ロシアのオリンピック選手が、プーチン大統領と面会した際の画像がバズってました。
少々みなさんうつろな目をしていますが、投稿主はこれが「全てを物語っている」としています。つまり、みんなプーチンにうんざりしているんだ、みたいなことでしょうか。
いつもながら私は疑り深いので、明らかに動画の切り取りっぽいこの画像は、いったいなんなのかというところを調べてみました。結論としては、「朝会の校長先生の話を聞いた子供の気持ち」です。
【目次】
4月26日、クレムリンで
さて、こちらの画像は、北京オリンピックに出場し、メダルを獲得した選手たちの功労会みたいなもんでしょうか(勲章も授与されています)。
И вот сегодня – 26 апреля – чемпионы и призеры пекинских Игр все-таки добралась до Кремля.
そして今日、4月26日、北京オリンピックのチャンピオンとメダリストがクレムリンに姿を現した。
くだんの画像は恐らくここからコピペされたものでしょう。Sports.ruは、Россия-24が配信した動画をスクショしたようです。
で、その動画については、政府公式に掲載されております。そう、クレムリンなんですよね、載せてるのが。
もちろん、こちらにもくだんの画像が見られます。9分ごろ。
手前左から、アレクサンドラ・トゥルソワ、ベロニカ・ステパノワ、ウリヤナ・ニグマトゥーリナ、カミラ・ワリエワ。フィギュアなどの選手ですね。プーチン大統領の演説を聞いているシーンです。
なにをしゃべっているのか
お辛い顔をするようなことを話しているのか。ロシア語は全くわかりませんが、スピーチの全文を載せているページがあるので、そちらを覗きます。
動画をGoogle翻訳の音声翻訳で訳してみると、8:40あたりから、こんな話をしてるのかな、と思われます。
Великие традиции отечественного спорта будут продолжены и приумножены. Мы приложим все силы для обеспечения прав наших атлетов, будем проводить соревнования, открытые для всех наших друзей и настоящих партнёров, таких как, например, Всемирная ассоциация олимпийцев и Международный совет военного спорта, которые поддержали российских атлетов.
国技の偉大な伝統は継承され、さらに拡大していくことでしょう。私たちは、選手の権利を確保するために最善を尽くし、ロシアの選手をサポートしてきた世界オリンピアン協会や国際武道協議会のような友人や真のパートナーに開かれた大会を開催していきます。
あんまりにも難しかったのでDeeplとGoogle頼みの訳ですが、要は今回国として参加できなかったオリンピック以外にも、選手たちの活躍の場を広げていこうみたいな話をしているわけです。まあ、思うとこはあるでしょうが、字面だけではそこまでうつろになるような話でもないような…
すべてのシーンを見てみると…
さて、この動画、前半は基本的にはプーチン大統領の演説、合間に今回のような選手たちのシーンがちょびっと抜かれる感じになってます。数えてみたところ、動画全体では30シーン、プーチン大統領の演説のみとなると、21シーンありました。
なので、瞬間を切り取れば、まあまあ、面白くなさそうな画像は拾うことができます。たとえばこんなのとか。
携帯いじってるひととか。
うなだれる瞬間とか。
そもそも、今回の画像も、コンマ何秒かずらしてみると、少しだけですが印象は変わります。
右端のカミラ・ワリエワが目を上げ、その後ろの男女(名前がわからんかった)の視線がちゃんととれると、ちょっと聞いてる雰囲気になりませんか。
動画を通して見ていただけるとわかるのですが、何というか、今回の画像の反応が特別という感じはあんまりしません。まあ、ここらへんは感覚ではあるのかもしれないですけど、そもそも、座って真面目なスピーチ聞いてたら、だいたいこんな顔になりません?
9分は長い!
いや、でも彼らはうつろだよ、やんなってるよとどうしても思うのであれば、私はスピーチの長さにあるんじゃないかと感じました。
公式に載ってる動画は、プーチン大統領の演説からすぐ始まるのですが、その長さは9分30秒。そんでもって、彼女たちの目が死んでいるとされる画像が9分ごろですから、スピーチも終盤も終盤。大統領も原稿読み読みの演説で、一本調子の内容とくれば、9分間ずっと聞かされたらそりゃ疲れるよな…という気もします。校長先生の朝会のスピーチと一緒です。あれだってせいぜい5分ぐらいだったような気がするんですが、果てしなく思えたものです。
冗談めかして書いてはいますが、要は、画像一つで人の心情を読みとることなど不可能に近いということです*1。
笑顔と神妙
というわけで、実際の人間の気持ちは切り取りひとつではわからんだろうという、至極つまらないオチなんですが、この画像を投稿した人は、どうしてこの画像に特異性を感じたのか、というのは、少しばかり推測できます。
恐らく参照したであろうSports.ruは、スピーチ以外の写真もいくつか載せています。
こういうのとか、
こういうのとか。
で、そんな写真の中に、急に、
が紛れたら、確かに、おお、うつろだ、と思うかもしれません。あえてこの画像をSports.ruがチョイスした意図がわかりませんが、あの記事の中ではちょっと浮いた感じに見えるものでした。
なので、投稿した方は、そちらの印象にひっぱられた感じはあるのではないか、というのが私の推測です。
今日のまとめ
①今回の画像は、4月26日の北京オリンピックのメダリストの式典で、プーチン大統領の演説を聞いている。
②スピーチの内容自体はオリンピックへの批判と選手を称えるもので、とりたてて(ロシアにとっては)特別ではない。
③総じて動画の選手たちの表情は神妙で、真面目なスピーチを聞くとだいたい人はそういう顔になるんじゃないか、と思われる。
④今回の画像を載せたスポーツサイトの記事は、他の選手たちのにこやかな写真がいくつか掲載されており、その印象との対比から、ことさら暗くうつろに見えたのではないか。
さて、こちらの画像は超有名なのでご存じの方も多いでしょう。
元ネタは、1985年Vol.125 No.8のTIME誌のようなんですが*3、現在出回っているのは、これに「It's Media」とカメラを矢印でさしているものでしょうかね。
でも、私はこれはメディアの話だけじゃないと思っています。このテレビカメラは私たち自身の目でもあります。今回の画像は、明らかに動画の切り抜きで、前後の関係もわからないのに、レスポンスやリツイートを見る限りでは、その真偽性に疑問を持つ人は少ないように感じました。プーチン大統領のクリミア併合式典の演説が途中で途切れたときのあれやこれやのネットの盛り上がりとは対照的です*4 。
要は、大勢にあっているかどうか、そういう話なんだと思います。自分が思うよりも自らの眼は曇っているぞと、目をごしごししながらネット界隈のあれこれは見た方がよいかもしれませんね。
*1:例えば、画像に写っていた距離スキーのベロニカ・ステパノワは、この式典で、
「私の目の前でロシアは再び強く、誇りに思い、そして成功した。世界中の誰もに好まれるわけではありません。しかし、私たちは正しい方向に進んでおり、オリンピックで勝ったように、間違いなく勝ちます!」
距離スキー女王ステパノワの〝プーチン礼賛スピーチ〟に非難の声が殺到 洗脳を心配する声も(東スポWeb) - Yahoo!ニュース
などと、ウクライナ侵攻を称えるようなコメントをしてたりします。言わされているだけとかいろんな意見はあるでしょうが、なかなか表情や態度から人の本心を見抜くというのは至難の業ではないでしょうか
*2:この記事では出典に辿り着けなかったとしていますが、それより2年前に出典に辿り着いている人がいます。後述
*3:
こちらのサイトから
実際にTIME誌のアーカイブを覗くと、P79にイラストがある。
さすがにこれ以上さかのぼれないのではとは思う。
*4:
20万人大観衆でプーチン氏大演説も映像中断の不可解…「スタッフに反戦か」専門家指摘
真偽はともかくこういうのとか。
【コラ】プーチン大統領の演説は合成か?1年前の映像を使い国営テレビの中断もこれが原因か【ウクライナ侵攻】 | メソマブログ|YouTuber・アニメ・声優・SEOニュースまとめ