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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

昏睡後にスペイン語をしゃべりはじめた少年は存在するか、心の汚れた大人たち

海外ニュース ファクトチェック

先日、スプートニクがアクロバティックな誤訳をしたことが話題になりましたが、以前私が書いた記事も相当アクロバティックでしたよ。

ibenzo.hatenablog.com

 

で、本日もそんなスプートニク発の話題。

 

jp.sputniknews.com

 

サッカーの試合中に頭部を蹴られたアメリカの少年が、昏睡状態から目覚めると、今まで話せなかったスペイン語を流暢に話したとのこと。

まー、ほんまかいなという感じのする内容だったのですが、調べてみると、一つの病気として認知されつつあるようでしたので、そのことを書いてみたいかと思います。

 


 

スペイン語は喋れなかったのか 

 

スプートニクはDailymailをソースにしてると明言しているので、とりあえず当該記事を探します。

www.dailymail.co.uk

 

書いてあることはまあまあ同じです。少年=Rueben Nsemohが、頭部を強く蹴られ、アトランタの病院にドクターヘリで搬送されたこと、現在Ruebenは退院しているが、学校にはまだ通えず、ついでに治療費に200000$もかかり、ファンドページを開設していることなどが書いてあります。

しかし、気になるのが、

 

her son was speaking fluent Spanish, something he's never done before.

 

の部分。「彼女の息子=Rueben Nsemohは以前にはできなかったような流暢さでスペイン語を話していた」とあるのですが、スプートニクは「以前は知らなかった」と書いています。少年はスペイン語を知っていたのか知らなかったのか?

 

DailymailはWSB-TVをソースにしているとの事なので、そらちも見てみましょう。

 

www.wsbtv.com

 

ここには、スペイン語のくだりについて

 

Rueben spoke only in Spanish at first, a language he'd never spoken fluently before.

Ruebenは、以前は流暢に喋れなかったスペイン語だけしか初めは話せなかった

 

とあります。どーも、こういう表現を読むと、スペイン語を知らなかった、というより、「流暢に喋れなかった」という感じがします。

 

CNNは以下のように伝えています。

 

edition.cnn.com

 

he could already speak some Spanish, but he was never fluent in it until his concussion.

彼は多少スペイン語を話せたが、昏倒するまで流暢に話せることはなかった*1

 

つまり、彼はスペイン語を全く知らなかったわけではなく、以前から少しは話せる状態であり、それが事故後「流暢」になったというわけです。

 

外国語アクセント症候群

CNNはこの原因を、「外国語アクセント症候群(Foreign accent syndrome)」ではないかとしています。

 

Foreign Accent Syndrome (FAS)

 

これは、未だに因果関係が不明ではありますが、脳に強い衝撃が加わった場合に、言葉が「外国訛り」のアクセントになってしまい、まるで別の国の人の発音のようになるという病気です。初めてのの症例報告は1941年で、ノルウェー人の女性が突然ドイツ語訛りで話すようになったということ。

 

「外国語アクセント症候群」は、あくまで「訛り」のようになる症例であり、全く新しい外国語を覚えたりとか、そういうことではありません。子音の発音に異常があったり、母音に歪みが出たりといった共通点や、単語が強調されて、それが何かの「訛り」のように聞こえてしまうということだそうです。そのため、人によってはその「訛り」がロシア語にもドイツ語にも聞こえることのあることから、「これは聞き手の創り出したフィクションだ」という人もいます*2

 

なので、恐らく今回のスペイン語の件は、少年がスペイン語を片言でも話せていたことを考えると、この「外国語アクセント症候群」によって、彼のアクセントが変わり、あたかも「流暢に」スペイン語を話しているように感じられた、というところなんではないでしょうか。

 

今日のまとめ

 

①少年は以前から多少スペイン語を話せており、事故後はそれが「流暢」なスペイン語に変わったということ。

②少年の症例は「外国語アクセント症候群」と似通っており、アクセントの変化がスペイン語のように聞こえたのではないかと考えられる。

 

記事を読むとわかるのですが、タイトルで大々的に書く割には、スペイン語云々の話は結構短く、大部分は彼や彼の家族の様子の描写がほとんどです。ましてや、スプートニクが書く「ジョージア州に米国最良の専門家が招待され、母語を思い出すように助けた」なんてことはどこにも報道されていません。いったいどこからこの話はやってきたんだ。

 

少年の事故が起きた日をWSBは「先月の終わり」としていますから*3、既に1ヶ月ほど経過しているわけです。それを、今になって「スペイン語が流暢に」という見出しをつけてメディアが広めるのは、とってもうがった見方をすれば、彼の治療費のファンドのための宣伝のようにも読めます。なんていう風に考えてしまうのは、私がちょっと汚れた大人だからでしょう。

日本だと賛否が渦巻いて収集がつかなくなりそうですが、アメリカというのは、こういう「奉仕」文化については、懐が深いというか、なんというか。

 

 

*1:ちなみに、日本語版のCNNでは、「片言のスペイン語は話せたが」

CNN.co.jp : 昏睡に陥った米高校生、目覚めると突如スペイン語が堪能に - (1/2)

*2:ロンドン大学のJohan Verhoevenの話

BBC - Future - The mind-bending effects of foreign accent syndrome

*3:ちなみにGofundmeのサイトのコメントに寄れば9月24日。保険に入っていなかったわけではないのですが、免責金額を大幅に超えたので、このようなファンドを募ることにしたとのこと。

Reuben's MEDICAL Fund by Kiran Narker - GoFundMe