ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「新型ブニヤウイルス」を報じるテレビ朝日がちょっとよくない話

タイトルの通りです。こんな記事が話題になっていました。

 

「新型ブニヤウイルス」というウイルスに感染し、中国で7人が死亡していることが分かりました。

中国で「新型ブニヤウイルス」7人死亡…60人が感染

 

聞きなじみのない言葉で、また「新しい」ウイルスが中国で発見されたのか、と思いますが、ちょっと事情が違いそうなので、短くまとめました。

 

【目次】

 

 

 

「新型」だけど、報告は2009年

「新型ブニヤウイルス」で軽くググってみると、こんなページが見つかります。

 

SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルスによるダニ媒介性感染症である。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

 

 中国語のWikipediaによれば、2009年に初めて確認されたそうで、その年の6月~2010年9月まで、241人の入院、うち21人が死亡した、とのこと*1

 

2013年には日本にも第1例が確認されています。

 

今般、別添1のとおり、中国において2009年頃より発生が報告され、2011年に初めて原因ウイルスが特定された新しいダニ媒介性疾患「重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome: SFTS)」の症例(患者1名:昨秋に死亡。最近の海外渡航歴なし。)が、国内において確認されました。

【通知】重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の国内での発生について(情報提供及び協力依頼) (PDF)

 

皆さんも、「マダニ」に噛まれることによる感染例のニュースは聞いたことがあるかと思いますが、どうやらその中の一つの「重症熱性血小板減少症候群」は、マダニがもつ「新規のフェニュイウイルス科フレボウイルス属に属する新興ウイルス*2」が、「新型ブニヤウイルス」を指すようです*3

 

日本でも報告されている

先述した通り、既に日本でも症例が確認されており、年間60から90名の感染が、西日本を中心に報告されています*4

 

例えば、去年の読売にもこんな記事が出ています。

 

マダニを介して発症するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の患者の報告が増えている。国立感染症研究所(感染研)は23日、今年に入って13日までの報告が88人になったと発表した。

マダニ介したウイルス感染症が増加、3人死亡 : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞)

 

国立感染症研究所によれば、今年5月27日時点で、累計は517件。うち、死亡は70例が報告されています*5。毎年5月がピークになるようですが、今年は減少傾向(ステイホームのせいでしょうか?)であるものの、すでに19件の感染例があります。

 

そのため、「新型コロナウイルス」のように、未だ日本に入ってきていない未知の伝染病、という認識は違うことになります。

 

また、では中国のウイルスと同じかというと、中国型のものとは違う遺伝子を形成していたという研究もあり、日本における症例は、日本固有のものではないか(ウイルスが認知されたので同定できた)という見方があるようです*6

 

中国ではどの程度広がっているか

中国疾病預防控制中心(中国CDC)によれば、「新型ブニヤウイルス」は、「流行期間は4月から10月で、流行のピークは5月から7月*7」とのことで、テレ朝が報じた患者の報告は7月までのピーク時のもの、ということになりそうです。

 

中国CDCに「新型ブニヤウイルス」に関する統計がないものかと探したのですが、いまいち見つからなかったので、今年の「60人感染」が、例年と比べてどの程度多いのか、各種報道から推測してみます。

 

古いものだと、2011年に、河南省で70人の感染と4人の死亡が報じられています。

 

截至5月24日,河南省共报告发热伴血小板减少综合征(蜱虫病)病例70例,死亡4例

河南省再发蜱虫病 截至24日共报告70例 死亡4例

 

それ以降はメディア上で数の報告はあまり確認できないのですが、2016年の記事には、発生率の高い地域の人民解放軍の病院において「8年間、将校や兵士の発生をゼロにしている*8そうなので、かなり発生には気を配っていたことがうかがえます。

 

2018年には、「南京鼓楼医院」から17例の感染者がいたことが報告されています*9。また、同年5月には、「浙江省人民医院」で5例が確認されています*10。これは症例が増えてきたのか、発表の考え方が変わったのかはよくわかりません。

 

2019年には正確な数はないものの、「安徽合肥安医大」で患者が死亡したことが伝えられたり*11、発生が伝えられて注意喚起を促す記事も出ています*12

 

また、今年の発生については、「おそらく今シーズンは比較的(感染率が)高くて、予防に特別注意した方がよいだろう(可能这个季节比较高发,今年对疾病预防也尤其重视)*13」というような職員のコメントがあることから、例年よりは発生が高い傾向にあり、そのため現地においてもニュースバリューがある、と考えることはできるでしょう。

 

ただ、毎年発生しているものであり、今年は高い傾向にあるものの、とても珍しいかというと、そうでもなさそうです。

 

テレ朝はどう報じたか

テレ朝、というか、正確にはANNニュースなのですが、上記のような話をどう報じたか。もう一度リンクを貼るので、お暇な方は動画も見てみてください。

 

news.tv-asahi.co.jp

 

まず、どこにも、「マダニ」が主な感染源だという話は出てきません。動画の方を見ると、恐らく現地のVTRをそのまま拝借してきたのでしょうが、ダニの画像は見えますが、それに対する言及はありません。もちろん、本文やナレーションでは一切言及はありません。加えて、症状が「高熱」「せき」とあるのですから、これでは、多くの視聴者は「新型コロナウイルス」と同様の感染経路をもつようなウイルスと誤解してもおかしくないでしょう。

 

そして、同様の症例が日本でも確認されていることにも全く触れられていません。あわせて、発見された時期などの話も出てこないため、「新型コロナウイルス」同様、未知の新しいウイルスが中国で発見され、また日本に入ってくるのではないか、というような恐怖心を煽る内容になっています。

 

もしかすると、これがテレビのニュースの中で放送された場合は何かしらのエクスキューズがあるのかもしれませんが、少なくともインターネット上で確認できる情報はひどく偏っていて、この情報を放送した意味を勘繰りたくなります。そして、このニュースはANN以外、主要メディアは報じていない、というところも一つポイントになってきます。

 

今日のまとめ

①「新型ブニヤウイルス」の症例の報告は2009年である。主にマダニが感染源である。

②2013年には日本で第1例が報告されている。

③今年は比較的多い傾向のようだが、中国では毎年症例が報告されている。

④テレ朝(ANN)は、①~③の情報を全て伝えていないため、「新型コロナウイルス」を連想させる内容となっており、報道の意図が不明確である。

 

メディアを叩くのはローリスク・ハイリターンなので、私自身はあんまりお行儀がよくないと思っているのですが、この報道は意図がつかめない上に、ちょっと不適切だろうと感じたので、こうして記事にした次第です。たぶん、数日で当該記事は削除されちゃうんじゃないかと思われます。サイレントで。

 

*1:

发热伴血小板减少综合征 - 维基百科,自由的百科全书

ただ、日本語版だとちょっと数や年の記述が異なる。

発見後の2008年始め頃には治療と診断のガイドラインも出て広範囲で疫学調査が開始されたが、原因不明ということで流行は公表されなかった。しかし、2010年9月8日には新聞のスクープがきっかけとなり公表されるに至った。同年8月に行われた調査結果によれば河南省で557人が感染し18人が死亡、山東省で182人が感染し13人が死亡、江蘇省の省都南京市で4人が死亡(6人死亡という報道有り)し、合計35人以上が死亡するなど31の1級行政区(省など)中12の地域に広がっているとされる。

重症熱性血小板減少症候群 - Wikipedia

 どちらも出典がないのでちょっと確かめようがない。

*2:

KAKEN — Research Projects | ヒト高病原性新型ブニヤウイルスの病原性発現メカニズムの解明 (KAKENHI-PROJECT-15J06242)

*3:

SFTSウイルスとも称されるようですが、2018年に分類法が変わったようで、そのため「フェニュイウイルス科」と「ブニヤウイルス科」で表記違いがあるみたいです。現在の表記に従うなら「フェニュイウイルス」なんでしょうかね。

 

原因ウイルスは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルス[SFTSウイルス(SFTSV)]。2018年のICVTの新規分類では、SFTSVはフェニュイウイルス科(Family Phenuiviridae)バンヤンウイルス属(Genus Banyangvirus)に分類されるフアイヤンシャン・バンヤンウイルス(Huaiyangshan banyangvirus)に科名、属名、ウイルス名が変更された。本稿では、病名およびウイルス名はともにSFTSおよびSFTSVを用いる。

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome、SFTS)|症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~ - 感染症クイック・リファレンス|日本感染症学会

 

*4:

2013年3月以降サーベイランスシステムが構築され、毎年60-90人の患者が西日本から報告されている。

前掲

 

*5:

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

*6:

First Identification and Retrospective Study of Severe Fever With Thrombocytopenia Syndrome in Japan | The Journal of Infectious Diseases | Oxford Academic

*7:

流行期为4-10月,流行高峰为5-7月。

中国疾病预防控制中心

 

*8:

 

解放军154医院连续8年在蜱虫病高发区实现了部队官兵零发病。

我国取得世界疑难疾病蜱虫病治疗研究重大成果 患者死亡率由30%以上降到8%-新华网

*9:

一家三人被蜱虫叮咬两人身亡-新华网

*10:

浙江3个月内接到5例蜱虫叮咬引发的重症新型布尼亚病毒

*11:

夺命蜱虫1月内致3人死亡!宝宝身上出现这种“小黑痣”别大意_病毒

ただ、この記事だけだと、「新型ブニヤウイルス」なのかどうかは明確ではない

*12:

高烧十多天多脏器受损 被蜱虫咬后千万不要硬拽! -新闻中心-杭州网

*13:

webcache.googleusercontent.com

なぜかキャッシュでしか開けなかった