最近、現実世界が多忙につき、なかなか腰をいれて記事を書けなかったのですが、今日はめずらしくテレビの話題。
本当に何年かぶりに、たまたまつけた「世界ふしぎ発見」を見たのですが、なんだか私の好きだった番組ではなくなっていたようで残念でございました。
今回は、「アンチエイジングも!花粉症も!脳も!知られざる腸内細菌パワー!」ということで、「腸内細菌」のあれこれについて最新の研究をもとにミステリーハントしていくという感じでしたが*1、そのあまりの提灯記事っぷりに、若干ひいてしまいました。
ナッツの記事のときにも書きましたが、こういう「○○は身体にいい!」情報は、チェリーピッキングをしている可能性が大いにあり、研究の背後にある企業やらなんやらとの関係を考慮しなければなりません。ということで、少しばかりアヤシイ関係がないかを調べてみると、なかなかグレーだったので記事にしてみました。
さて、番組はこういう流れでした。
①ブルガリアの長寿村に行き、そのヨーグルト生活を体験する
②花粉症に乳酸菌が効果があるか試す実験
③腸内細菌が若さを保つという検証
④腸内細菌と脳の関係
もう流れを書いただけで、なんか「世界ふしぎ発見」というより「ためしてガッテン」なのですが、特に気になったのが②と③の箇所です。
②の「花粉症に乳酸菌が効果があるか」という実験では、若手芸人6人が被験者として参加しました。内容としては、抗アレルギー作用が期待される、Sn26乳酸菌が入った「すんき豆乳」を、1月下旬から3月上旬の6週間、毎日100g摂取するというものです。
しかし、芸人を被験者にする必要性への疑問と、そしてこの芸人がすべて人力舎所属というところになんとなーくしがらみを感じます*2。
それはともかく、Sn26という乳酸菌の研究はどれほど実証されているのか。
番組にでも出ていた、「木曽町地域資源研究所」の保井久子先生が共著の論文があります。
「Pediococcus pentosaceus Sn26株のアレルギー性下痢症抑制作用及びその作用機序解析」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslab/21/1/21_1_42/_article
「Pediococcus pentosaceus Sn26 Inhibits IgE Production and the Occurrence of Ovalbumin-Induced Allergic Diarrhea in Mice」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bbb/74/2/74_90656/_article
これらは2010年の論文で、内容は双方とも違いはあまりないようです。長野県木曽地域の伝統発酵漬けである「すんき漬け」から分離された乳酸菌「Sn26」を、食物アレルギー性下痢症モデルマウスに使用したとのこと。すると、「SN26」群のマウスの下痢発症や、アレルギーの指標である血中IgE値が有意に減少したんだそうです。
しかしながら、Sn26に関する研究はこの2つしか存在しません。しかも、「木曽町資源研究所」は、2011年に設立されたものであり*3、つまり、保井先生はこの研究発表の翌年に信州大学の教授の職を退き、この研究所の所長に就任したわけです。この研究のおかげで木曽町から打診をされたと考えられなくもないですが、この研究所の設立のために、「Sn26」の研究をした、という穿った見方もできます*4。
そして、ちょっとイヤらしいことに、この番組が放映された3月19日付で、「SN26」が含まれた乳酸菌発酵豆乳発売の告知が出ています。
「おんたけ有機合同会社」という木曽の通販ショップから3月27日に販売されるんだとか。上記リンク先には、恐らく今回の番組の結果であろう内容を「予備の臨床試験」と称し*5、
1、 花粉症の症状が軽くなった。(血液検査により異常に高いIgE値は減少した)
2、 便秘が緩和し、便性改善がみられた。
3、 肌の荒れが改善した。
4、 性格が明るくなった。
という効果を「今後も研究を重ねていきます」としながらも、謳っています。たった6人の被験者の臨床実験にいったいどんな意味があるのか甚だ疑問ですが*6、ナントカ表示法にひっかからないのかちょっと不安です。もちろん、上記サイトでは保井先生の研究結果も載せています。
要するに、どんなパイプがあるかはわかりませんが、木曽の地域興しの一環として、どうもこの「Sn26」が番組に取り上げられたような気がします。番組では「すんきに含まれる乳酸菌が、花粉症を緩和することが確かめられたのだ」とアナウンスしていますが、ちょっとそれは言い過ぎです。ついでに、若手芸人を被験者で取り上げたのは、テレビ局側の趣旨に反した行動をしないからでしょう。「いや俺、花粉症治りませんでした」じゃ困っちゃうし。
それにしても、なぜ「すんき漬け」が選ばれたのか。番組の説明と下記のサイトによれば、「木曽」地域では「松本」「長野」に比べてアレルギー患者数が違ったからだとか。
病談画報 | AISEI Health Graphic Magazine「ヘルス・グラフィックマガジン」
その理由として、木曽地域で食べられている「すんき漬け」に着目したとありますが、実はこの研究がひっかからない。上記サイトには「予備調査/2005」とあるのですが、唯一似ていると思われるのが以下の論文。
「木曽地域で食される“すんき漬”の抗アレルギー効果に関する疫学的検討 」
http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/pmph/shinshu-kouei/2-21.pdf(リンク先PDF)
上記2008年の研究では、王滝村の住人に調査を行い、アレルギー疾病とすんき漬けの疫学的な検討を行っているのですが、結論としては「オッズ比がそれぞれ1.81、1.38」と高いものの「食物アレルギーの有無(p=0.10)、アレルギー疾病の有無(p=0.14)の両方に関して有意な関係」が見られなかったとなっています。うーん?
私が疑問に思うのは、「松本や長野に比べて木曽はアレルギー患者が少ない」から「それはすんき漬けを食べてるからだ」と論理が飛躍していることです。素人考えでも、ぱっと思いつくのは、「松本」「長野」は都市圏であり、交通量も多いことから、喘息の患者数の違いが木曽とは大きく違うのではないかということです。少なくとも、普通は「すんき漬け」には至りません。やはり、なんらかの木曽町からのアプローチがあったと考えるのが自然だと思います。
次に③の「腸内細菌が若さを保つ」という部分についてです。
実験(と言っていいかも不明ですが)では、40代~50代の美魔女モデルがわらわら登場し、その彼女たちの腸内に「エクオール」がどれだけあるか調べ、彼女たちの「若さと美貌」を考えるというものです。ちなみにこの美魔女モデルたちは全てオスカー所属です。しがらみです。
番組内の説明では、「エクオール」は「更年期障害」を改善し、しわを少なくし、「がん」を予防するはたらきがあるとか説明しています。で、「エクオール」は日本人でも4割程度しか保有していないといわれ、今では簡単な尿検査で、その保有量を測る事ができるんだとか。
でね、思わず笑っちゃったのが、「エクオール」が多いとされるレベル4の段階だった美魔女がフリップで発表されたんですが、10名いる中で2人だけなんですね。で、後の8人についてはスルーですよ。おいおい、それを言わなきゃ「エクオール」が「若さと美貌」に役立っているかわからんじゃないか。
ここで注目するのが、なにやら「エクオール」の解説者として出てきた「ヘルスケアシステムズ」の方です。方ですっていうか、代表取締役なんですけど。
番組内でも出てきた「ソイチェック」という、「エクオール」の保有量を調べるキットは、この会社が開発したものです。早速、amazonで宣伝しています。
私がちょっと気になったのは、このamazonのレビューにある☆1のコメント。
ソイチェックを受けました。結果がどうこうということでなく、企業姿勢に問題があると感じてます。
後日、大塚製薬からモニター勧誘のダイレクトメールが来たのです。
電話でどうしてこのダイレクトメールが送られてきたのかを窓口に聞くと、このソイチェックを受けた人を対象にしているとのことでした。
非常に不愉快でした。
この情報の真偽は定かではありませんが、「大塚製薬」というところがなかなかポイントになってきます。
実は、「エクオール」のサプリメント、何社か出しているようではあるんですが、嚆矢となったのは、2014年に発売された大塚製薬の「エクエル」だったようなんですね。
で、2014年に大塚製薬はこのヘルスシステムズに依頼した、「「エクオール」産生能力の実態調査」の結果を公表しています。
ヘルスシステムズが開発したソイチェックは2012年、2013年と、売り上げが低迷していたのですが、2014年になると色々な雑誌で取り上げられ、1万キットを販売し、2015年はテレビにも取り上げられ、半年で2万キットを売り上げたんだとか*7。
つまり、おおっぴらにはしていませんが、どう考えても2014年に大塚製薬とヘルスシステムズは何らかの業務上の提携がなされているということです。そうでなければ、2014年にいちベンチャー企業の製品が突然売れ始めるわけがない。
そもそも「エクオール」の効能の研究はどれほどされているのか。
日本の研究でよく取り上げられるのが、「日本女性医学学会雑誌」の2012年20号のものです。
「日本女性医学学会雑誌 VOL.20 SEPTEMBER 2012」
http://jmwh.kenkyuukai.jp/journal2/journal_detail.asp?journal_id=604(医療関係者の会員の方でないと読めません)
「ウイメンズヘルスケアにおけるサプリメント : 大豆イソフラボン代謝産物エクオールの役割」というタイトルで*8、東京医科歯科大学名誉教授の麻生武志先生と、大塚製薬研究員の内山成人さんの共著です。うーん、中は読めていませんが、明らかにスポンサーは大塚製薬でしょうなあ。仕方ないとはいえ、ちょっと公平性に欠ける気がしないでもない。
意地の悪い書き方をしましたが、そうは言っても、「エクオール」に関しては海外でも期待が高く、論文が数多くあります。
特に、癌細胞の増殖を抑える働きに関して注目が集まっているようで、近年ではその分野の研究が盛んなようです。なので、中には反証めいた論文も出てきます。
Abstractしか読んでませんが、この研究によれば、エクオールは癌細胞をおさえるどころか、悪性腫瘍を増加させるという内容になっています。おおい、どっちだ。
いずれにせよ、どうも日立の単独スポンサーとはいえ、この「世界ふしぎ発見」には、大塚製薬の影がちらついてちらついて*9。
・今日のまとめ
○Sn26に関する研究は「木曽町地域資源研究所」の保井久子先生のものしかなく、ヒトへの効果はまだ実証されていない。
○「すんき漬け」を調べるきっかけは木曽町からのアプローチがあったからではないか。
○番組内の「ソイチェック」をつくったヘルスケアシステムズと「エクオール」のサプリを販売する大塚製薬には何らかのつながりがあるように見える。
○「エクオール」に関してはまだ研究段階であり、「悪性腫瘍の増殖」を促すという研究結果もあり、その効能は未知数である。
今回の番組は、すんき豆乳を食べ続けた若手芸人が突然「ちょっぴり明るくなりましたね」と発言して、「腸内細菌と脳の関係」の話に強引に引っ張ったり、黒柳さんに最後に「すんきっていうんですか、あれを何とか手に入れたい」と言わせたり、なんかちょっと、そういう台本がありありと見える感じでした。
まあ、別に今まで全くヤラセなく行われていたとは思いませんが、ちょっとあまりの感じに、同窓会で久しぶりに会った初恋の人が見るも無残な姿になってしまったような気持ちになりました*10。
*1:ちなみにこれはパート2とのことで、1回目は体重との関係なんかを調べたみたいです。
*2:ちなみに、「彼らは本当に花粉症なのか?」という疑問ももったのですが、少なくとも、「花粉症ではない」という確証は得られませんでした。検証方法は以下の通り。
被験者の芸人は「天野舞」「田中夢乃」「マントル一平」「小橋川共佑」「トンツカタン菅原」「ザ・フライ雨宮」の6人。名前のリンクは全て彼らのtwitterあるいはブログです。
調べ方は簡単で、twitterなりブログなりの発言の中に「花粉症」「花粉」という言葉が出てこないか検索をかけました。すると、田中夢乃さんのこんなツイートが引っかかります。
風邪なんて引いてないし、花粉症なんかじゃもちろんないし、最高な健康状態で最高にたのしいよ!!ほら!写真からも健康さと、楽しさが伝わってくるでしょ?
「花粉症なんかじゃもちろんないし」というコメントがあるので、「すわ捏造か!」と思ったのですが、写真を見ると思いっきりマスクして鼻になんか詰めて具合悪そうなので、反語表現というやつですね。残念。
そのほか、天野舞さんは、花粉症だというフォロワーの方に「それは私もです…辛いですがお互い頑張りましょう…」とコメントしていますし、ザ・フライ雨宮は「花粉症のせいか、はたまた自分の心の底にある期待が見せた幻影なのではないのかと」というブログの発言があるので、たぶん花粉症なんでしょう。他3人に関しては、特に発言はありませんでした。無駄な作業なんですが、このブログはこういう無駄な作業で成り立っているので・・・
*4:乳酸菌が抗アレルギー作用があることはもっと前の研究でわかっていたようですが、それにしても「すんき漬け」をわざわざ選ぶのは、やはり木曽町の意向があってのことではないでしょうか。
*5:なぜなら、番組内で「人間の花粉症で試すのは初めて」というアナウンスがあるからです
*6:しかも番組の中でIgE値が下がったのは6人中2人だけです
*7:「サビチェックで体の酸化を見える化−ヘルスケアシステムズ【後編】」毎日新聞
http://mainichi.jp/premier/health/articles/20150909/med/00m/010/018000c(要会員登録)
*8:CiNii 論文 - ウイメンズヘルスケアにおけるサプリメント : 大豆イソフラボン代謝産物エクオールの役割
*9:一応最後のテロップでは、「資料提供」という形で大塚製薬の名前は出されています
*10:あるいは、村上春樹の『駄目になった王国』を思い出しました