ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「報道の自由度2020」をめぐる報道の記事から不自由を見る

さきほどツイートでも呟いたのですが、字数の制限もあったので、一応記事でも残しておきます。

 

調査対象の180カ国・地域のうち、日本は66位(前年67位)だった。日本の状況について、東京電力福島第一原発といった「反愛国的」テーマを扱ったり、政権を批判したりする記者がSNS上で攻撃を受けていると指摘した。

報道の自由度、日本66位:朝日新聞デジタル

 

これだと、「国境なき記者団」は、SNS上の脅威が日本の報道の自由を脅かしていると指摘した、としか読めません。しかし、この書き方は少々ミスリードだと思いましたので、以下詳細を書きます。

 

 

***

 

朝日が報じないこと

世界報道自由度ランキングは、毎年「国境なき記者団(以下RSF)」が、アンケートなどを元にして決めているランキングです。まあ、批判もある調査ではありますが、今回はそこらへんは割愛します*1

 

さて、今回の報道自由度ランキング2020のレビューとして、「アジア・太平洋地域」の中に、日本のことが書いてあります*2。アジア・太平洋地域において、メディアの経営が「限られた担い手」によって管理されている実態が報道の脅威の一つとしたうえで、こう続けます。

 

This is the case in Japan (up 1 at 66th), where newsrooms are still heavily influenced by management within the “keiretsu,” the conglomerates that own the media in Japan, which put their business interests first.

これは、日本(66位、前年比+1)においては、報道編集室が、「系列」の重大な影響を未だに受けており、この”集団”は、ビジネスの利益を第一に考えています。

RSF 2020 Index: Asia-Pacific – hyper-control and national-populist excesses | RSF

 

「系列」が「keiretsu」と表現されていることに驚きますが*3、海外では日本の特殊な文化として捉えられているようです。英語の記事を読むと、「系列」は、財閥をプロトタイプとして、株式保有や企業間の連携などで認識されており、三菱や三井と言った銀行系や、トヨタなどの機業系も入れたりしています。ここでいう「系列の重大な影響」は、多くのメディアの親会社の方針を指しているものと推察されます。

 

ほかのメディアの報道

朝日以外のメディアはどのように報道しているのでしょうか。今回のRSFが指摘した「系列」の話を入れているのは、毎日と日経。

 

対象の180カ国・地域のうち、日本は昨年から一つ順位を上げ66位となったが、編集方針が経済的利益に左右されると改めて指摘された

NEWSFLASH:報道自由度、日本66位 - 毎日新聞

 

日本に関してRSFは「編集部門が、経済的利益を優先する巨大な『系列』の方針に左右される状況が続いている」と言及した。

報道自由度、日本66位 国境なき記者団、1つ上昇: 日本経済新聞

 

日経のは共同通信の外信なので、共同通信もこの中に入れてもよいでしょう。

 

一方、報道したものの、「系列」の話に触れていないのが、朝日、時事、JNN系列。

 

RSFは日本の状況について、「記者クラブ制度はフリーランスや外国人記者に対する明白な差別だ」と批判。また、インターネット交流サイト(SNS)上で政権を批判する投稿が攻撃の標的になっていると懸念を示した。

報道自由度、日本66位 世界で情報規制強まる―国際団体:時事ドットコム

 

日本は、前年から順位を1つ上げて66位で、記者クラブ制度について「フリーランスや外国人の記者に対する明白な差別だ」と批判されているほか、政権を批判する記者がSNS上で嫌がらせを受けているなどと指摘されています。

2020年「報道の自由度ランキング」発表、日本は66位 TBS NEWS

 

朝日は記者クラブの批判さえ掲載してないのはちょっといかがなものですかね。

 

そもそも今回のランキングに触れていないのが、主要紙で言えば産経・読売です。まあ、何と言うか、非常にわかりやすいですね。

 

以前から指摘されているが報道されていない

この指摘は今に始まったことではなく、2019年、2018年の報告にも同じ表現が見られます。

 

Japan’s rise (up five places at 67th) reflects a relative easing in pressure on the media from Shinzo Abe’s nationalist government, although journalists are still constrained by the weight of tradition and business interests.

日本のランキングの上昇(67位、前年比+5)は、国家主義的な安倍内閣の相対的な緩和を示していますが、依然として日本のジャーナリストは、古いしがらみと企業利益の重さに制約されています

RSF Index 2018: Asia-Pacific democracies threatened by China’s media control model | RSF

 

Finally, it is becoming increasingly difficult for media pluralism to resist the imperatives of media ownership concentration and business interests, as in Japan (67th) and Australia (21st, -2).

最後に、日本(67位)やオーストラリア(21位、前年比-2)のように、メディアのオーナーシップの集中と経済利益優先のために、メディアが多様性でもって抵抗することはますます難しくなっています。

RSF Index 2018: Asia-Pacific democracies threatened by China’s media control model | RSF

 

朝日はこれらをどのように報じているかと言うと、こんな感じです。

 

調査対象の180カ国・地域のうち、日本は前年と同じ67位だった。「記者団」は日本では「メディアの多様性が尊重」されているものの、沖縄の米軍基地などを取材するジャーナリストがSNSで攻撃を受けている、と指摘した。

朝日 2019年4月19日 P37

 

記者団は日本のジャーナリズム環境について、「政府を批判する記者に対し、国粋主義者がソーシャルネットワーク上で嫌がらせをしている」と指摘した。

朝日 2018年4月26日 P37

 

こんな感じで、まったく触れられていません。というか、毎年毎年同じ表現で、記者のやる気が感じられません。

 

SNSの話は2017年からある

この「SNSで攻撃されている」という話がどこに載っているかというと、RSFの各国の状況を示したページに掲載されています。

 

On social networks, nationalist groups harass journalists who are critical of the government or cover “antipatriotic” subjects such as the Fukushima Daiichi nuclear disaster or the US military presence in Okinawa.

政府を批判することや、福島の原発事故や沖縄での米軍駐留などの「反愛国的」な事柄について扱うジャーナリストを、国粋主義者たちがSNS上で嫌がらせしています。

Japan | RSF

 

ただし、この項目の見出しは「伝統と事業利益(Tradition and business interests)」となっており、日本のジャーナリストがこの「伝統と事業利益」のために、「民主主義の番犬」となることを難しくしている、とパラグラフの最初の方で述べているので、報道の自由度を下げている主題は「SNS」ではないことは明白でしょう。

 

また、この話は2020年に限った話ではなく、先ほど過去の記事を参照したように、2017年のリポートから見られます。

 

Members of nationalist groups on social media also intimidate and harass journalists who dare to question the government or tackle “controversial” subjects.

SNS上の国粋主義者たちは、政府に疑問を投げかけたり、「物議をかもす」テーマに取り組んだりするジャーナリストを脅迫したり嫌がらせをしたりします。

Japan | RSF(2017年4月26日のアーカイブ)

 

そのため、毎年おんなじようにしか書いていないのであれなんですが、朝日のこの記事の書き方は、2020年の総括のように見られるので不適切です。

 

むしろ、見出しの経年変化を見ていくと、RSFは、日本の「報道の自由度」の低さが、国家権力や「政権」に左右されるというよりかは、企業の利益至上主義や記者クラブなどの伝統的な制度、親会社の経営方針の方がウェイトが大きいというニュアンスに変わってきています。

 

2016年→「国家機密に触れないで(Don’t mess with “state secrets”)」

2017年→「安倍晋三の脅威(The threat from Shinzo Abe)」

2018年→「伝統と事業利益(Tradition and business interests)」

 

今日のまとめ

 

①「SNS上で攻撃される」という文章について、RSFは2017年から指摘しているため、朝日の書き方はミスリードを誘う。

②経年を見ても、RSFの日本の報道自由度の低さの原因は、「系列」による報道自由の縛りと利益至上主義によるものだという指摘であり、SNSの話は挿話の一つに過ぎない。

 

朝日嫌いな人の言質になるのも癪ではあるんですが、このような形でしか「報道の自由度」を書けない今の日本の報道こそ、逆説的ではありますが、日本の報道の不自由さを表していると感じます。

 

 

 

 

*1:

日本の「報道の自由」を考える~本当の問題はどこにあるのか(江川紹子) - 個人 - Yahoo!ニュース とか

*2:

すごいどうでもいいことなんですが、RSFの「#RSFINDEX2020」の地図画像では日本がちょんぎられています。

f:id:ibenzo:20200426093607p:plain

https://rsf.org/en/rsf-2020-index-asia-pacific-hyper-control-and-national-populist-excesses より

2018年までは入っているのになあ…

*3:

Wikipediaにもあります。

Keiretsu - Wikipedia