【4月12日 21:32追記】
「パナソニックの事務所を格安で間借り」について、情報を頂きましたので、追記します。いつもありがとうございます。下部、該当箇所に青字で追記いたしましたので、確認ください。結論から言えば、「パナソニック(三洋電機)」の持っていたスポーツセンターに「大阪府バドミントン協会」が間借りしていた経緯はあるということでした。また、経歴についても信頼性の高い情報を追記しました。
今回の本稿の甘いところは、銭谷専務理事の美談に「根拠がない」というだけで、今後、このようにソースとしては出てくる可能性があるということです。可能性の話としては、全てがウソである、とまでは言い切れないことは、念のために追記しておきたいと思います。ただ、個人的にはそういうきちんとした情報が出てきて、情報がブラッシュアップされていくことは望ましいことだと思っているので、ぜひご存知の方がいたらお教えいただきたいところです。
バドミントンのオリンピック選手が違法賭博をしていたということで、喧々諤々していますが、そんな中、日本バドミントン協会の、銭谷専務理事の男泣きがちょっとだけ話題になっています。
他にも、こんなツイートが話題です。
バドの銭谷専務理事、自宅を売った金でコートを作り、役員報酬をカットして育成費用に充てて、必死になってスポンサー集めて賞金つくってこれからって時に馬鹿が闇カジノで手に入れた賞金と強化費を溶かしてたのが発覚して全部終了か。そりゃ泣くわ。
— 緑茶 (@Greentea315) 2016年4月8日
何で泣いとんねんって思ったけ強化選手育成のために教師やめて私財投じて、足が棒になるまでスポンサー探して、国内にバドミントンの基礎を築いた立役者なのに違法カジノなんかに手を染めてたらそら泣くわ pic.twitter.com/rtGMbxNP93
— おさんぽみるく (@MILKWALKEE) 2016年4月8日
彼の「逸話」をまとめると、
①強化選手育成のために教師を辞めた。
②バドミントンのために私費を投じている(例:自宅を売った金でコートを作る)
③役員報酬をカットして育成費用に充てている。
④賞金は全て報奨金として選手に渡っている。
とのこと。しかし、「なになにー、それってどこ情報よー」という感じなので、調べてみたいと思います。
まず、まとめサイトがソースとしてあげている日刊スポーツの記事。
まとめサイトには以下の文が入っています。
賞金は一切協会は手をつけずに報奨金として選手の口座に入れます。
すこしでもこの競技に関心をもっていただきたいんです。
毎年1月、反社会的勢力への講習会を行い、強化指定選手には
誓約書を提出していただいてます。
しかしながら、元のソースにはこの文章がどこにも見当たりません。
「240日を海外転戦」している話は載っていますが、その下の「報奨金として選手の口座」に入れたり、「反社会的勢力」への「誓約書」の話はどこにも出てきません。
「紙面から」とのことなので、実際の2016年3月15日の日刊スポーツを図書館で調べてみましたが、文章としては一緒でした。
つまり、この最後の文章は意図的な捏造ということになります。
では、実際の賞金はどのようになっているのか。実は日刊スポーツさん自身が調べています。
記事によると、賞金は「賞金を獲得した選手が所属する都道府県協会に「用器具補助費」との名目で、1割の手数料を差し引き、残り9割を振り込んでいる」とのこと。これが事実であるならば、そもそも「協会は手をつけず」というのも誤りです。なので、④報奨金は全て選手に・・・というくだりは誤りです。
また「反社会的勢力」への講習会も存在は不明です*1。ただ、「誓約書」は、恐らく存在しているようで、Nスタにて、日本バドミントン協会が「日本代表としてふさわしくない状況がみられた場合、代表選手の指定を外されても一切意義を唱えないことを宣誓する」と書かれた「受諾誓約書」の提出を求めているそうです*2。
さて、銭谷専務理事に関しての逸話はいかがでしょうか。
まず①の教師をやめて・・・のくだりですが、彼の経歴を洗ってみると、どうにも教師をしていた時期がないように思います。
1953年生まれですので、出身の中央大学を卒業して、河崎ラケット工業に入団したのが1975年ごろ*3。
その後、1984年からは三洋電機(懐かしい!)にコーチとして招かれ、1990年1月から第3代監督に就任。2001年3月まで続けています*4。
さて、その次が日本バドミントン協会の何らかの役員なのですが、それがいつからかがはっきりしない。確実なのは2007年からで、なんかの団体のページに「日本バドミントン協会理事 銭谷欽治氏」の名前が見られます*5。
じゃあその2001年から2007年の間で何かの教師をしていたかというと、たぶんそんなことはないでしょう。大学の講師ぐらいしていたかとも思ったのですが、まったく検索に引っかからないですし、既に三洋電機所属の時代から、日本バドミントン協会の強化部員として活躍していたようですので*6、学校関係の教師をしていた暇はなかったはずです。強化選手育成のために、三洋電機の監督を辞めた、という言い方なら正解かもしれませんが。
【4月12日追記】
経歴に関しては、以下同窓会通知のページの情報もいただいたので、参考までに追記します。平成26年までパナソニックにおられたんですね(ただ、日本バドミントン協会の理事はその前からしています。→平成23・24年度 公益財団法人 日本バドミントン協会役員 | 公益財団法人日本バドミントン協会)
(参考)
②の私費を投じているという件ですが、これもソースが見つかりませんでした。「自宅を売った金でコートを作り」とありますが、これもソースなし。最初のソースにあげた日刊スポーツの話では、コートの話に関して、「08年にナショナルトレーニングセンターが出来、常に10コート使えるようになったこと」を挙げていますが、これは沿革を見る限り、国の事業なので、使われているのは税金でしょう*7。
そもそも、日本バドミントン協会は、自前のコートを持っていません*8。あるいは銭谷個人名義のコートを育成のために作った、という可能性ならあるのかもしれませんが、そういう情報が全く出てこないのは不自然であるとは思います。
他にも話に色々尾ひれがついていて*9、たとえば「バドミントン協会はパナソニックの事務所を格安で間借り」とありますが、これが「日本バドミントン協会」ならば、事務所は岸記念体育館にあるので、パナソニックは関係ありません。だいたいパナソニックのバドミントンチームは2012年に解散をしております*10。
【4月12日追記】
以下の資料によると、「大阪府バドミントン協会」は、2013年まで「三洋電機大東スポーツセンター」内に事務所を構えていたようです(既に存在しないので、ストリートビューで見ると更地になっていて物悲しい感じです*11)。
http://www.osaka-badminton.jp/osaka/iten.pdf(リンク先PDF)
ちなみに新しく越したところは「大阪府大東市赤井」のところで、調べたところによると、このビルの3階の家賃は52坪で546000円。坪単価は1.05万円。
(参考)
三楽興産株式会社(貸店舗・事務所)
もし、大阪府バドミントン協会が今までの家賃とあまり変わらないところを目指して移転したのであれば、「格安」の情報が正しければ、「三洋電機大東スポーツセンター」周辺の貸事務所の家賃はこれよりも高くなります。
しかし、ドンピシャはありませんでしたが、スポーツセンターのお近くの大東市住道の貸事務所は坪単価1.09万円。
【アットホーム】大阪府大東市住道1丁目(住道駅)の賃貸店舗・貸店舗の物件情報[6959490214]
単純に比較はできませんが、同じ家賃を維持して越したのであれば、「格安」の情報は間違いになります。移転して家賃が大幅に上がったのであれば、なかなか大阪府バドミントン協会も、懐事情が苦しくなりそうで、他人事ながら心配になります。
③の役員報酬云々に関してですが、私が見た限りでは、日本バドミントン協会は、報酬規定自体を開示しておりません。公益財団法人になるので、本来であれば役員報酬は開示すべきだとは思うのですが*12、少々不透明な感じは否めません。情報開示請求を行えば、見せなければいけないので、余力がある人は確認されるといいかもしれません。なので、これも情報源が不明です。
要するに、銭谷専務理事に関する「逸話的」情報には、ほぼ全て根拠がありません*13。ただ、彼がバドミントンに関して尽力していたのは事実のようで、昔、全日本総監督だった池田信孝に対して解任要求をするなど、バドミントンに対する情熱は人一倍だったようです*14。本人が作ったか石川県の協会が作ったかはわかりませんが、「銭谷杯」というバドミントンコンクールがあるのもの事実ですし、何よりもその実績が、彼のバドミントンに対する思いそのものであるでしょう。
どうも我々は美談というものに弱いです。しかしよく考えれば、この銭谷専務理事の行為は正確には美談ではありません。もし私費でコートを調え、自らの役員報酬をカットして選手を育成していたのであれば、これは組織ではなく私情の行為となります。これは特定の個人とのつながりを強くさせ、ありていに言えば「えこひいき」のような状態を作るのではないでしょうか?銭谷派閥、みたいな。その状態を作り出すことは、組織として健全な姿になるんでしょうか。
私は、日本バドミントン協会は、各種報道を見る限り、ちょっとゆるい団体だと思います*15。こういうものを、一個人の美談で覆い隠してしまうのは、改革の過渡期にあるとしても、少々よろしくないんではないでしょうか。ぜひ、一選手の問題もそうですが、協会全体のクリーンさも図って欲しいなあと思います。美談が美談であるためには、逆説的ではありますが、美談を安易に作らないということです。
*1:ただし、潮田玲子が「反社会的勢力の講習会は私達の時代、それこそ大会優勝賞金10万円の頃からしてたし、田児は10回は受けてたはず 」という情報もあり、もしかすると、キャスターをしているNスタあたりで言っていたのかもしれません。
http://blog.livedoor.jp/kinisoku/archives/4611697.html
*2:銭谷欽治専務理事 に関するテレビ情報| Nスタ | TBS | TVでた蔵
*3:ここらへんの年号が信じられない方は、日本バドミントン協会がわざわざPDFで挙げてくれている「バドミントン界」をご覧ください。
銭谷が中央大学であることは、1975年3月65号24Pに記載あり。
http://www.badminton-a.com/badworld/bw197503.pdf(リンク先PDF激重注意)
また、河崎ラケット工業に所属していたことは、1976年4月78号14Pに記載あり。
http://www.badminton-a.com/badworld/bw197604.pdf(リンク先PDF激重注意)
*4:パナソニックバドミントンチームの軌跡としてアーカイブで拾ってきました。
栄光と感動の33年 パナソニック バドミントンチーム〜発足からの歴史を振り返る〜 | バドミントン | パナソニック スポーツ | Panasonic
*6:2000年9月には日本代表チームのコーチとして名前が挙がっています。
銭谷欽治コーチ(同選手強化部員、現三洋電機副部長兼ゼネラルマネジャー)
http://homepage2.nifty.com/ishidajun/index.html
オグシオペアをかなり売り込んでいたところを見ると、恐らく彼女たちのデビューである2002年から日本バドミントン協会をメインにしていたのではないでしょうか。
*8:H26年度財産目録
http://www.badminton.or.jp/nba/2015/26_mokuroku.pdf
*9:ここのmixiのページは、まさに「尾ひれがつく」という言い方が当を得ています。
銭谷 専務理事 ・奥さんが亡くなり、子供が独立したので大坂の家売っ払い、それを練習場建設中の協会に寄付、賃貸暮らしに ・金沢に育成拠点を作り少年バド | mixiユーザー(id:7328240)の日記
*10:パナソニック バドミントンチームの今後の活動について | お知らせ | バドミントン | パナソニック スポーツ | Panasonic
*11:過去のストリートビューからは元の建物を確認できます。
*12:厚労省からの通達もあります。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/kentoukai/5kai/08.pdf(リンク先PDF)
*13:当たり前ですが、ネットで調べられる限りは、ということにはなりますが。バドミントン界隈で有名な話ならば、その話が掲載されているバドミントンマガジンの号数を知りたいところです
*14:知恵袋っていうのもなんなんですが、バドミントンマガジンを調べるほど元気がありませんでしたので、まあ以下の情報が正しいものとします。
日本バドミントン協会の内乱について質問しますが、池田信孝が全日本の監督時代... - Yahoo!知恵袋
*15:たとえば、大阪国際チャレンジが手続きミスで開催できなかったり。
申請ミスで国際大会開けず 日本バドミントン協会 ― スポニチ Sponichi Annex バドミントン
活動実績のない専任コーチに国庫補助金を使ったり。
他業界にもあるのだけど、スポーツ団体の着服・横領・不正は繰り返すからねえ: スポーツスポンサー獲得Lab(記事もとのソースはきれてるんですが)