と、こういったいい話系をリツイートする人のカテゴリがだいぶ違うのか。