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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

【訂正有り】WHOが喫煙映画を成人指定しろと勧告したのは誤訳であるというのは誤解である、ダブルチェックはいたしません

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【2月5日追記】

以下、はてぶにて指摘がありました。

拝読してとても納得したので、以下、大まかなところを青字にて訂正いたします。後尾に記事の再考察をのっけます。

 

先日、こんな記事がありました。

headlines.yahoo.co.jp

WHOが、喫煙シーンのある映画を、「成人向け」に指定すべきだという勧告を、各国に送ったというものです。

それに対して、ちょっとバズっているツイートにこんなものがあります。

 

WHOの勧告はあくまで「レーティングを上げてくれという要請」であり、「成人指定にする」のは記事配信もとの共同通信の誤訳である、というものです。記事執筆現在、1000以上のリツイートを集めています。

 

誤訳、と言っているんですが、どうも調べた感じ、そんなことはないようだったので、検証してみましょう。

 

ツイート主は「誤訳」としていますが、実は「成人指定」という表現は、英語圏の記事でも使われています。

”Films portraying smoking should get adult rating, says WHO”

「喫煙シーンのある映画は成人指定にすべきであるとWHOが勧告した」

www.theguardian.com

"Movies depicting smoking should be given ‘adult rating’: WHO"

「喫煙シーンを描いた映画には成人指定を与えるべき:WHO」

www.cnbc.com

*この「adult rating」を単純に「成人指定」と訳してしまうと、日本の実情にそぐわないというわけですね。

うーん、共同通信が誤訳した、とはいうものの*1、英語圏の人が「誤訳」もないでしょうから、「誤解」という線ならありうるかもしれません。

 

では、もったいぶっていないで、リンク先のWHOの発表を読んでみましょう。

www.who.int

英語の記事を読むときはリード文がとても大切です。

WHO is calling on governments to rate movies that portray tobacco use in a bid to prevent children and adolescents from starting to smoke cigarettes and use other forms of tobacco.

WHOは、青少年期からの喫煙を予防するための努力として、タバコの描写がある映画について、レーティングするよう各国政府に勧告した。

まあ、ここだけ読むと、直接的には「成人指定(adult rating)」という表現はありませんね。

記事はずらずらと若年層からの喫煙のきっかけの研究なんかを書いていて、最後のほうに、「The WHO Smoke-Free Movie report」がリコメンドする内容を3つ挙げています。簡単に書くと、

 

①タバコの描写のある映画は年齢別にレーティングする必要がある

②映画におけるタバコのシーンのために誰からも便宜をはかられていないことをクレジットに明記すべき

③映画の前に強い喫煙防止広告を流すべき

 

とあります。

 

まあ、確かにこの記事だけを読むと、①のリコメンドが関係あると思うんですが、直接的に「adult rating」にしろということは書いてはありません。ただ、言っていることはおんなじだとは思うんですけどね。「誤解」、と言えなくもないかもしれない。

 

しかし、このブログの読者の皆様なら、一次ソースをあたることの大切さをご存知のはず。この一連のWHOの勧告の一次ソースは、上記の発表記事ではありませんね。この発表記事は、あくまで「report」の内容を概略したものです。本当の一次ソースは、前述した「The WHO Smoke-Free Movie report」です。

 

早速調べてみるとございました。なんと最新は第三版で、第二版は2011年に出ております。

WHO | Smoke-free movies: from evidence to action

 

さて、54ページもありますが、全部読む気はさらさらないので、WHOが「若年層の喫煙防止」のための措置の具体案について書いてあるページだけ読みます。というわけで、22ページから始まる「2.3 Recommended measures 」の章を読んでいきます。

「利益供与がないことの証明」「タバコの銘柄の非表示」「強力な喫煙禁止広告の必要性」・・・と項目立てが続いて、ありました。25ページ。

Require adult ratings for films with tobacco imagery

タバコシーンのある映画の成人指定の必要性

おお、WHOはちゃんと「成人指定をするべきだ」と言っているじゃありませんか。今回の第三版ではここにかなり力を入れているようで、他の項目立てより遥かに多く紙面が割かれています*2。「成人」の年齢は国によって様々である、と前置きしつつも、「R18」の下のレートが「15歳」「13歳」などであることを考えると、18歳を基準とした規制が望ましいのではないか、みたいなことが書かれています*3

* lenhaiさんが指摘している通り「R-18」は日本の「R18+(18歳未満禁止)」の意味ではなく、米国基準の「18歳未満は保護者同伴が必要」の「R」です。

Motion picture rating system - Wikipedia, the free encyclopedia

 

というわけで、「WHOが喫煙映画を成人指定しろと勧告したのは誤訳である」と、ツイッターで呟かれているのは誤解であるといえます。

しかし、この「誤訳説」は、なかなか色々な人が飛びついています。

 

 

人は、「誤報」に対しては鋭敏に反応しますが、その「誤報の検証」に対しては、意外にあっさり信じてしまうものです。だってそれは「検証の検証」になるので、そんなダブルチェックを、手間隙かけてはもう一度しないですものね。いったいこのツイートを読んだ人のうち、何人がWHOの元記事をきちんと読み、そしてレポートにまで手を伸ばしたでしょうか?こんなブログをやってなければ、私だってどスルーしていると思います。

 

「誤報」の検証というものは、歴史の新説と同じで、小気味よく痛快なものであります。当ブログが一定の読者の方に読まれているのもそのためでしょう。しかし、ある報道の真偽を確かめることと同じように、その記事の「誤報の検証」も、その真偽については同じ程度勘案した立場の方がいいんじゃないかな、と思うんですけど、これ以上書くと自分で自分の首を絞めるので、うちは精一杯がんばってますけど人間だからミスもありますよ!と、予防線をはって終わりにしたいと思います。

 

*というわけで、WHOが「成人指定」を推奨したというと、日本のレーティングシステムからは「18歳未満禁止」を想像してしまうわけですが、米国基準で考えれば、これは「18歳未満保護者同伴」を指すわけです。そうすると映画業界が喫煙シーンを削り、若者の喫煙シーンに接する機会も少なくなって若年層の喫煙率が下がる、という研究結果はlenhaiさんの指摘どおり。

となると、各種日本の報道が「成人向けに指定」という表現を使用しているのは、日本の実情から考えると、誤解を与える表現かな、という気もします。だって、「成人向けに指定」と聞いたら、「18歳未満禁止」を想起しますものね。その中で共同通信が「年齢制限」という表現を使用したのは、むしろWHOの真意に近いものがあるんじゃないでしょうか。

よって、「誤訳であるというのは誤解である」というのは「不正確」ですね。そのため、以上のように記事を訂正いたします。lenhaiさん、ご指摘ありがとうございました。

個人的にはこうやって間違いを指摘されて情報がブラッシュアップされていくことは望ましいことだと思うのですが、普通は同じ記事を二度見ないと思うので、不正確な情報を信じられた方は申し訳ないです。早速元記事の「予防線」が役に立ってしまいました。今後も精進していきます。

*1:ちなみに共同通信の記事には「成人映画」の文字はないので、ちょっとミスリーディングです。

喫煙シーンある映画、年齢制限を - 共同通信 47NEWS

他のメディアには「成人指定」の文字が並んでいますけど。

喫煙場面ある映画は成人指定を WHOが勧告 NHKニュース

*2:実際のところ、第二版まではこの「成人指定」の話以外の勧告はでているわけです。今回このようにニュースになっているのは、第三版で、映画というアンタッチャブルな分野に踏み込んだ、というところが大きく話題になっているからでしょう

*2009年の第一版から「adult rating」の必要性をWHOは報告しています。これは完全に私の確認不足です。申し訳ありません。ただ、WHOのPergaさんの発言から見ると、今回の報告は「レイティング」推しなのかな、という気はします。

*3:Therefore, an appropriate adult rating (such as R-18) would be recommended for films that include tobacco imagery.