先日、話題になっていた「シンデレラ体重」について、その初出がなにか、というところについて調べました。
「たかの友梨」のエステサロンが「シンデレラ体重」という言葉を創り出したというのがNHKを含めメディアの言い分ですが、計算式はそうでも、名称自体はそうでもないのではないか、という曖昧な結論で終わりました。
しかし、結局「ようわからん」という感じで終わってしまったのが悔しかったので、改めて前回手に入れられなかった資料を含め、追加調査をしましたので、そちらを記します。「たかの」が私のメールに返事をくれれば、こんな面倒なことにはならなかったのに…
計算式の初出は1998年
前回調べられなかった「たかの友梨」に関係のある書籍を、今度はほぼ調べたので、結果を列記します。
書名 | 発行 | 体重についての記載 |
1986 | 「標準体重」「理想体重」*1 | |
1986 | × | |
1986 | 理想体重*2※ただし「理想体重」の算出法は記載なし | |
1986 | 「ベスト体重(標準体重)」 | |
1992 | 「シンデレラ・ダイエット」「シンデレラ・メジャー」*3 | |
1996 | 「シンデレラダイエット」・「目標としては3ヶ月でマイナス10キロ*4 | |
たかの友梨式11品目ダイエットbook―シンデレラコンテストでも実践!3カ月でやせるレシピ (光文社女性ブックス VOL. 72) |
1998 |
「標準体重」「美容体重」*5 |
1998 |
「標準体重」「美容体重」*6 |
|
2000 |
「標準体重」「美容体重」*7 |
|
2004 | × | |
2005 | × | |
2006 | × |
1980年代から見ていくと、「たかの」は、ダイエットの目標の体重について、その呼称を少しずつ変化させていることがわかります。計算式が書いてあるものもないものもあるのですが、これも列記すると、以下のようになります。
○「標準体重(1986)」:(身長ー100)×0.9
○「理想体重(1986)*8」:(身長ー100)×0.8
○「ベスト体重(標準体重)(1986)」:(身長ー100)×0.9
○「シンデレラ・ダイエット(1992)」:3ヶ月でマイナス10キロ
○「健康体重(1998・2000)」:身長(m)×身長(m)×22
○「美容体重(1998・2000)」:身長(m)×身長(m)×22×0.9
前回の記事でも書いたとおり、「身長(m)×身長(m)×22×0.9」の計算式が出てくるのは、やはり1998年が初出です。ただし、名称は「美容体重」です。
ただ、興味深いのは、1986年の「新版 食べながら美しくやせる本」では、「理想体重」という名称で、「(身長ー100)×0.8」という計算式を使用していることです。これは、ブローカ・桂変法の「(身長ー100)×0.9」から、1割ほど減らした値を設定しているわけです。この10%落とすという計算式のつくり方は、「美容体重」の算出方法と全く同じです。
これは、「標準体重」の算出が、ブローカ・桂変法か、BMIによるものかの違いだけであり、前回の記事で書いたとおり、BMIの算出は90年代後半にならなければメジャーにならなかったので、「たかの」は、そもそもの初めから、世の中の「標準体重」の認識から1割さっぴいたものを、ダイエットの目標に掲げていたことになります。現在の計算式は1998年が初出でFAとしていいでしょうが、根底の考え方は、かなり昔から存在していたといってよいでしょう。
「シンデレラ体重」は2009年から
しかし、2000年代に入ってから、書籍には「美容体重」の計算式は登場しなくなります。前回、私はそれで、この「身長(m)×身長(m)×22×0.9」の体重の算出方法を、「たかの」はフィーチャー*9していないものと考えたのですが、今回は万全を期して、以下の本も調べました。
「シンデレラダイエットパスポート(以下「パスポート」)」という名称で、「たかの」のエステサロンに通う人はみんな買ってるんじゃないか、と思われる冊子です。
早速読んでみると、出てきました。
「シンデレラダイエットパスポート(2016)」P10
計算式も全く一緒ですし、「シンデレラ体重とは、標準体重よりも一般的に見てより美しく見える体重を指します」という文言も、「見た目にカッコイイ美容体重(1998)」の表現と似たり寄ったりです。
ところが厄介なことに、この「パスポート」は、書籍として販売しているわけではないため奥付がなく、発行年がよくわかりません。ヒントになるのは、巻末にある「シンデレラコンテスト」の入賞者の年度で、上記の式は、そうすると恐らく2016年度のものです。
さらに厄介なことに、微妙に年毎に改訂をしているようで、その差分も考慮しなければいけません。なので、(おそらく)全てのバージョンの「パスポート」をあの手この手で集めました。すると、この「パスポート」は、現在までで5つのバージョンが存在することがわかりました。
年度 | 特徴 | バーコード |
2016 | 表紙はピンク。ラメが入っている。*10 | 0000115701021 |
2012 | 表紙は緑。サイズが手帳サイズで全バージョンの中で一番小さく、レシピが大幅に削られておりページ数も2/3。裏表紙に「シンデレラダイエットパスポート2012」。 | 0000115701021 |
2011 | 表紙は紫。裏表紙に「シンデレラダイエットパスポート2011」 | 0000115701014 |
2010 | 表紙はピンク。裏表紙に「(改訂版)」の文字が入る。 | 0000115700031 |
2009 | 表紙はピンク。これが初めての発行か。 | 0001157000318 |
2010年の「パスポート」には、わざわざ「改訂版」という追記が入ったことを考えると、恐らく2009年発行のものが、「パスポート」の初版ということになるでしょう。
そして、「シンデレラ体重」の記述は、2009年から全ての「パスポート」に存在しました。ちょっと形は違いますが、内容は一緒です。
「シンデレラダイエットパスポート(2009)」P15
現在のところ、確実に言えることは、「シンデレラ体重」の名称で「身長(m)×身長(m)×22×0.9」の計算式を「たかの」が提唱したのは遅くとも2009年だということです。
他人の空似の「シンデレラ体重」
しかし、前回の記事で書いたとおり、「シンデレラ体重」という呼称は、2009年よりも前に存在しており、そしてその計算式は「たかの」のものとはまるで違います。私の記事を引用します。
この説は2005年3月30日の発言小町の投稿にもあります。
少々、誤解があったようですんで、訂正します。
若い女性の平均的な体重は
身長(cm)-110です。生理が止まりそうで怖い… : 美容・ファッション・ダイエット : 発言小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
というコメントに対して、以下のようなタイトルでレスがつきます。
シンデレラ体重は駄目
かな吉さんが仰るのはきっと「美容体重」ですね。
間違いなく、中身は不健康になります。
また、2010年の発言ですが、上記と同じような計算式を「シンデレラ体重」と称しているものもあります。
通常が身長引く100です。シンデレラ体重が身長引く110です。
これはいったいどういうことでしょうか。
ひとつの仮説になりますが、これははてぶでご指摘いただいたのですが、以前より、小さい靴のサイズを、「シンデレラサイズ」と呼び習わすことがファッション業界であるようです。
そこで気付いたのだが…
普通のサイズ以下の小さいサイズの靴を(一般的には22cm以下かな?)
「シンデレラサイズ」と呼ぶお店があるらしい。シンデレラサイズって? - 人生楽笑♪(2005/10/25)
最近の人は皆体が大きいので「モデルサイズ」はよく見かけますが、小さいサイズの「シンデレラサイズ」はほとんどありません。
シンデレラ(サイズ)の靴探し!!(広島or東京) : 美容・ファッション・ダイエット : 発言小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(2005/10/13)
この言葉がいつからあるのか不明ですが、ネット的には2005年が初出のように見えます。そして、現在確認できる別式の「シンデレラ体重」も2005年あたりが初出です。つまり、「シンデレラ」という言葉が「小さい」という語感をうみ、標準体重よりも低い体重式のことを「シンデレラ体重」と組み合わせて表現するようになったのではないでしょうか。
一方で、「たかの」は、「シンデレラ+○○」というフレーズは、「シンデレラコンテスト」を始めた1991年から、かなり頻繁に使っています。たかの友梨のルポ(というか提灯記事)を書いた鶴蒔靖夫の著書にはこんな記載があります。1992年。
たかの友梨ビューティークリニックでは、何がなんでもやせればよいという考え方は取ろうとしていない。独自の発想から「シンデレラ・メジャー」を設定し、理想のプロポーションを指数化してとらえ、それを目標に「美しいボディづくり」をめざすのである。
「たかの友梨のエステティック・ドリーム」P42-43
この「シンデレラ・メジャー」なるものが、一体どのようにして「指数化」しているのかが気になるのですが、恐らく、現在の「パスポート」にも記載されているような、腕や足の太さ・長さと言ったグラフのようなものではないかと推察されます*11。
他にも、こういったダイエット計画を「シンデレラダイエット」と呼んだり、「たかの」の「シンデレラ」の語感は「小さい」ということではなく、あくまで「シンデレラコンテスト」ありきのフレーズです。私の仮説としては、「シンデレラ体重」というフレーズは、同時発生的に生まれたのではないか、ということです*12。
今日のまとめ
①「シンデレラ体重」と「身長(m)×身長(m)×22×0.9」を「たかの」が関連付けたのは2009年から。ただし、標準より1割程度減らすという考え方は、すでに1980年代から見られる。
②「シンデレラ」を「小さい」という意味でとらえる「シンデレラ体重」というフレーズはそれより前に存在しており、「シンデレラ体重」と言う言葉は、同時発生的に生まれた言葉なのではないか。
ということで、今回は初めて、追加調査と言うものをしてみました。だいぶ調べているものに差がありますが、ちょっとした差異を探していくという作業は、源氏物語の底本の違いを考えていくのと似たような愉しさがあります。たぶん私はいまのところ、「たかの」のエステの歴史に精通している第一人者です。特になんの得もないところが悲しいもんですが。
*1:
同著 P19
*2:
二十八歳の主婦の方は、理想体重が五十四キロだったのが(以下略)
同著 P49
*3:
同著 P43
*4:
同著 P37
*5:
同著 P128
*6:
同著 P118
*7:
同著 P124
*8:
ただし、私が確認できたのは「新版」の方で、1981年にも同名のタイトルが出版されていました。同じ記載内容であれば、年は更に遡る可能性があります。
*9:
前回は恥ずかしい間違いをしました。
*10:すっごいどうでもいいんですが、たかの友梨の、2009年と全く同じ写真が、ちょっとフォトショ的にいくつか加工されています
*11:
「シンデレラダイエットパスポート(2009)」P14
*12:時期的には、もちろん「たかの」が「シンデレラ体重」という呼び方を拝借した可能性はありますが、言葉の当時の広がり具合の少なさを考えると、その可能性は低い気がします。