iphoneはテクノロジー関連だけでなく、逸話的な感じでもよく語られます。ポケットにいれといて銃弾を防いだとかね。
さあ、今日はそんなiphoneの伝説ふたたびです。
まとめサイト的には「うそくさい」「作り話くさい」と散々な言われようですが、まあまあ、調べてみようじゃありませんか。
内容としてはこんな感じ。
①18歳のサム君がトラックの下で作業をしていたらはさまれた。
②大声で助けを呼んだが誰も反応がない。
③Siriが何かの拍子で立ち上がり、警察に通報できた。*1
④サム君の容態はわからない。
さあ、ソースを探しましょう。
IT速報さんや他のまとめサイトが元にしているのは以下のサイト。
8月7日から開設された、ずいぶん新しいブログですね。*2記事自体は8月17日です。
で、このブログがネタ元にしているのが以下のサイト。
8月15日の記事です。butt-dialというのはスラングで、誤った操作による電話発信、といったところでしょうか。結構社会問題になっているようなんですが、これについては後述します。
さて、この記事が元ネタというわけではなく、「originally appeared on CNET.com」とあるので、CNET.comというサイトがソースだといっとりますので、これをまた調べます。しかしスペインのときとは違って英語であることと、リンクを各自つけてくれているのは、とても助かりますね。
8月14日の記事。やれやれ、これがネタ元かと思ったら、「 as reported by WZTV」とあるので、おいおい、玄孫引きどころのさわぎじゃねえよって感じです。
ようやく見つけたソース元、FOX17というテレビ局ですかね、の記事がこちら。
どうやらこれが大元で間違いないようです。まあまあ詳しく書いてあります。
①7月2日、18歳のSam Rayくんは腕を5000ポンドのトラックにはさまれた。
②助けを叫んだが誰も来なかった。
③そのとき、後ろのポケットにいれといたiphoneからSiriがアクティブになった声が聞こえた。
④助けを呼ぶチャンスだと、Siriを作動させ911にコールするために尻をつきあげた。←ウマイ!いや、でも本当にそう書いてあるんだって。
⑤挟まってたのは40分ぐらいで、肋骨3本と、腎臓の打撲、腕にやけどを負った。
この記事を読んでわかるのは、「FOX17」から記事を引っ張ってきた「CNET」の大幅な記事内容の書き換えです。例えば、「CNET」は「...nor is whether his phone was in his front or back pocket.」とあり、後ろか前のポケットかはわからないが的書き方になっていますが、「FOX17」では明らかに「 his phone that was in his back pocket」と、後ろのポケットと指定して書いてあります。ちゃんと読めよ!
他にも、「Siri appears to understand various emergency-related commands, such as "call" "cops" "police" and "emergency services."」と記載がありますが、「Siriは緊急時の「電話」「警察」「救急サービス」といった様々な緊急コマンドを理解することが明らかになった」という感じでしょうか。
これを日本の先ほどのブログ「世界愛国通信」は、「そして幸運なことに、Siriは「警察」「緊急通報」等の言葉を聞き取り、100番通報することができたそうです。」という翻訳にしてしまっています。「FOX17」を読んでもわかるとおり、「to activate Siri and requested a 911 call.」とあるだけなので、単語を聞き取ったかどうかはわかりません。むしろ、「CNET」の書き方はガジェットオタク風の、「Siriにこんな機能もあるなんてなHAHAHA」なジョーク風の書き方を、四角四面に「世界愛国通信」なるブログは誤訳してしまったように思います。
つまり、「FOX17」ではフラットな書き方だったものが、「CNET」という<ニュースサイト>というよりはiphoneなどのテクノロジー系を伝える<ギーグ的サイト>の書き方により、ちょっとクローズアップされる方向が変わってしまったようです。日本の翻訳記事は残念ながらうまく伝わってこないですね。
それにしてもよくわからないのが、「④Siriを作動させ911にコールするために尻をつきあげた」ですね。ジョークじゃなさそうですし。
ここで、もう少し詳しく書いてあるUSATODAYを引っ張ってきます。*3
ここには、「After a few tries, Ray was able to get his iPhone to call 911 by pressing his butt into the phone.」「何回かのチャレンジの後、レイはケツで電話を押すことで、911にコールすることができた」とあります。んー?どういうこっちゃ?
「FOX43」というニュースサイトでは、サムくんの言葉が載っていて、そのときの状況がもう少し詳しく載っています。
そこには、「While on his back, his body somehow hit the phone’s home button.」と、どうにかしてiphoneのホームボタンを押そうとしたとあり、「“I said, ‘Call 911,’ and that was all it said,” 」と、「911に電話して!」と言ったことが書いてあります。なるほど、ケツでホームボタンを押してSiriを起動させ、音声操作で電話をかけたんですね。
ここまで調べてようやく、サム君がどうやって緊急通報をしたのか、そのやり方がわかりました。ふー疲れた。結果だけ見れば、玄孫引きしている日本の翻訳記事は、まあそんなに間違ってないかな、という感じですね。
でも、ちょっとやはりニュアンスが違うかな、と思います。
さあ、ここで登場するのが「Butt-dial」というスラングです。「Pocket-Dial」とも呼ばれ、Wikipediaにまであります。*4
みなさんも経験があるかと思うのですが、ポケットにスマホを入れておくと、勝手に画面がONになってて、知らないところに電話をかけちゃったりすることです。これがアメリカでは「911」への誤発信に多くつながっているんだそうです。このサイトによれば、トロントでは911コールの10%近くがこの誤発信なんだとか。
つまり、アメリカではこの「Butt-Dial」が日本よりも明らかに社会問題化しているわけです。けれども、今回はその「Butt-Dial」ではからずも命が助かったというわけです。なので、記事の書き方としては、「Siriすごいね!」という論調は、先ほどの<ギーグ的サイト>に行くほど強くなり、通常のアメリカのニュースサイトは、この「Butt-Dial」を記事の中心に据えているかなあという感じです。ほら、切り口を変えれば、この「社会問題」から今回の出来事を伝えなおすことだってできるんですよ。
というわけで結論。
○Siriを使って緊急通報をし、九死に一生を得た少年は存在する。 ○ただし、アメリカのニュースサイトは「スマホからの電話の掛け間違い」という社会問題の側面から書いていることも忘れてはならない。 |
いずれにせよ、こういった記事の日本向け紹介ブログはガバガバすぎです。せめてソース元が明示されているときはそっちも見てね!