さて、毎年恒例、「報道の自由度ランキング」のお時間がやってまいりました。2020年から観測し始めてはや5年目(過去記事参照ベースで言えば7年目)。毎年不自由さを感じる今日この頃ですが、果たして今年はどうだったのでしょうか。
過去記事はこちら。
朝日新聞の報道
おととしは記事にすらしない、去年は金太郎飴のように唱え続けていた「SNS上の攻撃」が消え、「政治的圧力やジェンダー不平等」(でも企業の圧力は書かない)という書きっぷりでしたが、さて、今年はどうなっているのか…
同NGOは日本の状況について、「伝統の重みや経済的利益、政治的圧力、男女の不平等が、反権力としてのジャーナリストの役割を頻繁に妨げている」と批判。12年の第2次安倍政権の発足以降にジャーナリストに対する不信感が広がったとする一方、記者クラブ制度がメディアの自己検閲や外国人ジャーナリストらの差別につながっているとした。
おお、ついに、「記者クラブ」について言及がありました!なにをいまさら、と思う向きもあるでしょうが、見てください、この7年間、ずうっと指摘されているのに、一度も言語化されてこなかったんですよ!
記者団は日本のジャーナリズム環境について、「政府を批判する記者に対し、国粋主義者がソーシャルネットワーク上で嫌がらせをしている」と指摘した。
朝日 2018年4月26日 P37
調査対象の180カ国・地域のうち、日本は前年と同じ67位だった。「記者団」は日本では「メディアの多様性が尊重」されているものの、沖縄の米軍基地などを取材するジャーナリストがSNSで攻撃を受けている、と指摘した。
朝日 2019年4月19日 P37
調査対象の180カ国・地域のうち、日本は66位(前年67位)だった。日本の状況について、東京電力福島第一原発といった「反愛国的」テーマを扱ったり、政権を批判したりする記者がSNS上で攻撃を受けていると指摘した。
調査対象の180カ国・地域のうち日本は67位(前年66位)だった。日本の状況について、政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」と批判した。
報道の自由度、67位 「菅氏は改善へ何もしていない」:朝日新聞デジタル
(2021年)
日本の状況について、「メディアの自由と多元主義の原則を支持している」としたものの、政治的圧力やジェンダー不平等などにより、「ジャーナリストは政府に説明責任を負わせるという役割を十分に発揮できていない」と批判した。
「報道の自由度」日本は68位、G7で最下位 中国がワースト2位に:朝日新聞デジタル
(2023年)
他社は普通に記者クラブのことを書いている*1のに、頑なにこの数年間触れてこなかった朝日が文字にするのは快挙ですよ。ほら、赤飯だ赤飯。いや、こんなのを快挙と言っちゃだめですし、相変わらず「企業」の話は出てこないんすけどね…。
2023年との違い
さて、実際のところ、RSFの今年の書きぶりはどの程度変わっているのでしょうか。
えー、結論から言うと、ほぼまったく変わってません。
①記者クラブの問題
②国家権益に関する法律が私権を制限している
③大規模な伝統的メディアグループの独占
④政府と企業の圧力
⑤ジャーナリストの安全への不安
上記5つの内容です、相変わらず。
細かな表現の違いを抜かせば、追加、削除されたのは以下の通り。
【追加】
・能登災害の対応の遅れや、福島原発の処理水に関する記事へのナショナリストからの批判*2
【削除】
・2022年の日本外国特派員協会への爆破予告*3
あとはせいぜい、新聞部数の数字が変わっているぐらい(1割近く減ってる!)で、とりたてて変化がありません。
日本の海外で影響力低下
各紙とも、「伝統の重み」という訳のわからない言葉で誤魔化してますが*4、これは以前RSFが言及した「系列(Keiretsu)」の話をしないとわからないでしょう。
This is the case in Japan (up 1 at 66th), where newsrooms are still heavily influenced by management within the “keiretsu,” the conglomerates that own the media in Japan, which put their business interests first.
これは、日本(66位、前年比+1)においては、報道編集室が、「系列」の重大な影響を未だに受けており、この”集団”は、ビジネスの利益を第一に考えています。
RSF 2020 Index: Asia-Pacific – hyper-control and national-populist excesses | RSF
「系列」はまあ、旧財閥のような感覚で捉えてもらえばいいですし、海外メディアはこの語を「排他的・独善的企業結合」*5として批判的に使用する場合がほとんどです。まあ、すごく平たくいっちゃうとスポンサーですよね。これは2018年からずっと言われていることなので、「古くからある企業間の資本関係や馴れ合いが報道の自主検閲を招いている」と書かないと伝わんないんじゃないですかねえ。
RSFは、以前はこの主張を、むしろ政治的側面よりもメインの不自由さの理由として挙げていました*6。
さて、何が言いたいかというと、昔はけっこうRSFは突っ込んだことを書いていたということです。2016年は安倍首相を名指しした右傾化を指摘していますし、先述した「系列」についてもそうです。
ところが、今や、RSFの方が、金太郎飴のように、日本の状況を「特に変化なし」で書くようになってきている。例えば、2023年で言えば、ジャニーズ事務所の問題など格好の「不自由」の指標になるはずなのに、全く言及がない。
これを私は、そもそも、日本の国際メディアにおける地位の低下だと見ました。数年前まではまだそれなりに日本に対する事情通がいて、そして日本にも海外に向けて発信できる下地があっただろうに、今やそういった記者は根こそぎいなくなったということなんでしょう。だから、極東のメディアの細かな事情なんて誰もわかんなくなってる。RSFがまったく正しいなんて私はこれっぽっちも思ってませんが、こういった形ですら力を示すことができなくなってきた日本の凋落を、このようなメディアの場面でも感じることができるのではないでしょうか。「記者クラブ」ごときでもめてる場合じゃないんですよ、マスコミのみなさま。
今日のまとめ
①朝日新聞は初めて「記者クラブ」について言及した。
②RSFの記述は2023年とほぼ変化がない。
③これは、日本の国際メディアにおける地位の低下を示しているのではないか。
私がこのブログを更新しなくなった主な理由は実生活の忙しさが本当にたいへんで、まあ、それだけなんですけど、状況の変化のなさ(もしくは悪化)も、心の隅にあるのかもしれません。「ファクトチェック」なる言葉は浸透しましたが、個々人もそうなんですが、メディアはもうちょい期待していたんですけど、結果はご覧の有様なので、なんというか、もうちょいなんとかなりませんか…。
*1:
RSFは日本の状況について、「記者クラブ制度はフリーランスや外国人記者に対する明白な差別だ」と批判。また、インターネット交流サイト(SNS)上で政権を批判する投稿が攻撃の標的になっていると懸念を示した。
日本は、前年から順位を1つ上げて66位で、記者クラブ制度について「フリーランスや外国人の記者に対する明白な差別だ」と批判されているほか、政権を批判する記者がSNS上で嫌がらせを受けているなどと指摘されています。
*2:
RSFの「Fukushima Water」という表現についてはツッコミが入ってました。
前者については、「フクシマ・ウォーター(Fukushima water)の呼び名として『放射能処理水』(treated radioactive water)という用語を使ったりする」ジャーナリストに対してSNSで「嫌がらせ」が行われている、とした。「フクシマ・ウォーター」は福島県が「本県への風評、さらには差別を助長するおそれがある表現」として批判している表現だ。ランキングの説明では「フクシマ・ウォーター」「放射能処理水」といった表現を使うことが「報道の自由」に資すると読み取られかねず、風評被害の払拭を試みる被災地との温度差が浮き彫りになっている。
日本の順位なぜ下がる 「報道の自由度ランキング」が蒸し返す「フクシマ・ウォーター」「放射能処理水」: J-CAST ニュース
ここのRSFの書きぶりは正直ちょっとよくわかりませんね。なんかもっとリベラルな感じのメディアは、「処理水なんて表現で誤魔化すな!」みたいな論調だった(はじめは)気がするので、うーん、どういうこと?
*3:
これ、ぜんぜん日本では報道されてませんが、こんな感じらしい
留守番電話に自分の電話番号を残しちゃうウッカリさんの犯行だが、こういうことが起こるということ自体は本当に憂慮すべきことなんですが、本当に取り上げませんね
*4:
「伝統やビジネス上の利益、政治的な圧力や性別による不平等などが権力の監視役としてのジャーナリストの役割をしばしば妨げている」
「報道の自由度ランキング」日本は70位、G7最下位|日テレNEWS NNN
「伝統の重みや経済的利益、政治的圧力、男女の不平等が、反権力としてのジャーナリストの役割を頻繁に妨げている」と批判。
時事通信は意味が解らないと思ったのか訳してすらいない
RSFは日本について「商業的利益、政治的圧力や男女不平等などにより、ジャーナリストが監視機能を十分果たせないことも多い」と指摘。
*5:
企業系列(きぎょうけいれつ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
*6:
むしろ、見出しの経年変化を見ていくと、RSFは、日本の「報道の自由度」の低さが、国家権力や「政権」に左右されるというよりかは、企業の利益至上主義や記者クラブなどの伝統的な制度、親会社の経営方針の方がウェイトが大きいというニュアンスに変わってきています。
2016年→「国家機密に触れないで(Don’t mess with “state secrets”)」
2017年→「安倍晋三の脅威(The threat from Shinzo Abe)」
2018年→「伝統と事業利益(Tradition and business interests)」