大変お久しぶりというか、皆様覚えておいででしょうか。実務や請け負った仕事がタイヘン忙しく、4カ月も放置してしまいました。お約束していた方との記事も作れず無念です。
今日は生存報告と共に、去年の記事の焼き直しでございます。
国境なき記者団(RSF)が毎年出している「報道の自由度」調査の結果を、日本のメディア(特に朝日)が、毎年金太郎飴のようなやる気のない記事を出している、という内容です。まとめは以下の通り。
①「SNS上で攻撃される」という文章について、RSFは2017年から指摘しているため、朝日の書き方はミスリードを誘う。
②経年を見ても、RSFの日本の報道自由度の低さの原因は、「系列」による報道自由の縛りと利益至上主義によるものだという指摘であり、SNSの話は挿話の一つに過ぎない。
で、今年はどんな書き方になっているのかな、というのを見てみたらがっかりしたので、簡単に記事にしました。今回は朝日嫌いの方にとっては垂涎ものでしょう。
「報道の自由度2021」について
RSFは日本について、今年はどのように総括しているかと言うと、以下の通り。
A new prime minister in Japan (down 1 at 67th) has not changed the climate of mistrust towards journalists that is encouraged by the nationalist right, nor has it ended the self-censorship that is still widespread in the media.
日本(67位 -1)の新しい首相は、ナショナリスト的な右派によって助長された、ジャーナリストへの不信感の空気を変えることができなかっただけでなく、メディアに広がる自己検閲を終わらせることもできなかった。
RSF 2021 Index: Censorship and disinformation virus hits Asia-Pacific | RSF
「encouraged by the nationalist right」のあたりは、前年もあった「SNS上での攻撃」と近しい表現でしょうか。続く「自己検閲」も、そういった風潮からセンシティブな記事を忌避するメディアについてを表したものと、私は認識しました。この「自己検閲」は、メディア側への批判も多少含んでいるんでしょうか。昨年あった「系列」による利益至上主義の話は、このindexの中では出てきません。
一方で、国別の詳細を書く部分では、菅首相の話が加わり、上記と同じように「改善のために何もしなかった」ということが冒頭書かれていますが、あとは例年通り
・慣習と経済的利益のために民主主義の番犬にはなっていない
・記者クラブがフリーランスや外国の特派員を差別している
・SNSで、ナショナリストたちが記者などに嫌がらせをしている
Japan | RSF より
の3つが書かれています。これは2017年から全く変わっていません*1。
朝日の記事の変遷
さて、朝日新聞は、「報道の自由度」について、毎年こんな感じで報告しています。
記者団は日本のジャーナリズム環境について、「政府を批判する記者に対し、国粋主義者がソーシャルネットワーク上で嫌がらせをしている」と指摘した。
朝日 2018年4月26日 P37
調査対象の180カ国・地域のうち、日本は前年と同じ67位だった。「記者団」は日本では「メディアの多様性が尊重」されているものの、沖縄の米軍基地などを取材するジャーナリストがSNSで攻撃を受けている、と指摘した。
朝日 2019年4月19日 P37
調査対象の180カ国・地域のうち、日本は66位(前年67位)だった。日本の状況について、東京電力福島第一原発といった「反愛国的」テーマを扱ったり、政権を批判したりする記者がSNS上で攻撃を受けていると指摘した。
報道の自由度、日本66位:朝日新聞デジタル(2020)
で、今年はどうやって書かれていたかと言うと、
調査対象の180カ国・地域のうち日本は67位(前年66位)だった。日本の状況について、政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」と批判した。
さすがにこれはちょっとひどくないですかね。記者クラブの話も、自身の会社の古い体質と経済至上主義の話も、及び腰の自己検閲の話も出さず、4年連続「SNSで攻撃されている」とだけ書くのは、あまりにもあまりにもではないでしょうか。これで報道の自由を憂いているのですから、まあ、ちゃんちゃら可笑しいというか。
他のメディアについて
他のメディアも見てみましょう。
まず日経。
(承前)慣習や経済的利益に阻まれて記者が権力監視機関としての役割を十分に果たせていないなどとした。
RSFは菅政権が報道の自由を巡る状況を改善しようとしていないとも指摘した。
中日新聞(もしくは共同)。
日本についてRSFは「新首相就任によっても、ナショナリストの右派が記者に対する不信をかき立てている状況に変化はなく、依然、自己検閲が続いている」と言及した。
時事通信。
RSFは日本の状況について、記者クラブ制度が「フリーランスや外国人の記者を差別し続けている」と指摘。菅義偉首相に関しても、昨年9月の就任以来「報道の自由をめぐる環境改善のために何もしていない」と批判した。
ANN系列。
「報道の自由度」ランキングは「国境なき記者団」が世界の180の国と地域を対象としたアンケート調査をもとに、作成したものです。この中で日本は67位と4年連続でほぼ横ばいが続いています。その理由の1つとして、日本の政治は報道の自由を向上する努力を何もしていないとしています。
NHK。
報告書では、日本について「慣習や経済的利益に阻まれて記者が権力監視機関としての役割を十分に果たすことが困難になっている」などと指摘しました。
また、政府に批判的な記者などがSNS上で攻撃されているとしたほか「去年9月に就任した菅総理大臣は報道の自由をめぐる環境の改善に何も取り組んでいない」と評しています。
あとは有料なので読む気はありませんが、毎日。
相変わらず、読売や産経はこの話題には手を出さないのがわかりやすいです。
WEBメディアでは、J-CASTがいい記事を書いています。
4月22日夕時点で、ランキングの21年版について報じているのは、大手紙では朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、共同通信、時事通信。そのうち、ウェブ版では朝日、毎日、時事が菅氏への評価を見出しに取っている。記者クラブをめぐる指摘を取り上げたのは時事だけで(以下略)
報道の自由度「日本67位」の理由とは 国境なき記者団があげた「記者クラブ問題」、大手紙ほぼスルー: J-CAST ニュース【全文表示】
まあ確かにその通りなんですが、朝日の記事の金太郎飴っぷりに比べると、他紙はまだましなのか…とすら思ってしまいます。
今日のまとめ
①各社とも、J-CASTが指摘するように、記者クラブについてはほとんど言及がなく、報道の不自由が感じられる。
②その中でも朝日は4年連続「SNSで攻撃される」しか書かず、「慣習と経済的利益」の弊害を書ける他メディアに比べて突出して不自由さが感じられる。
国境なき記者団のこのランキングは批判もありますし、指摘が全て正しいとも思いませんが、少なくとも「報道の自由」についての記事の中で、全く自己反省もなく毎年毎年同じような記事を書く了見について、私は少々疑義と不信感を覚えます。ここまでくると、このやる気のない記事の書き方そのものが、親会社へのささやかな抵抗を示しているのではないか、とすら思えてきます。
*1:
9月の菅首相に関するRSFの記事を読むと、
RSF urges recently appointed Japan Prime Minister to take a new turn towards press freedom | RSF
政府のジャーナリストへの関与に内容が割かれており、RSFにおいては、慣習と経済的利益やSNSなどのものよりも、そちらの方が関心ごととして高くなっているのかもしrません。