いろいろ人は隠し場所に困るようで、という話。
カナダ造幣局の職員が、約1800万円相当の金を、「直腸」に隠して、数ヶ月にわたって盗み出したという話。読んだだけで、下半身がきゅっとなる話ですが、この話がどこまで正確なのか調べてみました。調べた、といっても今日はかるーい記事です。
金は金でも金ではない
さて、みなさんは記事の「金」を音読みしましたか、訓読みしましたか。私は最初、「カナダ造幣局」という言葉に引っ張られ、「かね」と訓読みしましたが、この話は「きん」のお話です。
ナリナリドットコムがソースにしているottawa citizenの記事には、「$180K of gold」とあります。つまり、「金(きん)」を、「直腸」に入れて、セキュリティをかいくぐったわけですね。確かに、紙幣を尻に突っ込むのは変ですよね。ナリナリさんも、ちゃんと「1800万円相当の金」という書き方をしているのですが、日本語って難しい。
ガーディアンの記事によれば*1、元局員がバイヤーに持ってきた金は「オレオサイズ」とのことで、うーん、もしそのまま「直腸」に入れていたら、確実に痔になりそうです*2。
1800万円相当ではない
今日は重箱の隅をつつくような指摘で申し訳ないんですが、ナリナリさんが「1800万円相当」と書いているのは、これは誤訳です。
ottawa citizenは「$180K」という書き方をしているのですが、ottawa citizenはカナダのメディアで、そしてカナダの通貨は「カナダドル」です。まあ、英語の記事で「$」と書かれると、USドルだと思いますよね。
なので、現在のレートで言えば*3、1カナダドルは=約76円なので、1368万円相当が正しい計算となります。とはいっても、大きい金額であることに間違いはありませんが。
あくまで「直腸」は検察側の主張
今はまだ裁判中ということで、不明な部分も多いようです。
先ほどのガーディアン紙によれば、造幣局の局員は、施設を離れる際には金属探知機のチェックを必ず受けなければならなかったそうです*4。この元局員は、金の純度を確かめるために、桶からすくう仕事を担っていたそうで(どんな作業内容かよくわからない)、他の局員よりも金属探知機の検査を受ける回数が多かったんだとか*5。なのに、彼はやすやすと盗み出すことをしてしまったわけです。
元局員は、何度も多量の額の金を交換していることに不審を持たれ、逮捕されてしまったわけですが、彼の弁護人は、その金を「合法的に」手に入れたものだと主張しています*6。つまり、造幣局の金であるという証拠がないということです。
しかし警察の捜査では、彼が隠し持っていた金のかたまりが、一般にはない造幣局だけにあるスプーンの形状と一致し、且つそのスプーンが彼のセーフティーボックスから発見されていることから、これが確実に造幣局内の金であると言っています*7。
で、検察側*8は、造幣局内の金だと断定した上で、その盗み方を色々思案した挙句、「直腸」に入れて盗んだのではないかと主張しているわけです。つまり、「直腸に入れて盗んだ」というのは、今の段階ではまだ検察が推理しているだけで、確定事項ではないんですね。
以下のCBCの内容が、なかなか細かくて面白いです。
ottawa citizenの記者であるKELLY EGANのインタビュー記事なのですが、自分の新聞に書いていないことをずいぶんしゃべっています。
で、検察側ももちろん、「直腸に入れて盗む」ことが可能かどうかを証明しなければいけないので、実際の人間を使ってテストしたそうです*9。
これには記者もドン引きで、「それってボランティアでやってもらったの?( I mean, do we know, was it a volunteer?)」と質問しています(ちなみにその返答は「知らない」とのこと)。
このテストは、1回目は無事金属探知機をすり抜けたそうですが、2回目は失敗したとの事*10。だから、もしかすると、「直腸」以外のもっとスマートな方法で、元局員は盗み出した可能性もあるわけです。
今日のまとめ
①カナダ造幣局から盗み出されたとされる「金(きん)」は、カナダドル計算で1368万円相当であり、元記事の「1800万円相当」はUSドル計算をしていて誤りである。
②「直腸」に入れて盗んだという主張は検察側のしていることであり、被告側はそもそも「合法的」に手に入れた金だと主張していて、本当の盗み出した方法はまだ判明していない。
先ほどのCBCの記事によれば、彼は海外旅行も多く、換金をそういうところでやっていた可能性もあるわけですが、まあしかし、お金というのは人を狂わせるものなんですねえ。
*1:Alleged gold smuggler hid 'Oreo-sized' nuggets from Canadian mint in rectum | World news | The Guardian
*2:ちなみに、他には「小さいマフィン」サイズ、「2$硬貨」サイズという証言もあります。どっちみち痛そうですけど。
"[The nuggets] are about the size of a small muffin. And I've been told that the circumference is about the size of a toonie."
*4:All employees at the mint must pass through a metal detector before leaving the facility.
*5:whose duties included scooping gold from buckets in order to test its purity, was noted as the employee who set off the metal detector more often than all others
*6:His lawyer, Gary Barnes, suggested his client could have legitimately acquired the gold from sources other than the mint.
*7:Investigators found four gold nuggets – which matched the mold of a custom-made spoon used during the mint’s production process – in Lawrence’s safety deposit box and a tub of Vaseline in his locker, the court heard.
*8:記事では"the crown"。私もなんのこっちゃと思ったのですが、イギリスやらなんやらの君主制を採用するヨーロッパ諸国では、刑事訴訟において原告は(被告も)国王になるんですね。
ただ、記事に「国王側は・・・」とか書くと混乱するので、誤訳とわかってはいますが、日本で馴染みのある「検察」という表現にしています
*9:Did they show, or prove, that this is something that could actually go up someone's rectum?
KE: They did.
*10:And that when that person went through the metal detector, it went off. But when the person was given the secondary wand test, it didn't go off.