お久しぶりです、生きてます。
正直、もうあまりこのブログを更新することはないかなと思うんですが、「報道の自由度」については、他の誰も書かないので、細々記録を残していこうと考えています。
さて、2020年から観測している*1、国境なき記者団(以下RSF)による、「報道の自由度ランキング」が今年も発表されました。金太郎飴のように「SNS上で記者が攻撃されている」しか報道してこなかった朝日が、去年はなんと、記事にすらしない、という英断(!)を下して界隈を賑わせました。さあ、今年はいったいどうなっているのか…!
【目次】
朝日くん、記事にする
今年は、おお、「報道の自由度ランキング」、記事になっています!わくわくしながら内容を見ていきましょう。
日本の状況について、「メディアの自由と多元主義の原則を支持している」としたものの、政治的圧力やジェンダー不平等などにより、「ジャーナリストは政府に説明責任を負わせるという役割を十分に発揮できていない」と批判した。
歴代のと比べてみると、こんな感じ。
記者団は日本のジャーナリズム環境について、「政府を批判する記者に対し、国粋主義者がソーシャルネットワーク上で嫌がらせをしている」と指摘した。
朝日 2018年4月26日 P37
調査対象の180カ国・地域のうち、日本は前年と同じ67位だった。「記者団」は日本では「メディアの多様性が尊重」されているものの、沖縄の米軍基地などを取材するジャーナリストがSNSで攻撃を受けている、と指摘した。
朝日 2019年4月19日 P37
調査対象の180カ国・地域のうち、日本は66位(前年67位)だった。日本の状況について、東京電力福島第一原発といった「反愛国的」テーマを扱ったり、政権を批判したりする記者がSNS上で攻撃を受けていると指摘した。
調査対象の180カ国・地域のうち日本は67位(前年66位)だった。日本の状況について、政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」と批判した。
報道の自由度、67位 「菅氏は改善へ何もしていない」:朝日新聞デジタル
(2021年)
ついにSNSが消えました。替わって、はっきり「政治的圧力」が記事にあらわれ、「ジェンダー不平等」が新たに加わっています。ちなみに、毎年同じ記事を書いていた人とは別の方になっています。
朝日が報じないこと
では、RSFの評価や書きぶりが変わったかというと、実はまったくそんなことはありません。
Japan, a parliamentary democracy, upholds the principles of media freedom and pluralism. However, the weight of traditions, economic interests, political pressure, and gender inequalities prevent journalists from fully exercising their role of holding the government to account.
議会制民主主義国家である日本は、メディアの自由と多元主義の原則を掲げている。しかし、伝統の影響力、経済的利益、政治的圧力、ジェンダー不平等により、ジャーナリストが政府の責任を問うという役割を十分に発揮することができない。
前回は、「tradition and business interests」のみだったところに、政治的圧力やジェンダーに関する文言が入ったところが新しいですが、そのあと続く内容はほぼおんなじです。ですので、詳しい内容は去年の私の記事*2を見てもらえれば済むんですが、概要だけ載せましょう。
①記者クラブの問題
②国家権益に関する法律が私権を制限している
③大規模な伝統的メディアグループの独占
④政府と企業の圧力
⑤ジャーナリストの安全への不安
冒頭には「ジェンダー不平等(gender inequalities)」の記述があるものの、そののちには一言も出てこないため、ちょっとこの表現が突然出てきた理由は不明です。
朝日が触れていないのは「①記者クラブの問題」「③大規模な伝統的メディアグループの独占」「④政府と企業の圧力」です(⑤については今までさんざん書いたからいいのかな…)。①の記者クラブについては他紙も触れないため、もう不可侵条約でも結ばれてるのかなという感じですので、他の部分を見ていきましょう。
伝統的とはなにか
RSFは、たぶんあんまり日本に興味ないのかなという書きぶりなので、ぱっと見よくわからない用語に、「the weight of traditions(伝統の影響力)」というものがあります。これは、2018年のRSFの日本に関する報告を読むと理解できます。
Japan’s rise (up five places at 67th) reflects a relative easing in pressure on the media from Shinzo Abe’s nationalist government, although journalists are still constrained by the weight of tradition and business interests.
日本のランキングの上昇(67位、前年比+5)は、国家主義的な安倍内閣の相対的な緩和を示していますが、依然として日本のジャーナリストは、古いしがらみと企業利益に制約されています。
RSF Index 2018: Asia-Pacific democracies threatened by China’s media control model | RSF
今の傾向として、RSFは日本について、「政府の圧力」に比重が傾いている書きぶりですが、以前はかなりこの「企業」に関して紙幅を割いていました。2020年の報告では「keiretsu(系列)」という言葉を使い、古くから続くメディアの親会社や「系列」会社の圧力について指摘してきました*3。
この1・2年の報告では、日本の問題を細分化したため、昨今は薄められた印象もありますが、現実はそうそう変わってはいないのではないでしょうか。今回の報告においても、「従来のメディアが影響力をもっている( traditional media remain more influential )」と表現されており、新聞社や放送局の「株式持合い(the cross ownership)」を規制する法律がないことにも言及しています*4。新興メディアが影響力を持たないために寡占状態になっていること、また、独立性、というメディアの重要な側面が、その伝統的な系列、そして経済的しがらみから脅かされている、という主張でしょう。
そして、当然のように朝日はこのことについては言及しておらず、彼らの記事を読むだけでは、ジャーナリストを脅かすものは「政治的圧力」だけというもののように読めてしまいます。そもそも、「圧力(pressure )」については、RSFも、「政府と企業(The Japanese government and businesses)」と書いてあるのに、そこをわざわざ外して書くところが、やっぱり日本の報道は不自由だなあという印象を受けます。
ところが英語版では...
なんだ、結局朝日は元に戻ったのね…という感じではあるんですが、実は、同じ記事の英語版では、この「the weight of traditions(伝統の影響力)」について言及があるのです。
According to the Paris-based group, Japan moved up from 71st last year, but it remains the lowest among the Group of Seven nations.
“Japan, a parliamentary democracy, upholds the principles of media freedom and pluralism,” the group said. “However, the weight of traditions, economic interests, political pressure, and gender inequalities prevent journalists from fully exercising their role of holding the government to account.”
この英語版の記事については、日本語版の記者と同じ人が書いています。RSFの報告を引用する形ですのでいちいち翻訳しませんが、他の部分は日本語記事と全く同じであるにも関わらず、RSFの報告の引用の「伝統の影響力と経済的利益」の部分を、英語版では省いていないのです。日本語では書けないのに、英語では書ける、というアンバランスさは、まさに現状の日本の「報道の自由度」を示していると言えるのではないでしょうか。
他紙について
まだRSFの報告が出たばかりなので、今のところ、共同・時事・ANN系列のみの記事となっております。出揃ったら追記します(たぶん)。
今日のまとめ
①今年の朝日は、「報道の自由度ランキング」で、ジャーナリストが政府を攻めきれない理由に「政治的圧力」と「ジェンダー不平等」を挙げている。
②ただし、RSFの報告は昨年とほぼ変わらず、「伝統の影響力(古いしがらみ)」や「経済的利益」などに関することは記事内では触れられていない。
③一方で、同じ記事の英語版には②のことが記されており、日本語では書けないことを英語で書く、という現状が、今の日本の「報道の自由度」を如実に示している。
今年でこの記事を書くのも4年目なんですが、報道関係の人はこれを目にすることはあるんでしょうか。私は、報道の自由度ランキング自体が絶対正しいとはもちろん思ってないのですが、メディアに携わる人たちが、賛成にしろ批判にしろ、この話題をそろってスルーしている現状が、なかなかどうして、もうちょいがんばれよ、と悲しくなります。
*1:
「報道の自由度2020」をめぐる報道の記事から不自由を見る - ネットロアをめぐる冒険
「報道の自由度2021」の報道の仕方から不自由を見る - ネットロアをめぐる冒険
【令和4年版】「報道の自由度2022」の報道の仕方から不自由を見る - ネットロアをめぐる冒険
*2:
【令和4年版】「報道の自由度2022」の報道の仕方から不自由を見る - ネットロアをめぐる冒険
*3:
This is the case in Japan (up 1 at 66th), where newsrooms are still heavily influenced by management within the “keiretsu,” the conglomerates that own the media in Japan, which put their business interests first.
これは、日本(66位、前年比+1)においては、報道編集室が、「系列」の重大な影響を未だに受けており、この”集団”は、ビジネスの利益を第一に考えています。
RSF 2020 Index: Asia-Pacific – hyper-control and national-populist excesses | RSF
*4:
ここら辺の話題でしょうか。