ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ホワイトハウスのスペイン語ページは閉鎖されたのか、「トランプだから」の落とし穴

 移民嫌いのトランプ大統領が、ホワイトハウスのスペイン語ページを閉鎖したとして話題です。

www.gizmodo.jp

なるほど、現在、「https://www.whitehouse.gov/espanol」のアドレスを踏むと、スペイン語サイトにはたどり着けません。

 

しかし、これを閉鎖といっていいのか、少々疑問でしたので、調べてみました。

 

***

 

微妙に404のニュアンスが変わってる

さて、在りし日のオバマ時代のスペイン語ページはこんな感じです。

web.archive.org

 

これはWaybackmachineで1月20日17時26分にキャプチャされたもので、キャプチャされた中ではこれが一番新しいものとなります。

 

同日の23時台のキャプチャでは、すでにこのページは見ることができなかったのか、「404 Page Not found」のページが出てきます。

 

http://web.archive.org/web/20170120231920/https://www.whitehouse.gov/espanol

 

ページにはそっけなく「Sorry, the page you're looking for can't be found.」と書かれています。

 

しかしながら、現在(1月27日)見られるページは、以下のように少し表記が変わっています。

 

http://web.archive.org/web/20170127132412/https://www.whitehouse.gov/espanol

 

ページタイトルは「Page Unavailable」。ページ内の表現はマイルドになり

 

Thank you for your interest in this subject.
STAY TUNED AS WE CONTINUE TO UPDATE WHITEHOUSE.GOV.

この項目に興味をもっていただきありがとうございます。

ホワイトハウスのホームページを我々はアップデートしているところですのでお待ちください

 

となっています。.gov/以下に適当な文字列を打ち込んでも、おなじページが表示されるので、どうもホワイトハウスのページ全体で、「404ページ」の文言が差し替えられたようです。つまり、どうもまだトランプ大統領用のホワイトハウスのページは工事中だということみたいですね。

 

果たしてこの状態でも、「スペイン語ページを閉鎖」と言い切れるのでしょうか。

 

政権移行時の旧ページの扱い

さて、初めてホワイトハウスのサイトにスペイン語ページをのせたのはブッシュ政権時と言われています。

www.theatlantic.com

この記事は弟ブッシュの選挙戦での話ですが、兄ブッシュにも触れており、「彼はスペイン語メディアに注意を払った最初の大統領であり」「35%のラテン系投票者の票を獲得した」としています。なので、

 

During his presidency, Bush gave equal White House access to Spanish-language media, and in 2004, he won 44 percent of the Hispanic vote.

大統領時代、ブッシュはホワイトハウスがスペイン語メディアにも平等に利用できるようにして、2004年にはヒスパニックから44%もの票を獲得した

 

 

となるわけです。スペイン語圏を大事にするのは、人種云々というよりも、選挙対策の意味合いが強かったのでしょう。

 

オバマもこの路線を引き継ぎ、スペイン語サイトを作るのですが、興味深いのはそのアドレスがちょっとだけ変わっていることです。

 

ブッシュが作ったサイトのアドレスは「http://www.whitehouse.gov/espanol/index.es.html」と、htmlまで入るように設計されているのですが、

web.archive.org

 

オバマ時代は「http://www.whitehouse.gov/espanol/」だけでトップにとぶようになっています*1

 

その違いにどれだけの意味があるのかはちょっと自信がないのですが、肝心なことは、オバマ大統領時代も、ホワイトハウスのホームページは再構築されたのではないかということです。

 

実は、過去の大統領のページは、「archive」という形でホワイトハウスのサイト内に保存されています。

ブッシュ政権時のものもありますし、

georgewbush-whitehouse.archives.gov

もちろんオバマ政権のくだんのスペイン語ページも存在しています。

https://obamawhitehouse.archives.gov/espanol

 

しかし、どちらのページにも「もう更新はされません」という旨の注釈がついています*2。つまり、旧政権時のページと現政権時のページは、大統領就任直後に明確に区分されるということです。アドレスが変わろうこともあるでしょうし、サイト構成の変更もあるでしょう。

 

ここの勝手がよくわからないのですが、Waybackのアーカイブから推察するに、この移行はすぐに行われているわけでもなさそうです。

 

http://web.archive.org/web/20090901000000*/http://www.whitehouse.gov/espanol

 

上記のリンクは、2009年における「http://www.whitehouse.gov/espanol/」のアーカイブの一覧なのですが、実際にオバマ政権時のスペイン語ページにとべるようになるのは2009年10月19日のアーカイブからです。この年の1月にオバマは大統領に就任しているのですから、実に9か月ほどブランクがあります。もちろんWaybackのアーカイブと切り替わった日が同じだとは思いませんが、この間にいっさいアーカイブがとられてないことから、どうも「http://www.whitehouse.gov/espanol/」のアドレスが有効になったのは2009年の10月頃からではないか、という推測ができます。

 

では、その間に何もなかったかというとそうでもなく、実は「http://www.whitehouse.gov/spanish/」のアドレスが使われていた時期がありました。

 

web.archive.org

 

上記のページは、オバマ就任直後の1月22日からアーカイブがとられています。

しかし、上記サイトを見ていただけるとわかるのですが、オバマやバイデンの名前がちょこっと載っているだけの簡素というよりもはやなんのためにあるかも不明なページで、とてもヒスパニック系の人に役立つ内容だとは思えません。この状態は、「http://www.whitehouse.gov/espanol/」が確立する10月まで続き、ほぼ内容は変わりません*3

 

つまり、オバマ政権時も、スペイン語のページが確立するまでにはどうも時間がかかったようだと、という推測が成り立ちます。オバマは簡素なスペイン語ページでその場をしのぎ、トランプは「404」の変形で対処しているというわけで、両者にあまり違いはないように思います。ブッシュ政権時のスペイン語のページは充実していたようですが、だからといって、旧政権のものを使うわけにはどうもいかないようなんですね。

 

サイトは鋭意製作中

さて、決定的なものに、スパイサー報道官の発言があります。1月24日のindependentの記事。

www.independent.co.uk

彼は、「スペイン語のサイトは戻るだろう(Sean Spicer said the Spanish site would return)」とした上で、次のように述べています。

 

We are continuing to build out the website both in the issue areas and in that area. (中略) Trust me, it’s going to take a little bit more time, but we’re working piece by piece to get that done

我々は問題となっている個所のウェブサイトの増築を続けている。(中略)信じてほしい、もう少し時間が必要だが、完成するように少しずつ仕事をしている。

 

とまあ、ホワイトハウス報道官が言っているので、確かではないでしょうか。

ついでに、別記事で発見したのですが*4新しいスペイン語版のtwitterも用意されているようです。

twitter.com

 

ちなににオバマ政権時代のはこちら。

twitter.com

やはり、スペイン語での発信を「閉鎖」したわけではないと考えるのが自然です。

 

 

今日のまとめ

①ホワイトハウスのサイトは、政権交代時に旧政権のページはアーカイブとして扱われ、新旧の区別を明確にしている。

②推測にはなるが、オバマ時代もスペイン語ページの構築には時間がかかっており、今回のスペイン語ページの閉鎖も、その移行手続きによるものと思われる。

③ホワイトハウスの報道官も「スペイン語のページは戻る」と発言しており、スペイン語用のtwitterも準備されているため、閉鎖とは考えにくい。

 

Gizmodeの記事がよくないのは、今回の件にかんして、ホワイトハウス報道官の発言までは公式の発言が一切ないのに、状況だけで「閉鎖」と言い切っているところです*5。確かに、過去のトランプ大統領の発言から考えればむべなるかな、という感じではありますが、そういう発言を記事内に忍び込ませて、あたかも今回の件についての発言と思わせるあたりがいただけません。

 

トランプ大統領とメディアの対決姿勢はなかなか崩れそうにもありませんが、こういうところで足元をすくわれないようにしたいものです。我々も「トランプだから」の落とし穴にはまらないようにしたいですね。

 

 

 

*1:私はコンピュータに強くないので二つの違いがよくわからないのですが、Waybackの2001年の「http://www.whitehouse.gov/espanol/」のアーカイブに入ろうとすると、

http://web.archive.org/web/20011031121617/http://www.whitehouse.gov/espanol/

リダイレクトでなぜか「http://www.whitehouse.gov/espanol/index.es.html」に飛ばされるので、そういう設定に当時からなっていたのかもしれません。ちょっと自信ないですが

*2: The website is no longer updated and links to external websites and some internal pages may not work.

これを「frozen in time」と表現するのがおしゃれですね。

*3:後半になると、合衆国自体のスペイン語ページのリンクが張られていますが。

GobiernoUSA.gov: página principal del portal oficial del Gobierno de EE. UU.

*4:The White House Website Under Trump No Longer Has a Spanish Option | Inverse

*5:ただし「完全閉鎖」と煽っているのは日本版だけですが