ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

四国=オーストラリア説の起源を探る、日本はすごい!日本はすごい!日本はすごい!

先日、『ニッポン超安全サミット2016』という番組で出てきた日本地図がなにやらおかしかったんだとか。

blog.esuteru.com

なぜか四国をオーストラリア大陸にした日本地図になっていたんだとか。

私も録画したものを見返してみましたが、出てきた箇所は2箇所。「害獣・害虫から身を守る」の冒頭「日本は害獣・害虫列島」とテロップが出る箇所の日本地図と(ここは1秒にも満たない)、その後の「野犬の被害が全国で急増」のテロップのところの日本地図の二箇所です(ここは5秒ほど)。気にしてみたらすぐにわかりますが、そうと知らなければ見過ごしそうです*1

今回は、どうしてそんな地図が出たか、というよりも、「四国とオーストラリアが似てる」という説が、どこが初出か、という話にしたいかと思います*2

 

「オーストラリア 四国」で検索をすると、まあいろいろ出てきます。なかなか面白いのが、『水曜日のダウンタウン』の「四国がオーストラリアと変わっていても意外と気づかない説」。

www.youtube.com

この番組を地でいってしまった感じですが、『水曜日~』はTBS系列ですし、制作会社も違います*3。まあしかし、バラエティに取り上げられるほどは、「四国とオーストラリアは似ている」という話が人口に膾炙しているということでしょうか。

他にもいろいろあって、たとえばサイゼリアの間違いさがし。

portal.nifty.com

四国がオーストラリアに変わっているという間違いで、こんなところにも取り入れられているんですな。

あとは、本にも出ています。

 

d.hatena.ne.jp

 

そのまま四国がオーストラリアになっている地図が載っているページがあるみたいですね。

 

とまあ、「四国=オーストラリア説」は、なかなか有名になってきているわけです。では、そもそもこの説を言い出したのは、誰なのか。

 

検索をかけていると、やたら引っかかってくるのが新宗教「大本」の文言です。

なかなか香ばしいページばかりなので、リンクは貼りませんが、出口王仁三郎という教祖の言葉がやたらと引っかかります。

日出る国の日の本(日本国)は、全く世界の雛型ぞ。神倭磐余の君(神武天皇)が大和なる、火々真の岡に登り坐、蜻蛉の臀甞せる国と、詔せ給ふも理や。我九州は亜弗利加に、北海道は北米に。台湾嶋は南米に、四国の嶋は豪州に、我本州は広くして、欧亜大陸其儘の、地形を止むるも千早振、神代の古き昔より、深き神誓いの在すなり…*4

これは、「大本神歌」という、神がかりで書かれた預言書の一つらしいのですが、日本は「世界の雛形」であり、様々な大陸が日本の地形と似ていると説き、その中に「四国の嶋は豪州」という一文があります。香ばしすぎてクラクラしてくるのですが、「大本神歌」についてもう少し調べてみましょう。

ネット上に広がる「大本神歌」の上記の引用は、どうもコピペで出回っているようなので、元の本を読みたいところです。こんなときに便利なのが「近代デジタルライブラリー」。国会図書館の運営で、著作権切れの本をデジタル化して公開してくれています。

近代デジタルライブラリー

ここに、「大本神歌」が掲載されている本も公開されています。

近代デジタルライブラリー - 瑞能神歌

『瑞能神歌』の中の「いろは歌(その一)」の中に、上記の文言が書かれているのが確認できます(ページで言うと48ページ。コマ数で言うと32)。

凡例によれば、「いろは歌(その一)」は「大正六年十一月三日」の作とされています。西暦で言えば1917年。はるか100年ほどまえから、「四国=オーストラリア説」は唱えられているわけです。歴史がありますなあ。

 

では、これ以上さかのぼることはできないのか。

 

この「世界の雛形」説には、もうひとりの人物が関係してきます。それは木村鷹太郎。

木村鷹太郎 - Wikipedia

明治・大正期に活躍した歴史学者で、「新史学」の提唱者として知られています。「新史学」とはなんぞやというと、今までの歴史学を「旧史学」と断罪し、日本民族が全世界を支配していたという新たな歴史観を打ち出した、なかなか香しい学説のことです。

彼の代表的な著書の『世界的研究に基づける日本太古史』は、先ほどの近代デジタルライブラリーで読むことができます。

近代デジタルライブラリー - 世界的研究に基づける日本太古史. 下巻

序文にはこんな一文があります。

現在の島国日本は、前の世界大の日本地理を縮密して、現島国に移寫せしに過ぎざるなり。*5

木村は、この著書において、直接的に「どの大陸が似ている」という話はしませんが、その地名やらなんやらが、日本の地名やらなんやらに似ているとして、「日本民族は文明世界の最太古民族なり」とぶっぱなしています*6

たとえば、木村は「天(あめ)」という日本語に注目し、ヘブライ語の「アモン」などと関連した「アーメニア(アルメニア)」「アマゾン」の「アマ」は、日本の「天」からとったものだと主張します。これが延々1000ページ近く続くわけだから、すごい労力です*7

 

この木村の著書は、奥付を見ると「明治四十五年四月十七日発行」とあります。西暦で言えば1912年。おお、先ほどの「いろは歌」のおよそ5年前。教義に口を挟みたくはありませんが、恐らく木村の言説も一つの要素となって、「いろは歌」は生まれたものと推察されます。

 

この頃、日本は韓国を併合し、不平等条約を撤廃し、そして第一次大戦に踏み切ろうとしているときです。いわば、極東の小さな島国が、列強の国々と肩を並べようとその勢いを増している頃です。

そのときに、木村が書いたような、日本が最古の民族であるという新史学や、大本のような「日本雛形説」が出てきたのは、世の中の意識の流れとしては自然だったのかもしれません。ただの島国がここまで列強と肩を並べたのは、きっと何か理由があるに違いない。そういう思いが、一部の人々に「日本すごいんです」ムーブメントを起こさせたのでしょう、というのがワタクシの今回の結論です。

 

そして、その「日本すごいんです」ムーブメントが、正統的地理や言語史を歪ませ、現在ある「四国=オーストラリア説」がその名残として残った、というところではないでしょうか。

しかしなんというか、その「日本すごいんです」ムーブメントは、どうにも現在も残っているようにも思いますけれど。

*1:ちなみにフジテレビは既に謝罪しています。

ヒデ&ジュニアのニッポン超安全サミット~知って得する身近なキケン回避法教えます~ - フジテレビ

確認不足により、不適切な日本地図を引用してしまいました。お詫び申し上げます。
今後はこのようなことのないよう、チェック体制を強化して再発防止に努めてまいります。

*2:ただし、画像を検索しても、これと同じ日本地図が出てこないことから、この地図は制作会社が意図的に作成したものである可能性が高いと個人的には推論します。なので、制作会社が日本地図をツギハギして作ったものなのかなあという気がします。数秒のシーンなのでばれないと思ったのでしょうか。

*3:『ニッポン超安全サミット』はディ・コンプレックスが製作。「発掘あるある大辞典」の製作もしていた、というところに妙を感じます。

*4:世界のモデルである日本雛形論と聖地巡礼の旅|天下泰平

*5:以下引用は適宜、旧漢字等は新字体に直しました。

*6:ぶっぱなし具合はなかなかすごくて、「言語学者は、多くは頭脳不良の輩」であり、帝国大学は「無知無学憐れむべし」「平凡」「幼稚」と、すごい個人的なうらみつらみを感じます

*7:個人的には、清水義範の『序文』という、英語日本語起源説をとりあげたパスティーシュ小説を思い出しました。