大変久しぶりです。特に何かあったわけではなく、単純に忙しい日々でした。
世間から忘れ去られてしまう前に、ちょこっと記事を書こうと思います。こんな画像がバズってました。
信頼できるメディアは?→ 1位「テレビ」、2位「新聞」、3位「ラジオ」(池上彰のニュースそうだったのか!!) | Share News Japan
これについて、「おいおい嘘はやめろよ」「テレビがテレビを挙げるなんて...」みたいなツッコミコメントが多数ついていました。
定期的に前から挙げられてはおんなじような反応が跋扈している話題なのですが、このアンケート、どの程度信憑性があるのか、というところを調べてみました。結論を書けば、「まあ普通の結果だろうけど実は…」という感じです。面倒な方はいつも通り「今日のまとめ」だけ読んでください。
【目次】
放送内容について
さて、事実関係から確認します。
問題のテレビは、2020年7月18日にテレビ朝日で放送された「池上彰のニュースそうだったのか!! 『「最近の若者」から日本を知ろう!2時間SP』 」です。
具体的な番組内容までは動画を見られないためにわかりませんが、カカクコムのテレビ紹介情報には以下のように書かれています。
一方で、必要な情報を何から得ているかというアンケートでは1位がテレビで82.1%、信頼できるメディアでもテレビが1位の結果となっていた。また、学習指導要領の変更により、新聞の活用があらためて求められている。池上は新聞を使う授業が今後増えていくと解説した。その中で、16歳以上の男女を対象に、月に1冊も本を読まないひとはどれぐらいか調査すると47.3%という結果が出ている。しかしこの結果は10年前からほとんど変わっておらず、小学校低学年の結果を見るとむしろ倍増しているということだった。
価格.com - 「池上彰のニュースそうだったのか!! 〜「最近の若者」から日本を知ろう!2時間SP〜」2020年7月18日(土)放送内容 | テレビ紹介情報
その前には新聞の話題を中心に出していて、「テレビ」自体は大して触れられていない印象です。
アンケートの元は何か
元アンケートについては、しっかり出典が明記されているのですぐにわかります。日本財団が行っている、「18歳意識調査」です。
2019年9月に実施されており、対象は全国の17歳から19歳の男女、インターネット調査によるもので、回答数は1000。当然ではありますが、除外者として「印刷業・出版業/マスコミ・メディア関連/情報提供サービス・調査業/広告業」が挙げられています。
くだんの画像の回答については、2つのアンケートから結果をとってきたものと思われます。1つ目は第19回のもの。この時のテーマは「メディアについて」。
Q あなたは必要な情報を何から得ていますか。あてはまるものを全て選んでください。(複数回答)
こちらは複数回答なので、結果はもちろん100%を超えます。
第19回18歳意識調査「テーマ:メディアについて」調査報告書 より*1
数値が一緒なので、こちらで正解でしょう。
もう1つは、第2回のもの。この時は「新聞」について。
Q3 普段利用している・していないに関わらず、以下のメディアの中で信頼できるものを全てお選びください。
第2回18歳意識調査「テーマ:新聞について」調査報告書 より*2
順番も、「テレビ、新聞、ラジオ」なのでこちらで正しいでしょう。
調査方法を見る限り、至極まっとうな統計だとは思うので、これにケチをつけるのはうーん、なんだろう、日本財団となんか癒着とかを疑えばいいのかなあ。
他の調査と比較する
こういう統計が正しいかをちゃんと検証するのは私には無理ですが、ふわっと確認することはできます。他の似たような調査と比べるのです。
ということで、令和2年度の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(総務省)の資料を見ます。
「いち早く世の中のできごとや動きを知る」際に利用するメディアについては、以下のような結果が出ています。
全年代平均で「テレビ」は42%ですが、10代になると23.9%まで下がります。
ただしこれは「いち早く」というスピードを求めている結果なので、40代まではインターネットが優勢ですね。次の「世の中のできごとや動きについて信頼できる情報を得る」際に利用するメディアについては逆転します。
10代は「テレビ」が52.8%、インターネットは32.4%になります。また、新聞も7.7%と、多少存在感が出ます。
「各メディアの信頼度」という設問においても、10代において「テレビ」はトップを獲得しています。
日本財団のものとは設問も選択肢も違う部分があるので単純比較はできませんが、「テレビ」にある程度信頼が置かれている、というのはそうそう大きな間違いではないのではないでしょうか。
各国の比較
総務省は面白いデータも出していて、各国との比較もしています。少し古いですが、平成28年度の情報通信白書です*3。
赤がテレビ、青がインターネットです。残念ながら20代からなのですが、「いち早く~」利用するメディアについては、この年は日本の20代は「テレビ」について36.5%占めています。続けて、
アメリカ:32.5%
イギリス:31.9%
ドイツ:20.0%
韓国:7.5%
中国:25.0%
となっています。韓国の低さが目立ちますが、これはインターネットの普及率と関係がありそうです。いずれにしても、アメリカやイギリスなんかと比べても乖離している数字ではありません。
興味深いのは「信頼できる情報を得る」際に利用するメディアについては、日本と各国は差があります。
日本はこの年、20代は36%程度なのですが、他の国はおおよそその半分程度しかありません。「ラジオ」や「インターネット」の信頼度が他の国では大きく、「新聞」の信頼度が日本の方が大きいのも特徴のひとつでしょうか。ここら辺の調査、コロナのいろいろがあった今は、だいぶ変わっているかもしれませんが。
ここだけ切り取るなら、日本の若者は、いち早く情報を得る手段としてテレビを利用するのは他の国と同じだが、他国よりも信頼できると感じている、と言えるでしょうか*4 。
なぜ「テレビ」なのか
とはいっても、皆さん、どうしても「テレビ」を1位にしたくないようなので、なぜ日本財団のアンケートで「テレビ」が1位なのか考察してみます。
まず、「必要な情報」を手に入れるのに「テレビ」が断トツで多いのは、単純な話をすれば、その普及率にあるのではないでしょうか。内閣府の調査によると、令和3年3月における普及率は二人以上世帯で96.2%*5。一方、インターネット利用率については、2020年の調査ですが、83.4%*6。
まあ、上記の話はちょっと短絡的過ぎるので、先ほどの日本財団のアンケートの他の設問を見てみます。第19回のアンケートでは、「テレビ」に対するイメージについてこんな回答が多いです。
「手軽」「無料」というのがトップ2です。これは第2回の調査でも同様の傾向*7が見られていて、対象メディアを利用している理由のトップ2がやはり「便利」「無料」となっています。次いで「普段からよく目にするものだから・昔からあるから」が続いており、この3つの要素は確かに「テレビ」が兼ね備えています。
また、総務省の調査は「インターネット」という、ざっくりした項目ですが、日本財団の方は「ニュースサイト」「ソーシャルメディア」「動画配信」など、細かく選択肢が分類されており、票がばらけたという理由の方が、両者の結果に多少差が出ている説明になりそうです。
不破雷蔵氏が、総務省の統計の比較に関して、「テレビ」「新聞」が優位な結果について、両者のコンテキストの違いを指摘しています。
テレビ、新聞、インターネット、雑誌。いずれもメディアには違いないが、テレビや新聞、雑誌がほぼ同時に配信する情報を収集し編集する業界をも意味しているのに対し、インターネットは多分にインフラそのものを意味し、厳密にはテレビや新聞などとの比較は難しい。
加えて複数回答であることも考えると、必要な情報を得る手段に「テレビ」が挙げられるのはそんなに変な話でもなく、信頼できるかどうかも、比較対象の問題から、「テレビ」を選ぶようになっているのではないか、ということでしょうか*8。
本当に信頼できるのは…
とまあ、ここで終わってもいいのですが、ちょっと優等生すぎるので、もう一度、先ほどの日本財団の第2回の調査のグラフを載せます。
Q3 普段利用している・していないに関わらず、以下のメディアの中で信頼できるものを全てお選びください。
第2回18歳意識調査「テーマ:新聞について」調査報告書 より*9
実はこれ、一番右端の選択肢をわざと削りました。今度は全体を載せます。
そう、「信頼できるメディアはない」が、なんと25.6%を占めているのです。これは、テレビ、新聞に続き第3位です。
残念ながら、こういう結果はあまりメディアに取り上げられることはないでしょう。なんともさみしい状況ではありませんか。
今日のまとめ
①当該画像は、2020年に放映された「池上彰のニュースそうだったのか!!」
②調査元は、日本財団の「18歳意識調査」第2回と第19回。
③総務省の調査と比べても、②については格別数値が乖離しているわけでもない。
④各国と比べると、「いち早く」情報を入手する際の「テレビ」の割合はほぼ同じだが、「信頼」については、日本以外の国は低く出ている。
⑤「テレビ」の割合が多くなるのは、
・「手軽」「無料」「昔からある」という要素がそろっている
・日本財団の調査は「インターネット」を細かく分類しているので票がばらけている
・そもそも、「テレビ」や「新聞」と、「インターネット」を同列に扱うと、結果的に前者に票が集まる
⑥「18歳意識調査」においては、「信頼できるメディアはない」という選択肢も第3位につけており、メディアの凋落がうかがえる。
こういう風に書いていてなんですが、それでも私は、当該ツイートに集まるような、「テレビがテレビのこと持ち上げてるよ笑」みたいな冷笑の仕方はあまりよろしく思いません。よほどあまのじゃくな見方をしなければ、今回の調査はそこまでオカシイものでもないですし、「こんなのウソだろ」と、反射的に反応している方がよっぽど近視眼的です。当該ツイートにあつまるリプにはざっと見た限り疑義を呈するものはなく、なるほど、こうしてエコーチェンバーはつくられていくのだろうと実感しました。
私もメディアの報道の在り方には疑問を覚えるのですが、だからといって体のいいサンドバッグ状態にしていても、たぶん何にも解決しないのだなと思います。自分の身の回りのこと以外は、いわゆる報道機関を通さなければ情報は得られず、信頼をこのまま失っていけば質もあわせて低下していくでしょう。それは結果的には、私たちの情報獲得の手段も失われていくわけで、あんましよろしくない未来だと思います(ぜんぶ中田敦彦で染まるインターネットを想像してみるとよい)。もう少し、PVとか話題性だけではなくて、「いいものはいい」と評価できる仕組みがあるとよいんですけども。
*1:
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/10/wha_pro_eig_92.pdf
*2:
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/new_pr_20181013_03.pdf
*3:出典自体は「総務省「IoT時代における新たなICTへの各国ユーザーの意識の分析等に関する調査研究」(平成28年)」
*4:
各国のメディアに対する印象については、以下の記事が詳しい。これを読むと、新聞やテレビへの信頼度が今でも高い国はもはや少数なのかもしれませんね。
世界各国の「新聞・雑誌」や「テレビ」への信頼度(2017-2020年)(最新) - ガベージニュース
*5:
消費動向調査 令和3(2021)年3月実施分 P6
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/honbun202103.pdf
*6:
*7:
第2回18歳意識調査「テーマ:新聞について」調査報告書 P6
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/new_pr_20181013_03.pdf
*8:
ただし、脚注に示したように、テレビや新聞への信頼の高さは日本は他の国に比べて高い傾向はあり、逆にインターネットが高めに出ています。となると、不破氏の説もやや弱くなりますが。
*9:
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/new_pr_20181013_03.pdf