ネットロアをめぐる冒険

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【令和4年版】「報道の自由度2022」の報道の仕方から不自由を見る

今年も「報道の自由度ランキング2022」が公表されました。

rsf.org

これは毎年、国境なき記者団(RSF)が発表する、各国のジャーナリズムの自由度を公表するものです。

 

ところが、日本の報道機関は、あまりこれを正確に伝えていません。

 

各紙ひどいといえばひどいんですが、特に朝日は突出していて、2018年の「報道の自由度ランキング」の記事から、「記者が「反愛国的」なことを書くと「SNS上で攻撃される」という内容のみを金太郎飴のように毎年書き続けています。RSFが毎年指摘している「スポンサーのご機嫌うかがいによる自己検閲」や「記者クラブの排外的課題」についてはいっさい書こうとしてないんですね。「報道の自由度ランキング」について書けば書くほど、日本の「報道の不自由さ」が明るみに出るという、なんとも残念なおはなしになっているわけです*1

 

そんな感じなので、5月3日にRSFが今年のやつを公表した際、「もしや朝日に先んじて予想した記事をかけるのではないか…?」と、大胆に書いたのがこちら。

 

報道自由度、日本71位 ウクライナ情勢などによる規制強まる

 国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は3日、2022年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち日本は71位(前年67位)と順位を落とした。

 日本の状況について、報道について自由と安全を比較的保っているとしながらも、「中傷的」と見なされる投稿をリツイートしただけで政治家から裁判を起こされたり、東京電力福島第一原発といった「反愛国的」テーマを扱ったり、政権を批判したりする記者がSNS上で攻撃を受けていると指摘した。

 ウクライナ情勢をめぐり、独立系メディアなどを「外国の手先」と見なし、軍事的検閲を行っているロシアは155位(昨年150位)で、厳しい統制環境にあることが指摘された。

 1位は昨年と同じノルウェーで、4位までをデンマークなど北欧諸国が占めた。米国は42位(昨年44位)で、日本は主要7カ国(G7)の中で最下位。中国は175位(昨年177位)だった。

「報道の自由度ランキング2022」の新聞記事を予想する - ネットロアをめぐる冒険

 

さあ、実際のところどうだったんでしょうか…!とワクワクしていたら、たいへん悲しい結果になりました…

 

【目次】

 

 

2022年の日本について

その前に、今年の概観について記しましょう。

RSFは①メディアの状況、②政治的背景、③法的な枠組、④経済的背景、⑤社会的状況、⑥記者の安全性の観点から、各国について述べています。今年から評価基準は変わっているので、実は前年と比較するときは注意が必要です*2

 

日本に挙げられた問題は大きく5つでしょうか。

①記者クラブの問題

2012年の安倍政権発足からジャーナリストたちが対立していることを述べた後、記者クラブの問題について述べています。

 

which only allows established news organisations to access government events and to interview officials, induces journalists into self-censorship and represents blatant discrimination against freelancers and foreign reporters.

(記者クラブの存在は)確立した報道機関のみが政府の公式的行事や会見にアクセスすることを可能とすることで、ジャーナリストを自己検閲に誘導し、フリーランスや外国人記者を露骨に差別することにつながっています。

Japan | RSF

 

②国家権益に関する法律が私権を制限している

RSFは2つ事例を挙げています。

1つ目がいわゆる「重要土地利用規制法」に関するもの。

 

自衛隊の基地など日本の安全保障上、重要な地域での土地利用を規制する法律。施設の周囲およそ1キロメートル内や国境近くの離島を「注視区域」に定める。区域内で大きな構造物を立てて電波を妨害したりライフラインを寸断したりといった日本の安保を脅かす土地利用を確認すれば、所有者に中止を勧告・命令できる。

重要土地利用規制法とは 安保脅かす取得・利用防ぐ: 日本経済新聞

 

これは私権を厳しく制限するものとして、反対意見もありました*3

 

もう一つは「特定秘密保護法」。

 

この法律は、安全保障上の秘匿性の高い情報の漏えいを防止し、国と国民の安全を確保するためのものです。

特定秘密保護法について | 首相官邸ホームページ

 

こちらは2013年施行ですが、未だに議論の続くものです。RSFはこの法律の改正を政府が拒否していることを述べています。

 

③大規模な伝統的メディアグループの独占

発行部数の減少によるこのビジネスモデルの不透明感。加えて、新聞社とテレビ放送局の株式持ち合いに規制がないため、極端にメディアが集中し、大規模なメディアグループを形成していることを指摘しています。

 

それ以上は特に書いてはいないものの、レポートの冒頭には、「昔からあるメディアの方が影響力がある」と、主要五紙などを並べていることから、これは、ネットニュースなどの新興メディアの影響力が小さく、伝統的な古いメディアが未だに寡占的な影響力をもっているという点、それに合わせる形でのしがらみや経営方針の点で自主検閲がはたらくことを問題視しているのではと思います。

 

④政府と企業の圧力

ここではかなりはっきり、RSFは政府や企業側の圧力について書いています。

 

The Japanese government and businesses routinely apply pressure on the management of mainstream media, which results in heavy self-censorship on topics that could be deemed sensitive, such as corruption, sexual harassment, health issues (Covid-19, radiation), or pollution. 

日本政府や企業は、日常的に主要なメディアの運営に圧力をかけており、その結果、汚職、セクハラ、健康問題(コロナ、放射能)、公害など、センシティブとみなされるテーマについて、厳しい自己検閲が行われています。

Japan | RSF

また、2020年には、政府の記者会見に入れるメディアの数を制限したことや、緊急事態宣言時に、NHKが政府の指示を受ける「指定公共機関」に入っている*4ということを問題視しています。

 

⑤ジャーナリストの安全への不安

RSFは比較的日本は安全だとしながらも、2つ課題を挙げています。

 

1つは、「中傷的(defamatory)」と見なされる投稿をリツイートしただけで、政治家に告訴されたというもの。これは恐らく、橋下氏の批判ツイートをリツイートした人が起訴された事案をさすのではないかと思われます*5

 

もう1つは、おなじみSNS上での攻撃について。原発問題、沖縄米軍、太平洋戦争の戦争犯罪など、「反愛国的(anti-patriotic)」なテーマを扱う記者たちに対して、ナショナリストたちがSNS上で攻撃を行っているというものです。

 

さあ、今年の朝日新聞の記事は、この①~⑤の中のどこまで入っているんでしょうか。

 

朝日新聞は記事にしていない(5月6日7時現在)

ところがところが、朝日さんはいつまで経っても今回の報道自由度を記事にしない…!

基本的に今まで(過去4回)は、ランキングの発表になった当日か翌日には記事化していただけに、2日経っても音沙汰ないのは異例です。記事の内容をちょっとは検討するのかなぐらいは思ってましたが、まさか記事にすらしないとは…。

 

詳細は省きますが、とある朝日新聞の記者の方が、発表日当日に、今回の報道自由度の企業の影響の文を引用し、「「書こうとしても書けない」という声を各社で聞きます」とツイートしているので、まあ、内部でゴタゴタがあったんじゃなかろうかという予想ぐらいはします。中の人がんばれ!

 

記事がでたらここの項目は修正しますが、(今のところ)残念ですね…

 

他紙の状況から確かめる

残念な気持ちになったところで、他紙や他局がどんな伝え方をしているか見てみましょう。前項で挙げた内容を、どれだけ記事が網羅しているかで書きました。

  ①記者クラブ ②法律関係 ③メディアグループの独占 ④政府と企業の圧力 ⑤ジャーナリストの安全 URL 備考
NHK × × × △(企業のみ) × *6  
テレ朝 × × × △(政府のみ) × *7  
毎日 WEB有料会員のみの記事のため確認できず *8 紙面なし
日経 × × × △(企業のみ) × *9  
時事通信 × × × △(企業のみ) × *10  
共同 × × × × × *11  
産経 × × × × × 2022年5月4日東京朝刊 P19 共同の配信記事そのまま

 

ツイートもしましたが、特徴的なのがテレ朝で、圧力をかけているという部分を、RSFが「政府や企業(The Japanese government and businesses)」と書いているところを、わざわざ「政府など」と、「企業」をぼかして書いているところです。うーん、へたれてますねえ。

 

逆にNHK、日経、時事は「政府」には触れずに、「大企業」の圧力を前面に押し出しています。

 

この見出しだけ見ると大きな変化のようにも思えますが、実際のところ、日経なんかは、毎年、この企業の圧力というか、親会社の方針みたいなことについては触れています。

 

日本に関してRSFは「編集部門が、経済的利益を優先する巨大な『系列』の方針に左右される状況が続いている」と言及した。

報道自由度、日本66位 国境なき記者団、1つ上昇: 日本経済新聞(2020年)

 

(承前)慣習や経済的利益に阻まれて記者が権力監視機関としての役割を十分に果たせていないなどとした。

報道の自由度、日本は67位 国境なき記者団 : 日本経済新聞(2021年)

 

NHKも昨年は触れていますね。

 

報告書では、日本について「慣習や経済的利益に阻まれて記者が権力監視機関としての役割を十分に果たすことが困難になっている」などと指摘しました。

世界各国の「報道の自由度」 日本67位 去年から順位1つ下げる | NHKニュース(2021年)

 

逆に時事は、これまで書いてきた記者クラブについては書かず、「大企業の影響力で「自己検閲」」という見出しで、路線を変えた感じ*12

 

アジア太平洋地域のRSFのまとめを、各社主要テーマにもってきている感じでしょうし、これはNHK、日経、毎日、時事は毎年そんな感じです。

 

This region’s media also fall prey to the growing control of large industrial groups, whose influence encourages the self-censorship of journalists and editorial staff, as is the case, for example, in Japan (71st), South Korea (43rd), and Australia (39th).

この地域のメディアも、日本(71位)、韓国(43位)、オーストラリア(39位)のように、大企業グループの支配が強まり、その影響力によってジャーナリストや編集スタッフの自己検閲が助長されるという事態に陥っている。

| RSF

 

なお、このRSFの指摘自体は前々から言われていることでもあり、実は目新しいものではありません*13

 

というわけで、毎日は読めないので*14あれなんですが、全体の傾向としては期せずして今年は「企業の圧力」が前面に押し出された感じです。この傾向は前々から変わっていないのに、政府のことを書く朝日の記事がなくなるだけで、なんとなく印象が変わってしまうのが不思議です。国別の詳細の欄では、政府や政治家の諸問題について取り上げていて、かつ政府の圧力についても書かれているにも関わらず、テレ朝以外ほぼ触れられていないのは、各社ともダイジョウブか、いう気持ちになります*15

 

ちなみに、私が今年いちばん意外だったのは産経です。産経と読売は毎年華麗にこの報道の自由度についてスルーし続けているのですが、共同通信の記事そのままとはいえ、今年は紙面に載せているのがちょっとした変化だなと感じました。

 

今日のまとめ

①今年のRSFの日本の課題の指摘は大きく5つ。

・記者クラブ

・私権を制限する法律関係

・伝統的メディアグループの独占

・政府と企業の圧力

・ジャーナリストの安全

②RSFのアジア太平洋地域のまとめを受けてか、今年は多くのメディアが「大企業の圧力」を目立つ形で記事にした。

③ただし、②についてはもう数年前からずっと言われ続けていることではある。

④政府や政治家の圧力の問題についてはほぼ触れられていない。

⑤注目された朝日新聞は記事にすらならず、(今のところ)身をもって報道の不自由さを体現してくれた。

 

こんな記事を書いといてなんなんですが、この話を3年続けて思ったのは、「これだからマスゴミは」みたいに終わっちゃうとあんまし意味がないんだなということです。残念ながら、良質な情報を得たければ、メディアの存在はどうしても欠かせません。マスゴミをこじらせすぎると、ネットで真実の人々になってしまうので、それは少々不健康です。メディアは敵ではなく、ある意味では世界をわたるためのツールです。道具の欠点は指摘すべきですが、壊してしまっては元も子もありません。

 

たぶん、メディアの中の人は、内心忸怩たる思いをしているんではないでしょうか。こんな泡沫のごときブログにいいように言われたら、「俺だって、俺だってホントはなあ…!」ぐらい思って欲しいものです。宮仕えはタイヘンではありますが、私は私でひっそりとできることをやっていくので、ジャーナリズムを掲げる皆様には雌伏の時を耐え抜いてください。

*1:

www.netlorechase.net

 

www.netlorechase.net

*2:

ところが、この点についても触れているのは日経のみで(今回、RSFは順位決定の方法を変更。政治や経済、社会・文化の各影響、法的枠組み、安全性の5指標で判定する)、なんだかなーという感じです。おめえらみんなちゃんと読んでっか?

*3:

いわゆる重要土地利用規制法の成立に抗議するとともに、その適用に反対し、廃止を求める意見書|第二東京弁護士会

*4:

国境なき記者団(本部:フランス)は8日、新型コロナウィルスに対応した特措法に基づく「緊急事態宣言」で、日本放送協会(NHK)が政府の指示を受ける「指定公共機関」に入っているのは問題だとして、NHKを外すよう勧告した。

政府指定機関からNHKの除外を〜国境なき記者団が勧告 | OurPlanet-TV:特定非営利活動法人 アワープラネット・ティービー

*5:

橋下氏批判の「リツイート」は名誉毀損 二審も判決支持:朝日新聞デジタル

*6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220504/k10013610921000.html

*7:https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000253501.html

*8:https://mainichi.jp/articles/20220503/k00/00m/030/170000c

*9:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF031WY0T00C22A5000000/

*10:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022050400142&g=int

*11:https://nordot.app/894125755834286080?c=39546741839462401

*12:

 

 RSFは日本の状況について、記者クラブ制度が「フリーランスや外国人の記者を差別し続けている」と指摘。

報道自由度、日本67位 菅首相「改善へ何もせず」―国際団体:時事ドットコム(2021年)

 

RSFは日本の状況について、「記者クラブ制度はフリーランスや外国人記者に対する明白な差別だ」と批判。

報道自由度、日本66位 世界で情報規制強まる―国際団体:時事ドットコム(2020年)

*13:

This is the case in Japan (up 1 at 66th), where newsrooms are still heavily influenced by management within the “keiretsu,” the conglomerates that own the media in Japan, which put their business interests first.

これは、日本(66位、前年比+1)においては、報道編集室が、「系列」の重大な影響を未だに受けており、この”集団”は、ビジネスの利益を第一に考えています。

RSF 2020 Index: Asia-Pacific – hyper-control and national-populist excesses | RSF

 

A new prime minister in Japan (down 1 at 67th) has not changed the climate of mistrust towards journalists that is encouraged by the nationalist right, nor has it ended the self-censorship that is still widespread in the media.

日本(67位 -1)の新しい首相は、ナショナリスト的な右派によって助長された、ジャーナリストへの不信感の空気を変えることができなかっただけでなく、メディアに広がる自己検閲を終わらせることもできなかった。

RSF 2021 Index: Censorship and disinformation virus hits Asia-Pacific | RSF

 

*14:

紙面で読むかと思ったら、紙面には掲載されないんですね。ウェブのみ、1記事のために1000円払うのは躊躇われてしまいました…。宝くじでもあたったら読んでみます

*15:

と書くと、陰謀論的な話につながっちゃいそうなんですが、私の個人的な意見としては、各社ともろくにRSFの記事を読んでないだけではないかという気はします。アジア太平洋の概観だけ読んで満足して、国別の詳細については目を通していないのではないでしょうか。もちろん、そうだったとしても問題であることには変わりないんですが